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かみぐらしっ!  作者: 葵・悠陽
第4章 『奈落』に吹く血風
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第51話 割とどうでもいい話その2

トップバッターは彼です。


「では誰から話す?」


「ワシカラハナソウカ」



 何時もの様にのんべんたらりとくだらない話をかぁさまとしていたところに、サウナあがりのご近所神3柱が通りかかった。


 空気を読まないかぁさまが、『奈落』墜ちした『神』である彼らの過去を尋ねるというデリカシーの無い発言をしてくれた為、彼らの気分を害するかと心配したのだけれど……


 意外にも身の上話を聞けそうな流れになった(ちょっと驚いた)。


 これまで大雑把にしか知らなかった彼らの過去が語られる。




         ■  ■  ■


富の偏重者(グレイトフルボンビー)』ゲジュルベリアの話


*彼は片言でしか話せない為、今回に限り『翻訳状態』での会話となります。



「さて、トップバッターはワシじゃの。

ワシの生まれた世界はエル・フィオーレ殿達には『鬼』と呼ばれる有角族の者たちが民族の主たる世界でな、名を『キルテック』界という。

主神は『天空鬼神』ザーナックという方での。

天突く大巨鬼神で、7本角のご立派な御神じゃ。

かの神を筆頭に12鬼神という上級神がキルテックを守護しておる。

その他の神はまぁ、下級神という扱いじゃな。

ワシもそんな下級神の一柱として生まれたのじゃよ」


 キルテック界は鬼たちの世界。


 みな筋骨隆々で肉体的に優れた者達が多く、『力』を美徳とする風潮が強かった。


 『力』を賛美するからと言って脳筋だったり馬鹿というわけではない。


 上級神たちの加護により強力な加護を得ている彼らは、なかなかに高度な文明社会を築き、発展と続けてきた。


 ゲジュルベリアが生まれたのはそんな彼等の世界が高度経済成長期を迎えたころ。


 社会に蔓延する『富』の偏重による貧富の差が、『自分も富を得たい』『どんな手段を使ってものし上がりたい』『貧しい生活なんてクソ喰らえ!』という人々の想いが、彼を生み出した。


「はじめはの、こいつら何を言ってるんじゃ?という感じで意味が分からんかったのよ。

『欲しい』『羨ましい』『嫌だ』という不満ばかりがワシの中に流れ込んできての?

言葉の意味は分かる。

感情も理解できる。

じゃが、具体的に『どうして欲しいのか』がさっぱり分からん。

『神』として生まれたものの、親が居るわけでもない。

他の『神』はワシのみずぼらしい姿を見て鼻で笑うだけ。

『神』の本能が自分が為すべきを何となく教えてくれはするものの、それも曖昧じゃからな。

考えたところで答えは出ん。

悩んだ挙句、ワシは一番やかましい願いの主に問うたのじゃ。

『具体的に何を望むのか』、とな。

その者は狂喜した。

『神託』だ、とな。

ワシにとっての、初めての信徒はその男じゃった」


 男は訴えた。


『世界の富は偏り過ぎているのだ』と。


『富』を多く持つ者は弱者を糧に更なる『富』を得て、弱き者はますます抗う力を失う。


 社会構造はそんな『富』の偏重を後押しするように出来ていて、これまでどれだけ訴えても利益を独占する少数派が大多数の貧者を省みることはなかった。


 男は言った。


『信じる者に救いを』と。


『弱者』の救済を、と。


「この時のワシは、何を求められているのかだけが気になっておってな。

ワシが求めに応じて力を振るった結果、何が起きるのかまではまーったく考えとらんかった。

きちんと考えていたなら、多少マシな結末を迎えておったかもしれんのじゃがな。

男の求めに応じて、ワシは己の権能を振るった。

ワシの権能は正確に言うならば『限定的な因果操作』じゃ。

『1+1=2』という事象を、『-8+10=2』というふうに書き換える。

『A+B=C』という因果式に対してCを変動させずにAとBの数字だけ書き換える、と説明すれば分かりいいかの?

問題は細かな調整が出来ん、という事での。

先の例題で言うなればA=1、B=1の場合はAB間で動く数字は1でしかないので干渉する因果の振れ幅は小さい。

じゃがA=-8、B=10の場合、AもBも変動する数字が非常に大きかろ?

これを実際の現象に置き換えると、前者の場合A氏が1000円落として泣きを見て、B氏が1000円拾って得をする。

後者の場合、A氏は10億円の損失を出し、B氏は突然10億の収入を得る、という現象が起きる。

AとBの差し引きそのものは釣り合う。

が、降りかかる損益の差が大きすぎた。

その結果何が起きたか。

お察しの通り、社会に大混乱が起き、まるで地獄絵図の様な騒乱が起きたのじゃよ」


 己が信奉する『神』の力に、信徒となった男は狂喜乱舞した。


 瞬く間に巨万の富を得た男は、その富を貧しい者達へと大量にばら撒き、布教を開始する。


 祈り、信ずるものにゲジュルベリアは己の加護を与えた。


 『現世利益』の体現ともいえるかの神の力に、信者の数は爆発的に増え、結果、悲劇は起こる。


「まず、社会を回す権力者たちがワシの権能の前に富を失い、失脚していった。

代わりに我が信徒たちが富を得たが……その信徒たちも、同じ信徒に富を奪われた。

そりゃあそうじゃよな?

