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フェアリーランタン ~異世界Side~  作者: 純粋どくだみ茶
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010話.世界を変える力

挿絵(By みてみん)

魔法ランタン(フェアリーランタン)


魔神は、目の前にたたずむ妖精に向かって吠える。


魔神が吠えた相手は、妖精ルリだ。


だが妖精ルリが放った水魔法は、魔神にかすり傷すらつける事が出来なかった。


そんなルリに向かって吠えられても何を答えればよいのだろうか。


困惑した表情を浮かべるルリは、黙って魔神を見つめるしかない。


その魔神に傷を負わせた張本人は、足元に開けた無数の小さな穴の中にいる。


手には、妖精ルリが異世界のおじさんから渡されたという小麦粉が入った袋と火を灯す道具。


たったそれだけでこの世界の頂点に君臨する魔神にかなりの傷を負わせてたのだ。


「私に何をした。妖精!」


魔神は、再び自身の体に風の防壁をまとわせ、妖精が仕掛けて来るであろう攻撃に備える。


だが、魔神の体を覆うはずの風の防壁は、弱くまるでそよ風のようである。


何が起きているのか理解できない魔神。


再び風の防壁を自身の体を覆うように魔法を発動させる。


すると魔神の体から魔力が抜けていく感覚に気がつく。


「どうしたというのだ・・・」


魔神の魔力は、この世界のどの生物よりも強力だ。


さらにこの星から集めた生命力を魔神の力に変換する腕輪により、その力を数百倍に高めている。


「まさか腕輪が機能していないとでもいうのか」


魔神が自らの左腕にはめた腕輪に目線を移す。


そこには、妖精から攻撃を受ける前から装備している銀色に輝く腕輪がある。


そう、いつもなら銀色に輝く腕輪。それが今は白い粉をかぶりくすんで見えた。


「これが原因か」


魔神は、腕輪に付着した白い粉を右手の指でぬぐい取る。


すると全身から魔力が抜けていく感覚に陥った。


足に力が入らず思わず地面に片膝を付いてしまう。


「そうか、この白い粉が私の力の源を奪っているのだな」


魔神は、残る魔力を使い左腕に装備した腕輪に付着している白い粉を吹き飛ばす。


腕輪に付着した白い粉を吹き飛ばす事ができなくとも構わない。少しでも魔力が回復すれば、目の前に立つあの妖精を倒す事ができる。


そう考えた魔神は、肩膝を地面に付けたまま左腕に装備した腕輪に風魔法を放つ。


「ポコッ」


すると魔神の足元に小さな穴が開き、そこから妖精が顔を出す。


魔神は、ここでようやくと理解した。


今まで自身に攻撃を行っていたのは、目の前で水魔法を放った妖精ではなく地面から顔を出したこの妖精であった事を。


地面に開いた小さな穴から顔を出した妖精は、魔神に向かってニコリと満面の笑みを浮かべる。


それと同時に手に持った袋から白い粉を勢いよく吹いて魔神の顔に吹き付けた。


魔神の放つ弱い風魔法に逆らい魔神の顔に向かって放たれた白い粉は、魔神の全身を再び白く彩る。


そして魔神の体から一切の魔力が消え弱い風魔法すら放つ事が出来なくなり地面に倒れ込んでしう。


地面に開けた穴から魔神の倒れ込む状況を見ていた妖精。


満面の笑みは、いたずら好きの妖精の表情へとかわり倒れ込んだ魔神の頭をたたき始めた。


”ペシ、ペシ、ペシ、ペシペシペシペシペシペシ・・・”。


幾度も幾度も魔神の頭を叩き、さらに魔神の髪の毛を引っ張りこれでもかという程の髪の毛をむしり出した。


魔神の髪の毛と小麦粉の白い粉が周囲に飛び散り惨状はさらに広がっていく。


その光景を見ていた妖精ルリは、魔神の神の毛をむしり取る妖精の手を取り一目散に逃げに転じた。


妖精ルリに手を引かれ空を飛ぶ土属性の妖精は、まるで糸の切れた凧の様にぶらぶらと飛んでいく。


街中の家の屋根を飛び越え、街の城壁を飛び越え、森の木々の上を飛び越える。


そして街を見下ろす丘の上に作られた横穴に入るとこう叫んだ。


「魔神の力を奪った。でもすぐに復活する。それまでにできるだけ遠くに逃げる!」


逃げる用意をしていたペリエ達は、ルリの言葉を聞くと大きな鞄を背負い勢いよく丘の上の横穴から飛び出し街道を全速力で走り抜ける。


必死に走るペリエ達。


ペリエが背負う大きな鞄の上に座り追手の気配を探る妖精達。


ときたま出くわす敵兵に向かって走りながら矢を放つダークエルフのシルキー。


