012話.意識の違い
「ちょっと、何なのよ」
穴の底でさらに足元が崩れてさらなる穴の底に落ちた追跡部隊の面々。
落ちた先は、柔らかい土が堆積しているおかげでケガもなく済んだが装備は土まみれとなり、鎧も服も汚れ放題である。
「壁に書かれた文字を触ると罠が発動する仕組みなのか」
「さっきは、バック隊長が”いいえ”に触れました。では”はい”に触れたらこの穴から出られたのでしょうか」
「分からん。だが、こんな深い穴を短時間に街道に作れるのは、我らでは無理だ。恐らく妖精の仕業なのだろう。しかも探査魔法で探す事もできない罠など我らには出来ない」
追跡部隊の面々が各々の見て感じた事を話し出す。
魔術師シルバーが魔法により再び手元に小さな明かりを灯す。
穴の底で壁を照らして何かを探す面々。
「やっばり・・・ありました。ここに何か書いてあります」
壁には、こうかかれていた。
”この世界を魔神から取り戻したいと思う”。
”はい”、”いいえ”。
追跡部隊は、壁に書かれた文字を見てこの穴を作った者の意図をうすうす察し始めた。
さっき壁に書かれた文字は。
”この世界は、魔神のものだ”。
そして今回は。
”この世界を魔神から取り戻したいと思う”。
「この文字を書いた者は、我々に何かを訴えてる様に感じます」
「はっきり言えば、明らかに魔神に抗えと言っているとしか思えません」
「だが我らの祖先は、魔神に負けたのだ。だからこの世界は、魔神に支配されている」
「分かっています。昔の戦争で魔神と我々の祖先が戦いそして負けました」
「さらに魔神と戦ったのは、我々の祖先だけではない」
「そうです。精霊と妖精もです」
「そして精霊と妖精は封印された。我々の祖先は、国を作る労働力として残された」
「つまり奴隷ですか・・・」
「そうとも言える」
「そして魔神の駒として延々に戦う事を強いられた」
「当然だ。弱い者が負けて強いものが勝った。弱い者が強いものに支配されるのは、何処の国でも同じだ」
「確かにそうです。ですがそれは、この世界に生まれた者達での話です。他の世界から来た者に支配されるのは、どうなんでしょうか」
「他の世界から来ようがそれが強者なら弱者は支配されるのが当然だろう。我々は、皆殺しにならなかっただけましだ」
追跡部隊の隊長であるバックは、先ほどから正論を言っている。それは間違っていないし正しいのだが、それを聞いて釈然としない何かが心の中に渦巻く偵察部隊の面々。
バックは、壁に書かれた文字を再度見ると自らの手を伸ばす。
”この世界を魔神から取り戻したいと思う”。
”はい”、”いいえ”。
手を触れたのは”いいえ”だ。
バックは、魔神に支配された世界を受け入れそこに住む住人として魔神に従う事を選んだ人族だ。
そして予想した通りに穴の底が崩れ追跡部隊の面々は、さらなる穴の底に落ちていく。
「またこれか・・・」
誰かがそう言った。隊長が”いいえ”に触れた時にこうなると分かっていたのだ。
穴の底で立ち上がり鎧や服についた土を払う。
そして魔術師シルバーが魔法で明りを灯す。
壁を見るとまた何かの文字が書かれている。
”この世界を見捨てて全てを魔神に委ねるつもりだ”。
”はい”、”いいえ”。
この文字を見た瞬間、追跡部隊の面々はお互いの顔を見合い無言である決断をする。
追跡部隊の隊長であるバックは、何も言わずに壁に書かれた”はい”に触れようとする。
「隊長を拘束しろ!」
魔術師のゴールドがそう叫ぶと一斉に隊長のバックに襲い掛かる面々。
「何をする。我々は、魔神の軍隊の兵士だ。魔神に逆らう気か!」
「そうです。少なくともこの穴から抜け出るには、魔神に逆らう必要があるんです」
「そっ、そんな事をしてよいと思っているのか」
「少なくとも今は、我々しかいません。魔神が見ている訳でもないのに魔神にこびへつらう気はありません」
「なっ、何だと。隊長命令だ!今すぐその手を放せ!」
「お断りします」
そう言うと魔術師のゴールドは、壁に書かれた文字を凝視する。
