第29話 かの騎士には見えていた
気が付けば連載から1か月。
初月1000PV位を目途に考えて書いていたのですが実際は既に2000PVほど見ていただけているようでして。
感謝感謝でございます。
あまりに「理不尽」が過ぎる頭の狂ったような展開に不快感を覚える方もいらっしゃるかもしれませんが、なんせ「神」を主役に据えた作品です。
自重する気が無いので来年度もどんどん想定外の想定外をやらかしてくれると思います。
それでは皆様、良いお年を!
そして来年も本作をよろしくご支援願います♪
「あれが鏡像なら本体は何処にっ!」
「位相空間に隠してある?
攻撃の瞬間だけそこから……」
「空間操作の形跡なし、空間断裂による歪みも観測されません。
アレは明確な質量を伴った実態攻撃です。
ですが……同時に虚像でもある!
判断不能!理解不能!演算付加上昇……!」
「ふぇ~~~っふぇっふぇっふぇ!
おぬしらの足りん頭では理解できまい?想像すら及ぶまいよ!
そこの浅黒いのから設計図を見せられた時には、この婆も盛大に吹いたものよ!」
「浅黒いって……酷いなぁ!」
動揺し、防戦一方となった『イクウェス』を止まることを知らぬレーザー光が追い回す。
回避に切れが無いと見るや、『オクタマンボー』も支援砲撃とばかりに全身から魔力砲塔を展開、十字砲火に巻き込まんと巧みに位置取り、砲火を加える。
回避が間に合わず、とうとう『イクウェス』は盾を構え魔力砲弾をブロック……だが、機動力を奪われてしまえば全方位攻撃のただの的でしかない!
「うわあああああああ!!」
「ぴゃああああああ!!」
「装甲板18から37まで中破、背部スラスター2号機のエネルギー転換率17%ダウン、左足伝達系に19%の遅れ確認、頭部右側センサー系、遮光グラスに損傷……」
揺れるコクピット、鳴り響く警報と止まらないミュラりんからの異常報告。
「フラヴィ、このままじゃ」
「分かってる!」
ありったけの気合を込めてスラスターを吹かす。
ゼロから一気に音速域まで届かせる超加速、機体はあらゆる攻撃を置き去りに一瞬で天高く舞い上がるが、身体にかかる負担は当然ながら絶大で。
バキッ!ボキボキバキッ!
「~~~~!!!」「ふぅがびっ、かはっ!!」
5歳児程度の肉体では、いくら『神』のものとは言えその反動には耐えきれない。
超加速による血液の偏り、加速が生み出すG。
骨は一瞬で砕け、視界は充血、欝血で赤く染まる。
内臓器官も血管も強烈なGによる圧縮と停止時の気圧低下で各所が破裂。
『人間』であれば即死している重傷だった。
「て、敵の機体にやられる前に操縦で死ぬなんて恥ずかしいと思うんだけど」
「舌噛んだぁ~……痛いよぅ」
いかなる重症であってもこの肉体は即座に修復していく。
そんなことは当然敵も把握しているわけでっ!
ダダダダダダダダダダダダダダッ!!
キュピーン!パパパパパパパパパパッ!!
回復の時間など与えるかとばかりに苛烈な追撃が下方から襲いかかる、が、幾らボロボロとはいえ下から打ち上げられるだけの攻撃などかわすのは容易い。
「本体が見つけられないんじゃ、先にイッアムを叩くかい?」
「あの婆さんの機体だよ?
迂闊に仕掛けて足を止めたところをさっきみたいにズドンされたら終わりだって。
向こうもそんなことは当に予想済みだろ?」
「ならどうするのさぁっ!」
どうする、と問われればなんとしても倒す、としか答えようがないのだけれど。
『ジャバウォッグ』……ルイス・キャロル作『鏡の国のアリス』に登場する化け物、だったか。
名前そのものはキャロルの作った造語であり、その意味するところは諸説紛々。
一説には『わけのわからない言葉を発する声』、転じて『言語の混沌』『言語の存立を脅かす騒音』の象徴として認識されていたような。
jabber(わけのわからないことをぺらぺら喋る)という単語がその根拠だというが、この場には関係ない話だろう。
真に注目すべきはヴァーミリオスが『何故』その名を機体に与えたか、という部分だ。
かつてかぁさまが言っていた。
『「名」を得る事で未知から既知へと属性を変化させ、存在を確定させる』のだと。
「……つまりは『ジャバウォッグ』という名を与えた事で、『鏡の世界に住まう化け物』という特性をあの機体に付与したんだ。
結果、こちらの世界にある姿は実像でありながら虚像でもあり、鏡像と化した!
