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かみぐらしっ!  作者: 葵・悠陽
第4章 『奈落』に吹く血風
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第49話 コトバノチカラ

日常パートです。


やっぱだらだらした展開が気楽でいいっすなー。


「シュワシュワが飲めない、だって?」


「ミュラりんの調査結果だと空気感染するタイプのウイルス、細菌があと3種くらい残ってるから、その対応処理ができないと僕等に感染して死なないまでも酷い苦痛を味わう事になるっぽいよ?」


「うぬぬぬぬぬ!!

対応にはどのくらいかかるのっ!」


「一区画だけなら明日には。

全体となると10日くらいは見て欲しいって言ってたかな」


「あ、明日まで飲めない……」


「ミュラりんがストックしてた分も感染してたみたいだからねぇ。

やっぱり怖いな、空気感染」


 ずずーんと落ち込むかぁさまを、よしよしと抱っこして宥めながら愚痴を聞くのがワンセット。


 今日も『奈落』は平和だね。






         ■  ■  ■


 先日の『首無し熊』の襲来はかぁさまの心に少なからぬ影響を与えていたようで、これまで鍛錬や技の研究、ご近所さん付き合いにグチグチ文句を言っていたのが嘘のようにおとなしくなり、一定の理解まで示してくれるようになった。


 どうやらかぁさま的には僕が頑張っている事の内容を端から理解しようともしなかった自身の心の在り方に、親としての矜持をいたく傷つけられたようで。


「フラヴィはフラヴィなのにね。

君の頑張りひとつ認めてあげられないで、自分の事ばっかり言っててごめんね?」


 と、涙ながらに謝罪されてはかける言葉も見つからない。


 理解してもらえたことは嬉しい反面、手がかからなくなるのも寂しいなぁ、と思ってしまう僕も結構病んでいるのかもしれない。


 そんなかぁさまからの歩み寄りもあり、その日は久々に人間の文化に関する話をしようと、『ゲヘナ・プロエリ』の観覧席に陣取ってくだらない会話を楽しんでいた。


 何故観覧席かと言えば先日の被害が少ない場所だったから。


 血肉の飛び散ってまだ掃除が終わってないところでなんて、のんびりしたくないもん。



「_____ってな感じでボクとしては人間がああも多彩な楽しみを考え出すことに対して一定の敬意を覚えるのだけれども、だからと言って全面的に認めたいと思うわけでもないのさ。

だってそうだろう?

あれだけ凄いどうでもいいのに楽しいものを生み出せるんだよ?

それを全部建設的な方向に向けたなら、どんなに素晴らしい社会が生まれるか」


「それを言い出したら文化なんてそもそもあそこまで発展しないよ」


「なんでさ!」


「無駄を楽しむ事、それが文化の側面でもあるからだよ。

かぁさまはこうして会話すること大好きだろう?」


「好きだよ?

会話は相互理解のための大切なツールだからね。

『分かり合う』ための道具でもあるし、『分かり合えない』ことを知る道具でもある。

君の世界の神が『言語』を破壊した話を聞かせてもらったけど、あれは実に面白い解釈だよね。

言葉が統一されるという事は全体の思考基準が統一されるという事でもある。

『言語ベース』って言うんだっけ?

それを乱す事で意思疎通ができなくなり、『言語ベース』から異なるグループが複数生まれ、協調すら難しくなるわけだね。

ま、実際は民族とか細かな種族とかの差異ありきの話なんだろうけど、『会話』の重要性をよく理解した話だなって感心したものだよ」


 『旧約聖書』における『バベル』の話だ。


「さすがはかぁさま、よく覚えてるよね。

でもまぁ、その話ってこの場面では何の生産性も無い話なわけで、かぁさま的に言うなれば『無駄』だよね?」


「生産性はあるよ!

フラヴィとの親子ミュニケーション!

とっても大事でかつ高い生産性があるじゃないかっ!」


 酷い造語だなっ! 親子ミュニケーション!


 しかも実際にありそうな響きなのがちょっとキモイ!


「そういう解釈もあるかもしれないけど、だらだらと話しを続けるのは貴重な時間の消費と捉える考えがあるのも事実だろう?」


「むぅ、確かにね?」


「でも、その『無駄な話』をすら人間はある種の芸術へと進化させてしまうのだった!」


「な、なんだってー!!(MMR調)

お話を芸術に?

