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亡者と喪失者のセグメンツ  作者: けやき
2章
103/132

43話 スライ・ハントゥ

「ふ〜♪ んん〜♪ ん〜♪」


障壁を踏み締め、全身で風を切り、キィトス国歌を鼻唄に。


「ふ〜♪ ──おっ? おおおっ!? そこらで戦闘始まりやがった!! ダッハッハッハッハッ!!!」


特殊も特殊。派閥間の軋轢、上長への配慮、第八の分類、各種思惑なぞ糞食らえ。


「転移用魔具が使えねえのは苛ついたが、漸く盛り上がってきたぜぇぇぇぇぇ!!!」


理不尽の代名詞である魔導士。その一柱。


「一番強え奴は、何処だあああああああああああ!?」


キィトス国第四軍団長。


技巧の「蹂躙」鬼。


スライ・ハントゥが、国有地に踏み込まんとしていた。


そして、長く、長く、長く伸ばした糸から放たれた探査。


それを眺めるのは、遥か遠方に座す魔導士。


「………………」


キィトス国第十一軍団長。


神敵の「殲滅」者。


リエル・レイスが、怒りにその身を震わせた。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


「ここ、第七区の国有地なんだけど。灯りも点けないで、『偽装(カムフラジェ)』まで使って顔隠して、表通りじゃなくてこんな所コソコソ通り抜けようって、相当怪しいよね? ね? ガルファン?」

「フフッ…………風の辿り着く場所。そこに我わ「そうだよねぇ!? てことはさ、たまたま(・・・・)ここを巡回警備してた俺等が、軍服を着てる不審者を捕まえるのは当然じゃね!?」

「………………ソッスネ」


またもや(カッコいいと個人的に思っている)言葉を遮られたガルファンが拗ねた。因みにリュデホーンのこの一連の茶番は「引き返すのならば見逃してやってもいい」と遠回しに伝えているだけであり、至極真面目な応対のつもりである。


「定命の下級兵が……」


他地区の暗部が妨害に来る危険性は危惧されてはいたが、あまりにも遠回しに過ぎるリュデホーンの伝え方に、単なる軽薄な態度の一兵卒と見たのだろう。これは明らかに、カシュナより不死の命を下賜された者からの、そうでない者へ対する侮蔑。同時に、己が上位者であるという示威であった。


端的に言えば「詳細な階位・階級は魔導士を秘匿する慣例がある為に明かせないが、俺は佐官級の選ばれし者だぞ退けや雑魚共」である。


「おい。よさないか」


二人組の内の一人が口から漏らしたその言葉に、もう一人が反応する。


その男は、そのまま言葉を続けた。


「君達! 所属も明かせない我々が怪しいのは百も承知だ! だがこれはキィトスの未来をより良くする為!! 今まで無能と蔑まれてきた者達を救う為の一手!! 新たな可能性を追求し──」

「へー」


「ならどうして正規の手続きを踏んでから部隊を堂々と動かさないんだよ」などとリュデホーンは考えるが、実際にこの男──ティグリの、本心からの言葉である。もっとも、残念ながら彼の上司はその技術を秘匿・独占する腹積りなのだが。


