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亡者と喪失者のセグメンツ  作者: けやき
1章
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9話 積極的な彼女と

(敢えて手助けしなかったって言いてえんだな?)

《本当は事前に教えてやるくらいはしたかったんだけどよ……襲撃者の件で、早急に仲間と情報の共有をする時間が必要だったからな。リエルが兄弟の出現座標に向かうよう手配をしていたから、最悪の結果にはならねえって分かってたってのもあるが、スマートじゃなかったな》


続けて、すまなかった。と、殊勝な態度を見せる神様に毒気を抜かれるリョウ。素直に謝罪の意を表する人間に追撃すると、こちらの格が下がりそうというのもあるが。


《ああ、それとさっき痛めた足首な、すぐに痛み引いたろ》

(言われるまで忘れてた。そういやあ痛みが引いてるな……これは、お前……お前?)

《どうした兄弟?》

(いや、二人称がずっとお前ってのもアレだろ? 何て呼べばいい?)

《兄貴とか、ブロウとかだな。やっぱ兄弟がベストか》

(お前の願望じゃなくて、名前を聞いてんだよドアホめ。てか凄えな。三つ言葉並べといて、全部同じ意味じゃねえか)

《冗談だよ兄弟。お互いがお互いを兄弟なんて呼びあってたら、読者の皆様が混乱するからなあ?》

(話してる内容の二割も理解出来ねえんだけど……んで? 結局名前は何て言うんだよ)

《一回しか言わねえぞ? ……リンプファーだ。リンプファー・キィトス。俺の名前な》


一回と言いつつも二回教えてくれた事を茶化そうかとも思ったが、何か違和感がある。すんでのところで踏み止まった。


(オーケー分かった。じゃあ、これからリンプファーって呼ばせてもらう……ってか、何か違和感あると思ったら、さっきリエルさんが「キィトス国」とか言ってたよな…………偶然か?)

《そりゃあどんな偶然だよ兄弟…………端的に言やあ、現魔王の親族ってトコだ。と言うか、何かの説明の途中だったよな?》

(俺がさっき痛めた足首の話だったろ)

《そうそうそれだ。っと! 説明は後だ。ここから少し状況が変わる。チョイ先のドア開けた先で休憩挟むだろうから、その時にな》


言い終わると同時に、リエルが立ち止まり告げる。


「あのドアを抜けた先に開けた場所があるので、そこで休憩にしましょうか」

「分かりました。お気遣いありがとうございます」


リエルがドアの前に立ち、何やら呟いている。


《ドア先の安全確認なう》

(なるほど普通に喋れやコラ)


「魔物は居ないようなので、開けますね」


リエルに続きドアを抜けると、そこは逆三角形の広場だった。


床には割れたガラスや木片が散乱している上、なにやらオブジェか展示品でも置いてあったのか、錆びてひしゃげた金属枠が広場の中央に鎮座している。


オブジェの残骸の更に向こうには四段程度の階段が有り、そこを境に歩道が敷設してある。これが逆三角形の底辺に当たり、更にその歩道を越えた先にはエレベーターらしき物が見えた。


どうやらリエルは逆三角形の頂点部分で休憩するつもりのようで、床の目に付くゴミを足で払い除け、どこから出したのか厚手の絨毯を敷いていた。ここならば左右後方が壁である為、前方にのみ注意を向けていれば良いという事か。


「どうぞ。冷えたお茶もありますよ」


好意は有難いのだが、敷いている絨毯はどう見ても一人用である。二人並んで座れない事もないだろうが……ないだろうがっ!


(リンプファー! 俺は! どうすれば! いい!?)

《いや普通に座れや……》

(おおおおおぅ任せとけ!)


横に。


座ると。


腕を絡められた。


Tっghっjっkjfせryっjっき!?!?


「あああああのリエルさん!? あのですね」

「リエルでいいですよ? それに、敬語で言葉遣いを繕わなくても結構です……」

「ああーあー、じ、じゃあ。リエル?」

「はい。なんですか?」


返事をしつつ、更に体を密着させんとするリエル。既に腕を絡める体勢から、腕を抱え込む体勢へとシフトしつつある。彼女の双丘もまた、押し付けられ変形しつつある。


「ああーと、その…その」

《お邪魔みてえだから、席外すぞ。返事は要らねえ》

(気遣いどうも!)

《だから要らねえっつってんのによ……》


そしてリンプファーはリョウの視覚情報を切断し、仲間の一人とパスを繋いだ。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


自室のベッドに座っていた彼女の頭に、声が響く。


《ようやく人心地ついた》

「待ってたよ。で、さっきの話の続きだけど、本当に間違い無くあの子なんだよね? 撒いたって言ってたけど、どうやって? ○○の術式から逃げるって、現実的に不可能だと思うんだけど?」

《ああ、それについての考察を──》

「闘いがあったのは力の波及で感じた。けど、それって、本当に考察? 逃げたなんて嘘でしょ?」

《…………質問の意図が見えねえ。分かりやすく、ハッキリ言ってみろ》


回りくどい質問の羅列だが、その実これは質問の皮を被った非難でしかないと、リンプファーは早々に気が付いていた。それも、確実にいわれの無い内容の。


(そういやあ、こいつは昔からこうだったか……七面倒くせえ……)


「本当は、あの子を殺したんでしょ? それを私に言うと面倒だから……だから、そんな──」

《アネッテ》


強く怒気を含んだ声で、リンプファーは言葉を切り捨てた。


《カシュナは瀬戸際で耐えているし、リエルは踏み止まった。なのに、お前がここで折れんのか? 共犯者のお前が? それこそ、今までのアイツ等の努力を侮辱する行為だろ………違うか?》

「でも! ○○は──」

《救済措置は用意してあった。その旨も伝えてあった。その輪から外れたのは○○○だ。だから、その話はここで終わりだ。ああ、いや面倒だからこの際ハッキリ言ってやろうか》


アネッテは「何を」とは聞けなかった。感情を整理し紐解く事で、自分の中でも本心が露わになりつつあったからだ。


《ぱっと見お前は○○○が可哀想と言いたいように見えるけどよ、実際のところ違うだろ。罪の意識で押し潰されそうな自分を守る為に……そうだな、アイツを盾にして俺に八つ当たりしてるってとこだろ? 時間の無駄だから俺の考えを伝えるぞ。勝手に凹んで、勝手に乗り越えろ。馬鹿が》

「……………………」

《まず、○○○が俺たちを目視で確認できる位置に居たのが──》


……………………


大丈夫。大丈夫。


私はまだ、大丈夫。


リンプファーの言葉はいつも正論だ。


今までの○○を救うために、今あの子を殺す。


世界中の人間を足蹴にしておいて、今更彼女一人犠牲に出来ないなど、虫が良すぎる。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

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