第24話 突撃!となりの悪神さん
今回は説明回というか導入回というか。
登場人物一気に増えます。
「ひょっひょっひょ!!
見ておくれよぼーうや!
この間ぼーうやが捕獲した『埴輪』!
アレを解析して婆が造ったのが、この『トライマンボーGZ』じゃ!
見よ!この勇姿!
やっぱりロボといえばドリルよな!!」
「えーっと、ロボにドリルは同意しますけども、うちのかぁさまも眷属もビビってるんでそのデカブツ引っ込めてもらえません?」
僕の腕の中でブルブル震えるかぁさま(生首)とミュラりん(結晶球)。
初めて見る巨大ロボに慄いているらしい。
言葉も無くアワアワしているのは見ていて楽しいけど。
で、僕等の目の前にそそり立つ身の丈150mの巨大ロボの製作者が、先日の『埴輪』騒ぎで被害にあった方々の一人で『自重無き叡智』悪神イッアム・シテー。
どこから見ても邪悪な魔女っぽい風体の、鉤鼻の婆様である。
魔女っぽい風体にも拘らず、魔法を用いた科学である『魔科学』に精通し、その普及に全力を注いだが故に環境破壊や汚染が頻発。
元居た世界ではそのせいで『悪神』扱いを受け『奈落』墜ちした経歴を持つ。
この婆様、趣味がロボ製作でついでに結構自重しないモノを造る。
そのノリ僕は好きなのだがかぁさまは苦手な様で、婆様が来るといつも無言になって『帰れ!』オーラを撒き散らすから困ったものだ。
まぁ、今日の『ロボ』には嫌悪よりも恐怖が勝っているようで、震えてしまって追い返すどころではないみたいだけど。
「しっかし、相変わらずよく分からん造形ですねぇ」
「そうかの?
キャタピラにドリルが付いていればそこに浪漫があるじゃろう?」
「両肩のバスターランチャーも胸が熱くなりますけど、これってどう見てもマンボウの被り物をしたガ〇タンクじゃないですかね?」
「む? そのガンタ〇クとやらが何か分からんが呆れられてるのは感じるのぅ」
「肩についてるマンボウシールドもアクティブシールドなのは理解できるんですけど、何故マンボウ型なのかが大いに理解に苦しみます」
「マンボウ可愛いじゃろう?」
「マンボウは可愛いですけど、その無駄にリアルな質感のせいで外見がまるでディープ・ワンっぽいじゃないですか」
「ディープ・ワン……あぁ、クトゥルフ系列の邪神の眷属じゃったか?
うーむ、確かに言われてみるとそんな風態に見えなくもないのぅ!」
「うちのかぁさま、そういうゲテモノ系のナマモノ苦手なんで、引っ込めてもらえるとありがたいです」
「ふむ、それは申し訳なかったの」
そこでようやく恐れおののくかぁさまたちに気付いた様子のイッアム婆さんは格納空間へとロボを引っ込める。
他にもこの婆さん、200体前後のロボを保有しているけどほとんどが欠陥品で動かないのはここだけの秘密(主に燃費の問題だそうだ)。
創るものは凄いものばかりなのに、デザインセンスがちょっと、いやかなりおかしいんだよな。
「で、今日いらしたのはこれを見せる為じゃないでしょう?」
「うむ、本題に入ってもいいんじゃができれば皆が揃ってからがいいじゃろうの」
「皆??」
「遅れ申した」「イヤ、ジカンドオリジャロ」
「フフフ、わたくしの到着時間が待ち合わせ時間ですのよ?」
「……来たよ?」「予見した通りの時間ですなっ」
「いひっ、みんな揃ったのぅ」
不意に僕らの周囲に幾つもの『神気』が満ちると、そこに現れたるはご近所に住まう邪神、悪神の皆さま方。
真っ先に現れたのは一番近くに住んでいる2柱の悪神。
『富の偏重者』ゲジュルベリアと『戦禍呼ぶもの』キルギリオス
ゲジュルベリアさんは青い肌に襤褸をまとったよぼよぼの一つ目鬼でその主なる権能は『超絶貧富格差』とでもいうべき超福の神能力(転じて貧乏神能力でもある)。
信者のために頑張っただけなのにあまりに周囲へ被害を与えたため、被害者たちから邪神扱いを受けて『奈落』に堕とされた可哀想な神だ。
キルギリオスさんは額に立派な一本角の生えた筋骨隆々の暑苦しいおっさんの様な男神で、何処からともなく争いの種を生み出す『状態:戦場』。
争いを起こすだけで本人には戦闘力はなく、迷惑な悪神として『奈落』に堕とされた。
続いて現れたのは『奈落』の底にいるのが明らかに不自然な風体の、ひらひらした可愛らしいドレスに身を纏う女子高生コスプレイヤーの様な見た目女神っぽい胡散臭い方。
名を『永遠の美姫』ルーナ・ルーナ。
その能力は『世界で一番お姫様』という異性にちやほやされるだけの権能、だそうだ。
別に言う事を聞かせたり魅了して洗脳するでもない、とにかくちやほやされるだけの能力。
あまりに役立たずすぎて元の世界を追い出され、名も無い下級神を取り巻きに『姫』をしている。
もちろん戦闘能力皆無。
