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かみぐらしっ!  作者: 葵・悠陽
第4章 『奈落』に吹く血風
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第47話 The pain of parting is nothing to the joy of meeting again

別れの痛みは、再会の喜びに比べれば何でもない


はい、主役の登場です。

そして当然ながら『ずっと俺のターン』です。


 少女は信じた、青年の帰還を。


 青年は願った、少女の安寧を。


 世界は応える、その純粋な願いに。


 これは奇跡でも何でもない。


 二柱の神が互いに互いを想ったが故の必然。




       ■  ■  ■



 光が弾けたかと思ったら、僕の『影』は欠片も残さず吹き飛んだようだ。


 目の前には驚いた顔のかぁさまと、何故か防御形態になっているミュラりん達。


 皆どうやら無事だったみたいだ。


 僕が知らない間に()()()()()()()()()()()って心配だったから安心したよ。


 18禁展開なんてマジで勘弁してほしいからねっ!


「かぁさま、僕らの生活を脅かす敵は滅ぼしました」


 皆を安心させようと力強くそう宣言したんだけれど。


「……え、ちょ、ちょっとフラヴィ、何言ってるの!?


後ろ、後ろー!!」


 本気で焦った声でかぁさまは大声を上げる。


 何その『志村!後ろー!』みたいな慌てっぷり。


 怪訝に思いながら振り返れば、そこには両手を振り上げる『()()()()』の姿が。


「え?」


 おかしい、何でこいつが生きている?


 しかもなんかデカくなってない?


 合体した? 腕4本になってるし。


 振り下ろされる両腕を、あれぇ?と不思議に思いながら見上げる。


 おかしい、こいつの攻撃ってこんなに遅かったか?


「風は踊る」


 かわした。


 相手からは両腕が僕をすり抜けたように見えるだろう。


「砂塵を巻き上げ吹き抜ける風は 丘を越え渦を巻き」


 螺旋を描く様なステップでそのまま腕を掻い潜り、懐に入り込むと全身のバネを円の動きに乗せ軽く突き飛ばす。


 動きに自然と練り込まれた魔力と共に叩き込まれるその一連の動きはまるで舞踏の如く、されどその威力は……


 音もなく浮きあがった『首無し熊』の姿が消える。


ズズンッ!!


 遅れて響くのは『首無し熊』が遥か彼方、舞台の反対側まで吹き飛ばされ壁に突き刺さる音。


「逆巻く風 天に昇れ 祈りを乗せて」


 軽くステップを踏みながら残身。


 口ずさむ歌はノーマ・ノクサが教えてくれた『舞唄』


 先ほどの一撃は『円環舞闘術(バイラール・エテルノ)』の『参の舞・風華』。


 砂漠を吹きぬける風に倣った動きで敵を翻弄し、打ち倒す拳。


 人が使えばただの体術だけど、『神』が使えばご覧のとおり彼我の体格差を無視した立派な武技として成立してしまう。


 動きに魔力が乗るからね、見た目通りの威力ではないんだなこれが。


 先ほどの一撃も、インパクトの瞬間に圧縮空気の爆発を竜巻を通す様に叩き込んだ程度の威力はあると思う(竜巻状の魔力流の芯に空気爆発の衝撃波を通すため疑似モンロー効果も獲得している)。


 威力はご覧の通り、でかい図体の『首無し熊』も吹っ飛ぶ威力、でござい。



「うーん、反射的にぶち込んじゃったけど、何で『アレ』が生きてんの?」


「主様、ご帰還をお持ちしておりました」

「任務は無事遂行」

「母君のケアが不十分でした、謝罪」


 誰も質問には答えず、しかもよく分からない事を報告してくれるのは何故だろう。


 そしてかぁさまがあんぐりと口を開けている理由も分からない。


 殺気


 空気がびりびりと震えるような怒気と共に、宙を駆ける様に『首無し熊』が戻ってくる。


 駆ける様に、じゃない、実際に空を走ってるじゃないか。


 更によく見れば足が4本腕4本という珍妙な姿になっている。


 さっきのは見間違いでも何でもなかったわけかぁ。


「合体でもしたのか?

……その割には弱いなぁ?」


 腕が4本あろうと動きは単調、動作も早いけど別に光速を越えるわけでもない。


 不意打ちでもないなら『風華』は越えられないかなぁ、とそんな風に思う。


 事実、くるりと腕を回して天に捧げる様に空を仰げば。


 嵐の様な気流が再び僕に襲いかからんとする『首無し熊』の身体を攫い、天高く跳ね上げる。


 軽快なステップを踏みながら掲げた両手を大地へそっとおろしていく。


 宙に釘付けにされた『熊』の全身を見えざる拳が乱打し、支えを失った身が舞台へと叩きつけられる。


 見た目は無傷のようだが、明らかにふらついていた。


 それはそうだろう、この『風華』という型は『風』という無形の現象を象徴する拳。


 風の流れで動きを制し、風を伝う衝撃が相手を内側から破砕する拳なのだ。


「見た目頑丈そうなお前には効果的だろう?」


 よろめきながら立ち上がろうとする『熊』に、僕はそう言って笑いかける。


 何故か、凄く気分爽快だ。


 やられっぱなしだった相手に一矢報いた様な爽快感があるのは何故だろう?


