018話.ベッツィー
ペリエ達は、火山の山腹を通る街道を抜け徐々に麓へと近づいていた。
そのうしろを何も言わずについて来る地龍の女性。
夜の闇の中に浮かんだ地龍の姿は、かなりの大きさで恐怖を覚える程であったが今は人族の女性の姿をしている。
ただ、困った事に人族の女性の姿になったのはよいのだが、お約束というか服を着ていないのだ。
このまま進めば往来のある街道に合流する事になり、そこを裸の女性が歩けば問題が起こる事など目に見えている。
それを妖精のキーに話したところ、最後の〆に入るという。
ペリエ達は、徐々に木々が茂りだした街道の脇に座ると薪を集め火を起こして湯を沸かし始めた。
少し離れた場所からその光景をじっと見つめる地龍の女性。
木々の影に隠れる訳でもなく、かといってペリエ達の所にやって来る訳でもない。
ただただペリエ達を遠くからずっと見ているのだ。
妖精ルリは、魔法ランタンの中からある物を取り出しそれを湯を沸かしている鍋の中に見せびらかす様に入れる。
異世界のおじさんから貰った”れとるとかれー”だ。
当然、封を切った訳でもないので匂いなどしない。
だが、その行為だけで何をしているのかという想像力を掻き立てるには十分であった。
火山の山腹とは違いたまにそよ風が吹く程度だ。
その中で十分に温まった”れとるとかれー”を鍋から取り出すと封を切り皿に流し込んでいく。
得も言われぬ香りが周囲に広がり幸せな気分にさせてくれる。
「さあ、美味しい”れとるとかれー”を食べようか」
ペリエは、皆にパンを配り”れとるとかれー”が盛られた皿を囲うとなぜか口から大量のよだれを流す地龍の女性もその輪の中にいた。
「私のぱんは無いのか」
「無いよ。だって地龍様への貢ぎ物は昨日の夜に食べたでしょ。僕達は、これから魔神と戦うから”れとるとかれー”を食べるんだ」
妖精のルリが答える。
「魔神。異世界から来たあいつらと戦うのか」
「そうだよ。この世界に勝手にやって来て僕達を封じた魔神をこの世界から追い出すんだ」
「そうか。あんな連中など我ら龍族の手にかかればこの世界から容易く追い出せる」
地龍の女性は、相変わらず口から大量のよだれを流しながらも自身の力の大きさを解いていた。
「ふーん。でも魔神がこの世界にやって来た時には、魔神と戦わなかったよね」
「当然だ。我らが戦えばあの様な輩などいつでも追い出せるかな。そんな事のために力など使わんよ」
「だったらこの”れとるとかれー”を食べさせてあげる代わりに僕達と契約しない」
ルリは、パンに少しだけかれーを付けると地龍の女性の目の前に差し出した。
「僕達と共に魔神と戦ってくれるならこの”れとるとかれー”を食べさせてあげる」
「いいのか!」
妖精ルリの言葉にまるで子供の様にはしゃぐ地龍の女性。
「魔神と戦ってくれるならね」
「分かった!」
その途端、妖精達がしてやったりという表情を浮かべ両手の拳を力強く握って見せた。
その昔、魔神がこの世界にやって来た時、精霊と妖精族は魔神と戦いに敗れた。
その戦いには人族も他の種族も参加したが唯一参加しなかった種族がいた。
それが龍族であった。
あの戦いに龍族が参加していれば、今のこの世界が魔神に支配される事など無かったこもしれない。
だが、龍族は戦いに参加しなかったのだ。
それが目の前の”れとるとかれー”に目を奪われ食欲という本能に押し流され真面な判断がつかなくなっていた。
ペリエ達が持っていたパンと”れとるとかれー”を食べつくした地龍の女性。
腹も膨らみ満足した顔でペリエ達を見つめる。
「我は、この火山を納める地龍なり。我がいればあの様な輩など大した事はない・・・と言いたいのだが、さすがに我だけではちと心もとない。もう少し龍族の仲間が欲しいところだ」
「そう。僕達も封印された仲間の妖精を探しているから、龍族も仲間にしていこうよ」
