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亡者と喪失者のセグメンツ  作者: けやき
1章
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2話 宇宙のようなその場所で

時間が惜しい。激突死の覚悟も早々に決め、空中遊泳を試みるリョウ。だが、突如何者かに右足首を掴まれ、その決意は驚愕に塗り潰され霧散する。


「──ッ!?」


その何者かを踏み抜いてやろうと、左足に渾身の力を込め、膝を曲げるリョウだったが──


「オイ 待て 兄弟。俺だよ俺」


神様だったらしい。状況を弁えない巫山戯た言動もさることながら、何が楽しいと言うのか、ニヤニヤとした笑みを顔に貼り付けている。やはり本気で踏み抜いてやろうかとも思うリョウだったが、すんでのところで踏み止まる。


「比較的安全な道筋を見つけてあるって言ったろ? こっちだ。案内してやる」


どうやらこの神様、落下中のこの状況でも自由に動けるらしい。足首を掴まれ、逆さ吊りにされている現状に不満が無いわけではなかったが、それを指摘すれば恐らく──


「じゃあお手手を繋いでやる。兄弟、左手を出せ。 恋人繋ぎでいいな?」


──とでも言うのだろう。


若しくは首根っこを掴まれるといったところか。どちらにせよ、巫山戯た手合いである以上、余計な注文は凶と出る可能性が高い。


吊られるがままのリョウは、半ば無理矢理に頭を持ち上げ、落ちて来た上部を見遣った。かなりの距離を落下したらしく、先程の縦穴はもう見えない。突然空間に投げ出された辺りから、ワープ的な技術を使い、使用後にその出口を閉じただけだとも思えるが、推測の域を出ない。


神様は斜め下に移動しているようだ。落下速度は緩やかだと思われる。距離感を掴む対比物が無いため、あくまで体感に過ぎないが。


底に向かうのだろうが、この速度なら危険は無いだろうと判断し、リョウは再び視線を彷徨わせた。落下の恐怖でそれどころでは無かったが、冷静に見れば「やはり宇宙に似ているな」と、ぼんやり考える。


なるほど、確かに。光の無い空間。辺り一面に光る色鮮やかな球体が浮かぶ様は宇宙のように見える。もっとも宇宙であれば、こんな呑気に呼吸もできないだろうし、自由落下もしないのだろうが……


(待てよ…自由落下?)


下方向に重力があるという事は間違いないが、それならば何故、あのボールは浮いているのだろう。空気より比重の軽い、ガスでも詰まっているのだろうか?


インターネットの小ネタサイトで習った程度の拙い物理法則では思考に限界がある。底に向かうなら、嫌でも近くを通るのだろうし、その時にでも観察すれば良いと考え、再び視線を上部に彷徨わせる。


そこは相も変わらず静止画の世界が広がるだけ……かと思われたが、先程とは違い、遥か上空に白色の光があった。白色の光は、弱々しく明滅しており、あちらこちらにフラフラと彷徨いながらも、少しずつこちらに近づいているように見える。


「……オイ バ神様。宇宙みたいだと思ったら、UFOまで居んのか? なんか上で白いのがフラフラしてっけど」


あまり藪を突つきたくはないが、知的好奇心が湧いてしまったのだから仕方がない。巫山戯た言葉は右から左に流せば良いかと、不遜な決意を固めつつ質問する。


「兄弟。言うに事欠いて『バ』を付けやがったな…… 俺はやっぱり、お前からは『兄弟』と呼ばれてえんだけどよ…… まあ、今回は良いか。敬称も付いてるしな。で? 白いUFO? “界外”に白い星……いや、“世界”は存在しねえよ。第一、世界は動かないしな。外界圧でお互い退け合ってる関係で──」


言いながら上層に胡乱な眼差しを送る神様だったが、『ソレ』を見つけた瞬間に言葉を失った。目は大きく見開かれ、足首を掴む手も小刻みに震えている。神様にとって予想外の事態が起きたという事は明白だ。


暫くの間驚愕していた神様だったが、思考は止めていなかったのだろう。「なるほど」と呟く。その言葉で堰が切れたようで、言葉が止めどなく溢れ出る。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


あれは何だ。


かつて打倒した、イグニエイト・ルヴェリオリが復活した?


否。奴ならば、逡巡無く“浄化”の光を叩き込んでくる筈だ。


アネッテ・ヘーグバリが裏切った?


否。紆余曲折はあったが、今この局面で裏切る理由が無い。


未だ出会った事のない術式の覚醒者?


否。外界に脱出し、自由に移動できるような存在が、ポンポンと生まれ出てきてたまるか。


そして、ほんの一瞬。奴の顔を見て、その正体を看破する。


「ここまで来て……ここに来て、このイレギュラーか。百余年でここまで辿り着くか。幾ら何でも……まさか………くそッ……また、一から……また、一から、確率の世界で戦えって事か? ……………………巫山戯やがって……」


「A3-5-4-20から取得!」


虚空から長剣を取り出し、白い光に向け、構える。


(狙いはリョウと、俺に対しての復讐だろうな。ただ幸い! あんな超遠距離で此方の様子を伺いつつ彷徨っていたということは、『ヤツ』は自分の行くべき世界を理解出来ていない! 直接的な攻撃が無えのは、兄弟が巻き込まれるのを恐れてか、或いは新たに取得した探知系の術式込みでも俺には勝てないと踏んでか。それなら!)


(──“空間術式”!!)


そう心中で叫ぶと同時、長剣が消え、代わりとばかりに上層で閃光が奔る。


従来の剣同様に両手で構えて振る事で、基本色数二千の『赦焔』をクールタイム無く無制限に乱発する魔武具である。が、今回は空間を転移した物体が転移先で爆烈四散するという界外の理を利用し、使い捨ての弾薬とした。


巨大な鐘を撞いたかの如き爆音が響き渡り、白い光を粉塵が覆い隠す。


「オイ! アレ何なんだよ!? ってか、今の魔法ってやつか!?」


怒涛の展開に度肝を抜かれていたリョウだったが、轟音で我に返ったのだろう。矢継ぎ早にまくし立てる。


『バ』を付けて此方を煽る余裕も無いのだろう。今すぐ質問に答えてやるべきかとも思ったが、生憎此方も余裕が無い。距離を稼ぐべきと判断し、リョウの体が許す限界ギリギリの初速で移動をしつつ、時間稼ぎのために機雷をばら撒いた。


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