002話.追手
街の門を通り抜ける時に門番に無意味に笑顔で愛想を振りまくペリエ。
可愛い女の子や若い女性なら好印象となるが子供でも男が愛想を振りまいても怪訝な表情を見せるのはどこの門番も一緒だ。
そして街の外に向かう街道を全速力で走って逃げる。髪の毛につかまり振り落とされない様に必死になる鍵妖精のキー。
街道は、草原から森の中へと変わるところで森の木々の影で周囲から見えない場所を探し追手を待ち構える算段。
しばらくすると腰に剣をぶら下げた3人の若い男達が姿を現した。
周囲を警戒している様子にも見えるが誰かを探している様にも見える。
「ガキを探せ。お頭が13~15才くらいで大きな鞄を背負っているという話だ。抵抗するなら殺っちまえ」
追手のひとりがそんな話を大声でしているのがペリエの耳にも聞こえてくる。
これで3人が追手という事が確定した。となるとやる事はひとつ。
ここで追手の注意を引き付ける撒き餌の登場。
木々が生い茂る森の中を通る街道に魔石をいくつかばら撒いておく。
この魔石には、当然の様に呪いが封じられている。
木陰から3人が迫って来るのが見える。内心は、ドキドキしているがそれも毎度の事だ。
「アニキ。ガキの姿が見えませんね」
「俺達を警戒して走って逃げたのか」
「でも子供の足なら走ってもそう遠くには行かんだろ」
3人の追手が何やら話しながら街道を歩いて近づいて来る。そして・・・。
「何だ?道に何か落ちてるぞ」
ひとりの追手の若い男が道に落ちている魔石のひとつ手に取る。
「おっ、魔石じゃねえか」
「ここにもある」
「こっちにもだ。屑魔石だが売れば酒の足しにはなるな」
「だがよ。何で魔石が落ちてんだ。魔獣が死んでる訳でもねえのに」
「そうだよ・・・」
その時、男達の手に持つ魔石が淡い光を放つと3人の体を包み込んだ。
「なっ、何だ?」
するとひとりの男が膝を折り地面に倒れ込む。
「おい、どうし・・・」
さらにもうひとりも地面に倒れ込む。
「敵襲か!」
腰にぶら下げた剣を鞘から抜く若い男。だが、既に視界がブレブレで何を見ているかも分からない状態だ。
「くっ、くそ。まさかガキが魔法でも使ったの・・・」
そうこうしているうちに3人の若い男達は、街道に倒れ込んだ。
その光景を木陰からじっと見ていたペリエ。
「そろそろ呪いが利いてきたころかな」
ゆっくりと忍び足で街道に倒れている3人の男達に近づき、無駄に長い魔法杖の先で男達の体をツンツンと押して叩いてまた押してみる。
「動かないみたいだね」
背中に背負っている大きな鞄を地面に降ろし、中から縄を取り出し男達の手足を慣れた手つきで縛っていく。
これも慣れたものだが男達の懐にある財布の中身も迷惑料として徴収する。
「えーと、金貨5枚と銀貨13枚。それと銅貨と鉄貨がいっぱいと」
「これで次の街でも美味しいごはんが食べられるね」
肩の上に乗っている鍵妖精のキーが嬉しそうに笑みを浮かべる。
妖精は、小さいな体にはそぐわない程に大喰らいだ。大人以上の量を平気で平らげるのだ。
だから稼ぎがないと妖精を養っていく事は、かなり厳しい。
街道に倒れている男達は、金以外に良さそうな武具を装備していなかった。なので武具の止金具の革紐やベルトをナイフで切り装備できなくしておく。
さらに剣と鎧には、小瓶に集めておいた酸を垂らして使えない状態にしておいた。
この酸は、スライムから集めた酸で特殊な加工を施した瓶で持ち運べるのだ。
そして男達が着ていたズボンとパンツもナイフで切り刻んでおく。こするとたいていは追うのを諦める。
