011話.追跡者
「妖精の名前?」
「そう。新しく加わった仲間に名前をつけてあげて」
「名前かあ」
精霊の神殿から新しく仲間に加わった妖精は、土属性の防御魔法が得意だ。
攻撃魔法は、苦手だが倒れた魔神の頭を叩きまくったり魔神の髪の毛をむしりまくったりと、かなり攻撃的だとルリが嘆いていた事を思い出していたペリエ。
「魔法ランタンは、紫と黄の光を放っていたね。紫と黄だから・・・シオウかな」
ペリエは、新しく加わった妖精の仲間をシオウと名付けた。
「シオウ様。これからこの世界をお救いいただくためにお力をお貸しください」
ダークエルフのシルキーが地面に片膝を付いて頭を垂れる。
それを聞いていた妖精シオウは、ペリエが背負う大きな鞄の上に座ったまま数回うなずいて見せた。
シオウの手には、剣の様な物を握っている。
「シオウ。その手に持っているのは、剣?」
ペリエの言葉にうなずきながらペリエの指程の長さの金属製の剣を研いでいる。
「シオウは、あまり話さないから意思の疎通がちょっとね。でも、僕達の事情とか環境については話してはあるから理解している・・・と思う」
そう話すのは、妖精ルリ。
いろんな性格の妖精がいるんだと小さな剣を研ぐシオウを見つめるペリエ。
森の木々の中に点在する大きな岩の影で魔法ランタンの明かりも灯さず、薄暗い月明かりだけの夜は静かに過ぎていく。
・・・・・・
その頃、風の魔神の命を受けた小隊がペリエ達の追跡を始めた。
目的は、ペリエ達の所在の把握と能力の調査だ。
とはいえ人族で編成された彼らでは妖精を認識する事はできない。それでも妖精と共に行動する人族の所在を把握できれば魔神でなくとも対処方法も見つかるというもの。
追跡部隊の魔術師であるゴールドは、得意とする探査魔法あるいは鑑定魔法により対象者の能力を把握する力に長けていた。
ただし魔神の命で闘いは禁止され、あくまで追跡と調査が目的である。
そしてペリエ達が街道を歩いた痕跡をたどり徐々に距離をつめていく。
探査魔法によりおぼろげながら森の中を行く街道にふたりの足跡が浮かび上がる。
足跡のひとつは、重い荷物を背負っている様で街道にくっきりと残る。
もうひとつの足跡は、それを残すまいと訓練を積んだかの様な動きで微かに残るのみ。
ふたつの足跡の痕跡が徐々にはっきりとして来た頃、その足跡が街道の左脇の森の中へと続いていく。
森は、丘の様になっており足跡は木々を避けながら蛇行して進んでいく。
ふかふかの土を踏み固めた跡があり街道よりもくっきりと足跡が分かる。
恐らく足跡からして1時間もすれば背後につける程の距離に来ている。
ふたつの足跡は、森の木々の合間を進んでいくと街道に戻り始める。
「あいつら花摘みに森に入ったのか」
「いや、匂いも痕跡も残っていないから別の理由だな」
魔法剣士で追跡部隊の隊長でもあるバックが魔術師のゴールドに言った”花摘み”とはトイレの事である。
この世界では、街の中でもないかぎり公衆トイレなどない。
用を足す場合は、そこら辺でするのが常である。
足跡は、街道に戻るとそのまま街道を進んで行く・・・と思いきや、今度は、街道を外れて右側の森の中へと入っていく。
「あいつら何かを探しているのか」
「もしかして魔獣と出くわして逃げ回っているとか」
「だが魔獣の足跡らしきものがない。何か別の理由だな」
注意深く足跡の痕跡を調べる追跡部隊の面々。
そして森の中に入った足跡は、また街道へと戻っていく。
あまりの蛇行ぶりに疑問を抱き始めた面々は、何か違和感を覚える。
「逃げる場合、街道を先へと急ぐか街道を外れて山越えをするかのどちらかだ。だが、このふたりはどっちつかずだな」
今までもこの手の追跡を何度も行って来た面々は、今まで追跡して来た者達とは明らかに異なる不可解な行動に疑問が浮かぶ。
「まさか追跡がばれている事はないか」
追跡部隊の女剣士ルイスが、相手の行動からそう疑念を持つ。
「このおかしな行動は、我らの追跡から逃れるためだとでも」
「対象には、妖精がいるという。そいつらは、既に我々に感づいているという事はないだろうか」
慎重論を唱える剣士ルイス。
「相手が我らの事を既に察知しているというならば、あえてここで広範囲探査魔法を使うか」
追跡部隊の隊長であるバックも確かに違和感を感じていた。
相手がこちらの動きを探っているならば、探り合いなどせずにこちらの存在を知らしめるのも手ではある。
「そうだな。ゴールドやってく・・・」
