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亡者と喪失者のセグメンツ  作者: けやき
2章
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37話 精神の侵略者

リエルならば、ほぼ同等の世界を複製する。だがこれはアネッテ手落ちではなく、侵食を恐れた彼女が意図的に大きく劣化した世界を複製したのだろうと推測する。思考領域を多少拡張する程度ならばまだしも、複製を幾度も繰り返すレベルでの倍々の加算に恐れを成し安全マージンを取る…………それを誰が責められよう。


一つ手落ちがあるとするならば、複製世界のコピー・配置先だろうか。生みの親であるオリジナルの世界から分裂するように……要は、包囲するように配置されてしまっている。


(ほぼほぼ初めての試みならしゃーねーか。どれ……敵はどんなもんだ?)


リンプファーが荒野をしげしげと観察し出したと同時、泡立つ……と表現するべきなのだろうか。兎に角、地面にボコボコと半径1m程の黒い気泡が立つ。


(おお。おお。おお。中々だ。数万は行くな)


気泡の数は目視の概算で四万といったところか。その内の幾つかがが「ボコン!」と弾けると、中にはツルリとしたフォルムの人形が蹲っていた。


連鎖するように、他の気泡も弾け出す。


(“空間術式”を起動する)


行儀良く人形の起動などを待つリンプファーではない。視界内に存在する全ての人形に対して空間を強引に割り込ませ、四万の群勢を瞬時に斬圧殺した。


ザンッッ!!!!


辺りが静寂に包まれるが、しかしこれは一瞬の事。敵の侵攻は精神世界そのものを滅しでもしなければ途切れる事は無いのだから。


(ふん。雑魚が──って、んんん?)


しかし、妙な手応えにリンプファーは首を傾げる。


(何だ? 僅かに「空間の割り込ませ」に抵抗感が──…ああ、コイツはアネッテの劣化コピーだったか。てこたぁ“術式”を僅かに所有してる扱いってわけだ。いや、にしても、コイツら、どっかで見たことあるような気がすんな?)


術式保有者に対し、直接“術式”で干渉することは出来ない。ハシロパスカの()大使であるダーマなどは“精神術式”による攻撃を受けていたが、もし彼が何かしらの“術式”を保有していたのならば、まるで痛痒を感じる事はなかっただろう。


(お? 魔術のために計算領域を貸して欲しいんか。おっけーおっけー。ただ、これも本気になりゃ自力でなんとか出来るんだがな。まだそこまでは厳しいか)


アネッテの視界を画面に抽出してみれば、今まさに障壁が断末の悲鳴を上げんとするところであった。


「障壁は保ってあと数瞬だ。重ね掛けすんならまだ間に合うぞ」


…………!!


どうやら大丈夫であるらしいが、活は入れておくことにした。


「来るぞ!!!」


…………酩酊したリョウの一件で学習したリンプファーは、視界をそのまま同期する手法はもう二度と、金輪際使うつもりは無い。酩酊したことが無いリンプファーにとっては初の経験だったのだが、泥酔した酔っ払いの見ている世界が、まさかあれほど気分が悪くなるものだとは思わなかったのだ。


(今までの世界でも、あそこまで兄弟が酔った事なんて無い──…ああ? 「俺も」酔ったことが無い? そうか。思い返してみりゃ、確かにそうだな。俺も人間だった頃に酒くらい飲んでたと思うが……)


リンプファーの立つ肥沃な大地にも「ボコン!」と大きな泡が立つ。


(ふん。機械知性は相も変わらず昇華してやがんのか。アイツ等に勝てんのかね?)


ボコン! ボコン!!!


(──っと! ンなこたぁ良い。護り手か? 随分と登場が遅えな)


今度は敵ではなく、侵略者から自身を守るために生み出された防衛機構である。同じく四万にも及ぶ目覚めた人形達は辺りをキョロキョロと見回すと、一目散にオリジナルアネッテの精神世界へと向かって行った。


(まあ、精神世界の全方位から敵は湧いてくる訳だしな。敵の居ねえ所で油売ってる余裕は無えか)


恐らくは正反対側の戦端へ助力に向かったのだろう。


(そうか。コイツ等、俺に似てんのか)


それにしても、味方の人形が皆一様にリエルに似た雰囲気なのは何なのだろうか。そう考えれば、敵の人形は何処と無くリョウに……即ちリンプファーに似ている気がする。


(うーわ。胸糞悪。このクソアマ……)


しかし、アネッテを責めるのはお門違いと言うものだろう。敵を生み出しているのは、あくまでアネッテに似た何かであってアネッテ本人ではないのだ。


(いや、それも違うか? どこまでオリジナルアネッテの思考に準拠してんのかも分かんねえし。その内、オリジナルに限りなく近い複製世界を作れるようにでもなった頃に確認してやろうか。それでも敵が俺なら、修行がてらに叩きのめしてやる)


ボコンッ!


荒地が再び泡立ち、その奥からは数億の群勢が此方を目指して進軍する。


(“空間術式”を起動する。A3-5から全武器を取得)


以前の戦いでも使用した「赦焔の剣」を始めとした多種多様な武具がリンプファーの周囲に展開される。


(たまには使ってやらねえと、錆びちまうからなぁっ!!!)


ボキュッ!!


剣の一つを掴み投げると、大気を切り裂き冗談のような音が奏でられる。投擲された剣は見事に敵の一体に突き刺さると、それすらも食い千切り、別の侵略者へと突き刺さった。


(オマケでもう二十発!!)


ボキュキュキュキュ!!!


追加の二十発で四十体の敵を裂き破ると、リンプファーは利き腕を高く掲げた。


(どうせ失敗作だし、やっぱここで使い潰すか。回収も面倒だ)


通算で数万年間継続している魔武具製造だが、成功と失敗が何に依って決定付けられているのかは未だに判然としない。分かっているのは、ある一定ライン以上の破壊力、または性能を目指すと成功率が激減し、目標値に届かぬ粗悪品が出来上がるということだけ。


因みにクアン・ジージーの使う『ヘカトンⅣ』もリンプファーの落とし子。その中でも傑作品なのだが、この「Ⅳ」は四挺目という意味ではなく、凡そ四万挺目にして漸くの成功品という意味である。


それを世界を巻き戻す際に回収し、子々孫々と使い続けている。


──閑話休題。リンプファーは掲げた手を、強く握り込んだ。


ッドォォォォォォン!!!


視界全てが紅蓮に染まる。


(おおぉー……それなりに良い火力だ)


探知で確認するまでも無い。敵戦力の生存は絶望的だろう。


(しっかし、あくまでも『それなり』だ。数十本を全力出させて使い潰してもこの程度。あの傑作(・・・・)なら、何の気なく一振りでこの火力だったんだがなぁ……今思えば、アーク辺りに回収されちまったのかね?)


嘗て運命値調整の為に街一つ滅ぼす際、奴隷の少年に一振りの剣が下賜された。“術式”の譲渡にまで成功した傑作品だったそれは、少年の死と共に何処かに消え去った。


(ったく、わらわら湧いて来んな……『舞い荒ぶモノ』)


アネッテの助力をしながらにも関わらず、片手間で軽々と放たれる最上位呪文。前方粗方を消し飛ばし、再びリンプファーは思考の海へ潜る。


(今までの世界なら回収出来てたんだがなぁ。今までと今回の差は…………色々有るが、結局はアークか。やっぱアイツがコソドロ決定かね)


“空間術式”を使い、各ポイントに機雷を設置する。先程のように投げても問題は無いのだが、余りに歯応えの無さすぎる侵略者に対してはそれすらも面倒になりつつあった。

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