そしていたせりつくせりの歓迎ぶりでもてなされた男達が受けた呪いは、当分は解けない。
それでも用心してペリエは、街道をそそくさと次の街へと向かって小走りに進んでいく。
あとは、街道に倒れている3人が魔獣に襲われない事を祈るだけだ。
自身を攻撃する相手に対しては、容赦をしないペリエ。そして相棒の鍵妖精のキー。
この世界で14才の男の子がひとりで生きていくには、これくらいの生き汚さが必要なのだ。
さて、次の街に到着する前に日が落ち始めた。
先程までは、街道を行く冒険者らしきパーティや行商人らしき一行を見かけたが、日が落ちると途端に誰ともすれ違う事も無くなり途端に寂しくなる。
この手の街道沿いには、往来する人々のために宿営地が点在する。
とは言っても雨風がしのげる小さな小屋があったり、馬用の水飲み場がある程度で宿泊が出来る宿屋など存在しない。
場所によっては、宿営地の周囲を柵で囲い魔獣が入って来られない様にしている場所もある。
だがペリエの目の前に広がる宿営地には、柵などなく雨風をしのげる小屋もない。
既に日が落ちてしまい辺りはかなり暗くなっている。
ペリエは、背負っていた大きな鞄を地面に降ろすと、鞄を開けて野営の幕を広げ始めた。
幕といっても雨風がしのげるだけの小さな幕だ。大きさも大人がふたりも入ればいっぱいいっぱいの小さなもの。
そして薪になりそうな木々を集めて夕食の準備に取り掛かろうとした時だった。
「ペリエ。誰か来るよ」
鍵精霊のキーが近づいて来る何かの気配を察知した。
「どっちから?」
「僕達が来た街の方から。数は・・・6人かな」
「まさか追手かな」
「6人とも走って来るよ。凄い殺気を放ってる」
「6人か。かなり多いね」
ペリエは、野営地に張った幕はそのままに幕から少し離れた森の木の後ろに隠れて様子をうかがう。
すると野営地に男達が姿を現した。
「宿営地で野営しているやつを全て調べろ。ガキの足ならこの辺りが限界のはずだ!」
「アニキ。この宿営地に幕はひとつだけですぜ」
男達は、宿営地にひとつ張られた幕を囲い鞘から剣を抜き徐々に近づいて来る。
「気を付けろ。あのガキ、変な魔法を使うぞ。それと魔石が落ちていても絶対に拾うな!」
ひとりの男がそう言ったそばから地面に落ちている魔石を拾いふたりが呆気なく垂れていく。
「バカが!」
幕を囲う4人の男達。そして幕を剣でゆっくりと開けていく。
「誰もいませんぜ。それに焚火の跡もない」
「もしかすると薪を拾いに森に入ったんじゃないですか」
「くそ。見つけたと思えば!とにかくガキを見つけてここに連れてこい。俺にあんな恥をかかせたガキを嬲り殺しにしてやる」
男は、頭に相当血が上っていた。だがあの街で武器屋を隠れ蓑にした盗賊団である彼らは、それなりに場数を踏んでいるので旅人を襲い殺す事に躊躇などしないのだ。
その時である。男達の耳元に何かが飛ぶ音が聞こえた。
そして振り返ると仲間の男の首に矢が突き刺さり、地面へと垂れていく。
「弓を持ったやつが・・・」
「ヒュ」
ひとりの男がそう叫んだが途中で言葉が途切れてしまう。男達は、慌てて地面に伏せて矢が飛んでくる方向を探し始めた。
「ぐえっ」
近くで妙な声が響いた。そう男達は6人もいたはずだが残っているのは、たったひとりにまで減っていた。
「日が落ちたっていうのにどうやって俺達の居場所が分かるんだ」
男がボソッとつぶやいた時だ。
「ヒュ」
男の耳に矢が近くを飛ぶ音が聞こえた。そして男が装備する皮鎧を貫通して背中から腹に向かって矢が刺さっていた。
「ヒュ」