必死に逃げて逃げて何処をどう走ったのか分からないまま薄暗くなり、ようやくと何処かの森の中に逃げ込んだペリエ達。


妖精達が追って来る兵士がいないか気配を探りつつ周囲の状況を確認する。


「僕達の近くには誰もいないみたい」


森の中に点在する岩。その陰に隠れる様に幕を張る。


誰かに見つかる事を恐れ焚火も出来ずにじっと身をひそめる。


ダークエイルフのシルキーも周囲を警戒し様子を伺う。


幕の設営が終わったペリエは、地面に腰を下ろすと開口一番に妖精ルリにこう言った。


「街で何があったの?」


ペリエの言葉に妖精ルリが静かに口を開く。


「異世界のおじさんがくれた小麦粉を魔神に吹きかけた」


「それで?」


「そのあと、らいたーとかいう異世界の火を付ける道具を使ったら大爆発して魔神が黒焦げになった」


「本当に?」


「本当!」


頭をかしげるペリエ。


妖精ルリから聞いた話では、魔神は風の防壁を身にまとい物理攻撃も魔法攻撃も効かないと言う。


なのに小麦粉を吹きかけて火をつけただけで魔神を倒せるなんてにわかに信じられるはずもない。


「そのあと魔神は、どうなったの」


「魔力の枯渇を起こして倒れた。それを見て一目散に逃げて来た」


「そっ、そうなんだ」


「僕達もなんで小麦粉を吹きかけたら魔神が爆発して魔力の枯渇を起こしたのか分からない」


「そっ、そうだよね」


妖精ルリと新たに加わった土属性の妖精は、異世界のおじさんがくれたという小麦粉の入った袋を大事そうにかかえている。


分かっている事は、この小麦粉が魔神の力を奪うという事。


それがこの世界を支配する魔神にどれ程の脅威となるのか。


それを本当に理解するまでいくばくかの時間を要する事になる。


追手に見つからない様にと焚火で煮炊きが出来ないペリエ達は、背負った鞄からその場で食べられるものを取り出し皆に配る。


固くてボソボソのパン。固い干し肉。


歯が丈夫でなければ食べる事も出来ない固い固い保存食。


対して妖精ルリはというと、魔法ランタンから見た事のない白い箱を取り出すとその中から白い小さな袋を出して皆に配り始めた。


「これ、異世界のおじさんがくれたお菓子。なんて言ってたかな。確かはーばーだったかな」


妖精ルリが小さな白い袋を開けて中のお菓子を口へと運ぶ。


「ほんのり甘くて美味しい」


うっとりとした笑みを浮かべるルリの顔を見て思わず生唾を飲み込むペリエ達。


配られた白い小さな袋を開け、その中のお菓子を恐る恐る口へと運び味を確かめる。


すると口の中に広がるほのかな甘さと柔らかな歯ごたえ。


「・・・美味しい」


「これは、食べると疲れが取れていく気がする。しかし妖精様。いつも不思議に思っているのですが、どうして異世界人は、食料を分けてくれるのですか」


ダークエウルフのシルキーの疑問に妖精ペリエがはーばーを食べながら答える。


「僕が異世界の食べ物を食べると魔法が強くなるって言ったら、すごい興味を示したんだ」


「興味?」


「異世界では、魔法は使えないんだって。魔法使いもいないから魔法に凄く興味があるんだって」


「魔法の無い世界・・・」


「だから異世界の食べ物を食べたらどれくらい魔法が強くなるか教えて欲しいって言ってた」


「だとするとあの異世界の小麦粉も・・・」


「きっとその話をしたら異世界のおじさんは、きっと興奮すると思う」


異世界のお菓子を口いっぱいに頬張る妖精の姿をじっと見つめるペリエ達。


この世界を支配する魔神に対抗する手段を見つけた妖精達は、まだその事を理解していなかった。




・・・・・・




魔神は、配下の兵士達に担がれ半ば崩壊した領主の館の一角に残る無傷の部屋へと運ばれベットの上に寝かされていた。


魔神の傷を癒せる人族の魔術師などこの世界には存在しない。


よって魔神は、自らの力で傷を癒し回復せさせる以外に方法は無い。


気が付けば見知らぬ天井が目に入る。


誰もいない部屋の中を仰ぎ見ながら自身の状況を確認していく。


全身の火傷は、そのままだがここに運ばれた際にあの白い粉が取れたのか魔力が僅かだが回復していた。


その僅かな魔力で浄化の魔法を使い体に付着した白い粉を取り除いていく。


すると徐々にだが魔力が戻り魔法の威力がみるみる回復していく。


「そうか、やはりこの白い粉が魔力を奪ったのか」


この様な白い粉の存在を魔神は知らない。


