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かみぐらしっ!  作者: 葵・悠陽
第1章 『奈落』の底の創世神
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第8話 君といる世界

予定通りに最初の10話で一つの区切りになりそうです。

流れが予定通りなのは僕にしては珍しい。


 最近妙に眠い。


 体調はすこぶるいいんだが、突然妙に眠くなる瞬間がある。


 しばらく前、と言っても体感的なものだがフィオの膝枕で眠ってから、だろうか?


 普段から基本的に暇があればフィオと話しをしているからいまいち時間がどのくらい経ってるとか分からないんだよな。


「まさか定期的に幼女の膝枕を欲する眠りの呪いとかじゃなかろうな?」


「なんだいその変態さんしか喜ばないようなピンポイントな呪いはっ!

で、流れるようにボクの事を幼女呼ばわりとか毎回膝枕してあげてる太腿さんに謝れっ!」


「腹が立つことに最高の安眠を約束してくれる辺りが腹立たしい……。

社会的に永眠させられそうなネタなだけに素直に礼も言い難い……」


「まったくもう!

最近はすっかりボクの膝枕に夢中なんだからいい加減自分が幼女呼ばわりする神様の太腿にご執心の変態ロリコンさんなんだって認めたらどうなんだい?」


「意識が飛んで目が覚めたら結果論的に膝枕されてるだけだろうがっ!

俺から求めてるように聞こえる発言はやめてもらおうか?」


「ひゃああああ!!痛い痛い!暴力はんたーい!」


 ドヤァっ!という顔でこちらに流し目を送るフィオを捕獲しそのこめかみを拳でぐりぐり。


 魂の状態でもぐりぐりすると痛いらしい。


 ……まぁ不本意ながら太腿の柔らかさに安心感を得ているのは確かなので触感はあるのだろう。


 原理は分からんが。


 なんというか、顔も名前も思い出せない母にああして膝枕された日々もあったのだろうか?などという益体のない事をつい考えてしまうくらいには心が落ち着いて……はっ!?


「ニヤニヤニヤニヤニヤ」


「だから勝手にこっちの思考を読むんじゃねぇっ!!」


「だだ洩れな思考がいけないんですぅ~♪

心を無にして思考と外界を遮断するくらいは精神体には必須技能ですぅ~♪」


「うぜぇ!ついでとばかりにむっちゃムカつく顔しやがって!」


 こんな風にギャーギャー騒ぐのが習慣化しているのはどうなんだろうと思わなくも無いんだが……フィオと二人、飽きもせずに騒がしい日常を過ごせているというのは良いことなんだろうと思う。





                ■


「で、今日はフィオの世界の話を聞かせてくれる約束だろ?」


「うーん、と言ってもボクの世界は何度も言うけど君の世界程驚きや不思議に満ちてないと思うよ?

ボクが創った世界だし、確かにボクの想像を超えるものもたくさんあったけどそれは君の居た世界だって同じだろう?」


「それはそうだけどさ、そもそも神様ってどうやって生まれるもんなのかとか、どうやって世界を創ったとか、興味深い話ならいくらでもあるだろう?

禁則事項とかに引っかかるから秘密だって言うならあえて聞かないけどさ」


「禁則事項って……世界創造の秘密を知ったら罰則なんてルールがある世界でもあるの?

そもそも創世神以外に世界創造なんて出来ないでしょうに」


「それな」


 俺の世界の事は文化でも習慣でも貪欲に何度でも聞きたがるフィオではあるが、不思議と自分の世界の事は語りたがらない。


 別に自分の世界を語りたくないわけではないんだと思う。


 話を振れば口ではあまり面白くも無いよと消極的な素振りだが「話聞きたいのかなぁ?」的なちょっとウザ目の仕草を見せるし。


 今も自分の世界に興味を持ってもらえたのが嬉しいようで若干頬は赤いしそわそわしているから少なくとも言うほど話すのが嫌なわけではあるまい。


「ひ、人の仕草や顔色で思考を読まないでくれるかなっ!?」


「普段俺の思考を勝手に読んでいる口で何を言うか」


「痛いところをっ!」


「まったく……『親しき仲にも礼儀あり』って言ってだなぁ?

親しくなったからって遠慮がなくなると、それが原因で喧嘩の元にもなるんだぞ?」


「そんなっ!?ボクはこんなにプリチーな神様なんだよっ!?

き、嫌いになったりなんてしないよ……ね?」


「フッ、それはどうかな?」


「いやああああああああ!

ヤダヤダヤダヤダ嫌われるの嫌ぁっ!

