001話.呪いの武具
街の裏路地を歩く少年。
背中に大きな鞄を背負い黒いローブを着ていて鞄に小さな魔法ランタンをぶら下げている。
少年の左手には、体躯にはそぐわないほど大きな魔法杖が握られていた。
少年は、裏路地をひとり歩きながら何やらぼそぼそと小声で話しをしている。
稀にすれ違う街の人も何やらぼそぼそと話しながら歩く少年の姿に怪訝が表情を浮かべるが誰も振り向く事もない。
少年は、独り言を話していた訳ではなく鞄にぶら下げた魔法ランタンと話をしていた。
いや、言葉に少し語弊がある。魔法ランタンと話をしてた訳ではなく魔法ランタンに住んでいる妖精と話をしていたのだ。
「この魔法具店がそうなの」
「うん。この店の中から仲間の匂いがする」
魔法ランタンとは、魔石を入れたランタンに魔力を送り込むと魔石が光りだすというもの。
この世界では、街や村には無数の魔法ランタンが置かれ、街や村と契約した魔術師が暗くなると魔法ランタンが置かれた場所を巡り魔法ランタンに明かりを灯していくのだ。
ランタンは、本来ならロウソクや油が入った瓶に布で出来た芯を入れ、そこに火を灯して灯りとするものだ。
魔石を入れた魔法ランタンは、それよりも維持費が安く長い時間でも明かりを灯す事が出来るので殆どの街や村では、ロウソクや油のランタンは殆ど使われていない。
さらに魔法ランタンは、風で消える事もないので余程の事がない限りこの世界でランタンと言えば魔法ランタンの事である。
魔法具店に入るとゆっくりと店の中を巡り棚の商品を見ていく。
店の奥に置いてある椅子に座った老婆がじろりとこちらを見るも言葉を発しない。
そして店の奥のさらに奥に並ぶ棚の前へとやって来た。
その棚には、廃品かと思える様な物がずらりと並んでいる。
「そこにゃ使える物は何もないよ」
店の奥に置いてある椅子に座る老婆からしゃがれた声がかかる。
「どう、ありそう?」
「うん。あれがそう」
ペリエの肩に乗った鍵妖精のキーが指を正面に向ける。
見ると埃をかぶった魔法ランタンが他の魔道具の中に埋もれて並んでいる。
ペリエは、埋もれた魔道具の中からそれを取り出すと、いそいそと店の奥に座る老婆の前へとやって来た。
「おばあさん。この魔法ランタンって使える?」
「ああ、これかい。これは中に刻まれた魔法陣が古くて消えかかってるからね。新品の魔石を入れても光ったりせんよ」
「そう。それでいくら?」
「ふーん。お前さん魔術師かい。体に似合わない随分と大きな杖を持ってるね」
「これ?これは、まあ・・・飾りだよ」
「そうかい。もしかして自分で魔法ランタンを直せるのかい?」
「勉強中なんだ。だから壊れてる魔道具・・・、特に魔法ランタンを探してるんだ」
「そうかい。なら安くしてやるよ。銅貨3枚でいいよ」
ペリエは、財布から銅貨を3枚取り出すと埃まみれの魔法ランタンを持ち魔法具店をあとにする。
裏路地を抜けるとこの街にやって来た時に予約した安宿の3階にある狭い部屋の扉を開けた。
それと同時に埃が舞い視界が白く曇る。
「ケホケホ、この部屋に泊まるなら野営した方がましだよ」
ペリエの肩に乗った鍵妖精のキーが埃を吸い込み咳き込む。
「でも街の中で野営は禁止だって。しかも街の外は、夜になると強い魔獣が出るんだって」
鍵妖精のキーは、口を手で押さえながらみすぼらしいベットの上に自らの羽を動かして飛んでいく。
ペリエは、背負っていた大きな鞄を床に置くと鞄の中から布にくるまれ鞘に収まった剣ふた振りを取り出した。
実は、先ほど立ち寄った魔道具店に行く前。表通りに面した武器屋で売っていた呪い付きの剣を格安で購入したていた。