「では、さっそく出発するぞ」
なぜか気合が入る地龍の女性。
「しかし、さすがに裸で歩き回るのちと問題がると思うのだが」
シルキーの言葉にペリエも頭を縦に振る。
「それでは、次の街で地龍さんの服を買うという事で。それまでは僕の服を貸す事にする」
ペリエは、背負っていた大きな鞄を地面に降ろすと、その中から自身の下着やらローブからを取り出し、地龍の女性に着せていく。
本来であれば同性のシルキーの服を貸してもらえれば良いのだが、ダークエルフのシルキーは細身である。
対して地龍の女性は、体格が良く身長も2mを優に超えており引き締まった筋肉を見せつけている。
とてもシルキーの服が入る体格ではないのだ。
仕方なく魔術師が着るようなローブを紐で結び不格好ではあるが裸よりかは幾分ましな姿となった。
「地龍様。何とお呼びすれば?」
シルキーが地龍の女性に発した言葉にペリエもはっとする。
「あっ、そうでした。お名前を聞いていませんでした」
すると地龍の女性は、胸を張り天に向かって右手を挙げ高らかに宣言した。
「私の名前は、ベッツィーだ。これは、世を忍ぶ仮の名前だ。地龍である私の本当の名前は別にあるのだがそれは言えぬ」
「ベティ様ですね」
「いや、ベッツィーだ。発音に気を付けたまえよ。ははは」
シルキーが地龍の女性の名前を言い直すと大笑いをしながらそう返してきた。
ベッツィーは、自身の名前を披露した事で打ち解けたと判断したのかペリエやシルキーの前を歩き始めた。
人族の男よりも頭ひとつ分も身長が高く躯体の男性以上の女性。
街道を行きかう旅人や馬車の御者もベッツィーの姿にちらちらと視線を送っている。
そして街道を進むとその脇に座り込む数名の男達がいた。
腰には、あまり手入れの行き届いていない剣をぶら下げ、街道を通る人々を品定めしている様に視線を送っている。
どうひいき目に見ても盗賊の類にしか見えない。しかも男達からは、明らかに殺気が漏れているのだ。
そんな男達がベッツィーを視認した途端、なぜか視線をそらし街道とは反対の方向を見始める。
ベッツィーは、そんな男達の前で立ち止まり熱い目線を送る。
はたから見ればベッツィーが街道の脇に座る男達に喧嘩を売っている様に見えるのだが男達は、ベッツィーの顔すら見ようとしない。
「なぜ私を見ない」
ベッツィーは、街道の脇に座る男達にそう言うと身構えもせずに男達の顔を至近距離で覗き込んだ。
「その腰にぶら下げた剣は飾りなのか」
もうあからさまに喧嘩を売っている。
だが男達は、絶対にベッツィーと目線を合わせなかった。
何度ベッツィーが男達の前に顔を出しても目線を逸らす男達。
「ふん、つまらん。実につまらん男達だ。私と遊んでくれると思ったのだがな」
しばらくベッツィーと街道の脇に座る男達とのそんなやり取りが続いたが、ベッツィーも飽きてしまったのか男達の前から姿を消した。
男のひとりがベッツィーの姿が見えなくなると立ち上がり、汗でびっしょりになった手の平をシャツでぬぐう。
「なんだありゃ。あんな殺気を放って来る女なんぞ初めてだ」
「ああ。俺なんざびびってもらしそうになっちまった」
「あれと戦おうなんて思うやつはいねーわな」
「今日は、やめだ。あんなのが街道にいたら命がいくつあっても足りねえわ」
そんな事を言いながら男達は、静かに街道から姿を消した。
そんなベッツィーの行動を見ておどけて見せるペリエと頷くシルキー。
今は、人族の女性の姿をしてはいるが元々は地龍だ。龍族は、気性が荒いと聞いた事があるペリエは、絶対に戦いになると踏んでいた。
だが相手の男達の方がベッツィーのただならぬ気配を察したのか何事もなく終わった。
人族の姿になって最初の戦いは、あっさりと回避された形となった。
しばらくしていくつかの街道が合流し行きかう馬車の数も多くなり、日が暮れかけた頃には次の街へと到着した。
