第6話 魂が還る場所
ご来場ありがとうございます。
読んでもらえるという事が嬉しい。
書けるという事がまた嬉しい。
「宗教、ねぇ?」
「フィオだって神様なんだろう?
それも創世神だって話じゃないか。
自分を崇められたりとかしなかったのか?」
いつもの様にフィオとの他愛のない話をしている時、ふと思い立って聞いてみた。
別にだからどうしたって話題ではあるが目の前に神様がいるんだ、聞いてみたら面白い話でも聞けるかもしれないと思っただけだが。
「あ~……そっか、『君』の世界の神たちって後天存在ばっかりだから自己肯定と存在維持の為の信仰が要るんだぁ。
その宗教、だっけ?
■■■・■■■■辺りが好きそうな組織だね。
ボク、あんまり崇められたり遠慮されるの好きじゃなかったからさ?
世界を創った頃は『四聖天』……あ、この世界の管理を任せた存在ね?に世話させてたから、あんまり意識しなかったかも」
「なんというか、世界密着型とでもいうのか?」
「ふふん♪だってボクの創った世界だもの。
存在全てが全部全部可愛くて愛おしくて仕方がないのさ♪」
「依怙贔屓しないのは素晴らしいなぁ」
「も、もっと褒めてくれてもいいんだよ?」
(チョロいところが無ければ完璧なのになぁ……)
「思考漏れてるからっ!!」
宗教、それは人知を超えた力を持つ存在を超えた存在を中心に据える観念であり、その観念体系にもとづく教義、儀礼、施設、組織などをそなえた社会集団のことを指す事もある。
人間というモノは何か自分の分を超えた出来事に遭遇すれば『神頼み』をしてはその超越存在に縋り、祈りを捧げる事で己の心の拠り所として精神の安定を求める。
理解できないモノに対して本能的な恐怖を抱く人という種が『未知』や『神秘』と向き合えばそこに『宗教』が生じるのはある意味で自然な事だ。
ま、そもそもの問題として俺達の住む世界では『神』というモノは概念上の存在であり、視たり触ったり話したりできるものではないのでその実在を明確にする事には相応の無理がある。
あ~、一部宗教関係者は『神』の実在を盲目的に信じ布教活動を通じてその実在を声高に訴えているが……例えば一神教の神様で他の神様の存在を否定する様な輩が実在するなら信徒にやらせず自分で動いた方が早いと思うんだよな?
なので俺はそもそもの話『神様』なんて存在は自分の中にしか存在しない指向性をもたない『概念』そのものと考えていて、既存の宗教に迎合する意志はさらっさらなかったりする。
もちろん、今こうして目の前に『かみさま』が存在する以上『そうでない存在』の『かみさま』もいるんだなぁ……と驚きも感じる。
そして、こうして実在の『神様』というモノが存在する世界ならきっと宗教関係者は俺の居た世界よりも楽しく宗教出来るんだろうなぁ、って感じるわけだ。
なんせ本物が居るわけだからな。
「あ、大前提として確認しときたいんだが、この世界の住人ってのはフィオが創造したのか?」
「ううん?
ボクが創造したのはあくまでこの世界っていう器と環境だよ。
生命が生まれる下地、とでもいうのかな?
草や木、動物や精霊、そして人間たちはその結果として生じた生命体だよ。
『四聖天』が小間使いに自分たちで創造した種族もいくつかあるけど、基本的には自然発生するに任せたんだよ~、っていうか君の属する『人類種』だって元の世界では自己進化の果てに発生した種族だろう?
世界の違いはあれ、君の話を聞いた範囲ではかなり似た存在だと思うけど」
「それは興味深い話を聞いたな……」
なんと、この世界の『人間』は『メイドイン神』ではなくナチュラルボーン!らしい。
ついでにフィオの判断では俺達の人類もナチュラルボーンっぽい。
「『人類』の発祥に関しては諸説紛々だから実際は俺んとこの世界の『神っぽい何か』が創ったのかもしれないぞ?
他にも突然変異説とか宇宙人が遺伝子改造した説とか猿から進化したとか色々説はあるし。
……もちろん信頼性とかは知らんぞ?
俺、学者じゃないし」
「宇宙人!
ほんっと君の居た世界の人類は信じられないくらいに考察と想像力に溢れているんだねっ!
