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かみぐらしっ!  作者: 葵・悠陽
第3章 『奈落』で生きるという事
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第32話 矛盾結晶

今回でジ・フィーニスとの決着がつきます。

ですが恐らくは予想外の終わり方になるんじゃなかろうか?と。


「我に罰を与える?

思い上がるのもいい加減にせぃっ!『創世神』の小倅っ!

この『ディープ・アビス』の装甲は鉄壁!

自身の特性を付与したアンチマギアメタル合金製の流体金属装甲じゃ!

貴様の世界にはない異端技術で作られたこの特殊装甲は、先ほどの見えない攻撃も凌いだっ!

つまりは、貴様らに勝ち目はないという事じゃ!

素直に『結晶』を渡せぇっ!

そうすれば命だけは喰らわんでやるわっ!」


「はぁ、随分と元気がいいよねぇ。

そんなに驚嘆符ばかりのテンションで、脳の血管プッツンしても知らないよ?」


「フラヴィ、ああいう輩は自己顕示欲が強いだけの俺TUEEE?だから~。

相手にすると調子に乗ってプギャー!ってなるだけだよ~?」


「かぁさまも覚えた単語を無理して使おうとしないでいいから」


『無視するな~~~っ!!」


「ほら荒れた」


「はぁ……」


 『ニグルム・ドゥーム』からはじき出して、仕切り直しとなった戦闘。


 手始めに繰り広げられる舌戦は、予想通りというかなんというか……かぁさまに煽られてブチ切れるジ・フィーニスが荒ぶるだけという結末に。


 まぁ、彼の『帰りたい』という希望が聞けただけでも良しとすべきなんだけど。


「……フラヴィ、帰すだけなら、なんて甘いこと考えてないよね?」


「落とし前は付けさせる、って言ったでしょ?」


 僕の甘さをよく理解しているかぁさまから先に釘を打たれた。


 一瞬だけだけど、そんな考えが脳裏を横切ったのは否定できないから……はっきりと口に出して自分の意思を固める。



               ■


 無言のうちに始まった戦闘の口火を切ったのは『ディープ・アビス』


 その液状装甲を針の、というよりは触手ように伸ばし、こちらを貫こうと迫ってくる。


 まるで槍衾を前にしているような激しい攻撃ではあるが、極めて短調。


 どうせその狙いは……


「舞台面より震動感知」


「やっぱり下から、だよなっ!」


 舞台を突き破って下から伸びあがってくる銀の槍。


 『イクウェス』の脚部を絡めとろうとするものの、既に舞台に機体の姿は無く。


「ぬぐぅっ!勘のいいっ!」


「うわっ、だっさ~~い!

小倅風情に読み負けて、攻撃空振りとかうっわ~、だっさ~~い♪プギャ~~♪」


 かぁさまも自分の攻撃が無効化されまくったものだからここぞとばかりに煽る煽る。


 その矛先が全部僕に向くから勘弁してほしいんだけどなっ。


「生首風情がぁ~~~!!」


 過剰なまでに煽られて、面白いように自制心を無くすジ・フィーニスの攻撃は更に単調となり、予測すらいらないレベルまで乱雑なものと化す。


 通常ならこの辺で大きな隙を晒した『ディープ・アビス』に、致命的な一撃を入れて追い詰める……という場面だ。


 実際先ほどから何度か隙らしい隙を晒しているのが見て取れる。




「でもこれってどう見ても釣りだよなー」


「累積データの分析からかなりの損害を与えた様な一撃にはなるかと推測。

実際に重要機関に損傷を与えられるかは未知数。

主様の推測通り『誘い』と判断」


 ジ・フィーニスも『ディープ・アビス』もスライム的な特徴を内包しているのだ。


 弱点であるコアに該当する部分を露出させるわけもなく、隙が出来たからってその隙がコア等を狙えるような隙だとは判断しにくい。


 付け加えるなら、この爺は異世界から流れてきた『馬鹿じゃないスライム』だ。


『僕悪いスライムじゃないよ?(・w・)ノ』などと嘯いていきなり襲いかかってくる手合いだ。


「ねぇ、かぁさま」


「ん?なんだ~い?」


「こういう焼いても破壊しても分解してもダメって輩って、どう処理するのが妥当かね。

やっぱり固定化して封印処理?」


「それが一番後腐れないかな~?」


「そっかぁ……んじゃ仕方ないか」


 何度も機会はあったはずなんだ。


 元の世界を追放された以上、追放されるだけの理由があったはずで、それをどうにか出来ないうちはここから出る事なんて絶対に無理な事くらい理解できる知性はあったはずなんだ。


