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亡者と喪失者のセグメンツ  作者: けやき
2章
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31話 さらに無数の精霊が集まる

「一の魔力を充填し招来。精霊はここに」


さらに無数の精霊が集まる。


減衰も可能ではあるのだろうが、“精神術式”すら振り切って行動する精霊の魔法など、どんな仕掛けがあるのか分かったものでは無い。リンプファーの指示通り、ここは回避に徹する事とする。


「一の魔力を充填し招来。精霊はここに」


さらに無数の精霊が集まる。


素材不明の針がアネッテの影を撃ち抜く。


「一の魔力を充填し招来。精霊はここに」


さらに無数の精霊が集まる。


吐き出される溶岩の飛沫がアネッテの軍服を掠める。


「一の魔力を充填し招来。精霊はここに」


さらに無数の精霊が集まる。


体捌きでは回避不可能な音響攻撃に対し、防御術で以て対応する。


「一の魔力を充填し招来。精霊はここに」


さらに無数の精霊が集まる。さらに無数の精霊が集まる。さらに無数の精霊が集まる。さらに無数の精霊が集まる。さらに無数の精霊が集まる。さらに無数の精霊が集まる。さらに無数の精霊が集まる。さらに無数の精霊が集まる。さらに無数の精霊が集まる。さらに無数の精霊が集まる!!!!!


「────!!!」


近付けない!!!


ビットの如き、複数の死角からによる致命の連撃。他の魔術士達と比べ、精霊魔法士の唯一にして最大のアドバンテージがここにあった。敵が精霊魔法士と見るや“精神術式”のゴリ押しで力任せに突破してきたアネッテにとって、これは初めての経験である。


イルミネーションのような精霊の煌めきに囲まれながらも辛うじて回避を続ける。


天空の瞳(ヴァラキン・ヴェギ)』によって補足出来てはいたものの、最早敵の姿を直接目視で確認する事は叶わない。それ程までにアネッテは光の奔流に包囲されていた。


《回避しろとは言ったけどよ…………まぁ良いか。兎にも角にも隙が無ぇな。ジリ貧だし、やっぱゴリ押しで術者本人狙ってみっか》

(分かった。先ずは牽制、その後で本命?)

《おお。いいぞ。分かってんじゃねぇか》

(リンプファー。大きいの撃つから警戒もお願い)

《応よ》


息を吸い、そして吐く。


「『蠢光』!!!」

「一の魔力を充填し招来。精霊はここに」


基本色数一千万『蠢光』は、莫大な複数の電撃による魔術である。


ガォォォンッ!!!


莫大な熱量の伝播により空気が一瞬の内に膨張し、閃光と轟音……それに伴って衝撃波が響き渡る。


(さっきも一千万の基本色数で無傷だったし、牽制ならこんなもんでしょ。次は最上位使っても良いかな?)

《おう。つってもなー。多分効かねえだろうけどなー》


基本色数とは言うものの、雷に属する召喚魔術はスキルや精霊魔法を織り混ぜなければ威力が大きく減ずる上、大きな危険を伴う。


召喚物をある程度操作可能である点は魔術のアドバンテージの一つではあるのだが、いかんせん電撃の進行方向は始点から見た電位差に大きく左右される。これを風系統の召喚術・スキル・精霊魔法で空気ごと調節しなければ、あらぬ方向へと牙を剥いてしまう。


周囲の味方に直撃する・敵に直撃した際の側撃雷が、これまた味方に着弾する等と言ったものはまだ可愛いもので、何の手立ても無く放てば、ほぼ必ず術者本人に落雷する。


距離の離れた相手に、安全かつ確実に直撃させるのは難しいのだ。


……もっとも、瞬間的に発せられる高い熱量と、それに伴う空気の膨張による衝撃波と閃光には一定以上の効果が期待できるため、暴発したとしても決して無駄にはならないのだが。


因みに、魔術士は大規模な魔術を放つ際には自身を余波から守る為の魔武具を用いるのが一般的だ。それ無しに大規模な魔術を放てるのは一部の補佐官か魔導士をはじめとした選ばれし者、又はそもそも自身の生存を度外視したテロリスト(自殺志願者)やクアン・ジージーを始めとした特殊個体程度のものである。


