第36話 考えるな!感じろ!
「ふ~んふ~ん♪ふ~んふ~ん♪
ふふ~んふふふふ~んふふふふ~んふ~♪」
手元の粘土質な金属素材に神力を流しつつこねこねしながら、ちょっぴりハイな気分で鼻歌交じりにアニソンなんかを口ずさんでしまう。
どこぞの超時空アイドルの代表曲だったかな。
私の彼がしゃおパイロンだか何だか?パイロットだったかな?
個人的にはその超時空アイドルよりも続編で出てきた銀河の妖精のなんとかさん(名前は思い出せない)の歌が好きだった。
弾幕ゲーしている時に彼女の持ち歌『射手座☆午後〇時Don't be late』とかバックで流すと最高だったなぁ。
個人的に好きだった彼女の曲は『インフィニティ』だな。
『#7』も悪くないんだけどシンデレラさんがあんまり好きではないせいか、デュエット曲はちょっと個人ランキングが下がる的な。
そんなことを考えながらこねこねしつつ、手元に出来上がるは……
「じゃーん!VF-25 メサ〇ア!
流石にスーパーパックは無理だけども、我ながら素晴らしい再現度!」
「何を造ってるのかと思ったら……何その変な三角……鳥?」
「失敬な!
これは飛行機という乗り物を小さくした模型だよ。
VF-25っていうのはこの模型の元になったデザインの通称。
『イクウェス』みたいに飛ぶんだぞ~」
「嘘だぁ~」「基礎理論の提示を申請します」
そもそも飛行機というものが存在しないせいでかぁさまが信じてくれない。
ミュラりんは飛行する原理の方に興味が行っちゃってるし……ちょっと悲しい。
生前は休日になると試作品のイラスト書いたり粘土をこねこねしてパーツをシリコンで型取りしてはアニメのキャラや機体のフィギュア作成なんかを楽しんでいた……ような記憶があるからと、ちょっと気合いを入れて作ったんだけどなぁ。
フレームアーム〇ガールとかGガ〇ダムシリーズとかマク〇スシリーズとかの機体を中心に、改造したりパーツを新規成型してた覚えがある。
部分的に映像記憶としてははっきり思い出せる記憶だからつい楽しくなってやってみたんだけど、今はほら、『神』なもんだから再現度がね?
細かな部分、コクピットや変形機構、色彩からデザインに至るまで著作権に引っかかりかねないレベルの仕上がり!
ま・さ・に!『神』レベル造型師のお仕事、なんだぞぃ……。
オークションに出したら既製品と間違えられる仕上がりだぞっ!と自慢したいんだけど……。
「うん、興味ない人にはゴミと同じだよね、分かってたよ、うん……」
そう、分かっていてもこうね、何そのがらくたみたいな反応されると心に刺さるっていうか、ね?
「うわっ!?
フラヴィ!?なんでそんなに落ち込むのっ!?
え、これが何か分からないのってそんなにショックなの!?」
「いやね、ほら、かぁさまが一緒にロボット作ろうって言ってくれたじゃない?」
「い、いったねぇ?」
「だからさ、ロボット的なものを実際作って見せた方がいいかなー、ってちょっと昔の血が騒いだ挙句に空回りした感じ?っていうのかなぁ? ははは……
ほ~ら、見てみて~、ここをこうすると変形するんだよ~」
カチャカチャと手元のVF-25を戦闘機形状からロボット形状へと変形させる。
人間だった頃の僕には到底できなかったこの細かな造形!
それが嬉しくて調子に乗った挙句に作った作品も、細かなところまで再現可能な『神』技術も理解してもらえなきゃただのゴミ……
「え!?ちょ!今何したの!?
変な三角が人形に化けたよっ!?」
「!!
驚愕の変形機構と認識!
解析……驚愕!
構造上の耐久性度外視の機構であるはずが理論的には問題なし!?」
おや?手元でカチャカチャと変形させただけなんだけど、思ったより驚かれてる?
「え、これがロボットなの!?
『イクウェス』と全然違くない!?
形が変わるのに何の意味があるの!?
うわー!いじりたい!触りたい!」
さっきまでのセメントな反応から一転、変形機構を見せたら物凄く喰い付かれた。
「……なんていうか、理屈より面白さ、なんだなぁ……」
玩具開発企業の苦労をちょっとだけ感じたような気分だった。
■ ■ ■
「はい、それでは”親子で一緒にロボを造る会”の開催でーす」
「え~、さっきのVF-25でいいよ、あれ造ろうよ」
「ガチで造ると色々問題があるからダメ!
それに、アレを造るとなると主旨が変わっちゃうでしょ?」
「う~!じゃあじゃあ、あの三角がほんとに飛ぶのかっ!」
「ほぅ?鳥が何故飛べるのかも知らない科学難民が、飛行機の飛ぶ原理を知りたいと?」
「……ボ、ボク、フラヴィと一緒にロボ作りたいなぁ~♪」
「素直で結構」
話が進まないから我儘は程々にして欲しいものだねぇ。
「さて、前回はかぁさまが妙な意地を張ったせいで変な物体が大量沸きして肝が冷えたものだけど」
「ごめんねぇ?」
「いやいや、実はあの時かぁさまが生み出したアレ、コンセプト的には間違ってないから問題ない」
「は?」
抱えてるから表情は見えないけど、間違いなく目が点になってるなぁ。
「そもそも、ロボの定義はある程度『自律的に連続的、ランダム的な自動作業を行う事が出来る』機械的なモノを指すからね。
そもそもがゴーレム伝承なんかを元にしたものだったはずだし、動力源が機械的であろうが魔力的であろうがあまり関係ないんだ」
「え、じゃあボクが生み出したアレって……」
「危うく生き物に片足突っ込みかけてたけど、自律行動可能という意味では正解を引いたとも言える」
「じゃあなんでボク怒られたのさ!」
「それは普段からかぁさまが自分で言ってる禁を破ったからだろ?
それに、コンセプトはあっててもあれがかぁさまの回答でもないでしょ?」
「まぁ、それは確かに……」
「下手に悩まれて妙なものを生み出されるより、きちんと納得したものを造ってほしいからさ?
だから疑問に答えてるわけ」
これは普段からかぁさま自身が僕にしてくれている事だ。
とりあえず教えたことをやらせる。
で、やっている事の何が分からないのかを炙り出す。
その上で出てくるどんどん分からないことを潰していくのだ。
あまり効率がいい教え方ではないけれど、『神』という存在の在り方にマニュアルなんてものは無いし、力の使い方なんて普通は生まれたら感覚的に把握できるものなんだとか。
馬の子が生まれてすぐに立ち上がる様に、鳥の子が自然に飛ぶことを覚えるように、子魚が教わらなくとも水の中を自由に泳ぐように、『神』もまた生まれてすぐに自身が為すべきを知る。
人から転生した僕にはその辺さっぱり分からんかった訳だけどね?
分からない、という事には『理解が出来ない』と『何が分かっていないかが分からない』という違いがある事を、教える側も教わる側も忘れてはいけないのだ。
先の鳥の子の例を挙げるならば、鳥が飛べないのは『飛び方を知らない』のか『飛べない理由』があるのかという2極でのみ考えがちだが、そもそも『飛ぶ』という概念を知らないことだってあるわけで。
「う~ん、それならボクとしてはなんでロボ作ってるの?ってところから分からないかなぁ?」
「ミュラりんのボディにしたいって言ったじゃない」
「それだよ。
何でミュラりんのボディを造るの?
ミュラりんは『ケイ素結晶生命体』として完成した存在なんだよね?
なんで自身が欠陥であるかのような、『肉体の補填』的行為をしてるのかが分かんない」
「あ~、そこからかぁ」
どうやらかぁさまからしてみたら、ミュラりんは既に種として自己完結した成立をしてるからわざわざ他種族を真似るような形を取らせることに違和感を感じていたみたいだ。
「発想がちょっと違うかなぁ?
ミュラりんが種として完成しているからこそ、欠陥と取られがちな事をさせてんだよね」
「???
どゆこと?」
「ミュラりんは『ケイ素生命体』で、『炭素生命体』とは基本的に思考から何から違うんだよ。
一緒に居るから分かってないのかもしれないけど」
「え、そうなの?」
「うん。
ミュラりんはモノが見えてないし、音も聞こえてない。
周囲の熱を魔法的に探知して、震動を解析して、僕等とコミュニケーションを成立させてる。
思考パターンに関してもボクが教えた脳のシナプスによる伝達系をベースに自己進化したもので思考してる。
そもそも彼らは群体生命だからね。
個としてはただの砂粒、群れる事で初めて種族的真価を発揮する。
で、ここからが問題なんだけど」
そう言って僕はかぁさまの首を抱え直し、きちんと向かい合う。
「ミュラりんに『炭素生命体』との交流手段を仕込んでおかないと、両種族間で確実に戦争になる」
「は?」
「いやだから、戦争になるって言ったの」
「な、なんで?」
何を言われてるかさっぱり分からない、というかぁさまの反応は至極当然だろう。
僕だってミュラりんがそんなアホな子だとは思いたくはないけれど、現実は何時だって残酷な未来を想定してしかるべきもの。
ミュラりん達は、言うなれば超高性能のAIと同じ存在なのだ。
今でこそできることは少ないが、自分たちで文化を形成しようという気概もあれば知識欲も貪欲。
それでいて傲慢さもないとってもいい子だ。
だけど、今後もそうであるとは限らない。
僕の知る限りの世界には基本的に『炭素生命体』が溢れている。
もちろん知らないだけかもしれない。
それでも、創造主たる僕の知る範囲内ではそうなのだ。
だからこそ、それらの中では『ケイ素生命体』は明確な異物となる。
異物と見做され、排斥されるかもしれないという未来が考えうる以上、それに対する備えはしておくのが親心というものだ。
すなわち、異物であっても歩み寄れる環境を造る事。
道端の石と友達になるのと、異形でこそあれ人の形をしたモノと友達になるのと、どちらがハードルが低いだろうか。
「だからこそ、ロボとかゴーレムという皮を隠れ蓑に、自分たち以外の『種』というものへの認知、認識を深めてもらいたいわけさ。
それに、ガワを被るという技術は『アイゼンミュラー』って種族が持てる種族の特性になるかもしれないじゃない?」
「結構深く考えてたんだねぇ。
心配しすぎッて気もするけど」
「僕の知る物語の中にね、『ケイ素生命体』が『炭素生命体』を同じ生命と認識していなくて、ただの災害として排除していた結果、『炭素生命体』側からのコンタクトで初めて『生命』と認知した後に改めて危険な存在として『根絶』されかける、って話があってね」
「うぇっ!?」
「ミュラりんがそんな事するとは思わないけどさ、『愚かな人間たちは神に代わって自分たちが管理しなければならない』とか言いだす可能性もゼロじゃないでしょう?
あ、ちなみにそういう物語もあったとだけは言っておくよ」
「フラヴィの懸念は分かったよ。
そうだねぇ、生命は環境に応じて変容するモノだもんね。
わかったよ!
ボクもそのことを踏まえてミュラりん達に相応しいロボを考えてみよう!」
そんな風に頼もしいことを言ってくれるかぁさまの言葉に安堵を感じる。
僕だけじゃなく『創世神』であるかぁさまの祝福もあるなら、きっとミュラりん達の未来は悪い方に進まないだろう……。
そんな想いを抱きつつ、改めてロボ作りに取り掛かったのだが。
「こういうのはやっぱり閃きが全てだよねっ!」
「は?ちょ!かぁさま!?」
「……あれ?なんかヤバい?」
「だから勢いだけで行動すんなっ!
ちっとは考えろ~~~~!!!」
このあと数回に渡り謎のゴーレムっぽい何かが生まれ、その処理にてんやわんやさせられた。
フラヴィ「かぁさま、当分の間創作系の神力使用禁止な?」
フィオ「そ、そんなっ!!」
フラヴィ「後始末どれだけ大変だったと思ってんだよっ!
それに何あの妙に能力特化した頭のおかしいゴーレム!
次回! 第37話 セーラー服と小隊機銃」




