第42話 The best way to predict the future is to create it
未来を予測する最良の方法は、未来を創ることだ
『奈落』の底の闘技場、『ゲヘナ・プロエリ』。
広大な舞台の上に立つのは僕とかぁさま、そして3体のミュラりん達。
対するは破砕した空間の向こう側に潜む、鋭い爪をもった何者か。
狡知に長けた相手の攻撃に先制の一打を受けた僕等だけれど、こちらも伊達で『神』をやってるわけじゃない。
折れかけた心を立て直し、立ち上がって向かい合う僕の心に油断はない。
紛れもない『強敵』が、今目の前に存在している。
そのことをしっかりと心に刻み、僕は拳を構えた。
(相手の正体が掴めない以上、勝利もクソもない。
まずやるべきことは、敵の正体を暴くこと、そして手の内を晒させること!)
軽くステップを踏み、上体はいかにもダメージを喰らってますと言わんばかりにぐったりとした動きを示せば、『気合を入れたが身体が付いていかずによろめいた』かの様な動きを見せる。
動くルートは既に開いている空間の穴の傍。
先ほど大きな一撃を入れたのだ。
迂闊な動きを見せれば知恵があるなら真っ先に潰しにかかるはず!
「フラヴィ危ないっ!」
分かりやすい殺気が穴から溢れ出し、頭上から爪が襲い掛かってくる。
先ほど切り飛ばした方じゃない。
爪に血がついている……さっき僕を貫いた方だ。
来ると分かっている攻撃なら今の僕なら躱すことは容易い。
頭を捥ぎ取らんと迫る爪を余裕をもって躱して『敵』をしっかりと観察する。
まるで刀の様な鋭く、切れ味もありそうな爪。
針のように鋭く硬そうな灰色の体毛。
関節の造りを見る限りだと……これ、脚か?
空間を蹴り砕いて襲ってきてるってか。
交差の一瞬で見えたのはそこまで。
『視られている』事に気づいたのか、回避されたと知ると敵は即座に『脚』を引き、場を再び沈黙が支配する。
「……かぁさま、こいつ相当ヤバい相手かもしれない。
少なくとも、ただの魔獣じゃないと思う。
今の、誘導されたと気づいて即座に引いたもん。
……こんなヤバそうな奴、なんか心当たり、無い?」
「ボクが引きこもってたのはそういうのと関わりたくないからだってわかってるでしょ!?
分かんないとだけ胸を張って言わせてもらうよっ!」
「ボッチ自慢なんて聞きたくなかった!」
情報が取れないなら、無理矢理とるしかないわけだ。
相手としてはどの道安全な場所からこちらを攻撃するしかないのだ。
それが分かっているならば、やりようはある。
「敵はまたかぁさまを狙ってくる。
複数体いるみたいだから、連携を組んで仕掛けてくるのは明白だ。
それが分かっているならやりようはある」
「どうするつもり?」
「ミュラりん達はかぁさまの足になって。
かぁさまを囮にするのは気が引けるけど、向こうも『創世神』を舐めてかかってるんだ。
_________な感じで痛い目に合わせてあげて」
「うわぁ、えげつないこと考えるねぇ。
でも確かにそのくらいしか手はないかな?」
僕の提案に苦笑いしたかぁさまは、早速準備に入る。
こちらが動くことを見て取ったのだろう。
相手も殺気を膨らませこちらを狙って動き出した。
「!!」「!? 同時攻撃を感知!」
ミュラりんが初撃を感知して回避した先、先回りする様に相手が攻撃を仕掛けてくる。
空間破砕は破砕した空間に存在するものまで問答無用で打ち砕く、防御無視の凶悪な攻撃法だ。
その範囲はかなり広く、罅割れに掴まるだけでも裂傷程度は簡単に与えられるためかぁさまの様な動きが遅い相手を仕留める為には確かに有効な手段。
だが……
「ボクが創った結界を、ボクが直せないとでも思っていたのかい?」
罅割れた空間が瞬時に修復されていく。
そこから突き出されようとしていた鋭い爪が修復される空間に巻き込まれ、ガチンと動きを固定されてしまった。
慌てたように震える爪。
引き抜こうと必死なのだろうが、遅い。
空間を破砕出来る爪であろうと、十分に力を込め振るえる環境になければ意味を成さない。
抵抗虚しく宙であがく爪が7つ、中途から折り砕かれた。
「「よっし!!」」
上がる喝采。
相手の主なる攻撃手段であろう爪をまとめて破砕できたのだ。
この程度でどうにかなる相手だとは思わないけれど、反撃の狼煙としては上等。
かぁさまの一手が通じると分かれば、僕の方の手段も通じる公算が高い。
これで一方的な戦いにはならない、そう安堵した僕をあざ笑うかの如く事態は動く。
パァァァァァァンッ!!