目の前には、街を囲う城壁と城門。そして城門を守る警備隊の兵士達。
既に夕暮れとなりかけの薄暗い城門の前には、街に入る人の姿もまばらだ。
「もうすぐ門を閉じるぞ。街に入るやつは税を払え」
城門を守る兵士が門を閉じ撤収の準備を始めている。
「僕達3人分の税です」
ペリエが入街税と身分証を兵士に差し出す。
「んっ。身分証がふたり分しかないぞ」
「はい。彼女の身分証は盗賊に奪われてしまいまして」
「ふん。どんくさい女だ・・・」
城門を守る兵士がそんな言葉を投げかけた。どんくさい女と言われたのはベッツィーだ。
ベッツィーは、豊満な胸もさる事ながら男まさりな胸板と肩から腕にかけての筋肉が実にたくましい。
剣こそ持ってはいないものの、もしその腕で剣を振るおうものなら、数人の兵士など一瞬でなぎ倒せる程の力強さだ。
頭ひとつ分も身長が高く躯体もどの兵士よりもがっちりした女性が兵士をぎろりと睨みつける。
「いや・・・何でもない。通っていいぞ。冒険者ギルドに行って身分証を再発行してもらえ!」
元々地龍であるベッツィーは、身分証など持っていない。
兵士は、粗末な紙で出来た臨時の身分証を手渡すとそそくさと城門を閉め始めた。
街の名前は、パプラギ。
三姉妹と戦ったパップの街程は大くはないが、この辺りでの街道がいくつも交わる要衝に位置している。
街中の安宿に宿泊先を決めたあと、古着屋に立ち寄り仲間になった地龍のベッツィーの服を買う事になった。
ベッツィーは、人族の女性の姿をしてはいるが男性よりも頭ひとつ程も身長が高く躯体も比較できない程に逞しい。
ペリエ達は、ベッツィーの服を買うために古着屋に入り適当な服を身繕ったが、この躯体に入る女性用の服など売っているはずもなく大柄の男用の服を着ることになる。
それでも熱い胸板に似合わない豊満な胸。
アンバランスなその体系に街中を歩くだけで視線が集まってしまう。
「何だかさっきよりも注目されてますね」
「ベッツィー様は、胸が大きすぎて服がはち切れそうだ。これは、特注で服を作った方がよいと思うぞ」
ペリエとシルキーの会話など耳に入っていないベッツィーは、今にも胸がはち切れそうな服で宿へと戻り食堂の奥のテーブルにどっかと腰を下ろした。
唖然とする店の店員を呼び料理と酒を注文するペリエとシルキー。
テーブルの上には、妖精達も準備万端で待ち構えている。
そしてテーブルに運ばれた料理を貪る様に食べ始める妖精達とベッツィー。その食べっぷりに思わず開いた口が塞がらないペリエとシルキー。
テーブルには、次々と酒と料理が運ばれて来るがそれすらもあっという間に食べつくされ空いた皿が積み上げられていく。
その光景を見つめる食堂の店員と客達。
「おいおい。ここには、オークでもいるのか」
食堂の客のひとりがそんな事をわざと聞こえる様に大きな声で言い放った。
「オーク?いやいや、あれオーガじゃねーのか」
「つまりオークとオーガのハーフってわけだ」
「ちげえねえ」
「ははは・・・」
先程オークと言った客と同じテーブルに座る客がそう言い放つ。
その途端、ベッツィーが振り向き席から立ちあがりその客が座るテーブルの前に立った。
テーブルに座っていたのは、この街の警備隊の兵士で数は4人。ふたりは剣士でふたりは魔術師の装備を身に着けている。
ベッツィーは、微笑みを振りまくとテーブル上のジョッキを持つ4人の手にいきなりフォークを突き刺した。
フォークは、地龍の力によりジョッキを持つ手の骨をへし折りテーブルに到達。
しかも4人の手をほぼ同時に串刺しにして見せるという早業だ。
「「「「ぎやーーーーー」」」」
悲鳴を上げる兵士達。だが手の骨をへし折りテーブルの突き刺さったフォークにより手の平が固定され逃げる事も出来ない。
ベッツィーのあまりの早業に、居合わせた客達は声は出ない。
