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かみぐらしっ!  作者: 葵・悠陽
第4章 『奈落』に吹く血風
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第43話 A game is not won until it’s lost

試合は、誰かが負けるまで、誰も勝たない


文章かなりおかしかったので修正しました。




 眼下に広がるは疫病ネズミの海。


 既にネズミ共の群れは『ゲヘナ・プロエリ』の舞台を完全に覆いつくすどころか建物内の通路にまで侵入、扉の開いていた場所は間違いなく浸透を受けている事だろう。


 併せて施設内にある自動生成の食料品や飲料等は完全に病毒汚染されていると考えて間違いない。


 幸いな事にここで生活しているメンバーのほとんどは一般的な食事を必要としないので飢え死にの心配だけはあり得ないが……折角皆が覚え、共通の楽しみのなっていた文化的な楽しみを奪われると言うのは少々腹に据えかねるものがある。


「ビジュアルに動揺して対応が遅れちゃったなぁ。

既に手遅れ感があるけど、掃除しようか……。

『深淵の洞 幽玄の境界 位相を隔てし奈落の虚 巡り墜ちよ 因果の地平線 虚無の円環へ』

汚物は消え去れ!『暗冥の(メルギトゥル・)大渦(ウェルテクス)』!」


 舞台上に音も無く現れた漆黒の球体、マイクロブラックホールが容赦なくネズミたちを飲み込んでいく。


 小型とはいえブラックホール。


 光すら逃さぬ吸引力、破砕力はたったの十数秒で舞台に溢れかえっていたネズミ達を片端から吸い込み駆逐し、未だ途切れることなくなだれ込み続ける後続も出てくる傍から吸引しては塵へと変えていく。


 数の暴力も問題なくねじ伏せる圧倒的な破壊力(神の力)


 これだけ気持ちよく力を振るうと決まってかぁさまから言われるのが……


「ねぇフラヴィ、身体鍛える意味って……」


「あるよ! あるんだから!

何事も相応しい使い道があるってだけで!」


 未だに鍛錬に対する不信感があるようで、どうしても嫌味っぽい事を言われてしまう。


 身体を鍛える時間があるなら自分を構え、と言いたくなるのも分からなくはない。


 さっきも不意の攻撃をかわせなかったし、僕が未熟なうちは技の成果もわかりにくいだろう。


 予告された弾幕をいくら回避できても、肝心な時に失敗してたら何のための特訓なのよ?って言われても仕方がないからなぁ。


こればかりは今何を言っても言い訳にしかならないだろう。 


ま、汚名返上はいくらでも機会はある、と切り替えて目の前の相手を何とかしよう。




 向こうが際限なく送り付けてくるならこちらも維持を続けるまで、と『暗冥の(メルギトゥル・)大渦(ウェルテクス)』を展開し続けていると、ネズミの濁流が前触れもなく唐突に止まる。


「ん?」


「止まった、ねぇ?」


(ネズミの数が尽きたのか?それとも無駄と悟って撤収したのか?)


 ネズミ攻めを止めた理由が分からず『首無し熊』の次の一手を警戒していると、今度はバサバサバサと言う音が複数聞こえてくる。


「この音……羽ばたき? 鳥かっ!」


 空間の穴から再び勢いよく飛び出してきたのは『鳥の群れ』だった。


 それも一種類ではない。


 それこそ色とりどり、大きさもまちまち、どれだけの種類がいるか分からない複数の『鳥』だ。


 小さいのはスズメくらいだろうか? 大きいのは3mくらい? 尺がよく分からない。


 そんな鳥の大軍が一斉に空間の穴を抜けて飛び出してくる。


 あるモノはまだ維持されている『暗冥の(メルギトゥル・)大渦(ウェルテクス)』の重力圏に引っかかって呑まれていき、あるモノは別の鳥に翼をぶつけて墜落し、もみくちゃになりながらも先ほどのネズミに劣らぬ数の鳥たちが奈落の空へと舞い上がる。


混乱しながらも次々に飛び出す鳥たちは空高く渦巻く様に隊列を組むと、一斉にこちらへと殺意を向けてきた。


「今度は上からか……いやらしいな」


「どういう事?」


「戦いで制空権を取られると相手方に好き放題されやすくなるから面倒なんだよ……ほら来た」


 かぁさまに簡単に説明する間にも鳥たちはそれぞれが急降下突撃を敢行したり汚物を振りまいたり、中には火を吐いたり羽根を飛ばしたりと遠近構わず多種多様な攻撃を仕掛けてくる。


