015話.三姉妹(2)
三姉妹が同時に放った雷魔法は、ひとつの雷魔法となりバップの街の城壁の上を飛び越えた。
いつもなら弧を描く様に城壁を飛び越えると街中に着弾し家屋をなぎ倒し火花をまき散らし爆発と共に火災が発生するはずだった。
だが不意に城壁の上に現れた土壁が雷魔法を遮る。
とはいえ城壁の上に構築された土壁は、縦横数メートル程で厚さもメートル程度だ。
とてもパップの街を守る城壁全体を囲う様な大きさではない。
それでも三姉妹が放つ雷魔法を遮るには十分である。
この土壁を作ったのは、妖精シオウであった。
城壁の上に築かれた土壁を見て唖然とする三姉妹。
「何よあれ」
「魔法が利かないじゃない」
「あんな土壁で防げる雷魔法じゃないのに」
「もう一度、もう一度やるわよ」
城壁の上では、ペリエが三姉妹が立つ方向を見ながら見えない誰かと話をしている。
「あっ、あいつの仕業だ」
「行方をくらませたと思ったらあんなところにいやがった」
三姉妹は、再度魔法を詠唱して雷魔法のタイミングを合わせて同時に放つ。
だが街を破壊するという目的を遂げるなら城壁の上に立つペリエに向かって雷魔法を放つ必要などない。
ペリエ達と魔法を放つ軸線をずらせばよいだけのこと。
それだけで魔法は、城壁を飛び越え街を焼き尽くしたはずである。
だがペリエは、街を守る城壁の上で三姉妹に向けて尻を向けおちょくる様に踊ってみせた。
「あっ、あいつ私達をバカにしてる」
「あいつを焼きつくさないと気がすまない」
「最大魔力でいくよ」
三姉妹の雷魔法が城壁の上で踊るペリエに向かって放たれた。
そして妖精シオウの魔法防御の土壁が再度構築され雷魔法を受け止める。土壁の高さも幅も厚さも先ほどのものを凌駕する規模だ。
土壁の表面は、黒く焦げボロボロと剥がれていく。
だがシオウの土壁は、さらに厚さを増し雷撃を受け止め防いでいる。
魔法防御が施された土壁の内側に逃げ込んだペリエ。雷撃と火花が飛び散る土壁の内側で守られているペリエだが、内心は恐怖でいっぱいであった。
「こんな風にバカにした踊りを踊ったたら怒るよね」
「そう。それが狙い。あいつらが冷静になって街を攻撃したら僕達じゃ街を守れない」
「でもそのうち、それに気が付くんじゃない」
「大丈夫。キーがあの3人のところに向かってる。あの3人は、我を忘れてキーが近づいている事に気付いていない」
妖精ルリが冷静に状況を見ながらシオウに次の指示を出していく。
雷撃が収まりシオウが作り出した魔法防壁の土壁から顔を出して3人の様子を伺うペリエとシルキー。
ペリエの目に映った光景。それは、三姉妹の背後に巨大な大蛇が佇み大きな口から長い舌をちょろちょろと出しているところであった。
「エメラルド姉様。あいつらの魔法防御を無視して街を・・・」
そこで不意に言葉が途切れた。
作戦時の呼び名にサファイアと名付けられた妹が何を言わんとしていたかは、ふたりの姉には分かっている。
だが魔法攻撃中にも関わらず会話を途中で辞められては気になるというもの。
「サファイア。あいつらの魔法防御がどうしたって・・・」
一瞬だけ城壁の上にいるペリエ達から目線をそらしエメラルドへ目線を向ける。
そこには、エメラルドではなく巨大な大蛇の口に飲み込まれていくエメラルドの姿であった。
そして恐怖のあまり身動きが取れないルビーは、エメラルドが飲み込まれた大蛇の口に抵抗もなく飲み込まれていく。
”ゴックン”。
美味い物を食べた時の様に喉を鳴らす大蛇。
エメラルドの頭上に大きな影が重なる。そして巨大な大蛇の大きな口が開いていく。
「あーーー。キーの大蛇が3人を飲み込んじゃった」
「あれが精霊神殿でペリエ殿を襲ったという大蛇なのだな」
ペリエとシルキーは、城壁から降りると城壁の外でとぐろを巻き身動きしない大蛇のそばに恐る恐る近寄る。
大蛇は、三姉妹を食べて満足したのか気持ちよさそうにしている。
「食べられたりしない・・・よね」
