第33話 『奈落』にまつわる『えとせとら』
熱いバトルの後はインターミッション。
エンターミッションではありません悪しからず。
「はいっ!どうも~♪『奈落の創世神』エル・フィオーレです♪
いつも『フィオ☆ちゃんねる』を見てくれてありがと~う!
今日は『奈落』についてすこ~しツッコんだお話しをしていきたいと、思いま~っす」
はい、拍手~!と霊体のかぁさまが僕とミュラりんに強制する。
「かぁさまの生首膝に抱えたままどうやって拍手せぇと。
あと何そのどっかのVチューバーみたいなフリは」
「え、なんか変だった?」
「異常は確認できません。
使用した単語の意味は解釈不能です」
「う~ん、ウケると思ったんだけどなぁ」
そう露骨にガッカリされても困る。
フリもいきなりなら内容も意味不明とか、対応に困るのは僕だけじゃないから。
「しかしまた、なんで急に『奈落』の話を?」
「いや~、状況的にフラヴィももうちょっと突っ込んだ話を聞きたいかな~、って」
「なるほど」
閑散としたコロッセオ『ゲヘナ・プロエリ』と、その舞台の片隅に山積みされている黒いもやもやした何かの塊。
散らばる幾つかの機体の残骸と合わさって、まるで戦場跡のような物悲しさを醸し出している。
実際に戦場だった訳だけどね?
ここがどこかの異世界の魔王支配地区、などと言う話なら誰しも頷きそうだけど……『奈落』と称される場所にはあまり似つかわしくない状景、であるかな。
僕等は現在、ここに散らばっている『ニグルム・ドゥーム』他、放置しておくとまずそうな物を撤去処理中だったりする。
先だって起きた『矛盾結晶』にまつわるあれこれを受けて、かぁさまとしてはこの『奈落』という場所についてもう少し詳しい話をしておきたくなったようだ。
『矛盾結晶』を用いて『奈落』から脱したと思しきジ・フィーニスの件もあるし。
なお、真っ先にイッアム婆さんに潰されたゲジュルベリアさんと、機体ごと『ニグルム・ドゥーム』に飲まれたキルギリオスさんは奇跡的に存命だった。
かなり復活に時間はかかる様子だけど、それでも朗報と言えるだろう。
さっさと逃亡したおかげで難を逃れたノーマ・ノクサがその権能を以て協力してくれたおかげだ。
「……普段から、自分が死なない未来を見るので手一杯なんだ。
……あまり協力的でなくて、すまない」
そう申し訳なさそうに言われたがそれは仕方がないと思う。
■
「そもそも『奈落』っていうのは世界のゴミ捨て場だって話はしたよね?」
「うん、聞いたね」
僕の知る限りではこんな感じだったはずだ。
・世界のゴミ捨て場である
・無限の広さを持つ空間であり、ループはしていない。
・あらゆる力が100分の1以下にまで制限される、強いほど補正が大きい。
・基本的に抜け出す方法はない。
あれ?存外知っている事って少ない?
「最近ご近所付き合いが増えたでしょ?