 はず、はず、はず、はず。


 期待した結果、隣神は喰われてしまった。


 復活できるかどうかは分からない。


 『埴輪』に吹き飛ばされたのとはわけが違うから。


 だから、割り切ろう。


 僕自身の手で、ケリをつけよう。


「……よし、ミュラりん、ハッチオープン」


「よろしいのですか?」


「ミュラりん、フラヴィの意志を酌んであげて?」


「了解しました、ご武運を」


 回避行動の中、一気に後方に飛び退った『イクウェス』は跪くとハッチを開き、僕等を降ろす。


「なんのつもりじゃ?

打つ手が無くなって我に素直に結晶を渡す気にでもなったか?」


「違うよ。

引導を渡しに来たんだ」


「馬鹿めっ!

生身で何ができるっ!」


 襲いかかる銀の触手、僕とかぁさまを絡めとろうと迫るそれらは僕が片手を上げた瞬間、ピクリとも動かなくなる。


「な!?」


 焦ったように引き戻すも、こちらに伸ばそうとするたびに途中で全く動かなくなる触手達に何が起きているか分からないジ・フィーニスは困惑を隠せない。


「何がっ、何が起きているっ!

貴様一体何をしたっ!」


「見て分からないならその程度ってことだよ」


 かぁさまを抱え、一歩一歩近づく僕を畏れる様に、『ディープ・アビス』がジリジリと後退していく。


 その間にも触手は伸ばされ、銀の槍が襲い掛かるが全て僕らまで届くことなく停止する。


「ひぃっ! き、き、貴様は何だ!何なのだっ!」


「言っただろう?『かみさま』だよ」


 コロシアムの壁際まで追い込まれ、下がる術を失った『ディープ・アビス』は跳ねあがって逃れようと試みたが跳ねようとした瞬間にそこで動きが止まり、跳び上がれない。


 あと数歩の距離まで近づかれ、そこでようやくジ・フィーニスは自身が何をされているかに思い至ったようだった。


「そうか、貴様……空間凝結を!」


「気付くのが遅過ぎ」


 『ディープ・アビス』の周囲の空間を凝結固定。その上で境界面に空間断層を設置。


 空間の連続性を維持したまま凝固と断絶を行うのは中々手間なのだ。


 それこそ『イクウェス』に乗ったままでは細かなコントロールができない程度には。


 もちろん『ディープ・アビス』やジ・フィーニスに直接凝固をすることも可能だ。


 だけどその場合、抵抗されれば効果は無効。


 攻撃がそのままこちらに届いてしまいかねないので最も安易な攻撃の延長線上の空間を凝固することで攻撃をブロックしたというわけ。


 これなら元々空間破砕を織り込んだ攻撃をしてこない限りは突破できないし、『埴輪』の時のように障壁を『形成』したわけではないので解除される心配もない。


 僕だってちゃんと学習するのだよ、えへん。


「ジ・フィーニス、残念だよ。

君はボクのフラヴィをあまりにも舐めすぎた。

『創世神』の小倅にいいようにしてやられた気分はどうだい?

フラヴィはね、弱いんじゃないんだ。

自己評価が低すぎるだけなんだよ」


「いや、かぁさま、僕はそこまで強くないから」


「ふ、ふざけとるのかっ!?」


「ほらね? 自分の力を全然分かってないから。

ま、これに懲りたら次生まれてくるときはもう少し謙虚になるといい」


 かぁさまはそういうと、静かに封印の呪句を諳んじた。


「『Fugit(取り) inrepa(戻せない)ile tempus(時が過ぎ去る。), singula (それぞれの愛)dum capti (に囚われて)circumvect(遠回りして)amur amore(いる間にも).』

……ゆっくり眠るといい、『時空(カエレスエィス)幽閉(・カプトゥラム)』」


 見る間に『ディープ・アビス』の存在していた空間が歪んだレンズで覗いているような収縮をしていき、叫び声ひとつ上げられぬままにジ・フィーニスは完全閉鎖空間に堕とされた。





             ■


「『奈落』の底に堕ちてなお更に堕とされるなんてねぇ、難儀な神だよ」


「……そうやって見せ場をちゃっかり持っていく辺りがかぁさまのずるいところだと思う」


「……え、あ、あれ?

