第31話 譲れない想い
「いやぁ、参ったなぁ~、攻撃効かないじゃん」
「ボクの魔法を無力化するとか……心が折れそう」
目の前で元気に荒ぶる黒い靄の巨人『ニグルム・ドゥーム』
ジ・フィーニスがイッアム・シテーを喰らう事によって奪い取った『神滅機神』である。
黒い靄という表現は比喩でも冗談でもなく、こちらの攻撃は物理だろうが魔法だろうがするっとすり抜けてしまう。
全高200mという体躯から繰り出される攻撃は、大きさから考えれば凄まじい速度ではあるが、肉弾近接攻撃一辺倒な為に先ほどまで対戦していた『ジャバウォッグ』や『オクタマンボー』の弾幕に比べると遥かに温い。
拳が広範囲かつ関節可動域無視な上に無音で迫りくるのが難点と言えば難点だが、回避処理そのものはミュラりんのサポートがあるので全く危機感を感じずにいられるレベルだ。
「この手の非実体型ってどこかにコアがあってそれを破壊しない限り何度でも復活、ってのが定番なんだけども……反応ある?」
「あらゆる計測器の反応がマイナスに振り切れています。
構成物質、構成要素共に計測不能」
ミュラりんからの回答は端的に言えば「さっぱり分からん」というもの。
マイナスに振り切れるってことは存在そのものが逆位相に存在する機体って事なんだろうけど。
構成が分からなければ突破の糸口すらつかめない。
「……しまったなぁ。
こんな厄介なのが残るんだったら、『神罰術式』は温存しておくんだったかなぁ」
「それは仕方がないよ。
せっかく楽しく競い合おうって言う状況をぶち壊した連中に釘をさす必要はあったし」
かぁさまはそういうけど、超加速するたびに身体がバキボキ砕ける僕を案じての選択だっていうのは分かってるんだよね。
(僕が未熟だから気を使わせちゃってるよなぁ)
本気を出したかぁさまならこんな輩は『奈落』の彼方にでもポンと放逐して終わり、だろう。
ここはそもそもが『無限』の空間であり距離はあってないようなもの。
『奈落』の在り様を定義しているかぁさまが『放逐』してしまえば、いかなこの『神滅機神』とて『奈落』の果てから向けだす術はない、筈だ。
先だって叩き込んだ魔法が効かなかったので不安はあるが、空間ごと隔離してしまうなら関係ない。
それをしないのは、まぁ間違いなく僕を鍛えるためなんだろう。
僕に『神』としての力を存分に振るわせることで、『神』の力に慣れさせる。
それがこの身体に転生してからかぁさまが一貫して進めてきた教育方針。
だからこそ、かぁさまからしてみれば『何の意味があってやっているのか全く分からない』この茶番にも付き合ってくれているのだろう。
『自慢のロボットを作り上げて戦わせる?
その結果で「矛盾結晶」を誰が管理するか決める?
何故そんな手順を踏まなければならないの?
この「結晶」は途轍もなく危険なものなんだよ、フラヴィ。
そんな景品みたいに扱っていいものじゃないんだよ?』
大会を決めた話し合いの後、その場ではあえて反対意見を出さなかったかぁさまから言われた言葉だ。
かぁさまは『矛盾結晶』の危険性を強く訴えていた。
『結晶』そのものの危険性もそうだけど、強大な力が一体どんな影響を周囲にばら撒くのか。
大きすぎる力が災厄を振りまく前に処理しようとしたかぁさまの判断は的確で、正しかった。
(でも、こうしてそれぞれが創意工夫を凝らして自分の『機体』を持ち寄って、自慢げに競う……すごく、楽しかったじゃないか。
周りも勝手に盛り上がって、かなり大事になっちゃったけど、それでも……)
目指した場所が間違っていた、だなんて思いたくはない。
自分たちは『奈落』に堕とされるような邪悪、故にここに居るのだと婆さんは言った。
仲良しごっこなど反吐が出る、と目の前のスライム爺は嘲った
そんな彼等とて『力』を振りかざす他の悪神、邪神達から逃げた挙句に僕等の隣神となったのだ。
自分たちの非力を知る彼らが、力に溺れ、悪意を以て騙し合い、殺し合いに興じる虚しさを知らぬはずがない……そのように思っていた。
己の内に抱える悪性を否定しろって言う訳じゃない。
皆が『綺麗事』を楽しめるだけの器量がある隣神なんだって、信じたかったんだ。
そんな想いが招いた結果が、目の前にある。
「友神を肉片に変えられて怒りに震えた神がいた。
災禍を招くと落ち込んだ友神を心から案じた神がいた。
悪神?邪神?知るかそんなもん。
他神に張り付けられたレッテルで勝手に自分を定義して、悪だなんだと自己正当化するなら……」
「フラヴィ?」
「僕は僕の信じる想いを、譲れない願いを、貫き通す」
心配げな声を上げるかぁさまの頭をひと撫ですると、僕は操縦桿を強く握り直した。
「せっかくの祭りをぶり壊しにした落とし前はきっちりつけさせるぞ!
