第41話 Find purpose, the means will follow
目的を見つけよ。手段は後からついてくる
それは僕等がいつものように訓練に勤しんでいる最中、突然起きた。
はじめに気づいたのはノーマ・ノクサだったように思う。
「……と、このように7の型から派生する動きには……ん?」
「どうかしましたか?」
「……何か、妙な気配が」
いくつもの眼帯に覆われた端正な顔を顰めたノーマ・ノクサが違和感の正体に気付くより先に。
「!!
フラヴィ!位相空間境界に何かが接触してるっ!
まさかここが気づかれたって言うのっ!」
切羽詰まった声でかぁさまの警告が飛ぶ。
「わかった!
ミュラりんは戦闘モードに移行、かぁさまのガードは任せるよ!
ノーマ・ノクサ、他の二人のところへ行ってあげて!」
「「「了解・モード変更」」」「分かった、君も気を付けて」
シンと静まり返る舞台。
遠ざかっていくノーマ・ノクサの足音だけがかすかに響く中。
ピシリ
ほんの僅かに、だが確かに聞こえた異音。
「あそこっ!」
かぁさまの指摘した方へ眼をやれば、赤黒く渦巻く空にわずかな亀裂が走っているのが見えた。
空間破砕の痕だ。
何者かがこの位相空間の存在に気づき、侵入しようとしているのだ。
「う、嘘だろぅ!?
ボクの張った隠蔽に気づいただけじゃなく、境界結界まで破ろうって言うの!?」
「かぁさまの魔法が効かない連中だっているんだ、その程度の事やらかす相手がいても全然不思議じゃないよ。
だーから言ったでしょっ?
何が僕等の想像を越えてくるかなんてわからないんだよ、って」
「悔しいけど言い返す言葉がないよっ!」
そうこう言っているうちに、罅割れはどんどん拡大。
罅割れの向こうからガンガンと激しく壁を叩くような音が響き渡る。
ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガンッ!バキッ!!
繰り返される打撃音。
しつこく繰り返されたそれはとうとうかぁさまの張った位相結界を打ち破るに至る。
砕けた空間面が壁からはがれたタイルのようにボロボロとこぼれ落ちる。
その向こうに見えるのは、巨大な爪。
宙に開いた穴に差し込まれ、抉る様に、ねじ込むように穴を拡大していく。
「……これって今の内に出てくる奴の迎撃準備した方がいい感じじゃない?」
「ナイスだよフラヴィ!
むしろあの爪目がけて攻撃しちゃおう!」
言うやいなや、宙に生まれる魔導鋼製の槍、槍、槍!
無数の槍が宙の罅割れを広げようとする爪へと向けられる。
殺気でも感じたのか、ピクリと爪の動きが止まり、罅割れの中に即座に引っ込んでしまうのを見てかぁさまが叫んだ。
「逃がさないよっ!喰らえっ!」
槍の一部が罅割れの中に向け流星のように宙を駆ける。
空間の境目を難なく抜けていく槍は、抜けた先で何かに当たったかのような激しい音を撒き散らした。
その衝突音を最後に周囲は静まり返る。
以前の反省を踏まえて「やったか!?」の一言は堪えたあたりかぁさまも成長してるよなー、と感心しつつも、アレで相手が仕留められたとは思えない。
罅割れそのものは攻撃を受けない事でじわじわと自己修復されているのが見て取れたけれど、その向こうから漂う嫌な空気は消えていないどころか更に密度を増している。
「これ、警戒されたっぽいね」
「このまま引いてくれるとボク的には助かるなぁ。
無用な殺生はしたくないし」
「勝つ気満々だねぇ?」
「もちろん。
フラヴィだってその為に修行してたんでしょう?」
「勝つ為と言うより死なない為だってば」
「一緒だよ、こと『奈落』においてはね」
邪神、悪神、魔獣、幻獣、相手は何であれ話せばわかる相手なんてろくに居ないとかぁさまはいう。
だからこそお互い接触を避けていたし、接点を持てば容赦などしないのだ、と。
今、位相空間の向こうで息をひそめている相手も同じこと。
追い返したいなら勝つしかない。
ボコボコにして、屈服させて、死にたくなければ言う事を聞けとねじ伏せるしかない。
そこまで簡単に割り切れない僕はきっと甘いのだろう。
『神』なんだからともっと傲慢になっても良いのかもしれない。
でも、ソレってあの『クソ神』と同じになるって事で……それが僕には耐えられないんだよな。
魂が、罅割れるんじゃないかってくらい痛むんだよ。
あんなのと同類になる、なんて考えると。
警戒しながら、そんな会話を交わして数分。
一向に動きを見せない相手を怪訝に思いながら、それでも警戒を緩めずにいたのだけれど。
「!!
