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亡者と喪失者のセグメンツ  作者: けやき
2章
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33話 ティーダ

「うん。分かったからさ、さっさと支給型倉庫拾って服着て、その粗末なモノ仕舞おうか」

「「……ウス」」


血溜まりに沈んでいた支給型倉庫を広い上げた二人は、いそいそと軍服を身に付ける。


「吸血鬼の特殊個体だと話に聞いてはいたが、思った以上に気味が悪い」

「んー? そっちの精霊王も大概だと思うよ」

《それな》

「………………」


精霊王は興味深そうに髭を撫でる。


「差別かコラ。つーかジュニア、隊長達が言ってた黒衣って、アイツ等のことじゃね? さっさと殺そうぜ」

「バカかよティーダ。先ずは姐さんに確認。そっから隊長に報告だろ?」

「うん。実際、敵ではあるんだけどね。あとクアン──っいうか本国には連絡しないで」


(なんか、お互いに毒気抜かれちゃったけど)

《構うな。コイツらをロボ(機械知性)共の肉壁にでもしながら数手打ち合って実力を把握しろ。んで可能ならブッ殺せ。それとな、精霊術士だからって“精神術式”に拘んな。確かに規模こそ規格外だが、所詮精霊は精霊・精霊術士は精霊術士だ。根本的な弱点は変わらねえよ。………………多分な》


リンプファーの助言により、思考がクリアになる。術者本人を潰してしまえば、如何な精霊とて無力ということだろう。精霊王はどう対処するのか疑問ではあるが。


(そこは言い切って欲しかったけど、分かった)


アネッテが強く一歩を踏み込む。


「『銀濤』」

「「『身体強化グァルプツ・インダァツ』」」


弛緩した態度の二人だったが、そこは腐っても歴戦の強者である。顔付きは豹変し、アネッテの標的が「男」であると瞬時に見抜いたティーダ及びジュニアの両名は、アイコンタクトを交わした後にスキルを纏い、クレセントへの突撃を決行した。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


アイコンタクトで交わした内容は三つ。


①アネッテの狙いは黒衣の男と老人である。ならば、我々は女二人をそれぞれで受け持たなくてはならない。それぞれの立ち位置から近い方の相手をする。

②先程の大規模な破壊が敵によるものかアネッテによるものかは定かでは無いが、どちらにせよ巻き込まれ・巻き込み防止のためにも乱戦は避けるべきだ。可能な限り距離を取り、アネッテの動きを極力阻害しないよう努める。

③救援を要請するなとの命令の意図は不明だが、最悪の場合は違反も視野に入れて行動する。クアンの悲願のためにも、彼女にこんな場所で死なれる訳にはいかない。……つーかこれ、こんだけ大規模な爆炎ブチ上げてんなら、救援要請関係無しに誰かしら来んじゃねえのか??


ティーダとジュニアはアネッテに一歩遅れ駆け出すと同時、支給型倉庫から召喚付与式自動小銃を取り出し900発/分の猛威をクレセントへ向けて叩き込む。


ガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!


のだが──


ガギギギギギギギギギギィッ!!!


敵の黒衣には穴が穿たれ、召喚された弾丸が砕け散る様が見て取れた。


「「はあ?」」


正確無比な減衰かとも思うが、減衰が成功したならば衝突時の反作用も発生しない。即ち、弾丸が砕け散るなど有り得ない。


さらに言えばスキルや防御術による障壁の類は、立ち止まらなければ意味を成さない。つまり、純粋な体表硬度のみで召喚付与式自動小銃を凌ぎ切ったということになる。


「「はああああ!?」」


クレセントの体表に叩き込まれた弾丸が、甲高い音を立てて跳弾するのを見た両名は、素っ頓狂な声を上げた。


無論、この程度の攻撃でどうこうできる手合いだなどと思ってはいない。あくまで「お前の相手は俺だ」との意思表明。ヘイトを向けるためだけの、牽制ですら無い攻撃である。しかし、クアンやクトゥローを始めとした情報源から「黒衣の敵には召喚付与式自動小銃が不発になることがある」との報告は受けていたが、まさか減衰するでもなく生身で全弾弾かれるなどとは夢にも思っていなかった。


「ティーダ! こいつ機械知性(マネキン)だ! 真人間じゃねえ!!」


大戦の甚大な被害から機械知性を危険視するカシュナの命により、未起動破壊済みに関わらず全ての機体は回収対象とされている。


「すげぇ!! コイツマジで動くのかよ!!! 初めて見たなオイ!!!」


動かないことから「マネキン」とも揶揄されるクレセントだが……


「うおっ、早──」

「術式アプリケーションに接続します」


ドォッ!!