《正解だ。デカすぎるし思考放棄なきらいはあるが…………ま、それが一番手っ取り早いし確実だろうよ》


運転手は律儀にも『天空の瞳(ヴァラキン・ヴェギ)』の探査範囲外にまで逃げている。魔導士の命令・戦闘とは言え過剰ではないかとも思うが、これで巻き込まれて死亡……などということは無いだろう。


リンプファーによる亜高速詠唱とアネッテの複数精神同時並列詠唱により、準備は万事整った。


“代償術式”により、ほぼ全ての魔術を使用する際の魔力消費(代償)はゼロとなる。


息を吸い、そして吐く。


これから放たれるのは最高峰の座の一つ。途方も無い基本色数の魔術と同時発動されるスキル・精霊・神聖魔法の量は、最早数えようとする者の心を圧し折るほど。十把一絡げの魔術士程度では一生詠唱を続けられたとしても発動には至らない極地。ましてや心中詠唱など以ての外。身を守る手段は大きく限られ、破壊半径内に存在する物体は、全てが等しく瞬時に王命の如く蹂躙される。


「防御を願い奉る」


何かを察知したのか、男の何者かに対する囁きが聞こえた。


この魔術の射程・及び対象範囲は最上位の呪文の中でも最小であり、前者である射程は十m、後者の効果範囲に至っては僅か半径五mに留まる。


彼我の差は優に三十m。距離もそうだが、先の攻撃を受け切った力量ならば大した損耗も無く防がれるであろう距離。しかし……


「『刻み耽るモノ』!!!」

「貴様──」


宣言から遅れること数瞬。アネッテから十m先の空間が歪に捩れ、括れ──


「──この異常者が………王よ。防御術を!」


防御術を用いた障壁を展開後、後ろに大きく飛び距離を取ろうとするが、遅い。


魔術は既に発動している。


「ふわり」と、指定した地点に、乳白色に輝く美しい粉末が舞い踊った。


太陽の光を反射し煌めくそれは、ダイヤモンドダストの如く妖艶に揺めき、相対する二人の視界を彩る。


「!?!?」


大きくバックステップを踏みこんでいた男が怪訝な表情を浮かべるのを『天空の瞳(ヴァラキン・ヴェギ)』で確認したアネッテはほくそ笑む。


呪文による効果こそ聞き及んでいたようだが、その過程までは知らなかったらしい。


白く煌めくそれらは結合因子。


数多の球体(世界)の内でも僅かに一つの世界、さらにその世界に内包される一つの惑星にのみ存在する、凶悪な特異点物質である。


その恐るべき性質は「召喚範囲である粉塵周辺の物質が、強制的に極小単位(・・・・)から強制融合される」というもの。


その瞬間、リンプファーの探知が懐かしい三つの姿を捉える。


《あー成程。そういうカラクリだったか》


因子により連鎖的に引き起こされる融合。その圧倒的なエネルギーはアスファルトも茂みを形成する動植物も貴賎無く、瞬時に炭化させ大地ごと消し飛ばす。そしてそれは同時に強大な爆風をも生み出し……


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


………………

…………

……


ケルベムによって椀型に隔離されているキィトス(壁内)でさえ観測されたその爆発による振動に対し、とある魔導士達が暗部を放って調査をさせたりもしたが、それはまた別の話である。


延々と立ち昇り続けるキノコ雲。上昇気流により巻き上げられた茶色の粉塵が立ち昇る様は、キノコというよりも、表皮が妖しく蠢く一本の巨大な樹木を彷彿とさせた。


爆心地が地表であるためか、雲の根本がやや太いだろうか。未だ灼熱を孕んだ突風が吹き荒れる中、土埃を払いつつアネッテが内心で呟いた。


(死んだかな)

《油断すんな。さっさと探知使え。つーか、アレか。振動キィトスに届いちまったかこりゃ》


粉塵が舞うこの状況では、視界を広げる探査は役に立たない。


「『感受する(ナヴァリツ)』」

《な? 居るだろ?》


答えを既に得ていたリンプファーが、おどけるように呟く。

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