自分たちが最も『富』を持つ者になれば、持たぬ信者に奪われる身になるが道理。

経済基盤など一瞬で崩壊し、『富』の偏在は無くなった。

等しく持たざる者になったのだから当然じゃな。

そして、ワシを信奉しておった信徒たちは……ワシの事を『邪神』である、と罵った」


 ただ人々の願いに応えただけ。


 自分たちの欲が招いただけの結果でしかないというのに。


 信者たちは口を揃えてゲジュルベリアを非難したのだ。


 『富を与えるだけ与え奪い去る悪神』と。


 『貧しさに宿る清貧の心を冒し、人を堕落させる邪神である』と。


 『貧しい者の妬みに応える貧乏神』などと言われたこともあった。


「どれだけ否定しようともワシの声など誰も聞きはせん。

皆自分は被害者だ、貴様は加害者なのだと決めつけて、己の幸せを願った事実を無かったことにしよる。

挙句の果てには他の神に『かの神は邪神であるが故に討伐を』と願うものまで現れよった。

その結果、ワシはワシを『邪神』と認定したザーナック様の信徒たちによって『奈落落し』の呪詛を受け、ここに堕ちたというわけじゃな」


「他の神は庇ってくれなかったの?」


「基本的にかの世界では神は他の神には不干渉なんじゃよ。

神同士の争いになれば下手をすると世界が消し飛ぶからの。

じゃから信徒に力を授ける事による代理戦争という形でのみ介入する。

ワシの権能は下級神の権能としては尖り過ぎておったが故に無駄に強力過ぎて上級神様達も対応が追いつかんかったようでなぁ。

世界の混乱ぶりを鑑みるに情状酌量の余地は在れど減刑しようにも減じられるレベルにない、という結論だった様じゃよ。

ま、消滅させられたりせんかったというのが答えの全てなんじゃろうな」


 片言ながらしんみりと語るゲジュルベリアの話を、フラヴィ達は黙って聞いていた。


 『人』に望まれて生まれて、『人』の望みに応えた挙句、『邪神』であると『人』に蔑まれる。


 『幸い』を願われて生まれた存在であるはずなのに。


 あまりにも身勝手すぎる『人』の在り方に、激しい怒りを覚える反面、自身も『人』であったという事実にフラヴィは心苦しさを感じる。


 『神』は世界が必要を求めて生み出す存在だとフィオは言う。


 世界の一部たる『人』の願いで『神』が生まれるというのはある意味で必然なのだ。


 だが、望んで生み出した『神』を生んだ『人』が拒絶するというのならば……生まれた『神』は何の為に生きればいいというのだろう?


(そう言えば、『望まれない子供』という問題を抱えているのも『人』だったな)


 原因、理由は問わず『人』の社会には大なり小なり存在する『望まれなかった子供達』。


 『命の価値』、『愛情の在り方』を問うこの問題は非常にデリケートで、様々な意見が混在する。


 まさか『神』という存在においても同じような問題を抱えているとは。


「ふ~ん、ゲジュルベリアも大変だったねぇ。

でもそのザーナック?だっけ?

彼も君には感謝しているんじゃないかな?」


「感謝……?」


 デリケートな問題っ!とどう反応すればいいか困惑していたフラヴィなどどこ吹く風よと言わんばかりに、フィオはゲジュルベリアに思いもよらぬ言葉をかける。


「そ、感謝。

だって、君は『人』が望むままに『神威』を振るい、『欲望』のままに『神威』が振るわれる恐怖を、『神の威』を正しく示してみせたんだろう?

君の世界の主神君が出来なかったことを、新神の君が見事にやって見せたんだ。

君の働きで『人』は安易に『神』の力に縋る事の恐ろしさを知り、正しい信仰の在り方というものを見直す機会を得た筈さ。

自神に出来ないことを代わりにやってくれた君の事を、『人』は『邪神』と呼ぶかもしれないけどさ?

かの神々の間では君はひとかどの神物として敬意を払われているんじゃないかな。

少なくともボクはこの世界の主神として君の仕事に敬意を表するなぁ~」


「ワシ、は……己を誇っても、いいん、じゃろう、か……?

何、の、ために……ずっと、ずっと……ぐぅぅ……」


 同じ『神』としてのかぁさまの称賛。


 世界は違えど『主神』からの敬意。


 それは、ずっとずっと彼が求めていた言葉だったのかもしれない。


 それは、ずっとずっと彼が探していた言葉だったのかもしれない。


「ワシは、今ようやく報われた気がします」


 そう呟いて涙する老神を、友神達が背を叩き、共に涙を流していた。



(まったく、ずるいよなぁ。

こういう時ばっかり『創世神』っぽくって……)



 仲睦まじい3神を温かい目で見つめるフィオの首を抱きかかえながら、ここでドヤ顔さえしなければ威厳も少しは出るのになぁ、と苦笑いするフラヴィであった。









フィオ「ゲジュルベリア君が戦闘向けの神じゃないって知ってはいたけど本気で貧乏神だったんだねぇ? ちょっと驚いたよ」

フラヴィ「『超絶貧富格差』とか言うからいまいちどういう権能なのか理解しにくかったんだけど、数字での説明は分かりやすかったなぁ」

フィオ「ボクは逆にちんぷんかんぷんだったよ!」

フラヴィ「……あれ、基礎も基礎の算数だよ?

とりあえず次回予告。

第52話 割とどうでもいい話その3 」

フィオ「うぅ、馬鹿だと思われてるっ!」

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