第30話 一番良いのを頼む
明けましたおめでとうございます!
今年も「かみぐらしっ!」をご愛顧のほど、よろしくお願いしますね?
「ふ、ふざけるなあああああああ!!」
ずどーーーーーーん!
どかーーーーーーん!
と爆風吹き荒れる舞台上。
粉々に砕けて降り注ぐ『ジャバウォッグ』のリフレクターと、全身の装甲を膾斬りにされた『オクタマンボー』の残骸。
臨海寸前だったそれぞれの機体の『神滅機構』のエネルギーすらあっさりと霧散、消滅させてしまった理不尽極まりない『神罰術式』に、イッアム・シテーは納得がいかない。
(『神』の権能!? 想えば叶う!?ふざけるな!
そんな事が容易く可能だというならば……こんな『奈落』の底になど留まってはおらぬッ!)
同じ『神』だというのならば、この力の差は何なのか?
どこまでも進んだ異世界の叡智、異形の魔科学、それを極めたが故に『悪神』と罵られ、堕とされたイッアム・シテーにも彼の言葉は理解が出来ない、納得などできようはずもない!
怒りに震え、自失し、誰もが目の前の現実を受け入れられずにいたこの瞬間。
「いひ、いひひひひひひひひひひ!!!」
ずっと牙を隠し、他者の隙を狙っていた者がいた。
フラヴィ達の『神罰術式』を受けてなお、その特殊な装甲故に全損を免れ、かつ敗者達に気づかれる事なく行動できる『神』が!
「き、貴様っ! 一体何、を……ぎゃあああああああ!!」
「ひ、いやああああああ!!」
「……っ! 危ないところだったっ!」
「え、あ……」
「ジ・フィーニス!貴様っ!一体何のつもりぞ!」
「「ジ・フィーニス!?」」
突如上がった叫び声に皆が視線を向ければ、舞台の上にいた敗残の神達が薄く、広く拡散した『ディープ・アビス』の液状装甲に取り込まれていく姿があった。
その権能で唯一難を逃れたノーマ・ノクサだけは、脇目も振らず一目散にこの場の離脱を計る。
キルギリオスは突然の隣神の暴挙に対し即座に『メメント・モリ』の砲口を向け、叫ぶ。
「今すぐ止めよ!」
「止めろと言われて止めるなら最初からやらんわ、阿呆が」
ドルルルルルルルルルルルルルル!!!
嘲るが如き隣人の声に躊躇いを捨て、引き金を引くも時すでに遅く。
『ディープ・アビス』の液状装甲はどれだけ薄くなろうとも魔力弾を容易に跳ね返し、呑み込まれた神々を銀の彫像へと変え拘束していく。
「き、貴様ぁ、何が目的じゃ……!」
首から下の自由を完全に奪われたイッアム・シテーが苦々し気に真意を問えば、そのスライム体を以てぐにゃりと彼女に近づいていき、
「いひひひひっ、難しいことではないさ。
貴様の手持ちの、一番良いのを頼む、それだけじゃよ」
「なに、を」
「あるんじゃろう?
そこに転がるがらくたよりも良いものが。
我が使ってやる、寄こせ」
「断るっ!」
図々しいにも程がある『神』と言うよりも賊じみた発言に怒り心頭なイッアム・シテーであったが、この生殺与奪を握られた状況でそのような安易な返答は相手の特性を忘れた最悪最低の悪手であった。
「ならば直接調べるわい」「や、やめ……ぎゃあああああ!!あ、あ……」
ジ・フィーニスの腕が触手の様に伸び、イッアムの頭部を包むと耳から侵入。
『神』の領域にまで至った意志ある特異災害級スライムな彼にとって、単なる頭でっかちの神など恐れる対象ですらなく、そのまま内側から骨も残さず消化され、残されたのは皮一枚。
「うぷっ……性根だけでなく味まで腐った風味じゃわい」
「く、く、食った~~~~!?
このスライムジジイ!
なんと他の神をっ!
公然と貪り食いやがったぁ~~~~~!!」
恐怖におののくリレーター氏の叫びに会場はパニックに陥る。
それは『ディープ・アビス』に捕縛されている神達も同じこと。
「じょ、冗談だよ、ね……?」
「いやあああああああ!な、なんでもするから!
