017話.地の魔獣
三姉妹の追撃から逃れたペリエ達。
仲間となるはずの妖精が封印されている場所へと向かうため今日も街道を進んでいた。
ときたま馬車が通る街道は、わだちが多く少し歩きにくい。
ペリエとシルキーが街道を歩き、ペリエが背負う大きな鞄の上に3妖精が車座になり何やら話し合っている。
「そういえば、あの三姉妹の姿が見えないね」
「そうだな。キー様が追い払ってくれたと言っていましたが」
ペリエの言葉に妖精のキーが耳元でささやいた。
「僕の蛇で追い返したんだけどまた来ると思うよ」
「だったら先を急いだ方がいいね」
妖精キーの言葉に街道を進む足を早めるペリエ。
そして街道は、分岐点へとさしかかった。
左に曲がる街道には、馬車のわだちが続いており皆が左の街道を進んでいる事が分かる。
右に曲がる街道は、馬車のわだちもなく少し行くと草が生い茂っているのが見える。
「これって左に行くのが正解なんだよね」
「恐らくそうであろうな。右の道には、馬車のわだちもない。恐らく誰も通らないのだろう」
すると通りかかった馬車の御者のおじさんが話しかけて来た。
「君達、そっちに行くのはやめた方がいい。そっちは道が険しいのと魔獣が出るからね」
「そうなんですか」
「ああ、なんでも大きなトカゲが出るとかなんとか」
「分かりました。ありがとうございます」
ペリエは、御者のおじさんにお礼をいうと街道の分岐点に立つ道案内の看板に目を向けた。
「何だか案内板の文字が消えていてよく見えないね」
ペリエが街道の分岐点に立つ案内板を覗き込んでいると妖精のキーがまた耳元でささやく。
「三姉妹の追撃をかわすなら右の道かな。それと御者のおじさんが言っていたトカゲだけど、いつもは穴を掘って隠れているから出くわす事もないと思うよ」
「えっ、キーはトカゲの事を知っているの」
「ちょっとね。あいつらは、あまり地上に出て来ないんだ」
キーの話では、街道を左に進むと山をぐるっと迂回する事になり、山の向こう側に行くだけでも5日はかかるという。
対して街道を右に進むと山越えになるが2日で次の街に行けるというのだ。
ペリエは、悩んだ。自身とシルキーの食料は大した量ではない。だが妖精達の食料となるとかなりの量になる。
5日間の行程と2日間の行程。どちらに進むのが食料の消費が少ないか・・・。
考えずともペリエの足は右の街道へと向かっていた。
「よろしいのか。トカゲの魔獣が出るという話だが」
シルキーの表情がこわばり手には、神器の弓が握られている。
「まあ、キーやルリもいるし大丈夫だよ」
ペリエは、妖精達もいるし何よりキーが仲間にした大蛇の存在に気が大きくなっていた。
だがペリエが背負う大きな鞄の上に座る妖精達は、車座に座りながらニヤリと不思議な笑みを浮かべていた。
分岐点から分かれた街道は、間もなく草の生い茂る道へと変わり進むのがやっとという道になった。
しばらく進むと木々も草もまばらに生える荒地の中へと街道は続いてく。
そして街道の所々には、朽ち果てた馬車や骨となった家畜の死骸が目に付く様になる。
「・・・・・・何だかそれらしい雰囲気になって来たね」
「だが死骸は、魔獣に食い荒らされた痕跡が無い」
「食い荒らされた跡って・・・」
「魔獣が家畜を襲ったのなら食い荒らすから骨が散乱するはずだ。だが家畜の死骸には、骨が綺麗に並んでいる。これは魔獣に襲われた跡ではないだろう」
ペリエの言葉にシルキーがそう答えた。
「つまりこの死骸は・・・」
「火山から噴き出た毒で死んだんだよ」
ペリエの言葉に答えたのは、妖精のキーであった。
「火山から噴き出た毒?」
「そう。目の前に広がる山は、火山であちこちから毒を吹き出しているんだ。これを長い時間吸い込むと死んでしまうね」
キーの何気ない言葉に思わずたじろぐペリエとシルキー。
「でも大丈夫。僕達がいれば、その毒がどれくらい濃いのか分かるから」
妖精のキーは、ペリエの肩の上でそんな言葉を吐きながら胸を張っている。
だが、ペリエもシルキーも妖精達の様に背中に羽がある訳ではない。もし火山から出る毒が濃くなり逃げる事になったとしても空を飛んで逃げる事など出来ないのだ。
遠くに見える山の斜面からは、いたるところから白い煙が吹きあがり見たこともない黄色い噴出物が堆積している。
さらに今までかいだ事のない匂いが風に乗って来るのだ。
ペリエもシルキーも生きた心地がしないまま火山を越える街道を進んでいく。
・・・・・・