『ミラーリフレクター』!
アレを複数設置して虚像を余すところなく映す事であの機体はこちらの世界に干渉しているっ」
「んなっ!?
ってことはあの鏡が本体だってこと?」
「ミュラりん、これまでの奴の移動経路とリフレクターの位置関係を再分析」
「分析完了、主様の予測から組み上げたシミュレートと98.72%一致。
リフレクターの内13枚前後が特定の位置関係を保って浮遊していることを確認しました。
敵本体は、リフレクターであると断定します」
木を隠すなら森の中、という事か。
「わざわざ32機もリフレクターを用意したのは、単に数の暴力という訳じゃなく、本体の正体を誤魔化すためのスペアって事なのかぁ。
自分の『権能』すら真実を隠すための道具にするだなんて……。
ヴァーミリオスって『魔神』の事、ボクは随分と侮っていたんだなぁ」
「反省は後でもできるよ、かぁさま。
それより……『敵』のからくりが分かったんだ。
……『アレ、使うよ?』」
「ふふっ、『よくってよ?』
……って、こんなセリフをわざわざ言わなきゃダメな訳ぇ?」
「決め技使う時には様式美って大事なんだよ?
んじゃ……いきますかっ!」
下方からの攻撃回避に徹していた『イクウェス』が、更なる加速を開始する。
それに合わせるように、白銀の装甲が蒼白い稲光を纏い始めていた……。
一方その頃地表側。
「ひゃっはー!
たーまや~~~!
か~ぎや~~~~!
うえ~~~~~~~い!!」
楽し気に上空にレーザー光をぶちまける『ジャバウォッグ』と、その隣で全砲門を天に向け一斉掃射を続ける『オクタマンボー』。
ド派手な弾幕掃射も最初こそ盛り上がるものだが延々続けば観衆も飽きる。
「『イクウェス』が上空に逃げてから結構な時間たったけど、リングアウトとか規定に入れてなかったのは失敗だったかぁ~~?
いい加減客の見えないところでコソコソするのはサービス精神に欠けるってもんだぜ!
そんな臆病者は戦場には要らねぇっ!
失格にされたくないならサクッと降りてこいやぁ!
あ、チ・キ・ン!チ・キ・ン!チ・キ・ン!」
「「「「「「「チ・キ・ン!チ・キ・ン!チ・キ・ン!」」」」」」」
「「「「「「「チ・キ・ン!チ・キ・ン!チ・キ・ン!」」」」」」」
「「「「「「「チ・キ・ン!チ・キ・ン!チ・キ・ン!」」」」」」」
会場に巻き起こるチキンコール!
「あはははは!
こりゃいいねぇ、彼らすっかりやられ役だ!」
「これで降りてくる様な可愛げがあのぼーうやに……むっ!?」
劫火を天にまき散らす自機の肩で上空に睨みを利かせていたイッアムは、突如宙に奔った蒼い閃光を見逃さなかった。
(なんじゃ、あの光は?
逃げたと見せかけて上空で何か術式を組んでいた?
……いや、この競技はあくまで自身の造った機体で勝負する、というルールに縛られとる。
機体を介して術を使ったなどと言う屁理屈は馬鹿な観客共には通用せん。
術の反応は無い、無いがなんじゃこの背筋が凍るようなプレッシャーは!!)
天空を奔る蒼の光は見る間に強くなっていく。
観客も、舞台上で戦う3柱の神達も、もちろんイッアムとヴァーミリオスも、攻撃の手を止め、呆然と、ただ天を見上げる。
蒼き稲光が踊り狂っていた。
はじめは無秩序に見えた光は、瞬きほどの時間で凄まじい大きさの魔法陣を形成していく。
光の残光が宙を焼いて、軌跡が魔法陣を描いているのだ。
それはあまりに美しく、同時にとてつもなく非常識な光景。
「馬鹿なっ!