ティーダの真横に飛び込んだクレセントが痛烈な打撃を放つ。


「──っとぉ危ねぇ!!」


間一髪。回避こそ間に合いはしなかったが、打撃と同方向へ体を捌くことで威力そのものを軽減。かつ戦歴に裏付けられた見事な減衰により、ここは痛痒を感じること無く凌ぎ切った。


(予備動作も魔力圧も何も無ぇのかよ! マジで機械だな!!)


通常、上位の魔術士同士の肉弾戦では予備動作が重要視される。


足裏から衝撃波を放ち、音速に近しい速度で一足飛びに距離を詰める……そのような巫山戯た歩法をする連中を、一々目で追ってはいられない。ある種の必須技能なのだ。


閑話休題。


敵の速度は予想外だったが、なんとか反応出来るレベル。反応さえ出来れば減衰は容易い。


『ティーダ!! 死んだかぁ!?』

「あ゛―……当方、損耗無しぃー……ドォゾォー……」


ジュニアからの『通信(テレフォノ)』に気怠げに応じる。


『おっ! こっちも動きそうだから切っから!!』

「おーう」


(さぁて! 今ので良い感じに距離も取れたな。遠慮無くぶっ壊すか!!)


戦意に満ちるティーダが一歩を踏み出す。


(機械ってこたぁ、電気ブチ込めば黙るじゃねぇか。ヨユーだろヨユー)


ここから反撃が始まる。


がくっ


「ああ?」


足に力を入れたつもりが、踏ん張りが効かずに地面に膝を付いた。


「………………ンだよ。こりゃあ」


先程攻撃された脇腹付近の肉が大きく消滅し、何故か患部付近の血や肉は痛みも無く凍りついている。


(凍らせて砕きやがった!? いや、確かに減衰に成功した感触はあったんだが…………にしても、魔力も使って無ぇっつーのに、いつ、どうやった!? 液体酸素────違う。窒素────いや、違う!! ンな物質だ!?)


ティーダは召喚術にも精通した猛者であり、当然ながら水系統の召喚術…………即ち化学物質系統の効果・対処法に明るい。それでも痛覚・音を含めた一切の感覚を敵に与えず、即座に肉体を凍りつかせ破壊する化学物質など想像すらつかない。


「チッ」


油断。多少の傷ならば瞬時に治癒するこの体に慣れ過ぎた。入隊直後の自分であれば回避出来た筈である。さらに言えば反撃すらも出来たかも知れない現実に苛つきを覚える。


人体とは摩訶不思議なもので、傷が有ると認識をした途端に鈍い痛みがティーダを襲う。『身体強化グァルプツ・インダァツ』には痛覚を鈍化させる効果も含まれてはいるのだが、今回はあまりに傷が深く大き過ぎる。スキルによってカバーできる範囲を逸脱していた。


治癒術にそこまで高い適正の無いティーダは仕方が無いとばかりに患部に意識を集中し、自己治癒力を高める。化け物であるこの身ならば、数秒もあれば完治する。


ドォンッ!!


クレセントが膝を付いたティーダに攻撃を加えんと駆け出した。


「『礫柱』!!!」


基本色数三百の『礫柱』。柱状の岩石を召喚し質量攻撃に用いる魔術だが、今回の狙いは攻撃ではない。


召喚術で気体以外の物質を召び出す際、召喚物の出現座標に気体以外の物体が存在した場合、障害物を空間ごと押し退ける形で召喚される。異世界の物質を現世に召び出す際の、単なる世界の免疫・辻褄合わせであるが故にダメージは無いものの、距離……即ち時間を稼ぐことは出来る。

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