ソレって前にフラヴィが話してくれた昔話とかそういうの?」


「いや、それよりもっとすごい。

なんと、話を聞かせる事でお金をもらう商売が成立するくらい凄い」


「嘘っ!?」


「ほんとほんと」


 歌や踊りと言った分かりやすい芸術とは違い、手品、演劇などの視覚に訴えるものともまた違う。


 語る者の技量ひとつで観客を魅了し、芸術の域にまで高められたもの……その名を『話芸』という。


「落語や小咄、漫才といった『話芸』っていうのがあってね。

ものすご~~~~~~~~~く、奥が深い」


「そうなの?」


「うん、物凄く。

どのくらい奥が深いかっていうと、迂闊に語ると『知ったかぶってんじゃねぇ!』ってクレーマーさんが時空を超えてクレーム飛ばして炎上しちゃうくらい奥が深い」


「何それ怖いっ!」


「お話ひとつでお客さんを楽しませてお金を取ろうっていう商売だからね。

吟遊詩人とかなら歌とか声とか演奏の腕とかルックスとか、武器に出来るものも多いし傍から見てても価値を理解しやすいけど、『語り』はそうじゃないからねぇ。

言葉ひとつ発するにも場の空気、会話の流れ、そういったものを汲みながら『観客を楽しませる』事が出来なきゃ意味が無い訳。

それがどれだけハードルが高いか、理解できないかぁさまじゃないだろう?」


「う、うん……。

フラヴィとお話しするのは楽しいけど、やっぱり退屈されたくないなっていつも考えちゃうし……。

そう考えると不特定多数を相手に商業目的で会話を商品にするのってすごいと思うなぁ。

そもそも、『お話』を商品にするって発想が信じられない」


「物語そのものは商品価値があるからそう以外でもないよ」


「あー、それもそうか。

凄いのは『話術』ってこと?」


「そうそう」


 普段からとにかく僕と会話することを好むかぁさまだ。


 『話芸』の難度の高さはそれこそ肌身に染みて理解できるのだろう。


「ちなみにその、クレーマーさんが荒ぶらない範囲で『話芸』について教えてよ」


 とそんなおねだりをするかぁさまに、誰もが一度聞いたなら忘れようにも忘れられない『落語ネタ』を一つ提供するのであった。



寿限無(じゅげむ)寿限無(じゅげむ)五劫(ごこう)の擦り切れ、

海砂利(かいじゃり)水魚(すいぎょ)の、水行末(すいぎょうまつ)雲来末(うんらいまつ)風来末(ふうらいまつ)

喰う寝る(ところ)に住む(ところ)(やぶ)柑子(こうじ)藪柑子(ぶらこうじ)

パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、

グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの、長久命(ちょうきゅうめい)の長介』君。


 彼を主人公とした『落語』『寿限無』である。


「この話はね、とある親御さんが生まれた子供がいつまでも元気で長生きできるようにと考えて、とにかく『縁起が良く』て『長い』ものが良いととんでもない名前を付けた、という笑い話なんだよ。

で、付いた名前が『寿限無(じゅげむ)寿限無(じゅげむ)五劫(ごこう)の擦り切れ、

海砂利(かいじゃり)水魚(すいぎょ)の、水行末(すいぎょうまつ)雲来末(うんらいまつ)風来末(ふうらいまつ)

喰う寝る(ところ)に住む(ところ)(やぶ)柑子(こうじ)藪柑子(ぶらこうじ)

パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、

グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの、長久命(ちょうきゅうめい)の長介』っていう名前なわけ」


「…………え、は? うん?……ご、ごめんね?

もう一回言ってもらっていい?」


「『寿限無(じゅげむ)寿限無(じゅげむ)五劫(ごこう)の擦り切れ、

海砂利(かいじゃり)水魚(すいぎょ)の、水行末(すいぎょうまつ)雲来末(うんらいまつ)風来末(ふうらいまつ)

喰う寝る(ところ)に住む(ところ)(やぶ)柑子(こうじ)藪柑子(ぶらこうじ)

パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、

グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの、長久命(ちょうきゅうめい)の長介』だよ?」


「ちょっとまってっ!?

それ全部その子の名前なの!?

覚えられないよ!?

何でそんなにすらすらとフラヴィは言えるの!?

ボク何が何だか分からないよっ!?」


 僕だってなぜ未だに暗記できているのか分からないよ。


「自分の名前すら欠落してるのにコレを覚えてるってことは、まぁ『寿限無』を名前として認識してなかったのかもねぇ?」


「それにしたってものには程度ってものがあると思うよ?」


「僕が生きてた頃は子供につける名前でキラキラネームとかDQNネームとか色々あるにはあったけど、その最たるものだと思うよ、これは」


 間違いなく市役所で突き返される名前なのは間違いないだろう、うん。


「で、その長介君?の話はどんな話なんだい?」


「川でおぼれた彼を助けて、と友達が大人を呼びに行ったら名前が長すぎて説明している間におぼれ死んじゃいましたとさ、ってお話し」


「悲惨な話だった!!」


「ま、楽しい落語にはそぐわないって事で後の世になるとコメディタッチに色々な話に改変されて、普通の笑い話に変わっていったそうだけどね。

喧嘩した子がたんこぶ作って帰ってきて、説明聞いているうちにこぶが引っ込んだ、とか、問題があまりに長すぎる名前のせいでなあなあになりましたとさ、って話が多かったかな?」


「うぅ、良かったよぅ。

幸せになってね!って名前なのに不幸な話になったら悲しいじゃないか」


「独特の韻を踏んだ名前だから、素人の落語家の基礎訓練に使われることも多いって聞いたかな。

あとは前座噺としても良く使われる関係で上手に聞かせるにはかなりの腕とセンスが必要だとか」


「へぇ……フラヴィがよく言う『基礎ほど難しい』ってやつ?」


「そうだね、暗記技術の練習、会話の間の取り方、人物の演じ分けとか、コミカルな長介君の名前に隠れていても大事な要素はきっちり演じられないと、何度も聞いている人に飽きられちゃうからねぇ」


「うーん、本当によく分からないところに人間って言うのは情熱を傾けるよねぇ」


「でも、そのおかげでかぁさまはいま楽しい思いをしているわけでしょ?」


「それを言われると複雑ッ!」



 そんな会話を楽しみながら……


 結局この後、僕は何度もヘタクソな『寿限無』を語らせられるのであった。






フィオ「やっと日常パート!」

フラヴィ「9話に渡るバトル展開だったからね、長かったよ」

フィオ「あそこまで主人公をフルボッコにする作品も珍しいんじゃない?」

フラヴィ「復讐ものの作品ならもっと悲惨だよ。

それにしてもあんなオチでよかったの?って心配になるよ」

フィオ「ある意味でボク達らしい展開だったからいいんじゃない?

その前があまりにもボクららしくなかった反動だと思うよ~。

んじゃ次回予告だね!

次回!いつも通りになんか適当に会話すると思うよ!」

フラヴィ「ひさしぶりなんだからちゃんと予告しろよっ!!」


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