お話しするから嫌ったりしないでぇ~~~~っ!!」


 突然滂沱の様な涙を流し、フィオが文字通り飛び掛かってくる。


 端正な顔は涙と鼻水まみれでぐっちゃぐちゃで、せっかくの美貌が完全に台無しだ。


 ……ちょっと怒っちゃうかも的な空気を匂わせただけなんだが……。


 なんだろう、この微かに感じる危機感というか焦燥感の様なものは。


 ……気のせいだな、うん。


「分かった、分かったから……んじゃせっかくだし色々話してくれよ。

フィオの世界の話、聞きたいなぁ~」


「えぐっ……ぐすん……うん。

し、仕方ないなぁ、あまり面白くない話だと思うけど、そんなに聞きたいんじゃ話してあげないわけにはいかないねっ!」


 泣いた烏がもう笑った、とでも言えばいいのか。


 あっという間にご機嫌になった彼女は静かに語り始める。




「最初に『混沌』があったんだ。

『混沌』はこの世を構成する万物の根源力の塊でね。

君の世界の物理法則で言うならば、プラスであり同時にマイナスでもある、矛盾を内包した『力』という『概念』そのものとでも言えばいいのかな」


「まったく意味が分からないな!」


「言葉にするのは難しいからねぇ、この説明もかなり大雑把だし。

ま、『混沌』っていう『力の塊』があったんだって思っておくれよ。

『混沌』はある時前触れもなく渦巻き始め、渦の中心に凝縮された『混沌』の塊が生まれる。

渦は際限なく『混沌』を圧縮していき、ドカンと大爆発を起こす。

その爆発の中から生まれたのがボクさ」


「はいせんせー、質問です。

なんで生まれる前にそこに渦があったとか爆発したとか知ってんの?」


「爆発した『混沌』は拡散したわけじゃないんだよ。

表現として爆発って言っただけで。

ボクが『混沌』そのものであり、広がった力の波動とでもいうべきものが周囲に『無』の空間を生み出しこの世界のベースになった、って言えばイメージしやすい?」


 ふむ、拡散していた『混沌』が渦巻いて凝縮されることでフィオのベースを生んだって解釈でいいんかね?


 爆発の刺激でフィオは自身を自覚したってとこか。


 こちらの解釈を読み取ったのか彼女はうんうんと頷くと


「まぁそんな感じの解釈であってるよ。

ボクは意識を持ってまず最初にこう思ったわけ。

『ボクは何者なんだろう?』って」


「どこの世界でもまず始めは自己定義からなのね……」


「そりゃそうさ、自分が何者かわからなかったらそれは自分が存在していないって言っているのと同じことになるからね。

『自己』の認識を持つことが世界と自分とを分かつ為の第一歩、それは今の君ならよく分かるだろう?」


 フィオの言葉は今の俺にとっては非常に重い言葉だ。


 『名』を持たない俺が『俺』と自己を定義し得るのは今目の前に居るフィオの存在が在っての事。


 真っ暗闇のこの『奈落』の底で、『名』を失ったまま寄る辺も無く他者を認識できないで居続けていたなら、仮に『魂』が砕け消えずに残っていたとしても、遠からず自らの『存在』を見失っていたことだろう。


「『無』の闇の中、ボクは自分という存在を疑問視した。

それによって思考という概念が生じ、思考することで今度は意思が生じる。

後は芋づる的に思考が新しい概念を生じさせていってね。

ある時ふと思ったんだ。

『こんな何もないところで漠然と思索に耽っているのには何の意味があるのか?』って」


「そりゃまた随分と哲学的な発想だなぁ?

そもそもフィオしかいなかったんだろ?

なのにどうして『まともな思索』が出来たんだ?」


「うーん、そもそも『混沌』ってのは矛盾そのものと言えなくもないから。

確かにボクは独りだったけど同時に無限に存在していたともいえるからさ」


 これはあれだな、『神』の視点、って奴だ……。


 言葉としては頭に入る。


 でもそれを意味として噛み砕こうとすると何言ってるのかさっぱり分からん。


 2次方程式がろくに分からないのに3次関数についての説明を聞かされている気分とでも言えばいいのだろうか?


「ごめんね?

感覚的に理解していても、君に伝わる言葉で表現ができない。

あくまで近い言葉で表現して今みたいな物言いだから」


「いや、理解できないという事が理解できるだけでも収穫だから問題はないぞ」


 知ろうとすることがまず大事だからね、相互理解の為の第一歩だ。


 俺も職場で……あれ、職場で、なんだっけ?


「大丈夫かい?

聞いてて楽しくない話なら別に中断しても構わないよ?」


「いや、気にしないでくれ。

今何か考えてたような気がするんだけど、なんか思い出せなくてな。

ま、どうでもいい事だったんだろう」


「……そう、分かった」


「ん?