さらに矢の飛ぶ音が幾度も聞こえて来る。
男は、自身の体に幾本もの矢が突き刺さっている事に気づいたが、成す術もなくそのまま息を引き取っていく。
静まり返った宿営地で周囲を探るペリエ。
「何処かに弓を持った人がいるみたいだけど、何処にいるか分かる?」
木の上まで自らの羽で飛んで行った鍵妖精にキーが、周囲の森の中に潜む誰かを探してみるが、その存在が見つからない。
「何処かに潜んでいるみたいだけどその場所が分からない」
戻って来た鍵妖精のキーがペリエの顔を覗き込む。
「どうする。このまま宿営地から逃げる?」
その言葉を耳にして悩みながらも恐る恐る隠れていた木の後ろから姿を現し、6人の男達がこと切れる野営地に恐る恐る足を踏み入れる。
「ヒュ」
矢が飛んで来る音が耳元の近くで聞こえる。森の何処かに潜む何者かがペリエを敵と認識し矢を放って来た。
その飛んでくる矢を鍵妖精が次々と指で掴んで見せた。すると矢は、鍵妖精の手から徐々に姿を消していく。
「この矢は、普通の矢じゃない。恐らく神器だと思う」
「神器?よく神殿とか大きな教会にある神が遣わした武具のこと?」
鍵妖精キーは、ペリエの前で自らの羽で飛び何処かに潜む誰かに向かって威嚇する。
「ストッ」
そんな音が野営地に微かに響くと、暗闇の中から誰かが歩いて来る足音がする。
ペリエは、手に持つ大きな魔法杖を構えいつまた矢が飛んで来るかもという状況に警戒する。
「申し訳ない。妖精様を攻撃するつもりは無かったのだ」
突然声を発したかと思うとペリエの前に気配もなくひとりの女性が姿を現し地面に膝をつく。
だが、それはペリエに対してではなく鍵妖精のキーに向けられている。
「この世界で精霊様と妖精様が封印されてからというもの、お姿を見る事はありませんでした。まさかこの様な場所でお姿を見られるとは」
ペリエの前で膝を付く女性は、背の高い褐色の肌をしたエルフ・・・、いやダークエルフだ。
「私は、ダークエルフの国から魔神を討つために神器を持ち参った所存」
ダークエルフは、ペリエではなく鍵妖精のキーにのみ目線が向けられている。
「お願いがございます。私と共に魔神を討つためにご尽力願いただきたいのです」
その言葉に鍵妖精は、こう返した。
「ダークエルフの娘よ。あなたの仲間は何処にいる?」
鍵妖精の言葉にダークエルフは、何も言葉を返さない。
「お前ひとりか」
ダークエルフは、鍵妖精の言葉に地面に膝を付き頭を下げたままだ。
「ならば、私に助力を求める前に仲間を探し増やし力を蓄える事が先ではないのか」
「そっ、それは・・・」
鍵妖精は、ペリエの肩に乗るとひそひそと話しかける。
「僕に助けを求める前に自身が何を出来るかを考えて欲しいんだけどね。でもそれは、ペリエに助けを求めてる僕が言っていい事じゃないか」
ペリエは、鍵妖精のキーを肩に乗せたままこと切れた男達を野営地の片隅に引きずり集めはじめた。
「まっ、待って欲しい。妖精様、話を聞いて欲しい」
ダークエルフは、矢で射殺した男達を引きずるペリエの前に出て両ひざを地面につき地面に頭をこすり付けている。
この必死な姿は、さすがにペリエの心にも響いていた。
さてダークエルフは、この先どういう行動に出るのか。
寒くなって来ました。
このお話を書いているのは、週末なんですが来週末は冬キャンプに行く予定です。
場所は、山梨県の道志の森キャンプ場です。
寒さに負けずに帰って来る事ができるでしょうか。
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