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亡者と喪失者のセグメンツ  作者: けやき
1章
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27話 脱衣所から風呂場

とは言え、未だに腕を掴まれている状況である。上半身の服でも脱ぎ、その行動で以って同意を示そうと考えたのだが、いかんせんこの手が障害になる。リョウはゆっくりと、丁寧に、一本ずつ指を解いていこうとするのだが……


ぐいっぐいっぐいっ…………


………………


指どころか腕すらも微動だにしない。この素晴らしき筋力よ。


(この体格でこの筋力はおかしいだろ!? サイボーグかよ!!)


見ればリエルの瞳には涙が湛えられており、リョウは自身がとんでもない過ちを犯している事に気付いた。


(バカか俺は!! リエルからすりゃあ、指を解くのは拒絶の意思だと思うだろうが!?)


口に出すのは小っ恥ずかしいという考えからの行動だったが、要らぬ誤解を招いてしまった。誤解は訂正しなければならない。仕方がないとばかりに、リョウは口を開いた。


「リエル、背中を……いや、違うな」


誤解を訂正するだけでは、ただの補修作業だ。傷の上っ面を塞ぐだけの補修では、補修痕……どうしても小さな蟠りが残る。こんな場合は──


「ああ゛―……リエルみたいな、俺のタイプな綺麗で優しくて可愛い子に、背中を流して貰えると、その、すげえ嬉しいんだけど…………頼めるか?」


──相手方を褒めちぎるのが吉であると、前世で学んでいる。


「はいっ! 喜んで!!」


喜色を浮かべるリエルを見て、ほっと胸を撫で下ろすリョウ。まさか、前世の職場の発狂ババア攻略方法が活きるとは思わなかった。耳に痛い正論を金切り声で掻き消し、自分に優しい曲解に昇華し強行するババアだったが、あそこで培った努力は無駄ではなかったのだ。ありがとう、ババア。願わくば、二度と相まみえんことを。


脱衣籠の前で上半身の服を脱げば、自分の体が意外に汚れているのが分かった。


(まあ……あんだけ走って、すっ転んでりゃ当然か)


一番風呂を頂く以上、湯を汚す訳にはいかない。まして今は風呂の湯を追加する術も無いのだ。こうなると湯を垂れ流して綺麗にするといった力技も封じられる。「背中はリエルに任せるとして、前面は気合を入れて洗おう」と決意を新たにしていたのだが、ふとリョウは背中に強い視線を感じ、思わず後ろを振り向いた。


バッ!


サッ!


「……………………」

「……………………」


リエルは何が気になるのか、浴槽を穴が開くほど見つめている。


「……んん、気のせいか」(ぼそっ

「ほっ」(ぼそっ


わざとらしく呟いたリョウは脱衣を再開せんとズボンの紐を解き、縁に手を掛け、思い切り摺り下ろす……と見せかけて、全力で後ろを振り返る!!


バッ!


ビクッ! サッ!


「……………………」

「……………………」


リエルは何が気になるのか、浴槽を穴が開くほど見つめている。


「……んん、気のせいか……ってなるわけねえだろ! 一回目で気付いてたし、何なら『ビクッ!』の分ワンテンポ遅れてたわっ!!!」


瞬時に足先から耳まで真っ赤に上気させながらも、最初からそうでしたと言わんばかりにリエルは浴槽を見つめ続けていた。浴槽だけを見て全身を上気させる方が、色々と問題があると思うのだが……


「リエル」

「ひゃいっ!」


(何なんだこの生き物は……可愛すぎるだろ)


だというのに、今はその格好も相まって異様な色香も纏っているのだから手に負えない。


「先に髪洗ってたらどうだ? 着替え終わったらそっち向かうから」

「はい、分かりました……」


背を向けたまま着替えれば見られるのは尻で済む。そして背中を流してもらう以上、どう足掻いても尻は白日の元に晒されるのだが、ストリップのようで何だか嫌だと感じたリョウはリエルを一旦引き離す事にした。


(というか、浴室の戸、ガラス張りじゃねえか)


…………………………


浴室からは断続的に水音が聞こえはするが、やはり強烈な視線を感じる。


(ええい! ままよ!)


脱衣と同時に手拭いを局部に巻き付け、色々な諸々を防御する。同じタイミングで浴室の水音が大きく乱れたが、気にしない事に決めた。


貞操の危機を乗り越えたリョウは浴室に入る。此方を視姦していたからかリエルの髪は碌に濡れておらず、毛先が洗い場の床に付かないように用意した木桶……それに湯が溜められているのみであった。


(……やっぱりか)


恐らく互いの背中を流し合う事になるのだろう。それも問題ではあるのだが、一旦置いておくこととする。目下一番の問題は、洗い終えた後の入浴である。


「じゃあ、リエル。頼む」


浅底の、一人でもギリギリなオシャレ風呂に二人で入る選択肢は、はなから存在しない……のだが、リエルはこの勢いだと十中八九突貫して来るだろう(と言うか、先程の覗きの誤魔化しを含めて、チラチラ見ている)そこでリョウが目を付けたのが髪であった。


これだけの美しさ、ましてやこの長さだ。洗う際に多大な時間を要するのは想像に難くない。お互いの体を洗い終えた後、リエルは髪の手入れに入るだろう。その隙を見計らって一人で入浴し、頃合いを見て退散しようという計画である。


リョウは椅子に座り、自身も前面を洗うべく用意を始めた。本来ならば背中を流して貰う際にはジッとしているのが定石だが、今は僅かな時間も惜しい。


「じゅ……き…………します……」


『『ごしごしごしごしごしごしごしごし』チュィィィィィィィィィィィィン!』


(絶妙な力加減だな……)


後ろから抱きつかれるハプニングも覚悟していたが、蓋を開けて(チュィッ! チュィィィィィィィン!!)みればそんな事も無く(チュィィィィィィィィン!!)まるでリラクゼーションを体験しているかのような夢心地チュィィィィィィィィンに感動すら(チュィィィィィィィィン!!!)覚える。


チュィィィィィィィィン!!!

ごしごしごしごしごしごし


前面を洗い終えたリョウは手の平大のボタンを押す。すると規定量の湯が木桶に満ち、泡を流し落とす準備が整う。


チュィィィッ!! チュィィィィン!!!

ごしごしごしごしごしごし


(ぜってぇ突っ込まねえぞぜってぇ突っ込まねえぞぜってぇ突っ込まねえぞ…………って……んんん???)


目の前の鏡に、摩訶不思議な(ジャアアアアアアアアア)光景が映っていた。


リエルは動きの止まったリョウの腕を、ここぞとばかりに念入りに洗っている。


「……リエル?」

「はい! 何ですか?」


チュィィィィン!!!


「その……その髪はどうなってんの?」

「これは魔術ですね。細かい調整が利きますから、シャンプー・トリートメント要らずなんです。お騒がせしてすいません。(チュイイイイイイッ!!)もうすぐ終わりますので……」

「うわぁーそうなんだーすごいなあ(棒」

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