何をそんなに辛そうな顔して……あ!

す、すまん、そうか……フィオの思い出話を聞くってなったら、ヤツの話もするってことだもんな。

いくらフィオは気にしてないって言っても、ちょっと不謹慎だった」


「へ?

い、いや、あの子の事は本当に気にしてないから!

大体、あの子は昔っから気が短くて結構いろんなことを根に持つ子だったしっ!?」


 なんでそんなに泣きそうな顔で否定するのか。


 別に責めているつもりじゃなかったんだけどなぁ。


 あ~、なんだろう、ちょっと眠気が……


 フィオの話を聞いてい……る…………


「ううっ……」


 そん、な、泣かないで……


 目の前がグラグラと揺れたかと思うと、どうにも瞼が開けていられなくなる。


 まだ話し中なのに、と眠気に負けそうになる自分を叱咤するも、耐えがたい睡魔が俺の意識を容赦なく眠りの中に引きずり込んでいく。


(起きたら謝って、続きを聞かせてもらおう……続き?

……一体何の?

俺、は……)


 何かがボロボロと欠けていくような、握りしめた砂が掌から零れ落ちるような、言い様のない喪失感を自分が何故感じているのか?


 理由も分からないままにただ不安だけを胸に残して、意識は途絶えた。




                 ■


「ダメだ……このままじゃ、このままじゃもう……」


 ここ最近頻繁に意識を失う男の『魂』を抱きかかえながら、フィオは独りごつ。


 『奈落(ゲヘナ)』の底に男の魂が落ちてきてから既に()()()()が経過している。


 人間の魂が磨滅しきって消滅するまで平均で約170年。


 その事を考えれば元は一度砕けた魂だとは思えないほどに男は健闘していたといえる。


 もちろんフィオの無意識の加護あっての事であるのは間違いない。


 それでも1日の3分の1を睡眠に充てねばならない生身と違って常に意識を保ったままの350年というのは、実際には約500年に匹敵する密度を持つという事を失念してはいけない。


 既に男の『魂』には自覚あるなしを問わずいくつもの異常が生じ始めていた。


 睡眠と認識している『意識障害』


 肉体は既に維持できずにいる事すら気付けず。


 少しづつ、記憶の欠落が増えている事も認識できずにいる。


 消滅していないのが不思議なくらいなのだ。




 そして今、自分の目の前でボロボロになっていく『魂』を抱きしめながら一人の神が決断を迫られていた。




 男の『魂』が消滅するのを静かに見届けるか。


 それとも……


「……このまま消滅なんてさせない……もう、嫌なんだよ。

君と居た時間を抱えたまま、この闇の中でこれからもずっと独りぼっちだなんて……」


 普段の快活な彼女の笑顔からは考えられないような、暗く澱んだ瞳で女神は呟く。


『君は、ずっとボクと一緒にいるんだ……。

勝手に消えちゃうなんて、絶対に許さないよ……?」


 抱きかかえたボロボロの魂を愛し気に撫でながら、浮かべた笑みには、確かな狂気が宿っていた。




 『神』という存在は正しく理不尽である。


 ギリシャ神話然り、北欧神話に然り、聖書に然り。


 人間に理解が及ばぬ理屈で勝手気ままに世界を振り回す存在なのだ。


 世界より先に生まれようが後に生まれようが、その本質は変わらない。


 男の『魂』は、気付くべきであっただろう。


 彼をこの世界へ引き込んだかの『クソ神』を『創った』のは()()()()()()という事は、すなわちフィオにもかの『クソ神』同様の理不尽さを抱えているという可能性に。


 それに気づかぬまま、気付けぬまま、フィオの歓待を受け入れた段階で彼の運命は既に決していたともいえる。






「あぁ、そうだ、そうだよ……!

ちょうどいい方法があったじゃないかっ!

ふふふ……大丈夫だからね?

ボクが絶対君を助けてあげるから……消滅なんてさせてあげないんだから……♪

ふふっ……ふふふふふふふふふ……………♪」



フィオ「うわぁ、こうしてみるとボクって結構やばい神様?」

おっさんの魂「なんというか、ボッチ喪女が初めてできた彼氏を逃がすまいとヤンデレ化する話を見ているような気がするのは気のせいか?」

フィオ「誰がボッチ喪女だよっ!

じゃ、恒例の次回予告だよ~。

もうすぐ答えが出るね

結局ボクって寂しがり屋だったんだ

自分のいるべき場所があるって、いいなって

いるべき…場所?

君とボク、二人の居場所、ボクは守れたらいいなって

『第9話 憐憫の代償』

目覚めろ、その魂」

おっさんの魂「アギ〇かよ」


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