そろりと近づくペリエ。
「大丈夫だよ。僕の鍵で僕達を食べないようにしてあるから」
「そっ、そうなんだ。でも・・・大きいね」
ペリエが見上げる大蛇は、大きな家程もあり人を丸飲みに出来る口から見える無数の歯が恐怖を倍増させる。
「そういえば、飲み込んだ人達はどうなったの」
「気になる?今から吐き出せばまだ助かると思う」
「本当。なら出して欲しい。ちょっと話がしたいんだ」
ペリエは、だいたいの検討はついてはいた。だがなぜ自分達を攻撃したのかを聞きたかったのだ。
鍵妖精のキーが大蛇に話しかける。だが大蛇は、キーの言葉に首を横に振るばかりだ。
するとキーが困った顔をしながら妖精ルリと何やら相談を始めた。
そしてルリが仕方ないなあという表情を浮かべるとキーが大蛇に向かって右手を挙げた。
すると大蛇を大きく頷き大きな口を開けると口から3人をおもいきり吐き出した。
”おえっ”。
”べちゃ”という音が鳴り響き地面に吐き出される3人。
服は破け消化液で溶けかけていて肌の殆どが露出している。
3人は、息はしているが意識を失っているようでペリエは、その辺に落ちていた棒で3人をつついていみた。
「「「う~~~ん」」」
何とか意識を取りもどした3人。自身の状況を理解し思わずはだけた胸を両手で隠しながら正面に立つペリエとシルキーを視認すると魔法の詠唱を始めた。
そこでシルキーは、魔法弓を構えると3人の目の前に見えない魔法矢を向けて威嚇を始めた。
「詠唱をやめろ。でなければこの魔法矢がお前達の顔面を射抜くぞ」
「「「くっ・・・」」」
詠唱をやめ黙り込む3人。
「街の警備隊、みんな殺しちゃったね」
ペリエの言葉に悪びれもしない3人。
「ふん、我らは雷の魔神様からお前達を抹殺する様にと命じられたのだ。それを邪魔したのだから当然だ」
「僕の事をなんで知ってるの」
「それは言えん。我らは、お前を殺せと命じられただけだ」
やはり妖精ルリが言っていた話は本当だった。
つまり魔神同士は、配下の王国を使って代理戦争を行いお互いが敵対している様に振舞ってはいるが、裏で連携して情報のやり取りを行っているという事だ。
だから復活した妖精を引き連れたペリエ達が脅威であり邪魔であった。だから殺そうとしたのだ。
「この王国って雷の魔神の支配地域だったね。この街を守る警備隊員を殺すって仲間を殺したという事だよね」
「仲間だと。こいつらは仲間などではない。我らの命令を聞かぬ愚か者だ」
「いくら話をしても平行線だね」
ペリエ達の前に半裸となり大蛇のだ液まみれとなった3人だが、魔神の言葉は神の言葉と思っている。
魔神の言われた事をただ実行するだけの人形なのだ。
ペリエが鍵妖精キーに目線を向ける。
するとキーは、ニタりと笑い小さな鍵を取り出す。
三姉妹には、妖精の姿は見えない。
だが、ペリエが視線を向けた何もない場所に合図の様なものを送った事で何かを察した三姉妹は、急に大声でわめき始めた。
「いっ、今、何を見た。そこに何かいるのか。よっ、妖精がそこにいるのか。我らに何をする気だ」
「街の警備隊を殺して、街も破壊しようとしたんだ。しかも僕達を殺そうとして失敗したんだから、何をされても仕方ないよね」
「なんだと。我らに何をしようというのだ。まさか、我に言葉に出来ぬ様な淫らな事をする気か。死ぬよりも辛い恥ずかしい責め苦をするというのだな!」
「えーと?何を言ってるのか僕には分からないけど」
「やってみるがよい。我らは魔神様に命を捧げた身だ。どんな責め苦も耐えてみせる」
三姉妹は、恐怖心に打ちひしがれながらもなぜか頬が赤くなっていく。
ペリエは、鍵妖精キーに向かって頷くとキーが3人の頭の後ろに回り込む。
すると3人の後頭部に小さな魔法陣が現れその中央に小さな鍵穴が現れした。
妖精キーは、手に持つ小さな鍵を魔法陣の中央にある小さな鍵穴に差し込む。
その途端3人は、白目をむき口から泡を吹いて意識を失い地面へと倒れ込む。