ペリエ達は、火山の斜面を進む街道をひたすら歩いていた。
妖精キーの大蛇に乗っていけば火山を早く抜ける事は簡単だ。だがその後が面倒なのだ。
キーの大蛇は、普段は小さくなりキーの肩や頭の上にのり大半を寝て過ごしている。
そして何かあれば大蛇の姿になりあの三姉妹を撃退した様に頼れる存在となる・・・のだが、その後に異世界のおじさんから貰ったかれーめんを要求されるのだ。
かれーめんは、毎食の様に食べられる程の数は無い。かれーめんは、魔神と戦う時に使うとっておきなのだ。
そのため街道を移動するために消費する訳にはいかない。
仕方なくペリエ達は、自身の足で街道を歩く事になるのだが、それでも山越えとなるとかなりの労力と時間を必要とした。
そして火山を少し越えた辺りで暗くなり野営をする事になった。
煮炊きで使う水も薪も用意はしてあるので問題はない。
だが周囲は、赤茶けた山の斜面と大きな岩が転がる世界。そこを縫うように進む街道。
さらに風を遮る木々も無く、容赦のない強風がペリエ達を襲う。
仕方なく大きな岩と岩の間に隙間を見つけ、そこに幕を張り今夜の宿にした。
たまに風に乗って流れて来る嗅いだことのない匂いに不安を覚えつつ薪に火をつけ湯を沸かす。
夕食は、いつもの干し肉と野菜のスープとパン。異世界のおじさんから貰ったかれーめんは、魔神との戦いのために残してある。
風が幕を叩く音が響く中、夕食を食べ終わりお茶を楽しんでいると妖精達が周囲をきょっろきょろと見つつ辺りを頻繁に飛び始めた。
「何かあるのかな」
「まさかトカゲの魔獣が近くにいるのか」
シルキーは、神器の弓を手に幕を張った大岩の上へと登り周囲の警戒にあたったその時、シルキーの前に巨大な影が現れた。
「ペッ、ペリエ殿。出た、トカゲ・・・」
シルキーが大岩の上で何かを必死に叫んでいる。
「シルキー。何かあったの」
ペリエが大岩の上に目を向けるとそこには、大きな影が今にもシルキーに襲いかかるところだ。
そこに妖精達が姿を現しシルキーの前に立ちはだかる。
だがシルキーの前に現れた黒い巨大な影は、妖精の姿を見向きもしない。
”ペリ”。
すると妖精のルリが何かを破く音を響かせると黒い巨大な影の前に小さな何かを高々と掲げる。
ペリエは、夜の暗い闇の中で焚火の炎に照らされるそれを見て何なのかを察した。
「あれは、異世界のおじさんがくれたお菓子」
黒い巨大な影は、ルリが掲げるお菓子の匂いを”スンスン”と嗅いでいる。
シルキーは、大岩の上で神器の弓を手にしたまま巨大な影の存在に恐怖し身動きすらできずにいる。
”パク”。
巨大な影は、ルリが掲げたお菓子を巨大な口に放り込むと大きな喉にそれを流し込んだ。
その光景をただただ見守るペリエ達。
巨大な影は、”フーーー”と大きく息を吐くとススッと小さくなり大岩の上に人族の女性の姿となって現れた。
「我ら地龍の土地に誰の許可を得て立ち入った」
その声は、人族の女性の姿とは裏腹に図太く大地を震わす様に周囲に響く。
するとルリが先ほど目の前に出した異世界のお菓子を出した。
お菓子を目の前に出された地龍の女性は、そのお菓子を口に放り込みモグモグと租借を始め、お菓子を食べ終わるとまた先程と同じ言葉を紡いだ。
「我ら地龍の土地に誰の許可を得て・・・」
ルリは、また目の前に異世界のお菓子を取り出した。
それを受け取り黙って食べる地龍の女性。
「我ら地龍の土地に・・・」
「お菓子食べたよね」
「我ら地龍の土地に・・・」
「僕のお菓子を食べたよね。僕達の貢ぎ物であるお菓子を食べたんだから僕達は、客という事だよね」
「なっ、何を言・・・」
地龍の女性の言葉を遮る様にルリは、自身の言い分を淡々を続ける。
「地龍様が食べたお菓子は、異世界から持って来た貴重なお菓子だよ。あれを手に入れるには、異世界への扉を開かないといけない。それってとても大変な事なんだ。そんな事くらい龍族なら知ってるよね。そんなお菓子を3個も食べたのに僕達を客として迎え入れてくれないの」
「・・・・・・」
「それとも食べたお菓子を返してくれるの。もういちど言うけど異世界のお菓子だよ。地龍様は、異世界への扉を開く事が出来るの?」
元地龍の女性は、ルリの言葉に黙りこくってしまう。
するとルリは、地龍の女性をペリエの前えと招き入れる。
焚火で沸かしたポットの蓋がカタカタと揺れるなかルリは、魔法ランタンの中から取り出した”例のブツ”を取り出した。
それをペリエに差し出すとその蓋を開け、ペリエがポットから熱い湯を注ぐ。
