22話 どれもこれも使えない
リンプファーの不審な態度が気にかかる上、魔法の使用も楽しみではあったが、そう言われてしまうと仕方がない。よくよく考えてみれば、この手の魔法やら魔術やらは修行の末に習得するというのがお決まりのパターンである。「焦り過ぎていたか」とリョウは自己批判し、続きを促した。
《次が魔術。別名、召喚術だ》
(なんつうか、名前からして怪しげだな)
魔術・召喚と来ると、生贄が必要だというイメージが湧いてくる。
(サバトで鶏の首でも落として、生贄に捧げんのか?)
《まあ、そう思うよなあ。実際には召喚するのは非生物、捧げるのは魔力だ》
(非生物っつーと……岩とか、水とかか?)
《才能があるヤツは概念とか召喚しやがるけど、大体はそんなもんだな》
(ほー)
《んで……あ゛―……これ説明めんどくせぇんだよな……魔術には“赤、青、緑、白、黒”とかっつー一番基本の呪文があって、“赤”を唱えたら温かくなったり、“青”を唱えたら水滴が出たりするわけだ。“緑”だと木片が出たりな……ここまでは良いな?》
(今んトコ、なんとか理解できてる。続けろ)
《オーケー! んで、これを発展させると“赤+赤”で多少大きな熱が出たり、“赤+白”で熱風が出たりするわけだ》
絵具の色を混ぜて、新しい色を……いや、どちらかと言えば絵画に近いのだと、そうリンプファーは説明を続けた。赤色に含まれる熱のイメージを大量に塗りたくることで、より大きな熱力を表現したり、赤色の熱のイメージと白色の無のイメージを掛け合わせ、熱風を召び出したりするのだと。
(想像するだに難しそうだな)
《そうでもねえよ。キィトス内でも一番メジャーな方式だしな……んで! 今例に挙げた“赤+赤”とか“赤+白”とか……一番基本の呪文二つを掛け合わせた感じになってんのは理解できるよな? これが基本色数二と言われる。百個掛け合わせれば、基本色数が百だ》
(ほー……例えば、あの時、宇宙みてえなトコで爆発させてたヤツ。あれは基本色数いくつになんだ?)
《んー……あれは基本色数二万の『赦焔』を連発する魔武具なんだが……ぶっ壊して攻撃したからなぁ……構造上『赦焔』を二十発分ストックし続けるようになってっから、単純計算で四十万ってトコだな。まあ、広域化だとか威力倍加だとかも換算すりゃあ、あの『赦焔』一発も三万はくだらねえけど……基本で言やあそんなもんだ》
(待て待て待て。さっきから言ってる『しゃえん』? って何だよ。呪文か?)
《呪文だな。例えば、女の裸体イメージする時に、頭ん中で手足のパーツくっ付けて女を作ったりしねえだろ? 既存の人間をイメージして、それを基にした方が早いし楽だよな? つまり、そういう事だ。何だったら、マスかく時に使うオカズで例えてやろうか?》
(要らねえ)
つまり“赤+赤+……”と一から十まで手作業で絵画を作り上げるのではなく、ある程度のテンプレ……否、既製品を頭にインプットしておき、それをそのままなり肉付けするなりして利用するのだろう。
(よくある『呪文の習得』ってやつは、ここだと記憶する事なのか)
《そーゆー事だ。暗記じゃなくて記憶。だからコツさえ掴めば『それなりに』簡単なんだよ。それと忘れてたが、術者によるが基本色数が馬鹿デカイ呪文は一発で発動出来なかったりする。そーゆー時は……例えば基本色数が百の呪文なら、基本色数五十+基本色数五十って感じに分けて呪文を詠唱して、複合してから発動するわけだ。こんな風に応用が効くのも、魔術の素晴らしい所だな》
(じゃあ、俺も修行すれば使うことが出来んのか?)
《………………このペースだと七百話くらいかかるなぁ》
いよいよ疲れてきたリョウは、再びゴロンと寝転がりながら先を促した。
(??? よく分かんねえけど、少なくとも今は使えねえって事だな。次の解説。有るなら頼むわ)
《次は……そうだな。スキルを説明するか》
(すきる)
《おう、スキルだ。ゲームとかでよくあるヤツだ》
(俺のイメージだと、敵を倒してレベルを上げて、ステータス上げてスキルポイントを稼いでスキルを習得。さらなる強敵へ……って感じなんだけど)
無料MMOや創作物だと大凡こんなシステムだったと懐かしむリョウ。
《おお! そんな感じだぞ兄弟! 暫くは使えないけどな!!》
悲しむリョウ。
《い、いや、暫くすりゃあ使えるようになるから!! な!?》
異世界転生なのだが、才能が無いのだろうか。
《ハイハイちゃっちゃと説明しちまうぞ!! レベル・ステータスって概念は無い……が、敵を倒しまくったらスキルポイントってのが入手できたりするから、確認出来ないだけで存在はするんだろ多分。ああそれと、下位スキルを最大レベルにすると上位スキルが解放されるんだが……これは完全に運だ。解放されないヤツも結構居るな》
(じゃあ、そこが上位ランカーと底辺雑魚の差になるのか)
《そうなるな。まあ、戦闘のセンスの有無もあるから一概には言えねえけど》
ゲーム等で触れていたからか、非常にシンプルで分かりやすい。だが──
(──これ、努力で習得するタイプじゃねえよな? 具体的には、生まれた時から自然と《よーし、次は神聖魔法だ!!》
リョウは理解し、やさぐれた。『これ全部使えねえ流れだ』と──!!
《神聖魔法はアルケー神に魔力を捧げ、その膨大な記憶から力を引き出す魔法だ》
(神様とか、カッケーな。いよいよ異世界って感じがしてきたじゃねえか。俺は使えねえんだろうけどな)
《アルケー神の云々は嘘だったりするんだが》
(あん? まあ、俺は使えねえんだろうけどな)
《世間一般には、そう説明されてる。ただ実際のところは違うって意味だが……これも説明めんどくせぇんだよな……》
(頑張って説明しろ。俺は使えねえんだろうけどな)
《いやまあ、実際使えねえんだけどよぉ!!》
《うー》だの《あー》だのと、数秒間唸った後に説明が再開された。
《実際にはアルケー神じゃなくて世界という名の生命体そのものに魔力を捧げて、世界の記憶から力を引き出すわけだ。ただ、世界が意思のある生き物だと流布したくないっつー理由があるわけだ!! だから嘘を吐いて隠してる!! オーケー!?》
(世界っていうと、あれか……誰かさんが俺を叩き付けた、丸い球体の事だな?)
姿が見えるわけではないが、リンプファーがたじろぐのが雰囲気で分かる。追撃の言葉でも吐いてやろうかと身構えるリョウだったが、リンプファーはその前に体勢を立て直して見せた。
《許せねえ……!! その推定イケメンの何某ファーさんには後で厳重注意して、遺憾の意を示しておく。あと分かり辛えから各球体を世界って呼んでんだけどよ……実際には、あの宇宙みてえな空間も全部含めて『世界』って生き物なんだよ》
(遺憾の意を示すって、つまり何もしねえって事じゃねえか。つうかスケールがデカすぎてイメージし辛えし……あー……認識としては、デカい球体が細胞で、人間がミトコンドリアって感じか?)
《まあまあ悪くない例えだな。そんな認識で良い》