殺さないでっ!食べないで~~~!!」
イッアム・シテーの無残な末路に流石のヴァーミリオスも顔色を変え、ルーナ・ルーナに至っては必死の命乞いを繰り返す。
『神』らを神質に取られているため無暗に動けないフラヴィ達。
「これ以上誰かを喰うようなら……」
「容赦なくやったっていいと思うよ!?
正義はフラヴィに在りっ!」
「いやはやまったく、お前たちは甘すぎじゃわい。
これだけの力がありながらこんな『奈落』の底でおとなしくしているだけで満足か?
折角周囲に貪り食えるだけの『権能』が転がっているのに、なぜ奪わぬ?
仲良しごっこもいい加減にせんかい、吐き気がするわ」
「お主ははなから皆を貪り喰らうつもりだったのでござるかっ!」
「いひっ、応ともよ!
はじめはさっさと『結晶』だけ奪っておぬしらを食い散らかす予定だったがなぁ?
随分面白いものをそれぞれ用意するって話になったじゃろう?
だったら、我が使えそうな物を総取りしようと思った、それだけじゃ」
老人の姿をしたスライムはそう言って笑う。
「異世界にはのぅ?
スライムでも神をも殺す大魔王になるモノだっておるのじゃよ。
我とてその程度は望んでも罰は当たるまい?」
「いいや、罰は当たるよ、当てさせてもらう」
音も無く機体の傍に忍び寄る銀の触手を目ざとく感知し、両手の剣で粉微塵に切り裂いた『イクウェス』が、翼を広げて宙に舞い上がる。
「ジ・フィーニス、あなたはやり過ぎた。
婆さんも馬鹿な真似はしたと思うけれど、殺すほどの事はしていなかっただろう?
なのにアンタは喰らった。
使えそうな物は奪う気だった?
最初から総取りするつもりだった?
結構、ならアンタも奪われる側に回ってみればいい」
「いひっ!我が奪われる側に?
それこそナンセンスよっ!
見せてやろう!
イッアム・シテーが隠していた『神』の切り札をっ!
……ウー・トェル・ゲア・ドーマス・ザーラ・ヌスー・ヴェレ・ガルモンボジーア
そは億千の闇星、虚構の使徒、堕ちたる未来の一欠片……」
「それ以上はやらせぬッ!」
キルギリオスが『メメント・モリ』に命じ、その巨体でジ・フィーニスを踏みつけようと試みるが、
彼は何食わぬ顔で流体装甲を操作、自らの盾としてヴァーミリオスとルーナ・ルーナを突き出す。
「うっ!」
恐怖の叫びをあげる二人を前に踏みつけを躊躇った『メメント・モリ』。
「それが甘いというのじゃキルギリオス!
……我ここに贄を捧げ、今こそ汝の手を取ろう!
来れ、神殺しの機神!『ニグルム・ドゥーム』!!」
「「ぎゃああああああああ!!!」」
ジ・フィーニスに囚われたままのヴァーミリオスとルーナ・ルーナが見る間に血の気を失い、カラカラのミイラの如く干からびていく。
血の様な真っ赤な魔法陣が一瞬で舞台に描かれ、そこから沸きだす黒い靄がジ・フィーニスを取り巻き、渦を巻き、高く、高く伸びあがっていく。
オオオオオオオオオオオン……
「見よ!これがイッアムの婆が隠し持っておった真の切り札!
『神』を贄とし、『神』を殺すための神滅の機神よっ!
いひっ!いひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!
とうとう、我は手に入れたぞっ!
この『奈落』の底で我が物顔に振舞う連中を喰い散らかし、我をこのような場所に追いやった者達へ復讐する力をっ!
喜ぶがいい、貴様らは、この力の最初の贄となるのだ!」
舞台の上には、全高200mにもなる巨大な人型の『靄』が立っていた。
『黒き靄の巨人』と形容するのが正しいのだろうか?
現実感に欠ける、悪夢の中にいるのではないかと錯覚するほどにそれは稀薄な見た目をしていた。
だが、間違いなく『それ』はそこに存在する。
見ているだけで心が穢されていくような、冒涜的、背徳的な狂気を孕んだ邪気を放ち、近くにいるだけで魂ごと命を削られていくような圧迫感を与えてくるのだ。
観客席に興味本位で残っていた頭のネジが飛んだようなお気楽な下級の神々は、その姿を見ただけで心身喪失状態に陥りばたばたと倒れ伏していく。
それなりに力がある神達も、多くの者が恐怖で見動きすら取れず、腰を抜かしている有様だ。
『神滅機神』という肩書は冗談ではなさそうな有様が展開されていた。
上空に舞い上がっていた為に召喚時の力の奔流に巻き込まれずに済んだ『イクウェス』ではあったが、
直近にいたせいで完全に巻き込まれたであろうキルギリオス達の安否は確認できずにいた。
「婆さんといい、ジジイといい、周囲の迷惑まったく考えてないでしょう!?」
「他神の心配も良いけど自分の心配をしてよっ!?