そして自身が先ほどまで座っていたテーブルに戻ると再び食事と食べ始める。
あまりの出来事に何の反応も出来なかった店の店員たちは、はっと我に返り慌てて治癒士を呼びに走った。
店にいた他の客は、そんないざこざを目にした途端、そそくさ店を後にし始めた。これから起こるであろうもめ事に巻き込まれるのを恐れたのだ。
残ったのは、ペリエ達とテーブルにフォークで手を突き刺され身動きが出来ない男達と店員だ。
あまりの痛みに泣き叫ぶ男達。その近くで平然と食事を平らげるベッツィーと妖精達。そして呆れるペリエとシルキー。
ペリエもある程度は予想してはいたが、初日でこれである。
店員は、テーブルに突き刺さったフォークを必死に抜こうとする。だがどれだけ力を入れてもテーブルに刺さったフォークは、びくともしない。
このテーブルに突き刺さったフォークを抜かなければ、男達の手は外れないし治療も出来ない。
「ベッツィー様。食事が不味くなるのであの男達を許してあげてください」
そう言い出したのは、ペリエであった。
「龍族に向かってオークなどと言ったのは誰だ。自身の言葉には、責任を持つものだ」
「確かにそうですが。彼らも十分反省していると思います。明日は、この街で食料の買い出しをする必要があるのです。あまり面倒ごとを起こすといろいろと・・・」
ペリエの話が終わる前に椅子から立ち上がったベッツィー。
相変わらず泣き叫ぶ男達のテーブルの前に移動すると、男達の手をテーブルに釘付けにしていたフォークを簡単に抜いて見せた。
「ふん。こんな物すら抜けないのなら私をオークなどと呼ぶな」
男達は、骨が砕けて血まみれになった手を抱え店から一目散に姿を消してしまった。
店員もベッツィーに恐怖を覚えたのか店から出て行けとも言えず黙って店の跡片付けをし始めた。
「ここにけが人がいると聞いて来たのだが」
程なくしてやって来た治癒士が間の抜けた言葉を放ちながら店に入って来た。
店員が治癒士に向かって何かを話しているが、そんな事などお構いなしに食事を続ける妖精達とベッツィー。
そして治癒士の次に店にやって来たのは、剣を持った数十人の兵士であった。
地龍が人族の女性の姿となりペリエ達の仲間になりました。
とはいえやはりというかトラブルメーカーです。
自ら問題を起こすも強いがゆえに何とも思っていないというか何も考えずに先に行動するようです。
さて、道志の森キャンプ場でキャンプをしてきました。
天気予報では、土曜日の午後から雨という事で雨になる前に撤収でいる予定でした。
ですが雨設営で午後は曇りで夜はずっと雨。撤収も雨でテントもタープも泥ででろでろです。
大雨になる前に帰ってきましたが家に帰ってからテントとタープを洗うのが大変でした。
雨のキャンプをやってみたかったんですがやってみると大変でした。
今度雨の日にキャンプをするなら芝生のキャンプ場でやってみたいですが、そんなところ近くにあるのかな。
◇フェアリーランタン(現世界Side)
現世界Side 1話
道志の森で魔法ランタンと冬キャンプ
https://youtu.be/E5koSWCQ7DQ
現世界Side 2話
道志の森で寒風吹きすさぶ冬キャンプ
https://youtu.be/rYbmk-ZDriE
現世界Side 3話
風対策とランタンの灯りで癒される冬のふもとっぱら
https://youtu.be/ZUM40WsEoJI
現世界Side 4話
ふもとっぱらで初めての連泊と風対策キャンプ
https://youtu.be/cCp4tMd4Cp0
◇魔法ランタン
https://youtu.be/rhFhjx9aPEE
◇フェアりーランタンの世界観を楽しむにはこちらもどうぞ!
僕の盾は魔人でダンジョンで!
https://ncode.syosetu.com/n2862ff/