この世界には、なぜか呪いをかけられた武具や物、或いは人や魔獣が多く存在していた。
さてペリエは、武器屋から格安で買いたたいたふた振りの剣を床に並べると、大きな鞄からいくつかの魔石を取り出し剣の横に並べる。
「この剣の呪いなら・・・この魔石がいいかな」
そう言いながら剣を左手に持ち、魔石を右手に持つ。
本来であれば、呪いのかかった剣を手に持った時点で剣の呪いが発動するのだが、ペリエの持つ呪い無効スキルにより武具や物にかけられた呪いが発動する事はない。
ペリエは、心を落ち着かせると自身が持つスキルを発動させる。
すると呪いがかけられた剣と魔石が淡く光り出し体の中を剣から魔石に向かって光が移動していく。
いくばくかの時が流れ体の中を流れる光が収まる。
そしてもう1本の剣を左手に持ち、右手に別の魔石を持つと先程の様に体の中を光が剣から魔石に向かって流れていく。
そんな時、鍵妖精のキーは何をしているかというと・・・。
ギシギシと軋むベットの上で買ってきた魔法ランタンに向かって鍵を作っていた。
ベットの上に置かれた魔法ランタンの前には、いつの間にか大きな魔法陣が現れその魔法陣の前で鍵妖精のキーが魔法陣を解析しながら合鍵を作っている。
「うーん。この魔法陣は難しいよ。でも僕なら出来る。きっと出来る。僕は、やればできる子」
そんな事をブツブツと言いながら起用に合鍵を作っていく。
鍵妖精は、物理鍵、魔法鍵、魔法陣を開く特殊な鍵を専門に作れる数少ない妖精である。
鍵妖精に言わせるとこの世界で開けられない鍵はないそうだ。
そして鍵妖精は、キラキラと光る透明な鍵をいくつか作りそれを魔法陣の鍵穴へと差し込んでいく。
すると徐々に魔法陣に描かれた文字が赤色から青色へと変化していく。
「僕は、やれば出来る子。やれば出来る子・・・出来た」
魔法ランタンの前に現れた魔法陣は、殆どの文字の色が青色へと変わった。残るは中央に描かれた数文字が赤色に光っているだけである。
「魔法陣の鍵は、開けられそう?」
「残りは、最後のひとつだけ。でも、これを開けると呪いが発動するからね」
「それは、僕の仕事だね」
今度は、ペリエがギシギシと軋むベットの上に座ると魔法ランタンを左手に持ち、魔石を右手に持つ。
ただ、さっきまで剣の呪いを魔石に移した時に使っていた魔石とは、あきらかに大きさが異なる。
先ほどの魔石よりも何倍も大きな魔石を右手に持ったペリエは、顔をしかめながら自らのスキルを発動する。
「う・・・ん。この呪いは、強力だね。数回に分けて魔石に移動さないと無理かも」
ペリエは、その日のうちに魔法ランタンにかけられた呪いを魔石に移す事を諦め、数日をかけて作業を行う事にした。
ペリエには、ふたつのスキルがある。
ひとつは、呪いがかけられた武具や物を持っても呪いが発動しないというスキル。さらにこのスキルは、魔術師が魔法で呪いをかけようとしても発動しない便利スキルである。
もうひとつは、武具や物や人にかけられた呪いを魔石に移す事が出来るスキルだ。
これは、あくまで呪いを魔石に移す事が出来るのあり解呪が出来る訳ではない。
ただし、この能力には利点がある。それは、魔石に移した呪いをいつでも発動できる事だ。
ペリエは、魔力は十分にあるが攻撃魔法も防御魔法も殆ど使えない。
使えるのは、呪いが自身には発動しないという事。それと呪いを魔石に移しそれをいつでも発動できるというふたつのスキルだけだ。
だが、14才という若さにもかかわらずこのふたつのスキルで街から街へと旅をしながら、金を稼ぎ生きていく事が出来た。
