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亡者と喪失者のセグメンツ  作者: けやき
三章
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1話 トリトトリ

トリトトリの外壁を超えて街を睥睨する。


「時間掛かったね」

《警戒しながらだかんなぁ。仕方無えだろこればっかりは》


外壁はシュラバアルの様にケルベム杭では無く、切り出した岩を器用に組み合わせた石垣で出来ている。送電網が確立されている為、夜間にも関わらず石垣の近辺は大量の電灯によって煌々と照らされていた。外壁付近の街並みはそれなりに小綺麗で、ハシロパスカの様にトタンを張り合わせたような粗末な物は存在しない。全体的に見て木造建築は少なく石造りの家屋が多いが、これは良質な石切場が近く、逆に安全な森林が無いトリトトリの特徴である。


「そもそも、身体の修理終わってから空飛べば良かったのかも」

《結果は変わらねえ気がすっけどな。ボーッと待ってる時間も勿体ねえし、修理しながら飛ぶのはただの的だろ?》

「でもさぁ……」

《撃ち落とされて終いだ。終い》

「でも車は壊れなかっただろうし」

《あーそっちか。怒られんのかね? あの運転手》

「多分。ちょっと罪悪感湧くかも」

《カシュナもそこまで小せえ女じゃ無えと思うが。そうだな、お前は勿論として、後で兄弟にフォローでもさせとくか》

「それが良いかな。無下にはしないよね」

《流石にな》


中央部付近上空。空を飛ぶ此方を指差して誰何する警邏の集団が居たが、よく見つけるものだとアネッテは半ば感心する。


「オイ! 貴様何も──」

「えい」


ちゅどんっ


「ぎゃー!!」


着地した後に軽い魔術を叩き込み蹴散らした。それを見た部下──フランチェスカが金髪縦ロールを揺らしながらアネッテに駆け寄る。


「隊長、遅ェ──んん゛っ、状況の変化と、追加の情報が」


さる名家のご令嬢だった彼女は数十年前、社会経験の一環で入隊をし、才能を開花させ気付けば補佐官にまで成り上がってしまった。個性的に極まる髪型はその名残りである。


「ん。どうぞ。でも私が着地する前に露払いくらいはして欲しかったかな」

「先ずは「シカトかコンチクショウ」


アネッテは部下には視線をやらず、その肩越しに見えるダンジョンの入り口を注視した。


(いつ見ても慣れない)

《脳がバグりそうになるよな。俺、肉体潰したから脳とか無えけど》


うねうねと湾曲した瓢箪型の入り口。それは構わないのだが、まるで厚みが無い(・・・・・・・・)。真横からならば一本の謎の細い線が虚空に浮かんでいる様に見える程である。


「クソぶ………領主ですが」

「クソ豚でも分かるから」

「臨時調査隊の我々に対し、余りに「もう良いから普通に喋って「臭えしウゼェからぶっ殺した。豚の腹からソーセージが出てきた光景には、流石のアタシも爆笑だったぜ? 少し蹴り飛ばしただけで腹膜まで破れるのはいただけねえが、屠殺からの加工の手間が省けるってもんだ。壁外にしちゃそこそこの品種改良じゃねえか。なあ?」

「……うわぁ」


個性的に極まる髪型はその名残りである。逆に、それ以外は全て此方側に染まり切ったとも言えるか。


「ダンジョンの封鎖は規定通り完了した。向こう側の大気調査はさっき終わった所だが。するとどうだ? なかなかどうして面白え結果が出て来やがった」

「焦らすねー。その結果って?」

「大気の構成成分は、こっちとクリソツだ。ただ一点を除いてな」

「それは?」

「クソったれな細菌、微生物が一切居やしねえ。彼方側のダンジョンの入り口にKEEP OUTのテープでも貼られてんのかってのが、大方の予想だ」

「んん……」

《化学物質はどうだ?》

「!! 化学物質は?」

「ベンゼンだのダイオキシンだのは、壁外都市部とほぼ同等。つまり──」

「彼方の文明圏の側に入り口が空いた」

「ああ。なのに、細菌類だけ丁寧に除去されてやがる。ダンジョンが質の良いマスクをしてやがるなら、無駄飯食いの一人でも放り込んでみようかと思うんだけどよ?」

「………まさか、やってないだろうね」

「唯の軽口だ。本気にすんな」


未知の知的生命体・文明に対し、挑発とも取れる行動は危険極まる。まずあり得ない事だが、仮にカシュナ級の怪物が闊歩する魔境であるならば、リンプファーの予想より早くに世界の終焉が訪れる。