極大の空間震を感知!
位置は……母君の台車位置!!」
「「はぁっ!?」」
エナスが叫ぶと同時にデュオとトレイスが慌てて台車を退避させようと動いた。
かぁさまの首があった位置を中心に、一気に空間がひび割れていく!
バキィィィィィィンッ!!
激しい破砕音と共に宙が砕け、鋭い爪が空間を突き破って伸びてくる。
爪は空間破砕に僅かに動きを制限されたエナスのバックパックをざっくりと抉り取り、吹き飛ばした。
「エナスッ!」「損害軽微、大事はありません」
「「反撃」」
飛び出した爪に向け、デュオとトレイスが両目のレンズから『フォトン・レーザー』を放つ!
が、十分な充填がされていなかったからか相手が硬いからか、傷一つつかぬまま引っ込んでいく爪。
「これは……ちょっと不味いかもしれないね」
「あぁ」
思いもよらぬ相手の攻撃に対し、僕等は息を呑む。
位相空間を突き破ってこちらに現れる、と言うのはまだわかる。
位相空間を抜けられる以上、位置を変えるのも納得しよう。
だが、相手は位相空間から正確に『かぁさま』を狙ってきた。
偶然でも何でもなく、この中で『最も機動力がない相手』を潰しにかかったのだ。
それは相手が戦術的思考を以て行動するという事。
加えて、位相空間からこちらの位置を把握している、という事。
「フラヴィ、そっちの穴を塞いで!
ボクはこっちを塞ぐ!」
「分かった!」
相手の能力、戦力が分からない以上後手に回るのは仕方がない。
でも、できる事はどんどんしていかなければ先手を取られ続けるだけだ。
「破砕した穴から匂いか何かでこっちの位置を把握しているかもしれない。
パッと見て魔獣っぽい感じだったからねっ!」
「匂いだけで位置が把握できるとか完全に常識の外だなっ!」
空間破砕の痕を修復しながら、そんな会話を交わす僕ら。
念話での会話の方が相手に聞こえないからいいと思うかもしれないが、今僕等が使っているのは『日本語』だ。
念話だと魔獣が横槍入れて聞き取られることも考えられるけど、流石に生の『日本語』を聞いて理解できるとは思えない。
ちなみにミュラりん達の基礎言語も日本語だよ!
けれど、僕等のそんな警戒をあざ笑うかのように敵は動く。
「!!」「うわっ!」
警告を発する間もなく動くミュラりん達。
僅かに遅れて空間を突き破り現れる爪!
「見られてるって言うのか、空間を越えて……」
「うぬぬぬぬ!そう考えるしかないみたいだねぇっ!」
こちらの予想以上に厄介そうな相手に僕等も困惑を隠せない。
即座に攻撃が来るわけじゃないのが救いではあるが、このまま延々とかぁさまが狙われ続けるのは不愉快だしジリ貧なるだけだ。
(一体どうすればいい?
相手をこちらに引きずり出すか、こちらから向こうへ……っ!?)
考えている間にもまたもやかぁさまを狙って攻撃が繰り出される。
「何度も好き放題やらせるかっ!
『そは永劫の境界線交わる事なき因果地平』
切り裂けッ!『位相断絶』」
空間を切り裂く様な輩に空間魔法をぶち込むのもどうかと後になれば思えたのだが、未熟故の焦りという奴だろう。
この時の僕はかぁさまを狙われ続けた事で完全に冷静を欠いていた。
放った魔法は相手の爪の一本を確かに断ち切ってみせた。
が、その代償として僕は『気付き』を失い。
バキィィィィィィンッ!!
「がはっ……!
な、なん、で……」
「フラヴィィィィィィ!!」
破砕した空間に全身が引きちぎられ、そこから伸びた『別の爪』に臓腑を抉られる。
敵は一匹ではなかった。
狙っていたんだ、かぁさまの退避に気を取られ、自身の守りを疎かにする誰かを。
攻撃に転じて隙を晒す愚か者を。
ズルズルと爪が引き抜かれていく。
このくらいの傷、致命傷にはほど遠い。
『神』を殺すにはまだ足りない。
だけど、心に受けた傷は、存外深かった。
どさり
爪が完全に引き抜かれた瞬間、僕は自らの血だまりに膝をつく。
情けない
不甲斐ない、みっともない、しょうもない、どうしようもなく恥ずかしい!
再生していく身体。
先の爪をへし折った魔法。
全てかぁさまからもらったものだ。
僕自身の力で何かできたか?
何も出来ない、出来てやしないじゃないか。
何年もかけて己を鍛えて、鍛えた結果何を得た?
僕が積み重ねた時間は、何のための時間だ?
視ろ、かぁさまが泣いている。
僕を案じて泣いている。
あんな顔をさせない為に己を鍛えたのではなかったのか?
恥を知れ、エル・フラヴィオ!
空間を越えてこちらを見る相手?
だからなんだ?
空間を突き破る力を持つ相手?
だからなんだ?
相手がどれだけ強かろうが、関係ないだろう?
「僕は、エル・フィオーレの息子だ。
『創世神』の名の下に、有象無象に無様を晒すわけにはいかないんだよ!」
「フラ、ヴィ……?」
震える膝を叱りつける様にして力を込め、立ち上がれば不安げなかぁさまの視線が僕に突き刺さる。
悪寒
かすかに感じた殺気を頼りに、空間破砕の範囲からゆらりと離脱する。
砕け散る空間と、そこから伸びる爪、そして漂ってくる若干の戸惑い。
「大丈夫、そんな目をしないでよかぁさま。
僕は未熟だけど、未熟なりに頑張ってきたんだからさ。
こんな小狡い連中、すぐにどうにかしてみせるさ」
精一杯の強がりを笑みに乗せて、僕はかぁさまに微笑みかける。
心配性のヤンデレ親バカ女神をこれ以上不安にさせるわけにはいかないのだ。
何時ぞやみたいにまた世界を闇に沈められるような事があってはたまらない。
やるべきことは一つだけだ。
かぁさまに心配かけずに勝つ!
方法?知らんっ!
「病んでるだけに闇オチなんてギャグにもならんわなっ!
さぁ、仕切り直しといこうか?
開き直った僕は一味違うぞ~♪」
罅割れの向こうに潜む何かを軽く挑発すれば、明確な怒りの波動が伝わってくる。
実にチョロい。
だが強さは本物だ。
油断せずに行こうか!
フィオ「大見え切ったけど大丈夫?」
フラヴィ「分かんない。相手の正体すら分からないからねぇ」
フィオ「でもまぁ、ボクはフラヴィを信じるよ。
頑張ってくれてるのは分かるし」
フラヴィ「うん、頑張る。
次回かみぐらしっ! 第42話 The best way to predict the future is to create it」
フィオ「お楽しみに~」