ある時は、魔獣に襲われ。ある時は、盗賊に襲われもした。だが呪いを貯た魔石があるおかげで危ない場面に何度も遭遇はしたものの、命を繋ぎながらこうやって生きて来られた。
埃が舞う狭い部屋の中でペリエと鍵妖精のキーは、街で買ったパンと串焼きの肉を食べながら今後の旅について言い合う。
鍵妖精にキーが指差す方向に目的地とする精霊の神殿がある。そこに封印されているはずの精霊の封印を開放するのだ。
そしてその精霊の神殿に向かう途中に魔法ランタンに封印された妖精を探し解放するのがこの旅の目的である。
この世界は、数百年前に突然現れた魔神達により支配された。各地に点在した人族の王国は魔神達に屈し魔神が支配する世界が生まれた。
人族の王国は、魔人達の手足となり魔神の言いなりとなり戦争に明け暮れた。それにより人も土地も疲弊し暗闇の様な世界が続いていた。
そんな魔神達と戦ったのが精霊であり妖精達であった。だが、魔神の力に及ばず武具や道具に封印された精霊と妖精は、この世界から姿を消していった。
そんな世界でひっそりと生きていた鍵妖精。彼は、攻撃魔法も防御魔法も使えない。
出来る事は、ただひとつ鍵を開け鍵を閉める事だけ。
だが、それが功を奏した。魔人は、無力な鍵妖精を封印する事もなく放置したのだ。
鍵妖精のキーは、いつか自身と共に再び精霊と仲間の妖精を封印から解き放ってくれる仲間を見つけ、再びこの世界から魔神を追い出すと決心した。
それから数百年ののち鍵妖精の前に現れたペリエという人族の少年。
鍵妖精は、なぜかそのペリエという人族の少年に引かれ共に旅をする事にした。それが正解だったのか失敗だったのかは分からない。だがペリエと出会った時に止まっていた時が動き出した様な気がしたのだ。
埃の舞う狭い部屋で朝を迎えたペリエと鍵妖精のキーは、呪いから解放されたふた振りの剣を持ち武器屋へと向かう。
武器屋の扉を開けカウンターに向かうと昨日買ったふた振りの剣をカウンターに置く。
店のカウンターの中では、店の店主が怪訝そうな顔でこちらを睨んでいる。
「おじさん。この剣を売りたいから査定してください」
店主は、カウンターに置かれたふた振りの剣を見て、この客が昨日買っていった剣である事をすぐに理解した。
「お客さん。昨日言ったでしょう。返品は困るって。呪いをかけられた剣なんだから安く売ったんだよ」
「分かってます。だからこの剣には、呪いはかかってません。いくらで買い取れますか」
店主は、目の前に立つ客の言葉を疑いながらカウンターに置かれた剣を自らの鑑定魔法により査定を始めた。
「ほっ、本当だ。呪いがかかっていない。いったいどうやって呪いを解いたんだ。まさか解呪が出来るのか!」
店主は、口からつばを飛ばしながら興奮気味に話す。
「まさか。解呪なんて出来ませんよ。でも呪いはもうかかってません」
「分かった。鑑定をするから待ってくれ」
店主は、そう言ってふた振りの剣を持って店の奥に行こうとする。
「おじさん。剣をすり替えたりされると困るから目の前で鑑定してよ」
その言葉を耳にした店主は、頬をキッと上に釣り上げ嫌な顔をした。
「俺が客からあずかった武具をすり替えるって言うのか」
「商売は、店と客の信頼が全てでしょ。だったら疑われる様な事をしないのが一番でしょ」
店主は、ペリエの最もな言葉に嫌な顔をしながらカウンターに剣を置き、そこで鑑定魔法を発動させる。
しばらくすると店主は、ペリエの前に5枚の金貨を積み上げた。
「ほら、これで文句は無いはずだ」
カウンターに置かれた金貨5枚。14才の子供が手にするには多すぎる金額である。
だがペリエは、納得しない。カウンターに置かれた剣は、ふた振りで金貨10枚以上で買い取ってもらえる代物である事を知っているのだ。
