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亡者と喪失者のセグメンツ  作者: けやき
1章
24/132

23話 やはりこれも使えない

(じゃあ……世界に意思があるのを隠す理由は?)

《……世界に意思があると知れると、そこに干渉しようとする奴が必ず出てくる。それを危惧して秘匿してる感じだな。ああ、兄弟も口滑らせんなよ? マジで面倒な事になるからな》


魔術・精霊魔法・スキル……何がどこまで出来るのか、世界の意思とやらがどこまで明確に存在するのかも未知数だが、確かに危険ではあるだろう。それに干渉し、自分の意のままに操ってしまえば、それこそ世界が崩壊するであろう事は想像に難くない。


(んで、まだ別の種類もあんのか?)

《あと四種類だな。その内の三種類を一気に説明すると……治癒術と防御術と強化術だ》


治癒と防御。怪我の治療や、敵の攻撃を防ぐ目的で使用されるのだろう。名が体を表している。強化も同様だろう。だが、気になる点が一つ。


(治癒とか防御とか強化って、今まで紹介した精霊魔法・魔術・スキルでは出来ねえのか? 俺の勝手なイメージだと、出来るような気がすんだけどよ)

《うん??? ……出来るぞ?》


………………うん?


(あーああ、つまり治癒術士と防御術士と強化術士が使う治癒と防御は、他三種の奴らが使うよりも精度・耐久・強化値が高いって事だな?)

《うん??? ……同じだぞ?》


………………うん?


(じゃあ、治癒術士と防御術士と強化術士の存在意義は?)

《…………救済措置として、防御大隊・治癒大隊が設立されてる。強化術士は各隊の切り込み隊だな》

(なるほど、見捨てるのも忍びねえって感じか。憐憫の目で見られるレベルってのもすげえ……ってか、切り込み隊って要は鉄砲玉じゃねえか)

《存在価値が無いわけじゃねえんだ。一応、その役割分は仕事をこなしてるからよ…………って!! 無能の話はどうでもいい。次は一番強力なヤツいくぞ》

(強力……? どんなヤツだよ)

《術式だな》

(全然名前から内容が想像出来ねえ)


今まで説明されてきた魔法・魔術は、名前からある程度の内容が想像できた。だが、ただ単に術式と言われても想像が付かない。


忍術のように、トリックや技術で魔法と見まごう事象を起こす形態をそう呼ぶのか……リョウはそう考えたが、その予想は大きく外れた。


《術式を使える奴は多分十人ちょいだな。それくらい珍しいんだが……修得の難しさにその理由がある》

(バカみてえな時間がかかる……とか?)

《その側面もあるが、というか運絡みなんだ……つっても、サンプルが少な過ぎて俺自身全ての修得方法を網羅してるわけじゃねえからな。ご理解の上、聞いてくれや》

(おう)

《まず一つ目は、世界から同情されて権能を貰うって方法だ》

(……そうか、世界は生き物なんだったな。ただ、俺らってミトコンドリア的な小ささなんじゃねえの? 同情とかされるか?)


ミトコンドリアではイメージし辛かったリョウは、ミジンコを思い浮かべた。


広大な水槽で、泳ぎが下手なミジンコが一匹……


じたばたじたばたじたばたじたばたじたばた……


……………………無理だろそれは。


(同情は無理だな。どっちかっつったら憐憫じゃねえか?)

《……兄弟がどんな想像をしたのか気になるが、ミトコンドリアと違って明確な意思がある分、こっちに分があるぞ》

(そりゃそうか。んで、世界からの同情だったか?)

《あくまで推測だけどな。世界の琴線に触れるかどうかって辺りが運ゲーなんだが……端的に言えば可哀想な奴が術式……つまり、世界の権能の一部を貰える》

(話飛んで申し訳ねえけど、あの宇宙みてえな……外界だったか? あそこに浮かんでた球体全部、ここと同じような世界なんだよな?)