蓋を閉めるとしばしの沈黙のあとルリが蓋をとる。
「さあ、これが異世界の食べ物”かれーめん”だよ。僕達のとっておきだからね」
地龍の女性の前に差し出された”かれーめん”から溢れる鼻腔をくすぐる香りに思わず喉を鳴らす。
黙ったまま差し出された”かれーめん”とフォークを手に麺を口に運んでいき一気に麺を食べスープを飲み干す。
「ふーーー、美味い」
地龍の女性から思わず笑みがこぼれる。
”かれーめん”を食べ終わり上気した心地でいる地龍の女性。
ルリは、地龍の女性の目の前でこれ見よがしに魔法ランタンの中から”かれーめん”を大量に出して積んで見せる。
「僕達は、この世界を支配する魔神と戦う仲間を探してるんだ。仲間ならこの”かれーめん”が食べられるけど、今日はこの土地を支配する地龍様への献上品としてひとつだけ出したんだ」
山積みされた”かれーめん”を見た地龍の女性は、見た目こそ美しい美女だが口からよだれをだらだらと流し、今にも”かれーめん”に飛びつこうとしている。
「おっと。これは魔神と戦うために必要な武器だからね」
そういうとルリは、”かれーめん”をいそいそと魔法ランタンの中へと戻してしまった。
口からよだれをだらだらと流しながらその光景を見つめる地龍の女性。
さらに妖精達は、何食わぬ顔で異世界のおじさんがくれたお酒が入った琥珀色の硝子瓶を取り出すと、妖精達がいっせいにカップを差し出す。
そのカップに少しずつ琥珀色を注いでいく。
「ぷはーーー。やっぱり異世界のお酒は、よく効くねーーー」
ルリは、わざと地龍の女性の前でお酒を飲みその美味しさを見せつけた。
”ごくり”と喉を鳴らす地龍の女性。
するとルリは、カップを差し出しそこの異世界の琥珀色を少しだけ注いだ。
「のんでみる~~~?」
ルリの態度は、どうひいき目に見ても下心ありありだ。
だが、口からよだれをだらだらと流す元地龍の女性にそんな下心など分かるはずもない。
手渡されたカップを口にし喉に琥珀色を流し込む。
喉に焼ける様な液体が流れ下る。そしてほのかな酔いが訪れる。
元地龍の女性は、空になったカップの中をのじっと覗き込み、そして琥珀色の硝子瓶を持つルリの顔を見つめる。
「ごめんね。この異世界のお酒は、僕達と魔神を倒してくれる”仲間”にだけ飲ませる事が出来るんだ。この土地を納める地龍様といえども飲ませてあげられるのは、一回だけだよ」
その言葉にしょぼんとなる地龍の女性。
その後はというと寂しそうにとぼとぼと暗闇の中に消えていった。
その寂しそうな後ろ姿をにんまりとした表情で見つめる妖精達。
ペリエとシルキーは、妖精達がいったい何をしたかったのかを理解できずにいた。
そして夜は更けて朝となりペリエ達は、野営地を後にした。
山の斜面を進む街道を進んでいるといつの間にかペリエ達のうしろに昨日の夜に現れた地龍の女性が立っていた。
「あれ、昨晩の女性がついて来てる」
ペリエの言葉にキーが耳元でささやいた。
「もう少しで地龍が僕達の仲間になるから我慢して」
キーの言葉通り地龍の女性は、ペリエ達のあとを付かず離れずついて来る。
「この火山を降りたら最後の仕上げといきますか」
妖精達は、にやにやと薄笑いを浮かべながらペリエ達のあと追って来る地龍の女性の姿を見つめていた。
新たな仲間を餌で釣ろうとする妖精達。
釣られている側は、魔神の事など知ったことではない。とにかく妖精達が持っている食べ物と酒に興味があるだけなご様子。
このまま餌に釣られて地龍が仲間になる・・・のかな。
◇フェアリーランタン(現世界Side)
現世界Side 1話
道志の森で魔法ランタンと冬キャンプ
https://youtu.be/E5koSWCQ7DQ
現世界Side 2話
道志の森で寒風吹きすさぶ冬キャンプ
https://youtu.be/rYbmk-ZDriE
現世界Side 3話
風対策とランタンの灯りで癒される冬のふもとっぱら
https://youtu.be/ZUM40WsEoJI
現世界Side 4話
ふもとっぱらで初めての連泊と風対策キャンプ
https://youtu.be/cCp4tMd4Cp0
◇魔法ランタン
https://youtu.be/rhFhjx9aPEE
◇フェアりーランタンの世界観を楽しむにはこちらもどうぞ!
僕の盾は魔人でダンジョンで!
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