そのせいで色々おかしいって感じる事も多いかなって思って」
「存外知ってることが少ないことに驚いた。
あまり不自由を感じてないから、なんだろうけど」
「そうだねぇ、ボクら神にとっては悠久の時を過ごす場所なんてそれこそ気分でどうにでもなる問題だからね。
こんな場所でも望めば大地を造り、緑を生み出し、天に星々が煌めく、なんて環境を自分の好みで作り出せちゃうし。
元の世界に還りたい、とかここが不満に感じる連中は、ちょっと贅沢を知っちゃったか自身の希望を叶えられる力がないか、のどっちかかな~」
かくいうボクも今はもう孤独には耐えられそうにないし、と苦笑いを浮かべるかぁさま。
「そもそも、ここが何で『世界のゴミ箱』なのか、何でボクの世界からだけじゃなく、、別の世界からも色々堕とされてくるのか不思議に思ったことはない?」
「それは思った。
見えない時は気にならなかったけど、『神』になって周囲が見えるようになったら想像以上に色んなのがいて驚いたもん」
描写としては荒れ果てた荒野とご近所さん程度の解説しか入れていなかったけど、実際は『荒れ果てた荒野になるほどの汚染物質』や『生物が暮らすような環境ではない大気構成』に囲まれた生活を送っている。
すぐ手の届く場所に重度の魔力汚染物質(こっちの世界で言うところの核燃料廃棄物みたいなもの)や病原体変異物(破傷風菌とかの変異した凄くヤバい感じの何か)が見渡す限りの範囲内に数えきれないくらいに落ちているし、空気にはそもそも酸素なんて含まれていないし。
ちなみにこの程度では僕等の肉体に変異ひとつ起こすことはない。
本気でマズいものはかぁさまの結界に引っかかって一瞬で結晶化、無力化されるし。
周辺をうろつく生き物(基本的に『神』には無害)は見ただけでSAN値が消し飛ぶような造形の生き物ばかりなのでそもそも解説しようがないものばかり。
今までそんなこと一言も言及しなかったのは、単にそれらがこの『奈落』における風景の一部としてしか認識していないからだ。
『魂』状態の頃、説明こそ受けてはいたけれども一体何のことやら想像できなかったし、実際に見てみるとキモイとしか言いようがないし。
普段からそんな環境での生活だから特に意識はしていなかっただけで、改めて言われてみれば、たった一つの世界から廃棄、投棄されるにしては量にしろ質にしろちょっとおかしく感じるレベルだ。
それこそ連日連夜何かしらのホラーな何かが生み出され、それを必死で処理しているのでもなければここまでの量は放逐されまい。
そうなっると疑問に上がってくるのが、何故他の世界の『廃棄物』がこの『奈落』に投棄されるのか、という事だ。
「分かりやすくいうとね、『ゴミ捨て場』って概念が複数の世界の『神』のニーズと一致したからなんだよね。
ボクが創った『奈落』と他の『神』が創った『奈落』が概念的に重なり合ってるって事。
だからこそ『創世神』一柱では成し得ないレベルの広大かつ強固なゴミ捨て場が形成されているわけ。
で、普通は作った本人が中に居るわけ無いでしょ?
でも例外的にボクは中に居るわけで。
そのおかげでボクだけは自分たちの世界と切り離してしまった『他の管理神』よりも強力に、直接的に『奈落』に介入できるの。
なんせ自分が造った領域に直接触れられるわけだからねぇ」
「なるほど、そんな裏があったのか。
概念的に重なり合っているからこそ脱出不可能なレベルの隔離も可能、という訳か」
「そうそう、じゃなかったら流石にあれだけの『神』や『魔獣』を隔離してなお無事ではいられないよ。
幾つもの世界の最強クラスの隔離結界が絡み合って生まれた『奈落』だからこそ、だね。
これは推測だけど、次元位相の差異こそあれどの世界もはじまりは混沌から生じているから深いところでつながりが維持できるんだろうねぇ」
かぁさま曰く、概念的に重なり合っているとはいえそれを作成した『神』のイメージには深く影響を受けるそうで、『堕とされた時点』ではその概念的イメージに沿った墜ち方をするという。
「フラヴィも『落下』してきたのはそのせいだね。
ボクの地形概念に引っかかったからそこで止まったってだけで、別の世界なら延々と墜ち続けている間に消滅してたかも」
「僕は運がよかったんだなぁ」
「ふふっ、そうだねぇ」
「そう考えれば、かぁさまが『矛盾結晶』を危険視していたのが分かる気がするよ。
アレ、対価の支払いを上手くやりくりすれば大抵の事は出来るって事だろう?」
「……やっぱり分かる?
