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かみぐらしっ!  作者: 葵・悠陽
第3章 『奈落』で生きるという事
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第35話 作ればいいというわけではなく

伏線の魔王様、出オチで退場。

『奈落』(表)は大騒ぎになっていますが、『奈落』(裏)はいたって平和です。


(ぐぬぬぬぬ……)


 いつもお気楽なエル・フィオーレは珍しく悩んでいた。


 何時ものようにフラヴィに抱えられながら、一言も口を開かずに大人しくしている様は普段のまったり状態ならば確実に彼を心配させていたであろうが、現在フラヴィはアイゼンミュラーと新規製作中のボディに関する議論に集中していて、フィオのだんまりに気づく様子はない。


 大方話の内容についていけないために大人しくしているのだと割り切りつつ、話に夢中になって存在そのものを忘れてるんだろうなー、とちょっとだけ不愉快に思いながらも、この場は自分へ注意が向けられない幸運に胸をなでおろす。


 しつこいようだが、エル・フィオーレは珍しく悩んでいる、お悩みなのだ!


(フラヴィの手前、ボクもロボを造る!なんて言っちゃったけど!

ゴーレムでも構わないって言質貰ったけど!

ロボって何!?どうやって作るとロボになるの!?)


 これまで全く興味がなかったため、イッアム・シテーの話もフラヴィの話もろくに聞かずにいたツケがここで出てしまった訳だ。


 素直に聞けば笑いながらも教えてくれるという確信はあったが、そこはそれ、『かぁさま』としてのプライドの問題もある。


 基本的にお子様な部分の多いフィオとしては、張れる見栄なら張っていたい。


 というわけで珍しく黙ってフラヴィ達の会話から、何かしら得るものは無いかと耳をそばだてているのだが……。


(あく、あくちゅえーた?プライマリこんせぷと?まにぴれったの接続部の強度が弱いと保持のためのじんこうきんにくん?

あうあうあう……さっぱりわからにゃい……)


 ロボットやプラモデルなどに興味がない人ならばわかる事だと思うが、工作、工業系専門用語程意味不明な言語はない。


 当人たちにしか通じない謎言語を更に省略したりなど当たり前。


 関係者以外立ち入り禁止の看板が浮かんでいるかのような謎の圧力を以て関係者とそれ以外を明確に区分けしてしまうその会話内容は、部外者にとっては愛想笑いすら許さない恐怖の圧力面接空間の様なものである。


 そういう意味では普段フィオが疎外感を感じて怒るのも当然といえば当然であり、同時にフラヴィ達としてはなぜ怒られるか分からない理不尽の権化に見えてしまうのもやむなし。


 今回はフィオが歩み寄る姿勢を見せてしまったせいで(乗せられたともいう)、文句すら言えなくなっているのだからどうしようもない。


(う~~ん、話聞いてても意味が分からないなぁ。

ロボットとゴーレムってそもそもどう違うんだろ?

ゴーレムは魔法で自立行動できるように無機物を調整した一種の魔法生命体だよね?

ならロボットは?

皆が作ってたのは作者の命令で動くゴーレムとあまり変わらないモノだった。

でもフラヴィが作ったのは乗り込んで、操縦するっていう手間を加えたもの。

操縦する手間が必要なのがロボなの?)


 端的に言えばロボットの概念とは『ある程度自律的に連続、或いはランダムな自動作業を行う機械』のことであり、ゴーレムも大雑把な解釈を以て『魔導式ロボット』として分類することが可能だったりする。


 だからこそフラヴィは先日の大会でそれぞれの『神』が持ち寄った各種『ロボ』と思しきものに関しダメ出しをしなかったのだが、明確な答えを求めて事を難しく考えてしまっているフィオはその事に気づかない。


(あああああ~~~~!

全然考えがまとまらないよぅ!

何を創ればいいの!?どう作ればいいの!?どんなものならいいの~~!?)


 困惑は混乱を呼び、混乱は自身の神力の制御を暴走させる。



 乱れに乱れたフィオの思考は、フィオの制御を離れて周囲に漏れ出し始めていた。





          ■  ■  ■


 真っ先に異変に気が付いたのはミュラりんであった。


 センサー系の構築パターンの試験を行っていた際、周囲に通常とは異なる動体反応を感知したのだ。


「主様、周囲に特異な動体反応を感知」


「ん?動体反応?

って、なにこれっ!?」


 フラヴィが慌てるのも無理はない。


 彼らの周囲を取り囲むようにゆらり、ゆらりと棒立ちしている物体は、真っ黒な硬質ゴムでできた様なデッサン人形の如き、人型二足の『何か』だったからだ。


 それら『人形』はパッと見ただけでも10数体。


 更に追加とばかりに次々と地面から音も無く立ち上がっていくではないか。


「かぁさまっ! なんか出てきたっ!

ここ隔離空間じゃなかったのっ!?」


 慌てて空間断層障壁を多重展開し、フィオとミュラりんを保護するフラヴィ。


 『人形』は敵対意思を示すでもなく、ただゆらゆらと揺れているだけだが、それだけに逆に不気味な存在感を醸し出している。


(まずい、僕とかぁさまだけなら問題なく逃げ切れそうだけど、ミュラりんは今制御系とか感覚系の構築で群体がばらばらに散ってる状態だ……。

全てを一気に回収できるか?