フラヴィ? も、もしかしてちょっと怒ってる?」


「怒ってない」


「怒ってるじゃ~~ん!

ごめん!ごめんってば!

流石にちょっとヤバ目の相手だし、散々フラヴィを馬鹿にしてくれたからフィオちゃんちょ~っと本気出しちゃおっかな~~、てきな出来心だったのっ!

わざとじゃないよ!?ないんだよっ!?」


「知らない、かぁさまの馬鹿」


「やっぱり怒ってるうぅぅ~~!!」


 気の重い戦闘の終わりに、僕等は少し気が抜けていたんだと思う。


 だから、反応が遅れた。


 いや、見栄は張るまい。


 反応できなかった。


シュッ!  ザシュッ!


「あぐっ!」「フラヴィ!?」


「あ、危なかったわい、念の為にと自身の欠片を切り離し、隠していて正解じゃったわ……。

『創世神』、状況は分かっておろう?」


 左太腿に浮かび上がった人面種。


 それは紛れもなくジ・フィーニスのもの。


 言葉通り、その特性を活かして分身体を地中に潜ませていたのだろう。


 そして、起死回生の機会を見つけて襲いかかってきたのだ。


「今この瞬間にも我は小倅の体内を侵食しておる。

大きさが大きさじゃからの、一瞬とはいかなかったのが残念じゃが……。

逆に今はそれが好都合。

のぅ、『創世神』よ、我と取引をしようではないか」


「フラヴィを傷つけた相手と取引なんてする気はない、滅」

「待てっ! 今我を排除すれば、最後の抵抗とばかりに小倅の脳髄に致命傷を与えてくれるぞ!?

既に脊髄は喰らった!

貴様の術よりもこちらの方が確実に速い!」


「かぁ、さま……構うな、こいつが約束守るわけが……がはっ!」


 体内に潜られてはろくな抵抗もできず、身体の自由はどんどん奪われる。


 こうして話している間にも、だ。


 だからさっさと決断をして欲しかったのに……かぁさまは、折れた。


「……取引の条件は」


「いひっ!きひひひひひひひひひっ!

そう、それでいいんじゃ、話が早くて助かるわぃ。

我に『矛盾結晶』を寄こせ」


「……アレを使ってどうするつもりだい?

確かにアレは、君に莫大な力を授けると思うよ。

でも、それは君が望む力では決してあり得ない。

ボクはそれを知っているから破壊しようとしたんだよ?」


「何を言うかっ!

それは無限の力を『神』に与える触媒!

数多の世界で様々な名で呼ばれながらも、その一点のみは変わる事ない真理!

御託はいらぬ、それを寄こせ!」


「フラヴィの安全を確保したい」


 この手合いがそんな取引に応じるわけがない、そう分かっていてもかぁさまはそれを要求した。


「無理を言うな。

お主がその結晶をきちんと渡す保証は無かろう?」


「ジ・フィーニス、取引に応じろ。

応じないなら僕はこの場で自爆する。

僕が死ねばかぁさまは容赦なく貴様を滅ぼすだろう。

それを望みはしないだろう?」


 身体を蝕まれる痛みに耐えながら、僕も僕に出来る事を……足を引っ張った分の穴埋めをする。


「意識があれば自爆くらいは出来る。

貴様が僕を食い尽くせばどうせ終わりの命。

かといって僕が生きていなければ貴様の命運もそこまでだ。

だから、僕の脳に手を出せないんだろう?」


「ぐっ」


 確かに脊髄は喰われ、腰から下も奴に喰われて自由が利かない。


 だが、それ以降奴はこちらを喰おうとはしない。


 僕を追い詰め過ぎれば神質としての価値がなくなるのを理解しているからだ。


 腕に抱えたかぁさまの感覚を誤魔化しながら上半身を喰らうのは流石に無理だった、という事だろう。


「互いの安全の確保というならばこうしよう。

かぁさまは『矛盾結晶』を遠くに投げる。

ジ・フィーニスはかぁさまの結晶投擲を確認次第、僕の心臓を潰せ」


「なっ!?」「むぅ!?」


「簡単に再生できないくらいに潰せばかぁさまの意識は僕に集中するし、僕も全力で回復しなければ肉体の再生に余計な手間と時間を取られる。

その間は確実にあんたの安全は守られるだろう、どうだ?」


 この提案には流石に意表を突かれたのか、二人とも僕を異常者を見るような目で見る。


「む、無茶苦茶だよフラヴィ!