凄まじい大音響とともに100m程離れた場所の空間がはじけ飛び、何かが落ちてきたのが見えた。
灰色の毛並みの、巨大な獣。
どちらも二足歩行している熊を彷彿させるものの、大きな違いはその手足だろうか?
片方の個体は腕が異様なほど逞しく発達していて。
もう片方の個体は脚部が異様なほど逞しく。
そのどちらも手足の先には鋭い爪。
腕の逞しい個体は片手の、脚が逞しい個体は脚の爪がそれぞれ片側づつへし折られていたが。
身の丈5m程の巨獣が、こちらを射抜かんとばかりに睨みつけていた。
いや、睨みつけていた、と言うのは語弊があるかもしれない。
何せ、この獣には首から上が存在しなかったのだから。
「_____________________!!」
声なき叫びが、舞台を震わせる。
無音なれど、僕等には確かにその意図が伝わった。
『貴様らは絶対殺す、我らに恥をかかせた罪をその身にとくと刻む込む!』
敵は僕等に姿を見せた。
姿を見せた以上、普通はここから殺し合いが始まるものだと考えるだろう。
誰が予想しただろうか?
目の前の2匹は、叫ぶと同時に再び穴へと飛び込み、気配を絶ったのだ。
再びの沈黙。
「…………これって、また振出し?
え、なに、あの首なしちゃん達、宣戦布告しに出てきただけ?」
「僕に聞かないでよ、正直戸惑ってるんだから」
今回も僕はいいとこなしなのである。
このまま逃げられるのは心境的にちょっと辛い。
せめて一矢!一矢報いらせて!
そんな心の叫びが通じる筈も無く。
何時まで経っても動きがない。
「……うーん、これ、逃げたのかなぁ?」
「?
主様、妙な反応があります。
これは、一体なんでしょう?」
「なんでしょう?って言われても」
トライフが突然曖昧な事を言い始める。
同じミュラりん達の中でもトライフは感覚的な発言が多くて意図が分かりにくい。
何かを観測したのは分かったので僕も意識を周囲に巡らせようとすると。
「!!
え、な、なんなのこれ!?
結界に何かが……」
かぁさまの困惑した声。
同時に背筋に這い上がってくる悍ましい悪寒!
それらが漂ってくるのは……あいつらが開けた空間の大穴!
「なんでまだ開いてるんだ!?
かぁさま!あの穴閉めてっ!」
「分かったよっ!
……って、あれ!?
し、閉まらないっ、なんで!?」
気付いた時には手遅れだった。
何らかの手段であの2匹は空間にトンネルを維持する方法をこっそりと仕掛けていたという事だ。
そしてこじ開けられた大穴から、『ソレ』が大量になだれ込んでくる。
チュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュ……
「ね、ネズミ?」
その量、まるで滝の如く。
凄まじい速度でなだれ込んでくるネズミたち、その大きさは……猪サイズ(150㎝程)。
「ミュラりん!飛べぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「了解!」「母君、失礼を!」「補佐します」
「うわっ!いきなり何っ!?」
自分の周囲に空間断絶結界を多重展開してネズミの群れを受け止める。
溢れ出すネズミはその数を数える事すら馬鹿らしいくらいに溢れかえり、それどころかこちらを獲物と見做して結界を破ろうと襲いかかってくる。
仲間を乗り越え、押しつぶしてでも餌にありつこうと、瞳を怪しく赤く輝かせるその狂的な姿には本能的な恐怖を覚えた。
「フラヴィ、そっちは大丈夫~?」
「大丈夫、でも意図が分からない!」
正直ゲジュルベリアさん達の様子が心配だけど、こんな大きいだけのネズミ程度にやられるほどあの『神』達も弱くはない。
(……大きい、だけ?)