 もっともどの攻撃も僕の張り巡らせた空間隔離障壁を破るには至らず、安全は確保されている。


 しかしながら突撃してくる個体は障壁衝突の衝撃で肉片と化してスプラッタな光景を繰り返し見せてくるし、障壁に汚物がぶつけられるのも実際に汚れることはないとはいえ精神衛生上あまりにもよろしくない状況だ。


 流石にえずきはしないが極めて不快な気分にさせられる。




 とにかく数を減らさねば、と雷撃をばら撒く様に放ち手当たり次第に叩き落すが、先ほどのネズミ達同様鳥たちも怒涛のように溢れ出し一向に減る気配がない。


「ちまちま落としてたんじゃキリがないっ!」


 いっそのこと空間の穴に一撃強烈なのをぶち込んでやろうかと考えたのだが、寸でのところで思いとどまる。


 空間がひび割れている、という事はその付近は非常に不安定になっている可能性が高い。


 沸いてくるのが面倒だからと勢いに任せて殲滅級魔法でも叩き込もうものなら位相結界そのものが連鎖的に破砕してしまう。


 今の『奈落』の通常空間には、『首無し熊』をはじめどれだけの敵が待ち構えているか分からない。


 万が一それらが同時に襲いかかってきたなら流石の僕等も一巻の終わりだ。


「まさか、それが狙いなのか!?」


「だーかーらっ!フラヴィだけ納得してないでよっ!」


 僕が『首無し熊』の戦術予測をして慄いていると、隣でかぁさまがプリプリと怒り出す。


 かぁさま的には『首無し熊』には大した脅威を感じていないのかもしれない。


 案外真っ向から力技でぺしゃんこにして終わりにしてしまいそう。


 そんな想像に苦笑いしながらかぁさまの求めに応じ、考えていたことを共有する。


「あの『首なし』の狙いが僕等を苛つかせて位相結界内から炙り出そうって魂胆なのかな、って考えてたんだよ。

これだけの物量を送り込んでくるんだ、外にはまだまだ後続が控えてる可能性もあるだろう?」


「なら挑発に乗ってあげればいいんじゃない?

この程度まとめて吹き飛ばすのは容易いじゃない」


「『こいつ等だけなら』、だろ?

さっきの『首なし』みたいに結界すら斬り破る奴が複数控えてたらどうするんだよ。

下手に誘いに乗ってそんな連中に囲まれたらただじゃすまないよ?」


「う~ん、それはかなり面倒かも」


「でしょ?

それに繰り出してくる『物量』の内容を見るにこっちの対応力を見られてる気がする」


 どんな形であれ、意図の読めない行動というのは気味の悪いモノだ。


 真っ向から獣らしく襲いかかってこない敵の動きにこちらは戸惑うばかり。


 加えて気になるのは、これだけの『生物』をあの『首なし』達はどうやって支配し操っているのか?という事だ。


 あの『疫病ネズミ』にしろこれだけの多彩な『鳥』にしろ、一介の魔獣風情が容易く支配できるような量でも質でもないと思う。


 仮にこれが召喚魔法等による支配だった場合その知恵は並の人間以上だと言えるし、他種族を力で制したというのであればその圧倒的な力は警戒するに足る。


「……これって、こっちが早急に主導権を取り返さないと完全にジリ貧になるんじゃないか?」


 当たって欲しくなかったその予感。


 相手の打ってきた次の一手は既に手遅れであることを暗に仄めかす。


「ん?何か変なのが出てきた?」


「え?」


 かぁさまの指摘で『穴』の方を見た僕の目に入ったのは、大きなヤマアラシと言うか針ネズミと言うか棘のついたアルマジロと言うのか、身の丈2m程の獣の姿。


 見るからに『触るな危険』といった風態の魔獣たち。


 それが全部で5体ほど現れたかと思うと、こちらに向けて全身の針を打ち出してきたのだ。


ピイイイイイイ!!!

ギエエエエエエエ!!


 もちろんそれらの針は未だ宙を舞っている鳥たちにも当たる。


 だが同士討ちもお構いなしに棘の獣は針を撃ち続けた。


 何か特殊な針なのかと警戒していたのだけども、意外な事にそれらの針は空間隔離障壁を突破することも無く撥ね飛ばされる。


「ん~?新手が出てきたからちょっと警戒したけど、別にフラヴィの結界を破るほどじゃないんだ?

単なるこけおどし?それともネタ切れなのかな?」


「決めつけるのは早いと思うけど……」


 そうは言いながらも意図が掴めないこの攻撃には妙な悪意、作為を感じてしまう。


(なんでこんな意味のない攻撃を?

わざわざ新手を出してきた割に大味な……弾幕を張るのが目的なのか?

