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かみぐらしっ!  作者: 葵・悠陽
第3章 『奈落』で生きるという事
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幕間 『奈落』で生きるという事

時間はバンバン進みますね!


 ぜぇ、はっ、はっ、はっ、ぜぇっ、はっ、はっ、はっ……


 一瞬でも気を抜けば肉体が骨から何からぐしゃっとひしゃげそうな程の高重力下では、流す汗すらもとんでもない重石と化すんだという事を、体験してから思い知る。


 まるで亀の様。


 遅々として進まぬ一歩を渾身の力で踏みだしながら、まだ立ち止まるわけにはいかぬと気合を入れ直しさらに向こうへもう一歩。


「頑張れー!まだ重力10倍だよー?」


 ミュラりんの押す台車に乗せられたかぁさまから熱い、でもどこか呆れた様な声援が飛ぶ。


 それに応えるために腕を上げたくても上がらないことに苦笑しながら気合を入れてもう一歩。


 身体が重い、重すぎる。


 単純に体重10倍。


 10代前半の体重ならば35~50㎏くらいが平均だろうか?


 10倍だから350kg?重いに決まってるわな。


 子供が小錦や曙を背負って歩く、そんな状景を思い浮かべてもらえるならどの程度厳しいトレーニングなのかは理解してもらえるはずだ。


 はじめは2倍、数日後には5倍。


 そして現在では10倍の重力下。


 最終的には100倍以上の重力下での()()()()()()を目指したい。

 

 『超高重力下での基礎体力作り』


 どこの戦闘民族の修行法だと言いたくなるが、『神』の肉体で可能かつ思い当たる高効率トレーニングと言ったら真っ先にこれなんだから仕方ないよね?


 いかなる場合においても勝負を左右するのはスタミナと精神力だ。


 どんな剣豪でもスタミナが斬れれば剣は振れない。


 どんな『神』でも精神が折れればじり貧と化す。


 技よりも何よりも、今は圧倒的持久力とそれを支える精神力の強化が最優先。


 僕は何をするにも初心者なのだから、基礎を大事にしないといけない。


 もちろん、『鍛えれば鍛えただけ自分は成長するんだ』という思い込みも大切。


 『神なんだから鍛えるまでも無く強い』なんていうのは、それ以上に強い存在と当たったらプチっとされてしまうのはこの身で思い知ったからね。


 でもやっぱりかぁさまからしてみたら、納得がいかないようで。


「うーん、やっぱり『神』が自分を鍛える意味ってあるのかなぁ?

そもそも、自分の力の上限とか、把握は出来ているわけじゃない?

それをいかに使いこなすかじゃないの?」


「それだと限界を越えられないじゃない。

成長は限界の先にこそあるモノなんだよ?

かぁさまは自分の限界設定の上限を外せるかもしれないけど、その限界すらあっさり超えてくる相手がいたらそこで終わりになっちゃうよ」


「そんな相手、いるかなぁ?」


「『創造力を越えてくる』存在には、既存の存在は勝ち目がない。

それはかぁさまだって理解してるんじゃない?」


「うっ……」


 その言葉に詰まってしまうのは、『未知』の怖さを知るが故だろう。


 『本気を出せば』何でもできるかもしれないが、『出せない』以上それは『出来る』の内に入らない。


 故に『未知』と遭遇した時に対処できずに手をこまねく。


 『ニグルム・ドゥーム』の時もそうだったわけだし。


 だから『人間』は『備え』る事にこだわるのだけど……この辺が感覚の差なんだよねぇ。


 ある程度の納得を得られたところで、僕はまた走る努力に戻る。


 基礎体力の向上が済めば、今度は『技』の修練が待っているのだ。


 こんなところで足踏みしている余裕はない。




「……この戦技は、私の居た世界で、私を信奉してくれた部族が編み出したもの。

エル・フラヴィオ、貴方がそれを引き継いでくれることを心から感謝したい」


 そう言ってノーマ・ノクサが頭を下げた。


「いえいえ、教わるのは僕の方ですし、まさかノーマ・ノクサがこんな武術を修めているだなんて思わなかったから正直驚いています」


「……私は、未来を見る事くらいしか能がない神だった。

それすら放棄したことで民に権能を与えぬ邪神と詰られ、堕とされたのだけど。

……そんな私でも、見捨てる事なく信奉してくれた者たちはいたのだ。

『不確定な未来』を自ら目を閉ざす事で封じる、などと好意的に解釈してくれて、ね。

彼等は砂漠の民。

厳しい環境下で明日をも知れぬ日々を、逞しく生きた自由の民。

……彼等が私に捧げてくれた舞を、私は理不尽に抗う力に変えて彼等に返した。

それがこの、『円環舞闘術(バイラール・エテルノ)』だ」


 僕に戦いの技術を教授してくれるのは意外な事にノーマ・ノクサだった。


 はじめはキルギリオスさんに頼みに行ったのだけど、話をしたらその場にいた彼が、それならば自分がと立候補してくれたのだ。


 彼の『円環舞闘術(バイラール・エテルノ)


 砂漠を吹きぬける風のように、常に変化し先の読めないものを生き様とたとえ、歌と踊りに変えて捧げられた民族舞踊を起源とする近接格闘術。


 幾つかの基本の型をベースに、常に変化し続け止まる事の無い流転の拳がその本質だ。


 元が舞踏の為、拳舞、剣舞共に基本の型のそれぞれは戦わずとも洗練された舞のように美しく、初めて見せられた際には皆で拍手喝采したものである。


 武術と言えば空手か柔道くらいしか朧げな記憶がなかった僕としては喜んで教えを受ける事にしたのは言うまでもない。


 その際お約束のようにかぁさまがやきもちやいて脹れたけれど、「おぼえてかぁさまに見せたい!」と言ったらすぐに態度を翻したあたり、チョロインと言わざるを得ないよねぇ。


 ……本音を言えば一緒に踊りたいな、なんて思ったりもするのだけれどね。




 こうして僕は日々基礎体力の向上に励み、格闘術の教えを受け己を鍛え続けた。


 延々と繰り返される反復練習や基礎訓練の日々は実り多く充実していたけれども描写としては同じことの繰り返し。


 故にその多くはここでは割愛する。


 ある程度形になるまで何度も恥をかき、地を舐め、その度にかぁさまが暴れる。


 説得し、納得させ、成果を形に変えて証明する事の繰り返しだったとだけ言えば伝わるだろうか?


 おかげで気が付いた時には基礎を修めるだけで4~5年の日々が経過し、僕の肉体も鍛錬がもっとも成長が見込める時期を迎えていた。


 『奈落』で生きていくための、抗いの準備がようやく一歩目を踏み出せた。


 そんな実感を胸に、『今日』を迎える。









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