パーツごと全部運べば行けるだろうけど、安全だと思って細かく分けすぎたのが裏目に出たかっ)


 即座に行動に移さねば間に合わない、そう判断して自分たちの座標ごと空間を切り取り、ジャンプしようかと構えたその時。


「はぇ?うわっ!?な、なにこれっ!キモッ!」


 終始無言だったフィオがようやく周囲の状況に気が付き、騒ぎ始める。


 するとその声に反応したように『人形』達は突然その場にしゃがみ込むと、一斉に土下座を始めた。


 ……フィオに向って。


「「……は?」」




 周囲にわき出したこの黒い『人形』は全部で39体。


 それぞれの個体は若干身体のバランスが違う感じの、ぱっと見はデッサン人形。


 フラヴィが話しかけても全く反応せず、フィオが話しかけると反応することから恐らくフィオが生み出した『何か』であると推察された。


「う~ん、君達は一体何なわけ?

ボク、君等を生み出した覚えなんてないんだけど……」


「%#$’!(’#T!’(”%」


「何言ってるかさっぱりだよ!」


「’$!$!”$”!&&%”」


 さしものフィオもコミュニケーションが取れない以上、打つ手なしの様でかなり困惑した様子である。


「ねぇ、かぁさま?

この子達は間違いなくかぁさまが作った生き物なの?」


「生き物かどうかも分からない。

生命反応が無いんだよねぇ。

だからゴーレムか何かだと思うんだけど、ゴーレムならコマンド無しで動いたりしないし」


「生き物でもゴーレムでもない……?」


 その言葉に何か思い至ったかのように黙り込むフラヴィ。


「僭越ながら、ご報告を。

先ほどから黒の個体が発する言語体らしきものの解析が終了しました」


 困惑し、沈黙する二人に、恐る恐るといった様子でミュラりんが報告を上げる。


「え!?あのよく分からない音、解読できたの?」


「凄いな、ミュラりん……」


「発っされる音の中にあるいくつかの組み合わせを軸に、言語の構築法を推察。

仮設に仮説を重ねる形になりましたがある程度の解析結果を精査していき、解読に成功」


 恐るべきは群体による超高速演算モジュールの構築か。


 機械と違って曖昧さも許容することで無限ループに陥ることも無く、言語翻訳まで可能にするとは流石ミュラりん!伊達じゃないぜ!とフラヴィは大喜びだ。


「で、なんて言ってたの?」


「それが……」


 ミュラりんの解析によると、「我らはロボか?ゴーレムか?」「創造主よ、我らは何者か?」とひたすら繰り返していた、との事。


 フラヴィの白い目がフィオに突き刺さる。


 容赦なく。


「……かぁさま?

前に自分で言ったよねぇ?

生命はむやみやたらにポコポコ生み出していいものじゃないんだよ、って。

何やっちゃってんの!?

これ、あれだよねぇ?

ロボ作ろうとしてどんなの作っていいか分からないから悩んだ挙句に思考が漏れちゃって何か生まれちゃった的なろくでもないオチだよねぇ!?」


「痛い痛い!こめかみぐりぐりしないでぇ!!

ごめんなさいすみません反省してるから勘弁してぇ!!」


「勘弁する訳ないでしょっ!

どーすんのこの子達っ!

壊しちゃうの!?それとも面倒ちゃんと見るの!?

その辺きちっとするまで構ってあげないよ!?」


「いやあああああ!!

無視されるのいやああああああ!!

わかった、わかったよぅ、きちんと考えるから許してぇ!」


 と、いつものような騒ぎを一通り済ませた後、二人は『人形』の精査に入る。


 彼らが『生命』を持つ存在であるならば面倒を見なければならないし、そうでなくとも相応の対応を考えねばならない。


 何かを生み出すならば、生み出す責任が生じるからだ。


 生み出して、はい、後はご自由になどと放逐して良い訳がない。


 それを良く知るが故にフラヴィは激怒したし、フィオも自身の軽率な行動に反省もした。


 そこに年齢や立場など関係はない。


 『神』たるものの責任を互いに理解するが故、である。




「……結論からいうと、悩みが空間に魔力投射されることで物質化しただけの、いわば『(シャドウ)』とでもいう存在だね、これ」


「うん、幸いというべきか、新種の生命体とかじゃなかったね」


「それにしたって迂闊が過ぎるでしょ!

そんなに悩むなら相談してくれてよかったのに……。

無駄に見栄張られるより、よっぽどその方が楽しくやれるのに」


「だってぇ……驚かせたかったんだよぅ、流石かぁさまっ!って」


「明らかに僕等より知識がないのに無理に決まってるでしょうに。

着眼点に驚かされる事こそあれ、ある程度体系化された知識って言うのはそうそう驚きの新技術なんて生まれないもんだよ?

実現の可否は別にしたサイエンスフィクションってジャンルが成立している限りはまず絶対的に」


「うぐぅ……そう、そうだったね……意味不明な技術構築においてボクら『神』は何歩も後れを取っているんだった!」


「僕等としてはかぁさまがこっちのジャンルにも興味を示してくれたってだけでもうれしいんだからさ、妙に奇を衒わずにシンプルなところから楽しんでいこうよ、ね?」


「うんっ!」


 こうしてフィオの見栄を原因とした『影』騒ぎは幕を閉じる。


 なお、この『影』はフィオの一時的な悩みの末に生まれたものであったため、1日ほどで跡形も無く消失した。


 存在としては『3Dプリンタで出力された人形』とでもいうべきものであり、意外と技術的には最新鋭技術であると言えなくもない代物であったのだが……気づいていた者はこの場にはいない。




フィオ「教える立場が教わる立場にっ!」

フラヴィ「まぁ、技術的なものってのは神には余り縁がないからね。

かつて人に火をもたらしたというプロメテウスだって、まさか人が神すら想像もしなかったような火の扱いを考え出すだなんて思いもしなかっただろうし」

フィオ「そう考えると人間って神よりおっかないかもね。

さて、それじゃ次回予告だね! 第36話 考えるな!感じろ!」

フラヴィ「今度はブル〇ス・リーか……」

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