言葉は少なめ、呪印の刻まれた包帯で両目を覆う少々小柄な紳士といったような風体で、細い鞭の様な尾を持つ男性の神は『歪みし未来』ノーマ・ノクサ。
その権能は『無限の7矢』と呼ばれている未来予知。
包帯の下に隠された7つの目が、それぞれ最も可能性の高い未来を一つづつ、併せて7つまで同時に見る事が可能という能力だ。
無限に等しい可能性を7つまで絞れるというのは結構凄いと思うのだけど、あまりに頻繁に未来が変わる為にあまり見る価値が無い、とは本人談。
役に立たなさすぎて見るのを止めたら理解してもらえずに悪神扱いを受け堕とされたんだとか。
そんな神様なので他力本願な性格の持ち主をとことん嫌っている。
溌溂とした声で話す、浅黒い肌の特徴の薄い顔立ちをした耳長のエルフの様な長身の若者は、魔神であり『鏡界の守り人』ヴァーミリオスと呼ばれる存在だ。
魔神族の中でも鏡の中のような通常空間と異なる空間を自在に出入り出来る『次元渡り』の能力に長けた一族の出で、次期族長。
もっとも、一族は他の魔神達からその能力を危険視されて滅ぼされ、生き延びた彼も『奈落』へと追放の憂き目にあってしまう。
が、そんな辛い過去も笑い話に出来るほどに心が強い魔神である。
なお、この人も能力は強いが腕っぷしはよわよわだったりする。
最後に妙な笑い方をしながら現れた老人の形をしたスライムが『絶対運命』ジ・フィーニス。
ぱっと見は顎髭が長い腰の曲がった禿げてる爺さんに擬態したスライム。
しかしてその権能は『絶対強制選択』というあまりに馬鹿げた能力。
あらゆる可能性の内の2択状態に限り、運命をどちらかに強制的に傾ける、というものだ。
例えば6面サイコロを振って毎回6を出す可能性は6分の1の為『6を出す』という操作はできないが、『偶数か奇数か』という選択肢ならばどちらかに運命を固定させられるというもの。
状況次第ではあまりに恐ろしい力を発揮するため元の世界でも危険視されていた彼。
愉快犯的なノリで自身のいた世界をあわや破壊する手前まで追い込んでしまい、現地のお仲間に強固な能力封印の呪詛をかけられたうえで『奈落』に追放された。
以上、合わせて7柱の神々が僕らの『ご近所さん』である。
『富の偏重者』ゲジュルベリア
『戦禍呼ぶもの』キルギリオス
『自重無き叡智』イッアム・シテー
『永遠の美姫』ルーナ・ルーナ
『歪みし未来』ノーマ・ノクサ
『鏡界の守り人』ヴァーミリオス
『絶対運命』ジ・フィーニス
それぞれがかなり癖のある神物なのだが、共通しているのはとことん直接的な戦闘行為を苦手としている事、である。
戦闘向けの能力を備えているにも拘らず、性分で活かせなかったりする方ばかりだ。
ノーマさんの未来予知やフィーニスさんの運命強制操作など、使い方次第では戦闘で無敵を誇れそうな物なのに、そういう使い方は下手だというのだから何とも言えない。
結果として『奈落』墜ちするような凶暴、好戦的、嗜虐的な邪神悪神魔神魔獣の類に追い散らされる形で各々長い事各地を逃げ続け、最終的にかぁさまのテリトリーの中に逃げ込むことで安住の地を得たのだそうな。
それでも5年ほど前までは僕らの近所にも凶暴な連中はかなりの数いたので、本当の意味で落ち着いたのは最近の事。
で、凶暴な連中を追い払うきっかけとなったのが僕の魔法練習での無差別爆撃であり、そうしてできた空きスペースには、彼らを中核として共に各地から逃げてきた戦闘能力に欠ける下級神やら魔獣やらが集い、独自のコミュニティを形成している。
言うなれば彼らはかぁさまの造った領地に住まう村の長とでもいうべき存在なわけだ。
で、そんな彼らが僕らの元に集ったのは例の『埴輪』襲撃の件について報告があるとイッアム婆さんから連絡があったから。
『埴輪』に関しては生け捕りにした後の始末は『被害者』であるご近所さん方に一任していて、その処遇に関しては僕らは一切関与していない。
よって今回の婆さんからの報告が最初の報告である。
一同が揃ったのを確認して口火を切ったのは、報告者のイッアム婆さんだった。
「まずはあの迷惑な輩を捕獲してくれたぼーうやに、改めて礼を言わせておくれ。
よくぞアレを『生け捕り』にしてくれた。
もしアレを破壊していたら、と思うと流石の婆も肝が凍てつくわい」
「ふむ?イッアム婆よ、あの『埴輪』には何か仕掛けてあったのか」
「ひょっひょっひょ!
さしものお主らも聞けば肝を冷やすであろうよ!
あやつの中に埋め込まれていたもの、それは『矛盾結晶』じゃよ。
何処の馬鹿が埋め込んだのかは知らんが、使い方ひとつで『世界創世』から『因果抹消』までおおよそありとあらゆる奇跡を実現可能とする『稀少触媒』じゃな。
もしも傷でもつけようものならこの辺一帯塵も残さず因果ごと抹消されていたじゃろう。
ほんにまