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亡者と喪失者のセグメンツ  作者: けやき
2章
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13話 銀濤

「まぁ〜たこの景色かよ。芸が無えぞ……う゛ぇっ、ぐぅ……」

「天井の骨組みとか人工芝の感触とか、微妙に違くねえか? さっき作り直したばっかだし」


先程リンプファーが放った魔術によって、以前の建物は消滅している。


「分かるかよンなもん……」


またまたドームで目を覚ましたリョウ。傍らにはリンプファーが座り込んでいる。数時間置きにこの場所・この光景に来させられるのかと思うと、やや辟易する。


「つうか、最高に気分が悪りぃ。前世で主任に日本酒とワインと泡盛とビールとカクテル飲まされておもっくそゲロ吐きそうになった帰り道ん時並に……うぷうぉっ──……気持ち悪りぃ……」


余談だが、筆者の実体験である。


「……兎に角無事で良かった。原因は排除してっから、その気分の悪さも直ぐに綺麗さっぱり消される筈だ」

「おーぅ……そうか…………言われてみりゃあ確かに……いや、そんなことより、なんか、アレだ。情けねえトコ見しちまったな。俺……」

「すまん。謝るのはこっちだ。まさかここまで重い症状が出るとは想定してなかった。今までンなこと無かった──ワケでも無えけど、ここまで酷くなることは無かったんだが」

「おーぅ……」

「マジで大丈夫かよ兄弟……つーか、大分記憶戻ってきてんな?」

「こっちの世界の記憶はぼんやり。前世のは大体。自殺した流れっつーか原因だけはイマイチ分かんねえけど」

「…………そうか」

「そうだ」


リンプファーのが溢すように囁いた台詞に対し、リョウは戯けて返答した。


「で? 何モンだよアレ。めっちゃ殺されてたぞ。俺」

「…………………………この世界を崩壊させる奴だ」

「世界を救うのが俺の仕事だったな? 記憶が中途半端のぐちゃぐちゃに戻ってやがるから、今の俺が聞いたかも良く覚えて無えけど」

「…………」

「…………何だよ辛気臭え。ささっとソイツの前情報渡すだけだろ」

「言ってどうする?」

「俺には知る権利も無えってか?」

「…………悪い」

「チッ」

「…………悪い」


「知る権利」だのと御託を並べてはいるが、その実は単なる恐怖心から来る八つ当たりである。幾千幾万幾億幾兆の死のイメージから来る恐怖・その元凶を乗り越えるだけではなく打倒しなければならないという重圧は、リョウに強い心理的なプレッシャーを与えていた。


「じゃあ、少し身体を動かすか」

「焦るなよ兄弟。予定通りなら時間はまだ──」

「焦ってんのはお前だろ? リンプファー」

「──っ!!」


そう、敵が今まで通りだったのならばまだまだ時間的猶予があった。しかし今回はアークという特大のイレギュラーが居る。いくらリンプファーが運命値を望む値に推移させようとしたところで、世界の意思だと嘯くアークはそのまた上を行く。リンプファーの言う「予定」など、とっくの昔に崩壊していた。


「お前、記憶が……?」

「いや、具体的なアレコレは思い出して無えって。ただ、なんだ。不本意ながらお前の反応だとかで、大体の状況は察知出来るようにはなった。……長い付き合いだからな」

「そうか……」


リンプファーは安堵した。ここで諸々を思い出されてしまっては、全てがご破産である。


そして少し。少しだけ、心が躍った。


「よっと……」


リョウは多少ふらつきながらも立ち上がり、リンプファーを見下ろす。


「ここだと時間の流れが違うんだろ? 具体的にはどれぐらい差があんだ?」

「五倍から五十倍までバラつきがある。今はだいたい二十倍ってトコか」

「二十倍か……」

「兄弟が意識を失ってから、あっちでは未だ十分程度だ」

「んー……」


つまりリョウは三時間程度、この場で昏倒していたことになる。


「休憩挟みつつ、二時間くらいやっとくか?」

「『少し』じゃねえのかよ兄弟」

「気分も良くなってきたし、それくらいなら問題無えよ。つーか、この感覚を忘れる前にモノにしときたい」

「感覚? ああ、そうか。瞬殺とは言え、蓄積された戦いの記憶の一部が還元されたってことは……」

「おう。今なら──……そうだな。少なくとも一歩進もうとして二十歩分吹っ飛ぶようなことにはならねえと思う」


今まで蓄積した経験を元に強くなる。これぞまさしく、リンプファーが目指しながらも成し得なかった──いや、否。厳密に言えば、この水準の継承ならば各ループ毎に達成している。成し得なかったのは素晴らしきこの速度だ。各ループ終盤にやっと達成していたレベルの継承が、なんとこの最初期の段階で達成出来ている。


「……そりゃあ重畳だ」


しかし、リンプファーの内心は晴れやかではない。何故ならこの功績はアークの物であり、幾億幾兆の試行で失敗しか積み重ねてこられなかった自身の物ではないからだ。積み重ねてきたその結果も経験として蓄積されはするため一概に失敗とも言い切れないのだが、やはり無力感は拭い切れない。


「?? 何かテンション低いな。大丈夫かよ」

「ああ、問題無い。じゃあ始めるか」

「その前に……」


軽めの強化をかけようとするリンプファーを、リョウは手で止めた。


「? どうした? 兄弟」

「『銀濤』で頼む」

「………………」


それは魔導士級の猛者が使う強化用魔術。基本色数は二万を数え、発動だけではなく扱いにくさもまた筆舌に尽くし難い。


「なんとなく、それを使って貰ってから戦ってた気がすんだよ。名前合ってるか?」


強化用魔術は自身の身体に直接作用させるリスクも相まって基本色数二万で抑えられているが、如何に魔導士級でも周辺環境への被害や地形変化を恐れ、使う魔術の基本色数は凡そ百万が精々である。基本色数三十の魔術でも容易く人一人殺せるというのに、一切の躊躇も無く基本色数一千万クラスの魔術を敵に叩き込むのはリエルやアネッテにリンプファーくらいのものだろう。もっとも、これは戦う相手の脅威度にもよるのだが……


「ああ、合ってる。リクエストとあらば使ってみるか」


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

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