「きゃ」
その時である。部隊の最後尾にいた治癒士のレイが街道脇に開けられた小さな穴にはまり倒れ込んだ。
治癒士レイは、この部隊で治癒と回復を担当している。
戦闘には参加しないが何かあった時に無くてはならない存在だ。
部隊の後方で警戒にあたっていた魔術シルバーがレイに近づいて状況を確認する。
「歩けるか」
レイは、黙って頷きはまった足元を確認する。
すると街道脇に開いた小さな穴の中にそまつな紙切れがひとつ落ちている。
その紙切れを拾い上げと何かの走り書きが書いてあった。
”はずれ”。
治癒士レイが拾い上げた紙切れにはそう書かれている。
それを部隊長のバックに見せる。
「そうか。我らの追跡は、既にばれているという事だな。ならば広範囲探査魔法を・・・」
「きゃ」
今度は、魔術師のシルバーが街道脇に開けられた別の穴に足を取られて倒れ込んだ。
「もう、何なの・・・」
そして穴の中を見るとやはりそまつな紙が置かれ・・・。
”はずれ”。
と走り書きされていた。
「ゴールド。探査魔法を使え。この辺りは、他にも罠を仕掛けられている可能性がる」
隊長のバックの言葉にうなずき探査魔法を放つ魔術師ゴールド。
すると街道の周囲に無数の罠が見つかる。
「まずいです。我らの周囲は、罠だらけです」
いつの間にか罠の中にいた追跡部隊の面々。
この罠は、いったい誰が設置したのか・・・。
・・・・・・
少しさかのぼり、ペリエ達が街道をのんびり歩いていた頃。
ペリエが背負う大きな鞄には、魔法ランタンがみっつもぶら下がり、ときよりガチャガチャと大きな音を発する。
その上下に揺れる大きな鞄の上でくつろぐ妖精達。
ペリエには、分からない妖精の言葉で何かを話し合っている小さな妖精達。
「妖精様は、今後どうするのか話し合っているだろうか」
ペリエの横を歩きながらダークエルフのシルキーが話かけて来る。
「次に向かう場所は、キーに教えてもらってるから分かるけどかなり遠いみたい」
「そうなのですか」
「問題は、次に魔神と出会ったときにあの異世界の小麦粉でどうにかなるかだね」
「あれで魔神の魔力を奪えればはかなりあるのではないでしょうか」
「でも魔神が何も対策をしないとは思えないけど・・・」
「まさか魔神同士が情報を共有していると?」
「この世界は、4人の魔神が領土を分け合って統治しているから、妖精が復活したと分かったら真っ先に全ての魔神で対処してくる気がする」
ペリエとシルキーが歩きながらそんな話をしていると、ペリエが背う大きな鞄の上で話し合っていた妖精ルリがペリエの耳元に来てこうささやいた。
「追跡者が来たみたい。まだ遠くにいるけどそのうち追いつかれると思う」
「えっ、どうしよう」
「僕達が対処する」
ペリエの耳元でそうささやく妖精ルリ。
そして小さな剣を腰にぶら下げた鞘から引き抜き鈍い光沢にうっとりとする妖精シオウ。
何か悪だくみを企んでいるとしか思えない表情を浮かべる妖精達。
追手に気の毒な事が起きない事を切に願うペリエであった。
・・・・・・
追跡部隊は、街道に無数に作られた穴(罠)を避けながら街道を先に進んでいた。
「恐らくこの無数に開けられた穴(罠)は、妖精が作ったものだろう」
「私が罠を見つけて回避していく、皆は私のあとをついて来てくれ」
街道につくられた無数の罠。実は、巧妙に隠された穴ではあるが罠と言える様なものではない。
しかも十分に気を付ければ痕跡が分かるものばかりだ。
「それにしてもお粗末な罠だな。これでは子供でも分かるぞ」
ゴールドが探査魔法で街道に作られた無数の穴(罠)を次々と回避していく。
「これで最後だ。この先に罠はない」
ゴールドの言葉に安堵する面々。
「だがまだ安心はするな。当面は、私のあとを確実について来い」
ゴールドの確かな言葉に頷き街道を一列になり歩く面々。
そしてお約束の様に足元が崩れていく。
「「「「「あっ」」」」」
追跡部隊の面々が思わず同じ言葉を発した時には、街道に開いた大きな穴の中へと吸い込まれていった。
・・・・・・
追跡部隊の5人は、気が付けば穴の底で倒れていた。
幸にして誰もケガをしてはおらず、穴の中に更なる罠も無い。
「くそ。なぜ探査魔法にひっかからなかったんだ」
魔術師のゴールドは、穴の底で装備についた土を払いながら自身の探査魔法の不備に苦言を呈した。
見上げると穴の底から青空が見える。穴が崩れて生き埋めにならないだけましな状況に少しの安堵感を覚えながら、穴の底から抜け出す方法を皆が考える。
