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介護が大変な認知症患者は赤ちゃんに再変態させるべきか?(『忖度なし! いきいきかいごの欄2084』より)

作者: 餅角ケイ


 介護の現場を変容させた『再変態』技術。今や全国各地の老人デイサービスでは、子どもたちの楽しそうな声が響いています。

 …………彼らの正体は「再変態によって体のみ(ヽヽ)を乳児または幼児にされた認知症のお年寄りたち」。いくら暴れても子どもの体だから抑えるのが楽、可愛げがある、など施設の職員からは肯定的な声が聞かれます。しかしその一方、倫理面などから反対意見があることもまた事実。


 今、"介護が必要なお年寄りの在り方"が問われています。私達は、この人類の摂理を揺るがしかねない技術『再変態』と、どう向き合っていけばよいのでしょうか。

 オンライン上の書き込みの質などもはやゴミでしかないこの時代だからこそ、あえてこのような手段で広く意見を募集したいと思っております。最低限の文体を成していれば、どのようなご意見でも構いません。


 投書される方は、

「主題」

「年齢」

「性別」

「本文」の順に記載の上、1面に掲載されております当社の住所までお送り下さい。本文の文字数は問いません。

 それでは、皆さまの忖度の無いご意見、心よりお待ちしております。




·······································


▽『大賛成です』(45歳・男)

 仕事をする傍ら母の介護をしています。再変態によって2〜3歳程の体になった母は、以前とは比べ物にならないほど介護が楽。この時代であろうと私のような低所得者は結局仕事をしなければ食べていけませんし、仕事と介護の両立を考えれば少しでも介護の負担を減らしたいと思うのは当然です。

 同じオムツ交換にしたって、80代の老体を相手にするのと子どものそれとでは肉体的負担も大きく変わると実感しています。また以前では腰を曲げて徘徊しながらブツブツ言っていた奇妙な喃語なんごに対してでさえ、子どもが頑張って発していると思うと愛着が湧いてきました。




▽『お年寄りバカにしてんの? って思う』(13歳・女)

 主題の通り。大反対だし、控えめにいって頭おかしいと思う。私はお母さんが仕事で忙しくておばあちゃんによく面倒みてもらってたけど、めちゃくちゃ優しくしてもらったからおばあちゃんのこと大好きなんだけど、3年前に認知症になってしまった。それでも、おばあちゃんが私を誰かとかん違いするようになっちゃっても、ティッシュとか食べるようになっちゃってもおばあちゃんのことは変わらず大好きだ。

 なのにお母さんは、大変だからおばあちゃんの体だけ赤ちゃんにしちゃおうって言う。介護のためにお母さんは仕事を辞めた。私は学校に行かなきゃならないからあまり手伝えないけど、最近はお母さんのグチが増えてきた。「もうほとんど頭も赤ちゃんみたいなもんだし、せめて赤ちゃんの姿ならまだ可愛げあるのに」って。


 ねえお母さん、あなたはその人に20年間育ててもらったんじゃないんですか? たった数年の介護が大変だからって理由だけで、あなたはおばあちゃんの尊厳を踏みにじるのですか?

 介護する人のエゴだけで勝手に赤ちゃん扱いするなんて酷すぎる。こんなに長く書いて批判とか来るかもだけど、長い人生を積み重ねてきたお年寄りをもっと敬ってあげてほしい。おぼつかないちっちゃな体でガラガラとか揺らしてるの見ると、とにかく見てて悲しくなる。賛成とかふざけたこと言ってる人たちは考えなおしてください。





▽『迷惑かけたくない』(73歳・女性)

 アルツハイマー型認知症当事者です。今は軽度ですが、物忘れもありこのまま悪化の一途を辿ると思うと非常に怖く、毎日怯えながら暮らしております。

 さて、今回のお題は非常に興味深いものであったため、ヘルパーさんの力を借りながら一筆(したた)めさせて頂きましたが、私のような介護される側の投書はかなり珍しいのではないでしょうか。

 結論から申し上げますと、私は介護してくださる方の負担減という点から、賛成です。経験のある方であればお分かりかと思いますが、介護にしろ子育てにしろ、人をるというのは大変なことす。しかしながら、まだ子育ての方が「だんだん大きくなってくれる。いつか子育ては終わる」と、成長への期待と約束されたゴールが見込めます。一方で介護をしていても終わりは見えません。ましてや被介護者に成長などあるわけもなく、日ごとにできないことが増えていき、ただ退化を見届けるのみなのです。私は15〜20年程前に認知症になった父を介護した経験がありますから、介護している方々のお気持ちは痛いほど分かります。