覚悟しろよ? ジ・フィーニス!」
■
「随分な啖呵を切ったけど、方法はあるのかい?
こっちの攻撃効かないんだよ?」
「あ~、大丈夫。
持久戦になりそうだからヤバいかなぁ、って思ってたんだけど、逆にそれであのデカブツの弱点が割れた。
こんな欠陥品、どれだけ強力でもイッアム婆さんが使わないわけだわ」
「ふぇっ!?」
基本的に『神』は凝った工夫を自ら行う事を好まない。
『神』は強者であるが故、至高であるが故、行動は全て成功して当然。
創ったものは最高で当然、失敗であってもそれはあくまで『神』基準。
『神』以外には理解しがたい完成度の上での『失敗』である。
これは逆を返せば、神にとっては相手の弱点など探すまでも無く正面突破可能であるから、弱点など探す必要性を求めないという思考にもつながっていく。
一言で言えば『神』という生き物は基本的に『脳筋』なのだ。
だから力任せに倒せない相手がいると即パニックに陥り、弱点の探し方も分からない。
答えが分かる様に目の前にぶら下げられていないと何もできなくなってしまうのだ。
「まず最初の質問ね。
これだけの巨体をジ・フィーニスは何処で動かしている?
今、あいつは何処にいるんだ?」
「あ、あれ?
そう言えばさっきからずっと見かけないねぇ?」
「『ニグルム・ドゥーム』内でなんらかの干渉をしていると推測」
「流石はミュラりん。
じゃあ、ジ・フィーニスの『声』を最後に聞いたのはいつだい?」
「『ニグルム・ドゥーム』出現時に上げた声を最後に観測されておりません」
「そ、それってどういうことだい?」
「敵はあの巨人の中にいて、声を潜めてなにをしているんだろうね?
操縦をしているに決まってる、違う?
あれだけ僕等を煽るようなキャラしてるあの爺さんが、ずっと無言?
声を出したら位置がばれるから、じゃないのかな?」
「あ~~~~っ!!!」
もちろん単に外部出力設備が無いからかもしれない。
でも、確認する意味はあるだろう?
「ミュラりん、あの靄の中身に何かの物理反応があったら報告!
かぁさま、ジ・フィーニスを炙り出す!
あの靄をくまなく撃ち抜ける?」
「来た来た来たっ!
見せ場だね!ボクの見せ場だねっ!
うん、もちろんさっ!注文があれば受け付けちゃうよ?」
「CTスキャンって言って分かる?
頭の先から足の裏まで輪切りにした感じで隙間なく調べる装置なんだけど」
「おっけ~!
同じようにすればいいだけでしょ?
だ~~いじょ~~ぶっ!ま~~っかせて~!!」
どこぞの光画部の怪しい先輩の如き全く安心できない気勢を上げて、かぁさまから膨大な神力が迸る。
『イクウェス』の周囲に無数の光輪が生まれたかと思うと、それらは一斉に巨大化し『ニグルム・ドゥーム』の頭上に展開。
隙間なく重なり合う巨大な光の筒状に積み重なり、一気に『ニグルム・ドゥーム』を締め上げる!
もちろんその攻撃もあっさりと透過され、光輪はかの機体の中へと呑まれていったのだが……
「反応ありました。
左腰部に球状の異物、大きさからみて『ディープ・アビス』と推測。
ロック完了、靄内をゆっくりと移動している模様」
「いよ~っしっ!流石ボクッ!」
「上出来っ!さすがかぁさま超えらい!
居場所が分かれば……叩き出すのみっ!」
展開状態で放置されっぱなしの両腰両肩の術式砲塔から夥しい量の質量弾が放たれる。
イメージするのは秒間1万6千発もの連射速度を誇るという『メタルストーム』をベースデザインに、更に密度と連射速度を上げた『メタルトルネード』とでも呼ぶべき代物だ!