何のために?あの針に何かあるのか?)


 最初のネズミが搦め手込み(病毒付き)の攻撃だったが為に、次の鳥の群れが単なる航空戦力であることに意外を感じ次の攻撃を警戒してしまった。


 だけどその警戒した攻撃も大したことが無かった。


 警戒を重ねたところにそれが空振りだったと知らされれば、何が生じるか?


 生じるのは気の緩み、すなわち『油断』。


 戦闘の最中であるというのに!敵の前であるというのに!


 そんな隙を見逃してくれるほど『敵』は甘くはなかった。





 ピシリ、と周囲から響く音。


 刹那に事態を悟ったものの、もう遅い。


「逃げろおおおおおおおおおお!」


「「「「!?」」」」


 かぁさまとミュラりん達を結界に包んだまま引き飛ばした時には、僕の胸付近の空間が罅割れを起こしていて……破砕と同時に突き出された爪に、再びこの身を穿たれた。


 敵は位相空間を突き破って攻撃できる、その事を意識から飛ばされた。


 『首無し熊』に胸を貫かれたまま、激痛を堪え、どうすればこいつらを出し抜けるか必死で知恵を巡らせる。


 獣風情と馬鹿にしていたつもりはないけれど、完全に出し抜かれている状況なのだ。


 僕が人ならもう2度死んでいる。



「あぁ、そうか、そうだよな……。

2度、殺されたんだ。

今の僕は『死んでいるのと変わらんな』ぁ?」


「!?」


 『首無し熊』が激しく動揺したのを感じた。


 そう、そうじゃないか、『神』であるが故に死なない。


 その不死性を活かせば出し抜けるんじゃないか?


 敵は僕を穿って気を抜いていた、今更逃げても間に合うまい。


 意趣返しだ、この身を爆弾に変えてしまおうか。


 このまま身体ごと吹き飛べば……


「フラヴィ!! それだけは駄目っ!

命はそんな風に使うためにあるんじゃないっ!」


 慌てて僕を振りほどき逃げようとする『首無し熊』を逃がしてなるかと体内魔力を高めた僕に、激しい一喝を入れたのはかぁさまだった。


「かぁ、さま?」


 怒りの籠った声と高まった魔力が強制的に散らされる感覚に動揺し、自爆の機会を失った僕の身体は舞台へと投げ捨てられる。


 罅割れから逃げるように引っ込む獣の爪。


 転がる僕の下に結界が即座に張り巡らされ、かぁさまたちが下りてくる。


「フラヴィ、『神』の魂は不滅だからと言って、気安く『死』に足を踏み入れて良い訳がないっ!

ボク達は『死なない』んじゃない、あくまで『不滅』なだけなんだ!

命を弄べば『死』に魂が傾いて、生きたまま死者として生きる事になるんだよっ!」


「は……?

え……? そん……な……」


 生きたまま死せる者、それはすなわち『不死者(アンデット)』になる、という事か?


「……僕は、思い違いを……?」


「ボクが死んだままだから妙な勘違いさせてしまっていたんだね。

ごめんよ?

でも、命を無駄にするのだけは本当に駄目だ。

取り返しがつかなくなる前に分かってくれてよかったよ」


 安堵した声でかぁさまはそう言ってくれるけど……。


 僕の内心は、羞恥と怒りで煮えたぎっていた。


 なにが『折れかけた心を立て直し、立ち上がって向かい合う僕の心に油断はない』、だ!


 油断だらけ、隙だらけじゃないか!


 先手を取られまくって良い様にやられているだけじゃないか!


 読み負けて、対応すらできずに知ったような口を利くのは恥知らずは誰だ?


 調子に乗って、驕っていたのはどこの誰だ?


 『神』は死なないとたかをくくっていた馬鹿はどいつだ?


 安易に命を爆弾に変えようとした自分が恥ずかしい。


 相手に一矢すら報えないまま良い様に翻弄される自分が許せない。


 この期に及んでかぁさま一人安心させられない自分が情けなくて仕方がないっ!




「うぅっ……うぁぁぁ………ああああああああああああああああっ!!

許さない、許さない許さない許さないっ!許しはしないぞ腐れ熊!

いきなり沸いて出て身勝手にやりたい放題した挙句……こんな……こんなぁっ!!

叩き潰す!絶対泣かす!殺してばらして捌いて鍋にしてやるっ!」




 完全に頭に血がのぼっていた。




 恥も外聞もかなぐり捨ててこの敵だけは『絶対殺す!』としか考えられなくて。




 胸中で煮えたぎる怒りに身を任せて、()は荒ぶった。






 

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