「おじさん。これじゃ相場の半分だよ。安く買い取る気ならその剣を返してもらうよ」
だが武器屋の店主は、カウンターに置かれた剣から手をどかさない。
「悪いがこつを返す気はない。この剣は、もともと俺の物だ。昨日、お前が安く買いたたいた剣は、これじゃねえんだよ」
店主は、呪いが解かれた剣を見て思わず欲が出てしまった。しかも客は、子供だ。大人が力ずくで出ればどうにでも出来ると考えたのだ。
「ふ~ん。わかった」
ペリエは、そう言うと小さな魔石を懐から取り出すと店主の前で魔石を発動させる。
「魔石?魔石で何を・・・」
武器屋の店主は、言葉を途中まで言った途端目の前が突然暗くなり立っている事が出来なくなりカウンターの中で倒れた。
「おじさん。欲を出しちゃダメだよ。商売は、信頼が一番なんだからさ」
ペリエは、そう言い残すとカウンターに置かれたふた振りの剣を布で包みそれを抱えて店を出ていく。
人通りの多い道を歩きながらペリエの肩に乗る鍵妖精のキーが話しかけてきた。
「やっぱり思った通りになったね」
「でも、なんで毎回こうなるんだろうね」
「もしかしてペリエが呪いを解いた武具って欲が出る別の呪いがかかるのかな」
「えー、それは勘弁して欲しいよ」
「追手・・・来るかな?」
「多分来ると思うよ」
「いつもそうだよね」
「だったら早く街を出て準備をしようか」
「それがいいよ。昨日の安宿の部屋。埃が凄いから戻りたくないよ」
ペリエと鍵妖精は、食料をささっと買い込むと街の門をあとにした。
そして武器屋の店主はというと・・・。
「お前ら、あのガキを捕まえてこい。剣さえ回収できれば殺してかまわん」
「お頭。いくら金が出来たからって街で武器屋を始めても、その態度は盗賊の頭のままでずぜ」
「うるせえ。こうやって俺が武器屋をやって稼ぐからお前らを養っていられるんだろ。文句を言わずにさっさと行ってこい!」
「「「へい」」」
武器屋の店主を盗賊の頭と呼んだ3人の若い男達が門をくぐったのは、ペリエが街を出て間もなくであった。
さてペリエと鍵妖精のキーは、無事に盗賊・・・いや武器屋の追手から逃げる事が出来るでしょうか。
純粋どくだみ茶です。新しいお話を書き始めました。とりあえずのんびりスタートします。
前作の「僕の盾は魔人でダンジョンで!」は、週2話投稿でしたが週末の2日間がお話を書く事でつぶれてしまうので、かなり疲弊しました。
なのでこのお話に関しては、基本週1話で進めていく予定です。
それとちょっと変わった事をしようと思います。
この世界のお話は、ふたつに分かれます。この異世界のお話を「異世界Side」として「小説家になろう」で展開します。
現世界のお話を「現世界Side」として「YouTube」の動画投稿で展開します。
現世界のお話「現世界Side」は、少しだけなので読まなくてもお話を楽しめますが、読んでいただけると世界観がより楽しめると思います。
※先生、動画って見るものですよね。動画で読むって何ですか?
写真の魔法ランタンですが動画をYouTubeにUPしてあります。作る事も出来ますので興味のある方は、見てみてください。
◇フェアリーランタン(現世界Side)
道志の森で魔法ランタンと冬キャンプ
https://youtu.be/E5koSWCQ7DQ
◇魔法ランタン
https://youtu.be/rhFhjx9aPEE
◇フェアりーランタンの世界観を楽しむにはこちらもどうぞ!
僕の盾は魔人でダンジョンで!
https://ncode.syosetu.com/n2862ff/