”この世界を見捨てて全てを魔神に委ねるつもりだ”。
”はい”、”いいえ”。
そして”いいえ”に手を触れたその瞬間追跡部隊の面々は、光につつまれそのまま意識を手放してしまった。
・・・・・・
気が付けば街道の脇で空を眺めながら座っていた。
いきなりの場面転換に驚きつつも周囲を見渡し何が起きたのかを必死に理解しようとする面々。
「私達、穴に落ちたはずですよね」
「だが目の前の街道に穴はない」
「穴の底にいた時に穴は塞がっていったな」
浮遊魔法ができる魔術師のシルバーが立ちあがり恐る恐る街道の中央に移動する。そしてさっきまで穴があったはずの地面を魔法杖の先で慎重につついてみる。
「穴を開けた様な跡などありません。土は、かなりの固さです。それに街道の下に空洞があるような音もしません」
その後、追跡部隊の面々が周囲を捜索してみたが、周囲に無数にあった穴(罠)などひとつもなかった。
「おかしい。あれだけの穴(罠)を作ったのだから痕跡が残っているはずだが」
「私達、誰かに騙されたのでしょうか」
「いや、私のローブが土で汚れている。穴に落ちたのは確かだ」
「私の鎧にも土がついています」
「こんな事が出来るのは、やはり・・・」
「「「「妖精」」」」
そして考え込む追跡部隊の面々。
「我々が追っている人族とダークエルフと行動を共にする妖精がこれをやったと仮定する」
「これとは、穴(罠)を作り我々をそこに誘導したという事実ですね」
「ああ。そして穴に落ちたはずがこうやって街道脇に座っていた」
「もしかして精神干渉魔法でも使われのかとも思ったのだが・・・」
「でも記憶のところどころが曖昧というか抜けています」
「やはり穴(罠)には落ちたのは事実。そして精神干渉魔法を使われた事も事実。その痕跡が無いのも事実」
「そこから導き出されるものは・・・」
「我々では、妖精に全く歯が立たないという現実だ」
追跡部隊の面々が今までに起きた事を分析する横で隊長であるバックは、地面を見つめたまま言葉を無くしていた。
「バック。我らが追う者達と共に行動していると思われる妖精は、我々が近づく事すら出来ない存在だと確信した」
「私達を殺そうと思えば、いくらでも出来たはずです。それをあえてしなかったというのは、何か意味があると思います」
魔術師のゴールドとシルバーが街道の脇に座り込む隊長のバックに自分達が考えた結論を伝える。
部下達が目の前で何かを話している。それは分かるが耳に入る言葉がいまいち理解できない。
穴の底で隊長であるバックを拘束して勝手な行動に出た事に驚き、今もまた勝手な議論を行い勝手に結論を出した。
隊長であるバックは考えていた。今まで部下達がこんな勝手な行動をした事など無かった。どうしてこうなってしまったのかと。
「すまない。聞こえなかった。もう一度言ってくれ」
「そうだな、では・・・」
部下達の話をもう一度聞きなおした隊長のバック。
つまり今回の罠を作ったのは恐らく妖精で精神干渉魔法も使ったのではないかという。
そして妖精に対して成す術がないという結論に部下達は達した。
だが追跡部隊の隊長であるバックはそう思わなかった。
今回の件で分かった事は、妖精は追跡部隊を最初から殺す気が無かった。そして我々は今も生きている。
確かに次も同じ様に生きて帰れるか保証などない。だが、最初から殺す気があればとうに殺されている。
それをしなかったのは、最初から殺す気が無いからだ。
そして穴の中にあったあの文字。
あれは、我々を試していた。
この世界は、魔神のものではなく元々この世界に生きている者達のものだと暗に言っていた。
だが我々は、魔神に支配された世界で生まれで生きてきた。いまさらそれを変える事などできない。
だが部下達の考えは違っていた。そして対立してしまった。
バックは、これからどうすべきか考えていた。いきなり考え方を改める事など出来ない。とはいえ、魔神に逆らって生きて行ける世界ではない。
すると魔術師のゴールドが隊長のバックに今後の行動について話しを続けた。
