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亡者と喪失者のセグメンツ  作者: けやき
1章
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11話 リンプファーの宣誓

《それと、俺の会話のルールを話そうと思う》

(るーるぅ?)


ぐうううう……


自覚はあまり無かったのだが、空腹で腹が鳴った。恥ずかしさを紛らわせるわけではないが、水筒をリエルに返す事にする。返す際に蓋を閉めようとしたが、手で制された。どうやらリエルも飲むらしい。


「本当はここで軽食も取りたいんですが、あまり空気の良い場所ではないですし……地上の拠点に戻ってからにしましょう。地上まであと少しですよ」

「りょーかい」


《いや、ルールと言うか、宣誓だな。俺は、絶対にお前を騙さない・嘘を吐かない・裏切らない。質問には極力答えるようにする。ただ、答えられない質問は回答を拒否する事もあるし、曖昧な回答ではぐらかす事もある。そこは勘弁してくれ、ネタバレすると兄弟の成長率に異常が出る》

(……おう)


割と俗物な神様からの、一転して真摯な態度に返事に窮するリョウ。先程の謝罪の時も反応に困った事を思い出す。もしかするとこのマジメな態度が素なのかもしれない。普段から敢えて軽々しい態度で振る舞う事で、本当に伝えたい言葉を際立たせる狙いがあるのだろうか。


(んー……ああ、分かった。そこまで言われちゃあな。信じてみることにするよ)

《全幅の信頼を置いてくれ。必ず、お前達だけは幸せにする》

(プロポーズかよ。てか、“達”って俺と──


リエルの事だろうかと、咄嗟に右側に視線を向けた。


…………………


そういえば先程から声がしないと思ったら、リエルは水筒のコップ、その縁の一ヶ所をジーッと見つめたまま微動だにしていない。取手の位置から察するに、先程リョウが口を付けた場所と思われるが。


…………………


意を決したのだろう。サッ!とそこに口を付け、お茶を飲み下しながらチラッ!とこちらを横目で見る。それは此方に気付かれていないかという恥ずかしさからの行動だったのだろうが、まさか本当に気付かれているとは、ましてや目が合うとは思いもしなかったようで──


「ajtwmgqkudjptj!?!?」


顔どころか首まで真っ赤に染め、目に涙を浮かべて硬直してしまう。長い髪に隠れているため窺い知れないが、恐らく耳も赤く染まっているのだろう。というかなんだよこの可愛い生き物。


ここまで好意を寄せてくれている女性に恥をかかせる訳にはいかない。ここが彼女と男女の良い仲になれるかどうかの分水嶺であると確信したリョウは、脳をフル回転させて活路を見いださんとする。


──①声をかける内容は→愛想笑い?←論外じゃあ天気の話は無理だくたばれ地下だここはじゃあお礼←意味不リエル困るわならいっそ告白無駄な思考中断/①案は否決他には他には逆に声を出さない→行動?行動だな。

②何か行動で示す←頭撫でる←願望じゃねえかいやでも実際撫でたいっちゃあ撫でたい右腕の拘束も緩んでるし今なら←無駄な思考中断/同じことをする(リエルと?)←悪くないが弱い追加でこちらからも──/思考復帰・統合←イケル!!


結論は出た。なんとリエルと目が合ってからここまで、僅かゼロコンマ三秒である!!


リエルを驚かせないようにゆっくりとした動作で左手を差し出す。狙うはコップだ。未だリエルは口を付けたまま微動だにしないので、中身のお茶が溢れないよう指を解き、最新の注意を払いつつ顔から引き剥がした。


「あ、あのあのあのですねこれは」


リエルがしどろもどろに言い訳をしようとするが、思考が纏まらないらしく、言葉になっていない。


右手の拘束をゆるりと抜き解いた後、リエルの頭の上にセッティングする。左手にコップを構える。リョウは覚悟を決めると、そのコップに口を付け、中身を一息に飲み干した。同時に右手でリエルの頭を撫で始める。


《相手に恥かかせたままだと今後の進展が遅くなるからなぁ……同じ立場になって恥をかきつつ、頭を撫でて好意をアピールした訳な。ベストではねーけど……限り無くベストに近いベターってとこか? 因みに俺なら抱き締めて『愛してる』と囁いてから押し倒すな。是非とも参考にしてくれや》


本当に顔から火が出るのではないかと錯覚する程に体温が上昇していたが、リンプファーの冷静な解説と馬鹿なアドバイスが冷水となったのか、一瞬で平常心を取り戻す。リエルを見れば、口を一文字に結んでプルプルと小刻みに震えていた。


「よし!」


突然大きな声を出したため、リエルが驚いて多少の間隔を空ける。申し訳なくも思ったが、いつまでもこんな場所でこんな空気でいるわけにはいかないだろう。これ幸いと一気に立ち上がる。


「守ってもらう立場でアレだけど、そろそろどうだ」


その言葉を聞いて、キョトンとした顔をするリエル。鳩が豆鉄砲を喰らったように慌てながら「そうですね。今片付けます!」と言いながら立ち上がる。まさか、地上に出るまでの道中である事を忘れていたのではと邪推してしまう。


リエルに蓋を閉めた水筒を渡し、敷物を手に取るためにかがみ込もうとするのを押し留めた。水筒が袖口に吸い込まれていく様は、異様の一言に尽きる。その光景には正直興味をそそられるが、覗き込みたくなる欲求をグッと堪えて敷物を回収する。何もかも相方に片付けさせるような礼節を欠いた事をしたくはない。


敷物の二点を摘み、空中で波打たせて砂を落とす。裏側を確認し、目についた塵を手で払い退けた後にクルクルと巻きつけ円柱形とした。それをリエルに渡し、撤収作業は完了である。


「で、では行きましょう! 出口はすぐそこですよ!」

「ぷっ…くく……ああ、行こうか」


少々照れていながらも気丈に振る舞うその姿がなんとも愛らしく、思わず笑いながらの返事となってしまった。

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