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亡者と喪失者のセグメンツ  作者: けやき
2章
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5話 クァネクツ株式会社

「へ? はいほうは?」(で? 内容は?)

「『ブヒ! ブヒブヒブヒ!!』だってさ」(我々にも利益を享受する権利がある!! 厳重に抗議させてもらう!!)

「ふん……はるほろは……」(ふん……なるほどな……)

「はんで はいはでひへるんでふか……?」(何で 会話出来てるんですか……?)

「二人とも、そろそろ止めねえか!!?? あと何言ってんのか分かんねえ!!」

「ひはははいは……」(仕方ないな……)

「ひはははいへふへ……」(仕方ないですね……)


止めの離れ際に二人からペロリと舌を這わされ、ブルリと身震いする。離れたといっても、両腕は未だ拘束されたままだが。


「お前の部下の対応は? まさか謝罪などしていないだろうな?」

「叩き潰して良いって日頃から言ってるんだけどねー……ガン無視決め込んだみたい」

「生温いな。今後はしっかりと教育しておけ」

「ん、分かった」

「妨害行為が激しいようでしたら、第七軍の補佐官を救援に出しましょうか?」

「待て、リョウとの顔合わせと護衛がある。動かしたくはないな」

「今のところは妨害らしい妨害も無いし、大丈夫だと思う。クァネクツにも冒険者を派遣しないように圧力かけたみたいだし」

「お前の補佐官が案山子の仕事もできない無能のはずが無い。大丈夫だろう」


(リンプファー! クァネクツって誰なん?)

《ああ、クァネクツってのは──「リョウさん」


リンプファーの言葉を遮るように、リエルが解説を始める。


「トリトトリの領主さんは目先の利益に目が眩んで、冷静な判断ができていないんです」

「そもそもの前提として、私の領地なんだがな」

「はい。前提からして利益を享受する権利なんて無いんです」

「なるほど?」

「クァネクツっていうのはキィトスの会社名。壁外で色々手広くやってる連中で、その中の一つに冒険者ギルドってのがあるんだよ。だから冒険者達の手綱を握っておくようにウチの補佐官が命令したってわけ!」

「冒険者がトラブルを起こした時には『クァネクツの関係者ではないから責任の所在は我々に無い』などと宣うゴミ共だ。私にもその文面を叩きつける勇気があるのかまでは知らないが」

「そこまで向こう見ずではないと思いますが……」

「?? 冒険者はクァネクツの関係者じゃないってのは? 冒険者ギルドとやらと契約して仕事してんのが冒険者なんじゃねえの?」


創作物にはよくある、所謂鉄板ネタである。


「それも複雑なんだよリョウくん〜」


呆れ顔で言うのはアネッテだ。それにカシュナが続く。


「先ずは、冒険者の仕事は『採集』『討伐』『労働』……この三つだ。分かるか?」

「『採集』『討伐』は分かるけど『労働』って何だよ……」


およそ冒険者らしくない響きであるうえ、『採集』『討伐』も広義的な意味では労働であろう。


「人手が欲しい経営者の元に冒険者を送り、一日〜長期間に渡って労働させるシステムだ。冒険者ギルド側には依頼主の経営者から一日毎に仲介金が渡される」

「な、なるほど」


(日雇い派遣じゃねえか!!!!)

《あと『労働』利用者だけが宿泊できる宿とかもあんだけど、まーーー闇が深えぞ》


「『採集』『討伐』は冒険者ギルド内に掲示された依頼書を冒険者が勝手に見て、勝手に持ってきた素材・依頼者の要請を受けて討伐した魔物を職員が査定し、買い取るシステムだ」

「勝手に? 依頼を受ける旨をギルド側に伝えて受注するとかじゃねえの?」

「んー……結局は責任の問題なんだよリョウくん。受注冒険者をその依頼限りで雇用なり契約なりすることだってできるけど、そうなると出先で起きたトラブルにクァネクツか冒険者ギルドが介入しなきゃいけないんだよね。学も倫理観も無い壁外の人間……ましてやならず者の冒険者のトラブルに介入するとか、胃と時間とお金がいくつあっても足りないし」