そんな光景を街の住民達は、城壁の門からそっと見守っている。
その中には、ペリエ達を追っていたあの追跡部隊の面々もいた。彼らも三姉妹が街の警備隊を皆殺しにしたところから見ていたのだ。
「支配下にある王国の街であの所業は、さすがに住民も感化できんだろうな」
「我らの国でも同様の事が行われていないと願いたいものです」
「・・・」
部下の言葉に何も言い返せない部隊長のバック。
他国との戦争中という事もあり他国の事情を知る機会などない。だが自国内で行われている事ですら見聞きする事もなく見て見ぬふりをするご時世。
任務とはいえこうやって他国を旅して初めて分かる事も多い。
追跡部隊の面々は、ペリエ達を追う事でこの世界の歪みを目にしていく事になる。
彼らにとってそれが良かったのかは、判断の分かれるところとなった。
ペリエ達と巨大な大蛇は、街の外に広がる森の中に姿を消した。
そして街の警備隊の死体と半裸となり意識を失った三姉妹が残された。
「くそっ。警備隊の隊長さんを殺しやがって」
「こいつらを牢屋に運ぶよ。市場の修繕費を弁償させないといけないしね」
「でもどうする。街に残っていた警備隊の兵士は、皆やられちまったな」
「自警団でも作って自衛するしかないよ」
街の住民達がこれからを相談する傍らを運ばれていく半裸の三姉妹。
その光景を見つめる追跡部隊の面々。
この世界では、他国との戦争で街が攻撃され住民が逃げまどい皆殺しになる事も日常茶飯事だ。
顔見知りの警備隊の兵士が目の前で殺された。だがそれに涙する者はいない。
自身の命が助かればそれ以上の喜びはないのだ。
そんな荒んだ世界を生きるペリエ達はというと・・・。
街を出て森の中に入ると程なくして野営を始めていた。
ペリエは、薪を集めて火を起こし湯を沸かすと異世界のおじさんから貰ったかれーめんに熱湯を注ぐ。
そしてしばしの時間が経ったあと、かれーめんの蓋を開けると鍵妖精のキーがフォークで麺をほぐし始める。
ペリエが背負う大きな鞄は、地面に置かれその上には、先ほどまで巨大な姿をさらしていた大蛇が、キーよりも小さくなりまるで生まれたばかりという様な小さな蛇の姿になっていた。
そしてキーがフォークでかれーめんをすくうとそれを美味しそうに食べ始める。
「蛇なのに異世界のかれーめんが好きってなんだか変だよね」
「本当にそうだな。でもこの蛇も妖精様と同じ様に異世界のかれーめんを食べると力が増すのであろうか」
シルキーの何気ない言葉にペリエが思わず首をかしげる。
「まさか・・・」
この世界を変える力を持つ異世界のかれーめん。
それは、この小さくなった大蛇にも影響を与えるのであろうか。それは今後のお楽しみという事で。
街の市場で住民の命おも顧みず雷魔法を放った三姉妹。
ペリエ達を抹殺せよと魔神に命じられて来たはずですが、どうもペリエ達を最初から殺す気は無かったようです。
殺す気があれば市場ごと雷魔法で破壊すればよいだけのこと。
もしかすると自らの力を過信し、ペリエ達を池で泳ぐ魚くらいにしか考えていなかったのかもしれません。
◇フェアリーランタン(現世界Side)
現世界Side 1話
道志の森で魔法ランタンと冬キャンプ
https://youtu.be/E5koSWCQ7DQ
現世界Side 2話
道志の森で寒風吹きすさぶ冬キャンプ
https://youtu.be/rYbmk-ZDriE
現世界Side 3話
風対策とランタンの灯りで癒される冬のふもとっぱら
https://youtu.be/ZUM40WsEoJI
現世界Side 4話
ふもとっぱらで初めての連泊と風対策キャンプ
https://youtu.be/cCp4tMd4Cp0
◇魔法ランタン
https://youtu.be/rhFhjx9aPEE
◇フェアりーランタンの世界観を楽しむにはこちらもどうぞ!
僕の盾は魔人でダンジョンで!
https://ncode.syosetu.com/n2862ff/