《ん? おお、そうだな。あの球体に宇宙が一個詰まってて、知的生命体が必ず一種以上存在してる。宇宙の単位が「個」で合ってんのかは知らねえけどな》


一つの球体でも夥しい生き物が居るというのに、それが無数に存在する。世界の琴線に触れる云々以前に、世界から認知される事すら難しいと思えた。


《というかだな……世界の琴線に触れるくらいの悲劇っつったら、大抵ソイツ自身が殺されるなり自殺するなり、悲劇の末に精神が壊れるなりしてんだよ。そんで、知的思考が出来なくなったりとか、介助無しじゃ栄養も摂取出来なかったりとか……》

(あ゛―……つまり、纏めるぞ? くっっっっっっっっそほど人数が居る中で運良く認知されて、運良く……なのかは知らねえけど世界の琴線に触れるような悲劇に見舞われて、それでもなお生きていて、更に運良く精神が壊れずに正常なままでいられればクリアってことだな?)

《オーケーオーケー! 大正解!! それとさっきの説明に補足すると、世界に意思があるってのを隠してんのは、この辺の理由もあんだよ。自分から世界に認知されに行くヤツが間違い無く出てくるだろうし、それで術式保持者がボコボコ生まれてもめんどくせぇだろ?》


世界に認知される方法はあるらしいが、やはり無理ゲーである。これも修得は不可能かと、リョウは内心で肩を落とした。


《んで二つ目の方法が、めっちゃ努力する方法だ》

(ここに来て根性論かよ……前世の仕事で嫌気が差してるから勘弁してくれ)


私生活の記憶はほぼ消えているが、「根性至上主義」「給料が安い」「休暇が無い」だった三Kな職場の記憶はほぼ残っていた。


その界隈では有名な会社で、「あそこは軍隊だ。ウチはまだマシだ」とよく後ろ指を刺されて噂されていたものだ。辛かった……


《現実に帰ってこい兄弟。続き説明すんぞ》


前世の辛い記憶に涙を流していると、リンプファーに現世へ呼び戻された。痛々しい記憶を消したとの論を信じるのなら、職場での理不尽な記憶も消して欲しかったものだが……


《努力で術式は開花するんだが……術式って、多分無限の種類があんだよ。俺が使えるのだけで「空間」「譲渡」「変異」と、法則性の無いのが三つもあるしな。んでその内容だが……一気に言うからよく聞いとけよ……?》


リンプファーは一拍置き、小さく息を吸った。呼吸が必要な生物とは思えないのだが……


《無限に近いであろう可能性の中から自分に適性があるものを適切にピックアップして、正しい方向性で血の滲むような努力をして、かつソイツに恒河沙が一、術式を扱う才覚があれば修得出来る》


黙って……はいないが、聞いていれば遠回しに「無理」と言っているだけである。ハシロパスカの専属ドライバーに就任する方が霞んで見える程に。


(「血の滲むような努力」ってのは、具体的にはどんな?)

《まず術式は、今までに説明した魔法・魔術のどれかを極める必要があってな……例えば俺が持ってる「空間」が自分に適性があると思うんなら、極めた魔法か魔術を更に「空間」関連に研究し続けなきゃいけねえ。それが努力な。兆が一実を結べばラッキーってな具合だが》

(その「兆が一」ってのは、あくまで努力だけの話だろ?)

《おお、ソイツが術式を扱う才覚が有るかは別問題だ》

(……次、有れば説明頼むわ)

《条件厳し過ぎて呆れるよなそりゃあ……三つ目は、物心ついた時には既に修得してたケースだ。極々々々々々々々々稀にあるんだよ。これは歴史上二人しか居ねえ》

(才能ってやつか。羨ましい限りだな。いやそれよか、生まれた瞬間から世界のお気に入りだったってセンもあるか?)

《………………………………は?》

(いや、だから……ソイツの将来を見て、世界に必要な奴だからギフトを渡すってこともあるんじゃねえの?)


暫しの無言が流れた後、リンプファーは一言「そうか」と呟くと、にわかに調子を取り戻し──


《…………ハハッ!!! 世界の意思!! そうかもな!! 全ては予定調和だ!!!いや、そうだ!! なるほどなるほど!! こりゃめでてえな!!! ハッハッハッハッハッハッハッ!!!》

(いや、意味わかんねえって)


喧しい事この上ないが、再びゴロンと体を投げ出しリエルを待つ。


それから五分後。バカの笑い声が止むのとほぼ同時。

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