 今は便利な時代になったものです。嫌なことをされたところで、その犯人がお年寄りと赤ちゃんではまだ赤ちゃんの方が癒やされるに決まっています。再変態により、介護者の精神的負担が大きく減ると思います。ですから、私が重症化した際には、迷いなく再変態させていただいて結構と胸を張って言えます。迷惑を掛けてしまうだろうと、毎日申し訳ない思いでいっぱいです。日々介護にあたってくださる方々には頭が上がりません。誤字脱字がありましたら申し訳ありません。





▽『愛されるんだったらそのほうがいい』(59歳・男)

 幸い介護なんていらないピンピンしている身体から今の俺には無関係な問題だけど、もしボケたときに赤子の見た目にしてくれるんならば、そっちのほうがいいわな。

 シワシワの爺なんて見向きもしないだろ? だったらもういっぺん赤子に戻って皆から愛されるほうを選ぶね、俺ちゃんは。





▽『無題』(年齢未記載・女性)

 にんちしょうで、赤ちゃんになった人です まだかんぜんにはボケてません 。 がんばってかきました。

 休が赤ちゃんにされてから まわりの目があたたかくなったとお思います。まえは わたしが何かすると反のうがつめたかったけど、さいきんは笑ってくれます。きっとまわりのみなさんにとっては こっちのほうが  つごうがいいのでしょうね 。 でも気もちはふくざつです。 バカにされているような気がして ときどきかなしくなります





▽『殺人が増えないか』(38歳・女性)

 再変態させた父の介護にあたっています。

 私の父はいわゆる毒親というやつで、虐待まではいかないものの幼い頃からひとの私物や交友関係、進路にケチをつけられたり、酒の入った状態で八つ当たりされることもしばしばありました。

 そんな父が前頭側頭型認知症になったので、嫌がる本人を連れ再変態させることに。最初は万引きしたり、家でもうるさかったものの(空の焼酎ボトルを振り回す赤ちゃんの図はなかなかシュールでした)、最近はめっきり大人しくなりました。脳全体が萎縮した、末期だそうです。もうすっかり寝たきりの赤ちゃんです。

 ときどき、幼少期の父に対する恨みから「今なら殺せるかも?」という思いが沸々と湧いてきてしまうのです。実際に片手を首に添えてしまったことまでありました。……すやすや眠っている赤ちゃんの首を締めるなんていとも簡単にできてしまいますよね。


 今は夫にも協力してもらって正気を取り戻しつつ何とかやっていますが、とにもかくにも私のような人が増えないか心配なのです。直接的な殺人だけじゃない、もしかしたら姨捨おばすて山(例えが古すぎますかね?) ならぬ、赤子捨て山までできてしまうかもしれませんよね。赤ちゃんのデリバリーは簡単ですし、大変だから山にポイ、って。

 介護に革新をもたらした21世紀の産物・再変態技術。皆さまも様々な意見があることでしょう。決して再変態そのものに関する倫理面だけではなく、上記のような多角的視点に問いかけるような議論を望みます。




▽『結局資本主義』(72歳・男性)

 再変態再変態って、気色悪い言葉を堂々と掲載している新聞に失望。昨今社会全体の質の低下を痛感させられる。日本の将来をこんな若者らに託して大丈夫なのか? 体の赤ちゃん返りに積極的な識者(笑)共よ、再変態させるべきはボケ老人でなくお前たちの頭の方じゃないのか?とツッコんでやりたい。

 連日メディアを騒がせているこの話題、もうウンザリ。もはや生まれて弱って死んでいく人間のことわり、DNAに対する侮辱に他ならない。そもそも、タダではできないこと。莫大な金がかかるだろうから、その恩恵を受けられるのは上級国民とその子孫だけ。いつの時代も貧乏人が損をする。不毛な話だ!




▽『無題』(90歳・性別未記載)

 そんなことされるくらいなら死んだほうがマシ。





·······································


 沢山のご投稿、誠に感謝申し上げます。さて、貴方の意見に最も近いものはありましたでしょうか。当社ではまだまだ同テーマでの投書を広く募集しております。未投稿の方々は、ぜひとも要項を確認の上当社まで熱い思いをお聴かせください。それでは引き続き貴方の忖度の無いご意見、心よりお待ちしております。


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[一言] いでっち51号さんから素敵なお話があると教えていただき読みにきました。 とっても面白かったです! 読んでいて本当にありそうといいますか、どの声もリアルで読んでいて引き込まれました。 でもやは…
[良い点] たぶんエッセイにしてしまったら苦くなり過ぎる現実的な問題に、SFのミルクをちょいと混ぜて、程よく飲ませるエスプリの利いたエスプレッソな作品です。 読んで「自分ならこう投書するかな……」と…
[良い点] 文体の使い分けと客観的な視点がすごいです! [一言] 私こういうの大好きです〜! 面白い上に考えさせられる、ケイさんの引き出しの多さにあらためて惹きつけられております。 そして同じような…
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