嫌な予感に駆られ僕も結界を維持しながら宙に舞い上がり、ネズミたちの届かない位置から一匹だけ魔法で吊り上げる。
その上で足場を形成し、拘束したネズミをエナスに解析してもらう。
「悪いけど、このネズミに関して分析頼める?」
「了解しました」
「ん?何かあったの?」
「いや、さっきの今でただのネズミを流し込むってちょっと考えにくくないかなって……」
「解析完了、この生物の体内から18種の未知の病原菌を確認。
うち11種に対しては対策完了。
残り7種に関しては血清、抗体の生成に時間が必要です。
また、この生物は自己分裂による繁殖を行うと推測。
消化器官を鑑みますにあらゆるものを餌として捕食、増殖を繰り返すいわば生体兵器に類するものと分析します」
「疫病持ちの生体兵器!?」
「僕等に感染は?」
「少々お待ちを……2種の感染を確認。
抗体は解析済みです。
放置した場合18時間後に初めの疾患が、49時間後に次の疾患が併発すると予測されます」
ミュラりんが優秀過ぎた件。
「これ、もしかしなくても狙って仕掛けてきてるよね?」
ミュラりん達から処置を受けながら、かぁさまが困惑した顔で僕に問う。
「間違いないね。
細菌兵器を送り付けた上で効果があればよし、よしんばなかったとしても生活圏は汚染完了。
嫌がらせとしては最高すぎるくらいに最悪だよ」
やばいなぁ、勝てるイメージが面白いくらいに沸いてこない。
先手を打たれた、拠点を潰された。
後手、後手、後手だ。
強いなんてレベルじゃない!
(どうする、どう対処する?
考えろ、考えなきゃ殺されるだけだ!)
『奈落』の厳しさが、明確に牙を剥く。
■ ■ ■
後になって知ることになるが、僕等が相対した首なしの化け物たちは『奈落』に堕ちた魔獣の中でも不死の魔獣として恐れられた『双頭の無頭』矛盾魔獣バンデンとテンダイという輩らしい。
見た目は首のない熊。
だがその強さはタイマンで古竜をも縊り殺すという。
また狡知に長け、獣でありながら戦術的な行動をとり、敵を罠に嵌める事すらしてのける。
頭が無いのに知恵ある獣、と言う矛盾から誰が呼んだか矛盾魔獣。
あまりに見事な連携から『双頭の無頭』の二つ名がついた『奈落』の災厄。
なによりこの2体の魔獣を最強の魔獣と言わしめているのは、その信じがたい不死性だという。
この魔獣と相対し、生き残った者たちが口を揃えて言う事は「何度殺しても立ち上がってくる」という有り得ない事実。
『神』ならざる魔獣でありながら不死者以上の不死力を見せるというのだ。
仮に片方を『消滅』させたとしても気が付いた時には『復元』されているらしい。
一説にはかの『冥獄龍』グランヴィリオと相対して生きて帰った数少ない個体であるともいうから恐ろしい。
……もっとも、僕等はそれらの真実というやつを身を以て嫌というほど思い知らされることになったワケなのだけどね。
フィオ「なんかあの首なしくまちゃん、強くない?」
フラヴィ「無茶苦茶強そうだよね。
あんなのに勝てるの?というかなんであんなのが襲ってきたわけ?」
フィオ「それ、太陽に何で上るのかって聞くのと同じだと思うよ?」
フラヴィ「聞くだけ無駄って事ね……。
次回かみぐらしっ! 第43話 A game is not won until it’s lost」
フィオ「この英語表題っていつまで続くの?」