 解せぬぅ……。





 フラヴィ復活からの一連の流れに、フィオの頭の中は『混乱』の一言で表せるくらいに訳の分からないことになっていた。


 はっきり言って何が目の前で起きているのか理解が出来ない。


 先ほどまでの思考放棄による理解不能とは違う。


 正真正銘、必死で考えているのに理解が出来ない『理解不能』、である。


 フラヴィを「信じよう」と覚悟を決めて必死に彼の無事な帰還を祈っていたら、なんの前触れもなく遺体の肉片から閃光が迸り一瞬で肉体を再構築、彼が復活した、ところまでは良かった。


 復活した彼は何故か『やり切った感』に溢れていて、『敵は滅ぼした』などとよく分からないことを笑顔で報告して、さっきまで手も足も出なかった『熊』を『鎧袖一触』、叩きのめしてみせた。


 しかも彼の鍛えた『技』でもって。


 続く『熊』の反撃も、まるで踊る様に、否、踊るフラヴィにはかすりもしない。


 彼の動きに合わせて空気が、空間が、歪み、たわみ、捻れ、弾み、体格差など存在しないかのように『熊』を翻弄し続け、容赦なく叩きのめしていく。


 フィオの魔法を力業で砕くほどの剛力も、見えざる手にそっと力の向きを変えられた挙句に風に足を払われ、バランスが崩れたところを撓んだ空間が空へと撥ね飛ばし宙を舞う、というありさま。


 一方的に遊ばれている。


 先ほどまで、彼が復活するまであの『首無し熊』が握っていた場の流れが、主導権が、一切合切フラヴィの手に落ちた。


 意味が分からない。


 フィオからしてみれば、この危機的状況を脱するためにフラヴィが復活し、そこでまず感動の再会があってからヒロイックな活躍をしてくれるという流れを想定していたわけだ。


 ところがどうだ。


 蓋を開けてみれば『平常運転』のフラヴィがいて。


 これまで対応に悩んでいたのが馬鹿らしくなるくらいスッキリ爽快に目の前の『敵』をボコしている。


 『神』さまは『理不尽』な展開をする側であってされることには慣れていない。



「……………………」


 じっと彼を見つめる。


 迷いも揺らぎもなく、どこか楽し気に舞う彼の姿をフィオは素直に『美しい』と感じた。


 だから、それでいいんだろう。


(だって、フラヴィが笑っているんだから。

それを見ているボクが、こんなに幸せな気分なんだから)


「かっこいいよ~!フラヴィ~!!」


 悩む代わりに応援しよう、そう決めた。





(まるで歯ごたえが無くなったなぁ?)


 『首無し熊』を相手に戦うフラヴィは、率直にそう感じる。


 4足4手の巨体は威圧感こそあれ動きは平凡。


 観察する限り刀の如き爪には空間破砕の力が宿るようだがただそれだけ。


 伸びたりうねったりすることも無い。


 先ほど分離して逃げようとしたので合体していた事実は確認できた。


 が、分離したところで逃がすほどフラヴィも甘くはない。


 『風華』から『弐の舞・砂流』へと型を変え、2匹の別行動を阻害。


 2匹は舞台の石畳に半身を埋められたまま、両腕を切断され悶えている最中である。


 腕を切断したのはもちろん拘束状態から結界を破砕されて逃げられるのを防ぐため。


 再生されるのはともかく、遠隔操作されないように切断した腕もある程度『埋めて』ある。


 そういうところは彼もきちんと警戒するのだ。


 そして、ある程度無力化した上でこうして捕獲したのにも意味がある。



(うーん、身体がミンチになったせいかいまいち記憶が曖昧なんだけど、こいつら確か『神罰魔法』で塵にしたんだよなぁ?

でもこうして生きている。

仮説としては超再生持ち、って線が濃厚だけど、それなら今この瞬間再生しないのはおかしい。

後の可能性は不死、魂のストックあり、どこぞの使徒の様に特定条件下でのコア破壊?

ん~、その程度なら対応法はあるからいいんだけど。

……気になるのはやっぱり『アレ』に関して、かなぁ。

ちょっと試すか)



 何やら思い付いた様子の彼は『首無し熊』達が完全に()()()()()()()のを確認してから残身を解き、フィオ達の方へ向かう。


「かぁさま、ミュラりん、大丈夫だった?

ミュラりんはご苦労様、かぁさまを護ってくれてありがとうね?」


「「「当然の事をしたまでです」」」


「……ツッコミどころが多すぎて何を言っていいかわかんないけど、お疲れ様フラヴィ。

……すっごくカッコよかったよ!

それと……ごめんね?いつも頑張っている君をちゃんと認めてあげられなくて」


「かぁさま……な、何か変なものでも食べた?

そんな素直な事を言うかぁさまなんて!

ヤンデレじゃないかぁさまなんて偽物に違いないっ!」


「ちょっ!

ボ、ボクだって自省するし謝る事だってあるよっ!

その酷い評価、改めてもらおうかっ!」


 いつも通りのお気楽なノリ。


 シリアスなんて似合わないとばかりに茶化すフラヴィの言葉に()()()、フィオの顔にも笑顔が浮かぶ。


 すれ違いが続いた二人の間に、確かに見えた絆、繋がり。




「そうだよな、『お前らは』この瞬間を狙うよなぁ?」


 フラヴィの背後に突然現れた巨大な影に、再びの悲劇を予感し凍り付くフィオの笑み。


 だが、だがっ!


「なるほど、『やっぱりそういう事』か」


 不敵に笑うフラヴィの背後、巨影の腕がフラヴィの頭上に落ちる。











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