穴といっても5人の人族が一列に並べる大きさがあり、穴の深さは身長の倍以上もあった。
「この穴、ずいぶんと固いな」
追跡部隊の隊長であるバックが穴の壁を触り登れるか感触を確かめる。
「固い土ですね。短剣で壁に足場を掘る事も出来そうにないです」
剣士のルイスが短剣を手に持ち土の壁に刺して硬さを確認する。
「仕方ない。私が浮遊魔法で穴から出・・・」
魔術師のシルバーがそう言って魔法を発動させようとした途端、穴の底から見えていた青空が徐々に小さくなっていく。
「穴が閉じていくぞ」
誰かがそう叫ぶと追跡部隊の全員が見上げる。
そして音もなく穴の底から見えていた青空が小さくなり、やがて光の無い闇の世界へと変貌した。
穴の底には、一切の明かりはなく手元すら見えない。
フッとシルバーの手元に小さな灯りが灯る。魔法で作り出した灯りだ。
「でも変だ。私の探査魔法では、穴の周囲には人の反応はない」
「まさか・・・これも妖精の仕業なのか」
「だが、我々を攻撃するならこんな手の込んだ事をするか?」
「確かにそうだな」
シルバーが作り出した小さな魔法の光に照らされ穴の全容が分かり始める。
縦長の穴の壁は、つるつるで手足を踏ん張って上に登るのはかなり難しい感じだ。
穴の壁は、固く剣を指して足場を作る事も容易ではない。
「何か壁に書いてあるぞ」
追跡部隊の隊長であるバックが壁に書いてある文字を見つける。そこには、こう書かれていた。
”あたり”。
そしてこうも書かれていた。
”この世界は、魔神のものである”。
さらにその言葉の下には、こう書かれていた。
”はい”、”いいえ”。
壁に書かれた文字を見てお互いの顔を見合う追跡部隊の面々。
「これは、いったい何の真似だ」
「さあ、ただ私達をすぐに殺す気は無いようですね」
壁に書かれた文字の意図を探る面々。
「私達は、生まれた時から魔神に支配され魔神に統治された国に生きている。魔神に逆らって生きていく事など出来ない」
そう言い放ったのは、追跡部隊の隊長であるバックだ。
「ですが昔は、魔神などいない世界だったと聞いています。魔神は、何処か別の世界からやって来たと」
バックの言葉に反論したのは、シルバー。
「だが今は違う。我々は、魔神の支配下にある。それが現実だ」
バックの言葉は、最もである。
そしてバックは、壁に書かれた”いいえ”という文字に触れてみた。
「これは、私達を試しているのか。だが何かが起こる訳でも無かろうに・・・」
”ブブー”。
穴の中に今まで聞いた事もない音が響き渡り、お約束の様に穴の底がいきなり崩れ始めた。
「えっ、まっ、まさか」
追跡部隊の5人は、穴の底で次なる罠にはまりさらに穴の奥へと落ちていった。
追跡部隊がペリエ達を追って来ます。
ですが妖精達は、それを察知して追跡部隊に罠を仕掛けました。
追跡部隊を殺す訳でもなく、いったい何を目的にしているのでしょうか。
さて、キャンプでお酒も飲まず美味しいお肉も焼いて食べない純粋どくだみ茶です。
100人がキャンプに行ったら100人が酒を飲み肉を焼いて食べると思いますがあえてそれをしません。
そして自作のランタンの灯りを愛でながら次の風対策を考えます。
でも皆さんお酒を飲んで美味しいお肉を食べて焚火をして寝ちゃうんですよね。
次にキャンプに行く時は、前回のふもとっぱらで行った設営とは別の事をしてみたいと考えています。
が・・・先立つ物がありません。
今使っているアメニティドームMの様な大き目のテントではなく2人用くらいの小さいテントが欲しい。
さて、どうしようか悩みどころです。
◇フェアリーランタン(現世界Side)
現世界Side 1話
道志の森で魔法ランタンと冬キャンプ
https://youtu.be/E5koSWCQ7DQ
現世界Side 2話
道志の森で寒風吹きすさぶ冬キャンプ
https://youtu.be/rYbmk-ZDriE
現世界Side 3話
風対策とランタンの灯りで癒される冬のふもとっぱら
https://youtu.be/ZUM40WsEoJI
◇魔法ランタン
https://youtu.be/rhFhjx9aPEE
◇フェアりーランタンの世界観を楽しむにはこちらもどうぞ!
僕の盾は魔人でダンジョンで!
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