恐らく妖精が作った魔法アイテムか何かなのだろう。


試しにと鑑定魔法で自身の体に付着している白い粉を鑑定してみる。


果たしてどの様な結果が出るのか。


そもそも妖精が作り出した魔法アイテムなら鑑定魔法でも分からないはず。


結果は・・・。


”異世界の小麦粉。料理に最適”。


魔神は、目の前に浮かび上がる鑑定魔法が示した文字を見て思わず開いた口が塞がらなかった。


「・・・こっ、小麦粉だと。私は、小麦粉に魔力を奪われたのか!」


思わず自身の手に力が入る魔神。


無意識に風魔法が発動し部屋の窓が砕けていく。


「小麦粉。なぜ小麦粉などに魔力が奪われ・・・」


魔神は、鑑定魔法が示したある言葉に気がつく。


もう一度鑑定魔法で自身の体に付着している白い粉を鑑定する。


”異世界の小麦粉。料理に最適”。


「異世界・・・。異世界だと!」


そう。魔神が使った鑑定魔法は、妖精が使った小麦粉が異世界から持ち込まれた物である事を鑑定してみせたのだ。


だがそれは、ある意味当然の結果であった。そもそも魔神もこの世界の住人ではない。


別の世界からやって来た存在である。


その魔神が使う鑑定魔法には、この世界のものを鑑定する場合に”異世界”という鑑定結果が出る事はない。


その鑑定魔法が”異世界”という言葉を示したという事は、こことは異なる別の世界から持ち込まれた物。


そして、それは魔神の魔力を奪うという実に厄介な代物である。


「あの妖精は、何処かの世界と繋がる術を見つけたか。そこは、我ら魔神の脅威となる世界という事か」


浄化の魔法で体に付着した白い粉をほぼ取り除き、治癒魔法で全身の火傷の治療を行っていく。


だが妖精が吹きかけた白い粉により奪われた魔力は、なかなか元に戻らない。


魔神の左腕に装備している銀色の腕輪は、未だに白い粉を被り鈍い光を放っている。


魔神が装備しているこの腕輪は、この星の生命力を奪い魔神達の力とするものだ。


それが全く機能していないのだ。


「ここであの妖精と出くわしたら我は負けるか・・・」


そんな言葉を発した魔神は、全身の火傷を癒し終わり回復魔法により体力も元の状態へと戻っていた。


風の魔神は、魔力の枯渇により飛べななくなっていた。だが自身の神殿に戻れば予備の腕輪などいくらでもある。


「さて。あの妖精どもをどうやって料理してやるか」


そう言い放った魔神は、崩壊した領主の屋敷を出ると居並ぶ兵士達を街の警備に残し、自身の領地にある屋敷へと向かった。


魔力の枯渇により空を飛べなくなった風の魔神は、少数の部下と共に用意された馬車に乗り街を後にする。


手の中には、妖精が吹き付けた異世界の小麦粉が入った容器が握られていた。


異世界の小麦粉に魔力を奪われ、粉塵爆発で全身大やけどを負った風の魔神。


でもたかが小麦粉にそんな威力があったのか。書いている作者ですら驚くありさま。


その小麦粉を使った妖精すらも驚いています。



さて、2月初旬の週末にふもとっぱらキャンプ場に行って来ました。


氷点下10度も覚悟していたのですが、行ってみれば春の様な陽気で上着すらなくてもよい程の暖かさでした。


テントを設営して散策から戻って来ると、テント内に置いた温度計は最高温度32度を記録していました。


その後、夜になり氷点下1.7度まで下がりましたが、12月の道志の森で氷点下2.5度を経験しているのでそこまで寒いと感じませんでした。※実際は、寒いんですよ。


次回のキャンプ(現世界Side)は未定です。3月は、花粉のシーズンでもあるので・・・。




◇フェアリーランタン(現世界Side)


現世界Side 1話

 道志の森で魔法ランタンと冬キャンプ

 https://youtu.be/E5koSWCQ7DQ


現世界Side 2話

 道志の森で寒風吹きすさぶ冬キャンプ

 https://youtu.be/rYbmk-ZDriE


現世界Side 3話

 風対策とランタンの灯りで癒される冬のふもとっぱら

 https://youtu.be/ZUM40WsEoJI



◇魔法ランタン

 https://youtu.be/rhFhjx9aPEE


◇フェアりーランタンの世界観を楽しむにはこちらもどうぞ!

 僕の盾は魔人でダンジョンで!

 https://ncode.syosetu.com/n2862ff/


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