この世界には魔法があるから君の居た世界より遥かに宇宙進出は楽なはずなんだけど……
ボクの世界の『子供たち』は闇を切り払い、星の海を旅するレベルまで文明を高められているかなぁ?」
ここからだとボクの世界の様子は観察できないのが悔やまれるよ~と愚痴るフィオだが、己の世界を語る時の彼女は本当に嬉しそうな顔で話す。
その笑顔は子を慈しむ母のようであり、年少者の振る舞いに一喜一憂する姉の姿の様であり、どう見ても見た目幼女は姿からはイメージしにくい優しさと貫禄に満ち満ちている。
「本当にフィオは自分の世界で生きる存在達が好きなんだなぁ。
自分を殺したクソ野郎に対しても怒りを感じてないし……」
「ふふっ、そりゃあね♪
達観できる程度には長生きもしてるし?
何よりね……初めて知的生命が生まれた時の感動は今でも忘れられない思い出だよ。
特にね?『自然の中から』自然に生まれた存在がボクそっくりの姿身だったのを見た時のボクの衝撃と喜び、分かるかなぁ?
そんな沢山の生命の奇跡を見てきちゃうと、あの神の反抗くらいじゃ怒る気にもなれないさ」
「あ~~~、それ、分からなくもないな。
フィオは懐深いもんなぁ……奇跡の生命の誕生に立ち会おうもんなら確かにむっちゃ喜びそう。
んで、余計な祝福とか与えそう」
「んなっ!!
なんで分かったの!?」
「与えたんかい……」
「う、うん。
おサルさん程度の知恵しかなかったから、経験と努力次第で賢くなる『可能性』を……」
「おおぅ……」
人類史の謎(あくまでこの世界のだが)が一つ解明された瞬間だっ!
知恵の実を喰わせた蛇はフィオだった!とキ〇スト教関係者なら糾弾しそうなネタだなぁ。
「とはいえ、創世神が実在したタイミングでは宗教って観念は成熟しなかったわけか。
その、なんちゃらって奴……あぁ、あのクソ神か。
名前覚えなくてもいいや。
そいつがフィオが居なくなった後にでも世界の住人に強制してそうだな」
「ボクとしては世界に生きる者たちが望んでそういう観念を得たのなら祝福したいけどね。
もし無理矢理押し付けたりしての結果なら嫌かなぁ。
……ま、どうにもできないけど」
「俺のとこの世界だとさ、『社会』や『死後』の不安から宗教は爆発的に拡散、発達したのよ。
辛い、苦しい、助けて欲しい、っていう現世救済の求めと、死んだ後にまで現世の様な苦しみがあるならやってられないという不安」
「はぁ??生きてるうちから死んだ後の心配するの?
想像力豊か過ぎない?それって。
死んだら魂は『生命の源』に還るだけなのに」
「なにそれ?」
ニュアンス的には何となくわかる。
何となく仏教でいうところの輪廻転生的な響きがあるな。
「単純に生命って言うけど、命って『魂』とそれを入れる器があって初めて生命と言えるの。
で、あらゆるものは存在する限り摩耗したり消耗する。
器が消耗すれば君等が認識できるところの『死』という状態になる。
その辺は分かるでしょ?」
「器ってのが肉体と考えるなら理解は出来るかな」
「うんうん。
肉体だったり器と言った物質的な存在はいつか『死』を迎える。
それは『魂』も例外じゃないんだ。
『魂』だって基本的には不滅じゃないからね。
岩が風に吹かれて朽ちていくように、『魂』も生きる過程で摩耗していく」
フィオのその言葉に、ズキンと頭の奥の方に痛みが走った。
『そう■■ば我の■護を拒絶し■汝も……魂が磨り減っ■■■■お■な』
脳裏に浮かび上がるのはあのクソ神が偉そうに宣わった言葉。
ところどころノイズが走ったように正確には思い出せなくなっているが……奴に確かに言われた覚えがあるな。
『魂が磨り減っている』と。
「死んだら魂はその『生命の源』ってところに行くのだとして、その後はどうなるんだ?」
「どうもならないよ?
『生命の源』に還った『魂』は溶け合って無垢な『魂』へと戻り、新たな生命として再び生まれ出でる時を待つの。
その過程で摩耗が激しい『魂』は他の『魂』と溶け合って結びついたり、生前の記憶なんかを……分かりやすく言えば洗い流す?みたいな?」
「それって、『輪廻転生』みたいなことは起きえないって事か?」
「プッ!