あんな速度で動けば、いかな『神』とて無事では済まぬっ!」
「……それくらいの覚悟って事なんでしょ?
あは、すごいなぁ、びっくりだなぁ、私達もちょっと彼らを舐めてたかも?」
ヴァーミリオスの頬を冷たい汗が伝う。
あれが『術』?あれが『魔法』?
あれは、そんな『言葉』で括れる『なにか』なんかじゃ、ない!
「あは、あははははは!
いいね、いいよ!
その凄い何かで何をするのかなんて分からないけど、こんなに弱い私を舐めないで、全力で戦ってくれるんだからっ!
こっちも全力で応えないとだよね!
『ジャバウォッグ』!リフレクターをLW式に展開!
充填開始ッ!」
「ふぇっふぇふぇ、青いねぇガキどもが。
だがそれがいい、それでいい!
婆も年甲斐なく熱くなっちまってるねぇ……。
責任は、取ってもらおうかね!
『オクタマンボー』、フロジストンドライブ起動、神滅機構展開、充填開始っ!」
ウォオオオオオオオオオオオオオオン
2体の機神が主の命を受けその真の力を解放する!
リフレクターの耐熱限界ギリギリまで反射を繰り返したレーザー光、その反射の度に鏡面に浮かばせた数多の術式を付与させていく事で如何なる防御術式も打ち破り、位相空間へ逃げ込もうとも確実に撃ち貫く『ジャバウォッグ』の最終決戦術式『ヴォーパル・ブレイド』!
イッアム・シテーが異世界の技術でもって組み上げた万能元素フロジストンを燃料に起動するフロジストンドライブ。出力限界など全く考えずに自重なく造り上げたその出力たるや、ほぼ無限馬力に達する。
その有り得ないほどの出力を以て『神殺し』すら可能とするのが『神滅機構プロクリャチェ』。胸部装甲が展開し、内部から強烈な神滅呪詛を発する術式砲が姿を現した。
迎撃準備を整え、二柱の神は今にも起動しそうな天空の魔法陣に向かい吠える!
「「さぁ!どこからでも来い『イクウェス』!!」」
「えっと、もう来てるよ?」
……
…………
………………
「「「「「「「は?」」」」」」」
それは確かに『創世神』の小倅の声。
舞台の上に、蒼き雷光を纏ってその白銀の騎士は静かにたたずんでいた。
その両の手にはどこまでも蒼く輝くプラズマで形成された剣を握り。
誰の目にも止まることなく、悠然と、毅然と!
「え?え??」「い、い、一体いつの間に!?婆たちの知覚をすら超えて!?」
「おいおい、今更な事を言わないでくれよ。
あんたらだって『神』でしょうに。
僕がかぁさまから一番最初に教わった事だよ、こんな事」
会場にいる誰もが言葉を失い、息を呑む。
「僕らは『神』だ。
願え、想え、感じろ、信じろ。
そうすれば……『結果』なんて勝手に付いてくる」
「ふ、ふ、ふ……ふざけるなああああああああああああああ!!」
会場に響き渡る、あまりの『理不尽』に対する怒りの絶叫!
その叫びを待っていたかのように、『オクタマンボー』と『ジャバウォッグ』のリフレクターに蒼白い斬撃線が刻まれ始める。
その二体だけではない。
舞台上で戦っていた『クリスタ・コッペリア』と『ディープ・アビス』の機体表層にも幾つもの斬撃線が刻まれていく!
「『神罰術式』フォースオブウィル!」
「天罰覿面っ!」
空が蒼の閃光に染まると同時に、舞台を、宙を、爆風が覆いつくした……。
フィオ「ねぇねぇフラヴィ、随分と思い切った技使っちゃったけどアレでよかったわけ?」
フラヴィ「かぁさまこそGガン〇ム的次回予告はもういいの?飽きた?」
フィオ「フラヴィと今年最後くらいは一緒に次回予告したかっただけだよ~♪」
フラヴィ「安定の親バカかよ……」
フィオ「失敬なっ!
それじゃ次回かみぐらしっ!第30話 一番良いのを頼む」
フラヴィ「El Shad〇ai !」