いくら君でも心臓を潰されたら……」


「即死はしないよ。

この身体はかぁさまのくれたものなんだ、このクソ爺にこれ以上喰わせたくない」


「いひゃひゃひゃひゃ!!

面白い、その条件呑もう!

ほれ、小倅の覚悟を無にするのかの?」


 嘲るようなジ・フィーニスの声に一瞬だけかぁさまの首が怒りに震え、そして。


「ならば、持っていけっ!腐れ爺っ!」


 虹色の髪がぶわっとうねると、どこからか取り出された『矛盾結晶』が髪に掴まれ、舞台の中心向けて投擲される。


 放物線を描き煌めきながら飛んでいくそれを、


「おお、おおおおおおおおおお!!」

「がはっ!!」


 即座に僕の心臓を喰らいつくしたジ・フィーニスは僕の身体から抜け出し、凄まじい速度で猛然と結晶に向け這いよっていく。


 奴に喰われた分の体積が失われ、皮だけになった下半身では身体を支え切れるはずも無く、そのまま地面にドカッと倒れ伏す僕とかぁさま。


「フラヴィ!フラヴィ!

しっかり!意識を切らさないでっ!」


 転がった生首のままかぁさまは皮だけになった僕の下半身を魔力で浄化焼却し、奴の破片が残っていないかを精査してくれる。


 その間に霞みそうな意識を必死で維持しつつ心臓を再生。


 失われた下半身の再生に取り掛かったのだが……。



「やっと、やっと手に入れた!

これで帰れる!

我をこんな奈落に追いやったかの世界の神共を……今度こそ!

今度こそ喰らいつくしてくれるっ!!」


 耳に飛び込んできたのは歓喜に震えるジ・フィーニスの声。


 早速その力を振るい、元の世界に帰還しようと転移魔法の詠唱を始めていた。


「いいの?かぁさま」


「本神が望んだんだ。

アレは、彼が望むようなものではない、ってボクはそう言ったはずなんだけどね。

……ねぇ、なんであれが『矛盾結晶』って呼ばれるか、わかるかい?」


 かぁさまは酷く悲しげな声で、そう問いかける。


「アレはね、如何なる願いも叶えられるだけの力を持っている。

その代償として、『願いが叶わなくなる』だけで、ね」


「え、ちょっと待って、ソレって……」


「そう、ジ・フィーニスはこの『奈落』から抜け出せるに足る力を得る代わりに、決して元の世界に還れなくなった。

どれだけ世界を渡ろうとも、今後どれだけの力を得ようとも、ね。

仮にその呪いじみた束縛を解消できたとして、その瞬間彼が帰る予定の世界は因果そのものから消滅させられる運命をたどる」


 あまりにとんでもないその力に、言葉を失う。


「『望み』が叶わなくなる願望器、なんて迷惑なだけの代物だろう?

だからボクはあれを破壊したかったんだけどね……」


 歓喜に満ちた声を上げ、その姿が薄れていくジ・フィーニスを見守りながら、僕等は彼の辿るであろう結末を思い浮かべ、嘆息する。



「この件から僕等が得るべき教訓は、『神の話はきちんと聞きましょう』ってとこかな」


「全くもってその通り」



 こうして『埴輪』から始まる大騒ぎは、一旦収束する。




 あくまで収束しただけであって問題は山積みになったワケだけど、ね。


 


















フィオ「フラヴィが喰われちゃったぁ~~!!」

フラヴィ「いや、生きてるから」

フィオ「大人になったらボクが食べ」

フラヴィ「おいこらちょっと待て母、今何を言おうとした!?」

フィオ「そんな禁断展開がはたしてあるのかっ!

あったらいいな~♪ってボクは思うんだけど?」

フラヴィ「それ普通に発禁モノ確定だから。

それより次回予告な。

『奈落』そこは世界のゴミ捨て場。

『奈落』それは誰もが抜け出せぬ獄の獄。

だが、そんな『奈落』について、意外と僕等は知らないことが多い。

次回かみぐらしっ! 第33話 『奈落』にまつわる『えとせとら』

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