『輪廻転生』?
死んでまた生まれ変わるのに、生前の人格維持まで?
何の意味があるの?それ」
フィオの言葉通りなら天国やら地獄なんてものは存在しておらず、死んだら魂は漂白されて生まれ直すわけで、死後の世界やらを語ること自体がナンセンス、と。
そして『来世でまたね』的なトキメキ展開も無し、と。
「う~ん、夢も浪漫もないな……」
「生きている事、それ自体が奇跡なのに死んでまで奇跡を求めたがる神経が驚きだよ?
想像力豊かなのは良いことだと思うけど豊か過ぎるのも問題なんだねぇ」
「死後の世界が否定されるなら宗教的な活動は現世利益中心になるわけか?
……あのクソ神が現世利益?
差別に塗れた宗教がはびこってそうな予感しかしない……」
「怖い事言わないでおくれよ、不安になっちゃうじゃないか。
確認することできないんだよ?
ボクには信じる事しかできないんだからさ。
あの神だってちょっと性格はアレかもしれないけど馬鹿じゃない……よね?
あれ?どうなんだろ??」
「少なくともまともな神経はしてないと思うぞ?
思い出すとイラつくからとりあえず大丈夫じゃないと信じておこう」
「そう、だね……うん、きっと大丈夫じゃないね!
……あれ?
今なんかおかしくなかった?」
はっはっは、それは気のせいに決まってるじゃないか。
それにしても、と俺は先ほどまでの会話の内容に一抹の不安を覚える。
『魂は摩耗する』
生きている以上、魂は摩耗していくのだそうだ。
そして、俺がここに堕ちる前。
『俺の魂は磨り減っていた』のだ。
それは、神ならぬ只人の俺はいつか魂をすり減らして消滅するかもしれないという可能性。
何時までも、こうしてフィオとくだらない話に興じていられないのだという未来確定図。
俺は、一体いつまでこの幼い姿の優しい神と同じ時間を過ごせるのだろうか?
俺が消えてしまった時、この寂しがり屋の神様はどうなってしまうのだろうか?
一歩先も見通せぬ闇の世界。
この世の害悪の吹き溜まりたる『奈落』
ここに、俺は彼女を一人残して消え去る。
いつか、その日は確実に来るのだと俺は自覚してしまった。
「……大丈夫だよ。
ボク、ずっとずっとず~~~~~っと、ここで一人ぼっちだったんだよ?
だから、何の心配もいらないさ」
黙り込んでも俺の思考はこの神様には駄々洩れだ。
考えていることをそっくりそのまま見透かされて、俺はフィオにぎゅっと抱きしめられる。
「……もうちょっとプライバシーとか考えろよ」
「君が優しいのがいけないんじゃないか。
ボク、嬉しくて泣いちゃうかもよ?」
「……幼女を泣かせるようなシーンは事故案件でーす」
「大丈夫だよ、ボクはずっとそばにいる。
だから、『生命の源』に還る日が来るまで、君が君で居られる間は傍にいておくれよ。
そして、もっともっと、沢山お話を聞かせておくれ?
ボクは絶対に君を寂しくなんてさせないから」
静かに心に沁み込んでくる様な、優しい声。
脳が痺れるような、どこか甘い感覚に身を委ねながら俺はこの幼い姿の『神様』と時を重ねる。
そう遠くない未来に来るだろう、終わりに向って。
フィオ「次回予告って次の回が書き上がってないと正確なものにならないから毎日更新の人だとストックが切れた時大変なんだって」
おっさんの魂「またそういうネタを拾ってくる……それ以前の問題として、俺さぁ、前回の予告の際に前の話の内容を軸に会話してた気がするんだが作者はとうとうボケたか?」
フィオ「さぁ?その辺はボク知らな~い♪
生命、それは祈り、それは祝福、そして困惑
『怒らないから正直に言ってくれ』
『他ならぬ君自身の事だもの』
孤独なんて、知りたくなかった
次回、かみぐらしっ!『第7話 心を侵す甘い毒』
君はそこにいるかい?」
おっさんの魂「今回はファ〇ナーなんか~い……」