単なる魔力弾だと『ディープ・アビス』の装甲で受け流せるかもしれないけど、物理的にぶん殴られれば同じようにはいかないだろう?
受け止めた弾丸をゼロタイムで吸収できるはずも無し、一瞬でも停滞した弾丸の尻は次の弾丸に殴られるための硬質面と化す!
そうして生じた衝撃までをも相殺しきるなら、その時はこちらの敗北を認めようじゃないか!
まぁ、改めて別の手を考えるだけだけど。
そんな内心の声を口にするまでも無く、靄の中からは今まで聞こえる事の無かった硬質な音が立て続けに響き、数瞬後『ニグルム・ドゥーム』から銀色の塊がはじき出される。
「出たっ!『ディープ・アビス』!!」
「ちいいいいいっ!
まさか、こんな方法で『ニグルム・ドゥーム』を無力化するとはっ!」
銃弾の雨を浴びながら見えない手に押し飛ばされるように地面に落下、ゴム鞠のようにポヨンと跳ねる『ディープ・アビス』は、その液体装甲を激しく波打たせながらも損傷の気配はない。
パイロットをはじき出された『ニグルム・ドゥーム』は、棒立ちしたまま動きを止める。
……これは中に戻られたら元の木阿弥だな。
既に観客席に神影も無く、閑散としたコロシアム内には僕等とジ・フィーニスを残すのみ。
『ニグルム・ドゥーム』からかなり離れた場所まで『ディープ・アビス』を弾き飛ばして、僕等はようやく射撃を止める。
波打つ『ディープ・アビス』の装甲がジ・フィーニスの姿を形どり、彼は苦々しげな顔で僕等に語り掛けてきた。
「小倅、貴様とて神の端くれなら現状に不満くらいあろう?」
「不満?」
「そう、不満じゃ!
このような『奈落』の底に生まれた貴様は知らんかもしれんが、世界はここだけではない。
無数の次元、無数の階層、無数の世界線、無数の平行世界!
数多の世界がこの世には存在している、世界はこのような『奈落』の底だけではないのじゃ!」
ジ・フィーニスは、熱っぽい声で僕にそう訴えかける。
世界の広さを、僕がいかに井の中の蛙かを。
「お主が見た事もない世界が、この『奈落』の外には無数に広がっているのじゃ。
我は知っている、そんな芳醇な世界を!
だからこそ……我は帰りたい!
帰るための力が欲しいのじゃ!」
「……その為に隣神を平気で裏切り、祭りを滅茶苦茶にするわけだ?」
「貴様らは満足だというのか?
この永劫の闇の底、誰にも顧みられぬ深淵の淵に堕とされて、元の世界に戻る事も叶わず!
ただ、黙って朽ちよというのかっ!
足掻いて何が悪い!
己の願いの為に、出来うるすべてを尽くすのが何故悪いのだっ!」
ジ・フィーニスの叫びには激しい怒りと望郷の念があった。
帰りたい、その想いがどんな願いの果てに生じたものなのかは分からない。
スライムとしての食欲か、真に故郷を想う念か、復讐、報復といった怨念か。
「別に悪いなんて言ってないよ。
それがあんたの望みなら勝手に足掻いて願って望めばいいさ。
だけど、周りを巻き込むなよ。
関係ない連中まで傷つけて、その人たちが抱えてた願いを踏みにじって、自分だけ願いを叶えたいなんてご都合主義を『世界』が許容するなんて思うなよ?
自己完結出来ないなら、周囲を傷つけてでもと開き直るなら、相応の覚悟くらいしておきなよ。
責任転換なんて許さない。
責任逃れなんて許さない。
アンタは、あんた自身の罪を改めて数え直さなきゃいけない。
希望を叶えたいなら、その後にしてくれ」
「ふざけるなっ!
我を貴様が裁くだと?
我に罪を数えろと?
我は神ぞ!
裁かれるのではない、裁く側だ!
罪を数える側ではない!罰を与える側だ!
それを貴様は……一体何様のつもりだ!」
「『かみさま』だよ。
だからアンタは裁かれる」
神を呪えば穴二つ。
フィオ「次回 第32話 矛盾結晶
だからボクは、壊した方がいいって言ったんだよ」