救いの一手など以ての外。それどころか成功した暁には、情報を有したティグリ達の命すらも排除対象となる。


「そう、正義の「正義! 正義だって!! ガルファン聞いた!?」

「はぁ…………この大声の演説が聞こえないわけが無いだろうが。久々に格下(・・)が相手だからといってはしゃぐな。少しは落ち着け」

「だってさぁ。姐さん達がしょっちゅう言ってるヤツじゃん」


ガルファンはうんざりしたように溜息を漏らし、相対する二人は僅かに顔を顰め──


「『正義と人権と平等を真顔で宣う奴は馬鹿だから殺して良い』って!」

「「…………!!」」


──顰めた表情を驚愕に変化させた。


「ん? ん? 何? どうかした??」


偽装(カムフラジェ)』を使っているため表情の変化にこそ気が付かなかったが、リュデホーンは敵二人の間に流れる空気が引き締まったように感じた。


「……察するに彼等も、その言葉を耳にした事があったのだろう。そして、その言葉を発した者も」

「あ。あ〜……アレ言ってんの、俺等だけじゃなかったってこと? マズイかな〜」

「今までの別の作戦で『偽装(カムフラジェ)』を使えとの指示が出された事も無し。彼女達も、我々の顔と所属を明かされる点について頓着していないのではないか?」

「そうかな〜」

「君達……」


ティグリが口を開く。


「君達は、まさか、リエ……あの二人が所有する、あの(・・)三一八小隊か?」

「ハッタリだ。どこぞの非正規部隊が、自分を大きく見せようとしているだけだろ」


非正規部隊と言っても一概には語れない。


各派閥内から定期的に精鋭が上納される第一・第二軍団や、何やら奇怪な研究の末に戦う力を得た第五軍団あたりが噂として有名だが、あくまでもそれは裏の事情に通じた者達の間でのみ。


三一八小隊は違う。


アネッテ・ヘーグバリとリエル・レイスが共同で所有管理する、汚れ仕事に特化した特殊部隊が存在するという噂は、民草の間にも広く知れ渡っていた。佐官以上の実力者のみで構成されたその部隊は老いを知らず、彼等を率いるのは魔導士を圧倒する程の怪物だとも。


しかし魔王の「半身」たるアネッテは兎も角、リエルは清廉な聖女として周知されている。リエルの名が連名で挙げられている時点で、下らない都市伝説であると彼女の本性を知らない世間では一刀に断じられていた。


「この二人と、此方に合わせて散開した他の連中がソレ(・・)か? 下らねえ。どちらにせよ、さっさと潰してしまえば終わる。そうだろ?」


愚かにもこの男は気付いていなかった。腐葉土と木の根が蔓延る大地には、当然ながら無数の枯れ葉や木の枝が散乱する。だと言うのに、先程からリュデホーンとガルファンは一切のスキル・魔術を使わず、一切の足音を立てていない。


如何に巫山戯た態度であろうが、身体に染み付いた技術・習慣は抜けない。それが血反吐を吐くほどに過酷な修練だったのならば、尚更のこと。


「ゆらり」と滑らかなフォームで構えを取りながら、男が殺気を放つ。


いつの間に装着したのか、両手では既に近接戦闘用の手甲が鈍い光を放っていた。


「………仕方無いね。お互い、こんな立場に身を置いて居るんだ。恨まないでくれよ」


「すらり」と細身の剣を抜きながら、ティグリが殺気を放つ。


先に動いたのは手甲の男。


足元の枯れ枝が「バキリ」と踏み抜かれる。


「蒼穹を支えし白き頂。其れは生まれ落ちる亡者──」

「むっ!? 里の護り手、断ち、擁き、渓谷を守護せし者!!!」


神聖魔法の呪文を詠唱しながら距離を詰め寄って来た敵に対し、ガルファンも無駄に力を込めた神聖魔法の詠唱を開始し身構える。


熟練した術者であれば詠唱をしながらの近接戦闘も不可能では無い。問題は、詠唱と言う極度の集中を要する状況下で、どこまで実力を発揮する手合いなのか……


「彼の贖いの地に座す守護の盾。此れは怨嗟の果てに果てる者──」

「三十の瞳、二十の槍、亡者の王を捻魂(けたたま)しく呪え!!!」


ティグリが一拍遅れて駆ける。リュデホーンは呑気にそれを待ち受ける積もりであるらしい。


『再誕の薄灰(うすはい)──』

『妄執の(かいな)!!!』


神聖魔法『再誕の薄灰(うすはい)』・『妄執の(かいな)』。


時代と場所こそかけ離れているが、前者は復讐者・後者は守護者と防御を司る者を詠んだ真逆の呪文である。


それは即ち、攻撃と守護。


世界の記憶より引き摺り出された攻撃。しかしこれは『妄執の(かいな)』によって消滅する。


「「…………」」


互いに驚愕は無い。


神聖魔法の使い手でなくとも、『妄執の(かいな)』が無効化呪文であることは知っている。


「さて、名も知らぬ敵よ。退屈させてくれるなよ?」


ガルファンは手甲の一撃を体捌きによって躱し──


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

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