そうなんだよねぇ、求める力と矛盾した対価を要求されるって分かっているなら、それを逆手に取ればいいだけなんだもん。
ただそれだと本来の『結晶』の力には遠く及ばない力しか引き出せないってだけでさ。
ま、そもそもの話、ボクら位になるとあんなもの使うまでも無いんだけどねぇ。
それこそ緊急時のお守り程度の役にしか立たないし」
おや、なんかまた無茶苦茶な発言が飛び出してきたぞ?
「だってさ?
あんな物騒なもの使わなくてもボクら位になると片手間で同じ程度の出力は出せるよ?
もちろん『結晶』の全開の力と同等ともなればちょっとは苦労もするけど。
大体、あの手のものを造るのは『創世神』クラスの『神』だしねぇ。
大方あの『結晶』も、『埴輪』のいた世界の『創世神』の遺産か何かじゃないかなぁ」
「婆さんたちはその事を知ってたの?」
「知らないんじゃない?
ああいう願いをかなえるだけの力を引きだす魔具を『願望器』って言うんだけど、大抵は都合のいい設定を与えられて流布されるものだって聞いたことあるよ。
フラヴィだって話してくれたじゃない。
えっと、『ドラゴンキューブ』だっけ?7つ集めると何でも願いが叶うやつ。
それとか『聖杯』『失われた聖櫃』の話とかもその類でしょ?」
「まじか、アレって『ドラ〇ンボール』と同じ類のものだったのか」
どっちかっていうと『F〇te/stay night』の『穢れた聖杯』に近いのかな?
「いずれにせよ手を出したらアカンものだっていうのはすっごく理解した。
それでも、ジ・フィーニスは『奈落』を抜け出したわけでしょ?
しかも『結晶』持ったまま。
他の世界、大丈夫なの?」
恐らくそれが一番問題の部分だと思う。
脱出不可能と銘打たれた獄の獄、『奈落』からの脱走者。
しかも最悪のパワーを手にして、だ。
僕等が見逃してしまった事でいくつかの世界が滅んでいるかもしれないと思うと、ちょっと気が重い。
そんな僕の懸念を察していたのだろう、かぁさまは笑ってこんな事を言う。
「あは、大丈夫でしょ。
『元の世界に戻りたい、復讐の為に帰りたい、全てを喰らいつくして』……そんな願いを抱えたままあの『結晶』の力を振るえばどうなると思う?
元の世界には帰れず、復讐は叶う事なく、一切喰らうものがない場所に膨大な力だけを与えられて延々と彷徨う羽目になるんじゃないかな?」
「うぁ~~~……なにそれ最悪じゃないか」
「ま、そんなわけだから心配は要らないんじゃないかな?
そんな事よりも、ボクらは自分たちの心配をすべきだと思うよ?」
ほんの少しだけ真面目な声で、かぁさまは僕に忠告をくれる。
「今回の騒ぎで思った以上に広範囲にフラヴィの力が宣伝されちゃったでしょ?
今は様子見しているだけのお馬鹿さん達も、少し状況が落ち着けば我先にって絡みに来るよ?」
「げ……」
それは予想してなかった。
考えてみれば今回の騒ぎもご近所さんだけで楽しむはずが、どこからともなく『自重せぬ建築神』団やリレーター氏のような面識もない神々が現れ、半ば無理矢理絡んでいった。
この巨大コロッセオ『ゲヘナ・プロエリ』に来場された神々も洒落にならない数だったし。
「このままだとのんびりできなさそう、だねぇ?」
「間違いなく無理だと思うよ~?」
かぁさまの断言する言葉に僕は方針を定める。
「引きこもろう」
「了解♪」
この瞬間、かぁさまが管理可能な空間領域が『奈落』内の通常位相から隔離された。
フィオ「それにしても思い切ったねぇ、いきなり引きこもり宣言?」
フラヴィ「だってうっとおしいじゃない、絡まれたら」
フィオ「だねぇ、のんびり生活なんて言いつつ結構バトル多いもんね!」
フラヴィ「ここらで少しミュラりんと遊びたい気分なんだよ」
フィオ「わかる~!
というわけで次回! 第34話 だから僕らは引きこもる」