「で、それが追加の情報?」

「あ゛―、あともう一つ。どうにも不可解な案件が……」

「今度は歯切れが悪いね」

「ブタの部屋から『ステラ・レポートを発見した』とか書いてあるメモが出てきやがってよ」

「え゛………それ、豚の日記?」

「いや、その一文だけ書いてある紙が。死んだ虫みてえにぽつんと部屋の隅にな」

「あのさぁ………どう考えても──」

「待て待て、言いたい事は分かる。まだ続きがあるのさ」


バ○オハザ──(以下略)でもあるまいし、わざわざご丁寧に現在の状況を記述して置いておく理由が無い。日記に記された一節だとでも言うのなら話は別だが、そうでも無いとなると不自然極まりない。


「偽物じゃないってこと?」

「念の為に誰が書いたか調べようとしたんだけどよ、『白日の下(エイア・ジャキン)』・『過去視イルァガン・アルァカトゥ』共にヒットしなかった。過去の情報の一切が消されてやがる。その辺漂ってる精霊共も黙り決め込みやがって。そうこうしてる内に、今度は街中にも同じ情報が出回り始めやがった。噂の出処を探ろうとしてみれば、これまた尻尾も掴めやしねえ」

「…………」


ステラ・レポート。それは壁外で子々孫々と受け継がれる御伽噺。異大陸で何が起き、何があったのか、それらが詳細に示された剣聖ステラの手記が何処かに存在するのだと言う伝説である。異大陸で観測された正体不明の魔術の真相を探る者達と歴史家が血眼に探し求める幻の一品ではあるだが……


「どうだろ。あの人、そんな日記書くようなタイプには思えなかったけど」

「は?」

「ん。何でもない」


返事をしつつ、アネッテは周辺を『過去視イルァガン・アルァカトゥ』で探る。すると確かに、通常では有り得ない記録の空白地帯が点在していた。


《“精神術式”なら読めるんじゃねーのか?》

(今間近の空白地帯を読もうとしてるけど、上手くいかない)

《マジかよオイ。じゃあ、ヒューさんとやらの情報も……》

(無いかも)

《……うわぁーお。やるなぁアーク》

(やっぱり、アイツの仕業?)

《そりゃあな。アイツの術式以外でこんな事が出来るんなら、是非ご教授願いたい》

「別命あるまで現状を維持。悪いけど、超長期任務になるかも」

「ただカカシになってりゃ良いだけならアタシは大歓迎だけどよ。部下はそうでも無いみたいだぜ?」

「はいはい。人員は定期的に入れ替えるように計らうよ………って言うか、他の軍団から人員回せないか打診してみる。キィトスとしても放置はマズイ案件なんだし」

「!! それなら三一…──第七軍で頼むぜ。アイツ等、やたら使い勝手が良いんだ。何ならオルガかフトリィの奴が来れば最高だな。カラドロスも悪か無いが、アタシの目から見りゃあ、全軍の補佐官の中でオルガが一番優秀だ。フトリィの奴は中々話せる奴だしな」

「へえ! 中々良い目してるね。でも、もう第七軍は好きに動かせなくなるから無理かも。フトリィもどうかな。クアンの部下だし聞いてみないと」

「は? 第七軍も「あの」隊もリエルさんと隊長の臨時共同管理と言う名の私物だろ? まさか男でも取り合って喧嘩したか?」

「な訳無いでしょ。いや──……ちょっと面倒事にはなるんだけどさ」

「焦らすなよ隊長」

「近々、顔合わせしてもらおうと思ってるんだけど──」

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