「ルールを教えても三歩歩けば忘れるような方々ですから……冒険者ギルドからすれば、冒険者の皆さんと依頼主の橋渡し役に徹した方が都合が良いんです」

「つまり個人事業主か……」


《○─○─○─○かな?》

(やめとけや)


「そういう事だ。アネッテ。念の為お前からも、クァネクツに私の名前を出して警告しておけ」

「おっけー」


カシュナとアネッテだけならまだしも、総括するとリエルまでもが壁外の人間に対して辛辣な言葉を吐いていた。ハシロパスカ門番兵士との遣り取りや大使館のメイドの心を操っている様子から博愛主義者でないことは分かっていたが、ここまでの嫌悪感を抱いているとは少々意外であった。


(てか俺、発見された状況的に壁外の人間だと思われるのが自然だよな?)

《知らんけど、神様の奇跡とでも思われてんじゃねえか? 嫌われる要因にはならんだろ》


「分かり易かった。説明どうも」


気付けば、自身を除く皆がオムライスを完食している。焦ったリョウがオムライスを手に取ろうかと思案するが、その両腕は拘束されている。


ヒョイっ


その皿をリエルが手に取ってみせた。


「…………ええと、リエル?」

「はい! どうぞ!」


リエルの手にはスプーンが握られており、いわゆる「あーん」の姿勢を取っていた。


《カシュナが居るからか、リエルも積極的になってんなー……》


さらに補足すれば、それはリョウのスプーンではない。先程までリエルが使っていたスプーンである。


「リエル、お前……!!」


カシュナはカシュナで色々と振り切れているリエルに対して怒気を強めていた。


「カシュナは話続けたいから落ち着いて。あと、リエルは一口毎にカシュナと交代してあげて……」

「はい!」

「ふん……それなら良いだろう」


斯くしてオムライスはリョウの膝に置かれ、二人から交互に食べさせられる形式となる。


「じゃあ、次は黒服の集団についてだけど」

「ふん……あの男。アークだったか。ほらリョウ。あーん…………アネッテが言うには知り合いだそうだが、リエルは何か有益な情報は無いか?」

「もぐもぐ」

「アネッテとは普段から情報の共有をしています。リョウさん。あーん…………なのでそれ以上の目新しい情報は無いと思います」

「もぐもぐ」

「二人が寝てる間に聞いた話を纏めると、狙いはやっぱりシュラバアルだったんじゃないかなーって」

「……だが、たかだか街一つ潰して何の意味がある? ほらリョウ。あーん」

「!!!??? カシュナ!?」

「カシュナ。それは厳しいっす」


残りのオムライス全てをスプーンに積載するカシュナ。三口分以上はあろうかという量が匙に乗せられており、とてもでは無いが一口での咀嚼は厳しいものがある。


「ダイ……“黒剣”・“幸運術式”使いの少年は兎も角、セラはあからさまに手を抜いてたみたいだし、アークは戦闘にすらならなかったみたい。私と三一八小隊とカシュナの戦闘はオマケだったんじゃないかな?」

「シュラバアルを攻撃して、アークにどんな利益があるんでしょうか……それとカシュナ、覚えておいて下さいね」

「もぐ……もぐ……むぅっ……むっ」


かなりのボリュームがある。咀嚼にはそれなりの時間を要するだろう。


「私達に濡れ衣を着せて、壁外の連中を扇動するくらいは出来そうだがな…………あとリエル、それはこっちのセリフだ。泥棒猫め」

「マスコミ煽ればキィトス内も掻き回せそうだけどね。まあ、そっちはもう対処したけど」

「壁外のシラミ共をエサに金を集める人権団体も居たか。確かに燃料にはなりそうだが」

「もぐ……もぐ……っふぅ。ご馳走様」

「お粗末様でした」


両サイドの女性の熾烈な争いには目を瞑ることとした。

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