2話 出会い
世界フレア。炎の世界。炎の世界と言われるのは、様々な説がある。
炎が世界を包み、焼け、千年の時を経って新たなこの世界が生まれた、など。
炎の神が炎の魔力を盛大に使ってこの世界を創作したなど。
燃え尽きることを知らない炎の闘志をもつ戦士が世界に蹂躙していた悪竜をたった一人で退治したから、など。
真実は不明。
そんな世界を愛する者の一人。
少女の名はアスカ。
少女は魔法剣士である。
少女は恋に落ちた。一人旅をしている最中、魔物に襲われて命を落としそうになった時、一人の男が助けてくれた。
もう、駄目だ、と諦め覚悟もした。その時に信じられない光景が目の前に広がった。
瞼を思わず閉じてしまい、強い風がふいたと思ったら、それは表現で、実際は男が現れていた。
自分をかばうように前にいて、次の瞬間動いていた。
自分に来るべきだった魔物の凶牙を防いで、そして、攻めに入ったのだ。
勝負はすぐに決まった。
男は3回ほど剣を振るっただけ。まるで赤子をひねるように、軽々と自分を殺そうとした魔物を殺してしまった。少しゾッとするほどの強さ。
決して相手の魔物は弱くない。
この世界の中では10中7くらいの強さをもつ魔物だった。
それを、まるで準備運動程度の気持ちで葬ったという印象を感じた。
「……」
アスカは、自分が助かったという気持ちよりも、助けてくれた男の方に強く意識を向けていた。その時になつかしい気持ちが湧いていた。今よりももっと少女の時、同じ年の憧れていた少年に対する気持ちと同じもの。
男は何も言わず、助けた少女に顔さえ見せず、そのまま立ち去ろうとした。
アスカは自分の世界に入っていて、声をかけることを忘れていた。
「ま、待って――!」
やっと我に返った時、男は結構先まで進んでいた。
ちょっと腹が立った。
「待てよ! 勝手に人を助けといてどこ行くんだよ!」
なんか言葉がおかしい。
助けてもらって、助けてくれた相手に吐く言葉だろうか。
男はそれで振り返らなかった。まさか聞こえてないということはないだろう。
いい加減頭にキテ、携帯食の干し肉を投げつけた。
ベチッみたいな音がして、男の後頭部に見事命中。そして、ボテッと肉が落ちた。
男がついに止まり、振り返った。
そして、落ちた肉をおもむろな動作で拾い食べた。
「――違うだろ、それは!!」
アスカが高い声を上げた。男の行動があまりにも理解不能だったから。
アスカはずんずんと男に近づいて、
「助けてくれたんだから、お礼くらいさせろ! ああ、その肉がお礼の言葉代わりでもいいか」
顔を赤くさせて、一気に言ってのけた。
男は即行で肉を食べ終え、この時初めてアスカを見た。
「……」
男の右頬には大きな切り傷があった。なかなかの男前で、女性から人気を得そうだった。身長は少女より少し高いくらいで、長身というほどではないが、雰囲気と単純に容姿で女性はトキメクだろう。
アスカが男の反応を期待していたが、男はやはり無言で、
「……」
背を向けて行こうとするのだった。
「待たんかい!!」
少女の叫びが世界の平地に響く。