アレ、どう見てもヤバい奴だからっ!」
「……内包するエネルギー量、マイナスに振れています。
一体どのようにして『存在』しているのか、観測できません!
警告:接触事態に危険が伴うと推測します」
かぁさまからもミュラりんからも『アレ超ヤバい』と警告が飛ぶが、そんなの見ればすぐわかるっ!
「近接がマズいならっ!」
バックパックに内蔵されていた給弾器が腰部装甲下及び肩部装甲内にマウントされていた術式砲塔と接続、即時射撃術式の給弾を開始する。
「術式制御と射撃制御はこっちで預かるよっ!」
「照準セット、ロックオンは完了しております」
「神滅機神?
上等だよ! 僕等だって元々そのコンセプトでこの機体を組み上げてるんだ。
かぁさまが使用できるあらゆる術式を弾丸に圧縮して射出する『汎用魔導砲レスティンギトゥル』
『創世神』の放つあらゆる魔法に全て抗えるって言うなら、抗って魅せろよ三下っ!」
「いやんっ♪
フラヴィがボクに超期待してくれる!?
ボク頑張る、頑張っちゃうよ~!
むっちゃ気合入ったぁ~~~っ!」
喜ぶのは良いんだけど股の間に収まった生首が喜色満面でニマニマするのはただのホラーだ、気持ち悪いの一言でしかない。
そんな事言うと今度は絶対泣き出すから言わないけどっ!
的は全高200mの超デカブツ。
絶対に外しようがない距離から放たれるかぁさまの魔法砲弾!
「『凍てつく闇、猛り狂う大地、静謐なる光、深淵に揺らぐ炎
万物の繋がりは断たれ、ただ混沌の海へと還り逝く』
さ~ぁ吹っ飛べ!消し飛べ!
『ミセリア・メルム』!!」
放出された弾丸は『ニグルム・ドゥーム』を直撃し、その身体をあっさり貫いて観客席の防御障壁に直撃……凄まじい爆風と巻き起こし120層設置された障壁群を一瞬で113層消失させた。
被害こそ無いものの目に見てわかる空前絶後の破壊力に、『ニグルム・ドゥーム』の邪気にあてられ腰を抜かしていた神々も根源的な恐怖心を揺さぶられ、巻き添えを畏れて全力で逃げに走り出した。
「ふぅ、やったかな?」
一仕事終えた様な満足げなかぁさまの声。
「フラグ立てるなっ!!馬鹿ああああああ!!」
その定番ともいえる『禁句』に即座に操縦桿を引き、機体を急上昇させる。
無理なGがまた身体を痛めつけるけれど文句は言えない、何故なら……
「ぴぎゃっ!
急に何をするの……って、えええええええ!?
う、嘘でしょ!?」
荒れ狂う爆風の中から伸びる黒い手が、先ほどまで僕等がいた空間を握りつぶす。
無傷
風水地火闇光に物理、霊体に対しても確実に何らかのダメージを与えうる様に調整されたかぁさまの『対未確認敵対勢力即殺魔法』(本人談)。
それが全くもって効果なし。
さっきまでのドヤ顔が物凄く恥ずかしい!
恥かしいが……
「「これもまた現実!!」」
「……主様方の開き直り度120%を計測。
そこに痺れます憧れます……」
一気に勝ち筋が見えなくなったけど、きっと大丈夫だ、たぶん!
フィオ「大抵の困難は勇気でどうにかなるんだって!」
フラヴィ「それでどうにかなるのはどっかの勇者王だけだよ」
フィオ「ボクと契約して勇者王になってよ!」
フラヴィ「色々混ざってるから!
どんなピンチも絶対あきらめないのが乙女のポリシーらしいよ?」
フィオ「なんと!
じゃあ乙女らしく頑張るねっ!
次回かみぐらしっ!第31話 譲れない想い
今年もよろしくっ!」
フラヴィ「皆様に幸あらん事を!」




