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亡者と喪失者のセグメンツ  作者: けやき
1章
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10話 神様、空気を読む

「あのあのあのですね?」

「はい。何ですか?」

「ボク ノ ウデ ニ……デスネ」

「??」


こちらの右肩に頭を預けながら、微かに首を傾げてみせるリエル。その動きで彼女の髪がサラサラと流れ、ヘアコロンの甘い香りが鼻を突き抜け脳を揺さ振る。


トドメとばかりにリョウの腕に当たっている……否。押し付けられている“ソレ”は形を変え、違った角度からのアプローチを仕掛けて来る。


体はピクリとも動かせず、視線は真正面に固定されたリョウだったが、何気なく、本当に理由もなく眼球の動きだけどリエルを見た。


角度的に表情こそ窺い知れないのだが、リエルの耳──というより顔全体が真っ赤に染まっていた。


リョウは瞬時に平常時の思考を取り戻す。その頭が、目まぐるしく回転を始めた。


──まずは考えられる可能性の提示①彼女も俺に一目惚れした←あり得るいや有り得ねえ自惚れんな俺いやあくまで可能性思考を止めるなじゃあ顔が赤い理由は←一目惚れからのアプローチを強行してみたけど勢い余って胸とか押し付けちゃって我に返って恥ずかしく←可愛すぎか天使かよ好きだ。

可能性②本当は嫌だけど仕方無く←顔が赤いのは怒り? まああるかもなリンプファーの命令で嫌々orリンプファーの転生特典? 目当てで上司から命令←籠絡?

可能性①②どちらにせよ口で指摘は悪手も悪手彼女の勇気orプライド?を傷付けるだけ。いっそこの場で告白無えよ馬鹿死ね←シチュエーション考えお互い知らな過←無駄な思考中断/行動で応えるのが望ましい←可及的速やかに!! 此方も合わせる形だと尚!


リエルが僅かに首を傾げてから、なんとここまで僅かゼロコンマ四秒である!!


──コツン。


リョウの右肩にしなだれ掛かるリエルに、コツンと、此方も頭を預けてみた。


勿論、リエルの表情を確認出来る位置取りを意識して。


「あううう…」


(表情的に嫌がってはいない。照れてる感じか? なら、あとは気さくなトーク……でもして……?)


広場を超えた通路上。その虚空に、ピンク色のロープがぶら下がっている事に気付く。


此方が気付いた事に気付いたのか、ロープは嬉しそうにゆらゆらと揺れだした。


そして、不意に響く声。


《いょーう 何か凄え進展してんな色男》


なるほど。突然声をかけると此方が驚くだろうという配慮故の行動だったらしい。


もし驚き無粋な反応でもしようものなら、この空気は瓦解してしまっていただろう事は想像に難くない。無駄に細やかな気配りである。


(さっきから、気を使わせて悪いな)

《いや気にすんな兄弟。実際、仲間と相談やらなんやらする必要はあったしな……まあ、時間の無駄っつーか、話し合いにもならなかったが》

(オイオイ……決裂でもしたのか?)

《いや、女々しくて話にならねえから見聞きした情報と、俺の推測だけ叩きつけてきた》


それは、決裂とは言わないのだろうか?


異心同体である以上、リョウはどう足掻いてもリンプファーの命令を遵守する運命にある。仲間と決裂するとなれば、その仲間が処理する予定だった作業を自分がこなす必要が出て来るのだろうかと勘繰る。


(異世界生活開始二時間で仲間が減って、俺が代替に就任とかいう流れは勘弁な)

《ブフッ……リエルを口説いて、猛る欲望と腰を叩き付けて繁殖行為すんのに忙しくなるんだもんなぁ?》


リョウは無言でポンッ!とロープを出して──


《オーケーオーケー俺が悪かった!! ちなみに物別れしたとかじゃねーから安心しろ。あちらさんがチト、ショック受けてただけな。あと話は飛ぶが、水分補給しとけ。異世界に来てから何も口にして無えだろ?》

(あー、確かに言われてみれば喉渇いたな。リエルがお茶持ってるらしいから頂くか)


押し付けていた頭を持ち上げ、この甘い空気を振り払うかのように軽く左右に振って見せた。リエルは此方の意を汲んだのか、ヒョイと顔を上げた。


「リエルさ……リエル。さっき話してたお茶、貰えるか?」

「! はい! 今差し上げますね!」


リクエスト通り、砕けた言葉遣いをしてくれた事が嬉しかったのだろう。鼻歌など歌いながらおもむろに袖口に手を突っ込むと、そこからズルリと水筒を引きずり出してみせた。


「!?!?!?」


それは周囲二十cm程の白い円柱形の水筒だが、勿論彼女の袖口はそんなに緩くはない。驚きながらも注意深く見れば、絞り袋状に尻すぼみな水筒が袖の中の黒い穴からズルズルと引き摺り出されているのが分かった。恐らく、物を小さくして違う空間に保存する魔法で、その出入り口が袖の中なのだろう。


《異世界あるあるのアイテムボックス的なやつな》

(便利だな。容量は無限なのか?)

《いや残念ながらそこまで広くない。せいぜいデカイ倉庫一つ分だな》

(それでも便利そうだな)


横でリエルがお茶を注いでくれている。白い水筒の蓋はコップも兼ねており、琥珀色の液体を並々と湛え、その美しい色を一層際立てていた。


《さっきの話の続きをするぞ》

(何の話だっけか?)


リエルがそっと差し出してきたお茶を受け取る。


「ありがとう」


《足首の痛みがすぐに引いた件だ忘れんな》

(その話か……怪我が治りやすい体質って事を言いてえのか?)


お茶を口に含み喉を潤すと、優しい甘味と仄かな苦味が口に広がる。喉を潤した後味にはからりとした香ばしい香りが鼻に抜けた。初めて口にした物という贔屓目を抜きにしても美味しいと断言できる。


「このお茶、凄く美味い……」


思わずこぼれ出た称賛の言葉に、リエルは満面の笑みで喜びを伝えてくる。聞けば、これは彼女常飲のお気に入りの茶葉であるらしい。遠慮無く一杯を飲み干し、お代わりを所望する。


《体内の怪我限定でな。具体的には軽度な内臓損傷・骨折・脱臼・捻挫その他諸々の骨関係、血管の断裂・梗塞だ。ただし体表面の傷……さっきの手の怪我みてえな外から見える外傷は別だぞ。魔術も使わないのに全自動で怪我が治ると周りからの追求が面倒だしな》

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