「バック隊長。我々の今後の行動についてご相談があります」
「ああ、聞こう」
穴の底では思いもよらず拘束されてしまったが、まだ部下達はバックを隊長として認めている。
部下を命令違反として処罰するのは簡単だ。だが、その後はどうなる。
少なくとも部下達は、この世界が魔神により統治されている事を快く思っていない事実を知ってしまった。
今ここで意見が対立すれば任務そのものが達成できなくなる。
「このまま追跡を続けましょう」
「えっ」
「我々は、軍の兵士です。それも魔神に支配された王国の兵士です。今ここで任務を放棄すればそれこそ軍法会議で死刑にされかねません」
「だが、我々では妖精に歯が立たないという結論に達したのではないか」
「そうです。つまり我らは、妖精達に近づきすぎたのです。一定の距離を保ちながら追跡を続けます。そして分かる範囲の事を本隊に伝えるのです」
「それでは任務にならない」
「それは違います。我々は、敵と戦えという命令は受けておりません。今回の穴(罠)にはまったのは、敵と交戦状態に陥ったと見なしてもよいと考えます。我らの任務は、あくまで敵の偵察です」
「偵察部隊は、敵との距離を保ちつつ偵察任務を継続しなければならい」
「そうです」
「相手との距離を保ちながら相手に探りを入れます。何が出来るかは分かりません。また精神干渉魔法でも仕掛けられたら我らでは対処できませんが・・・」
「分かった。だが、この部隊の隊長は私だ。私の命令には従ってもらう」
「先ほどは、申し訳ありませんでした。今後、あのような行動はいたしません」
追跡部隊の面々は、隊長の前に一列に並ぶと直立不動の姿勢で敬礼を行った。
「分かった。相手との距離を保ちつつ相手の状況を調べる。とりあえず今日は、ここで野営をする」
追跡部隊が前進をやめ野営の準備に入った。それを木の上から見ていた者達がいた。
鍵妖精のキー、妖精ルリ、妖精シオウだ。
「成功したのかな」
「そのようだね」
「僕達が魔神と戦う時に彼ら人族までもが敵に回ったら面倒だからね」
「少しづつ仲間を増やしていかないと」
妖精達は、そんな会話をしながら木の枝から飛び立ちペリエ達が待つ野営地へと向かった。
鍵妖精キーの手には、5個の目新しい小さな鍵が握られていた。
妖精達は、魔神と共に戦う同士を増やしたいようです。
でも鍵妖精キーが鍵を持っているという事は、彼らの精神にアクセスして何かを改ざんした可能性が・・・。
そういえばTripWireという改ざん検知のソフトウェアがあります。
例えば運用で必要なシステム変更を行ったとしても改ざんされたと通知してくるので「それは運用で必要な処理ですよ」といちいちデプロイする必要があります。
改ざん検知は、外部からシステム変更された事を知らせるものですが、外部だろうと内部だろうと変更(改ざんとして)を全て知らせて来ます。
Windows ServerなんてOSが自動でシステム変更をじゃんじゃん行うので例外処理がどんどん増えていきます。
それが改ざんされたものなのか予定されたシステム変更作業の結果なのかは、担当者や変更作業を行った者でないと判断できません。
もっと賢いものだと思っていました。なんて家内制手工業な世界なんでしょう。
◇フェアリーランタン(現世界Side)
現世界Side 1話
道志の森で魔法ランタンと冬キャンプ
https://youtu.be/E5koSWCQ7DQ
現世界Side 2話
道志の森で寒風吹きすさぶ冬キャンプ
https://youtu.be/rYbmk-ZDriE
現世界Side 3話
風対策とランタンの灯りで癒される冬のふもとっぱら
https://youtu.be/ZUM40WsEoJI
◇魔法ランタン
https://youtu.be/rhFhjx9aPEE
◇フェアりーランタンの世界観を楽しむにはこちらもどうぞ!
僕の盾は魔人でダンジョンで!
https://ncode.syosetu.com/n2862ff/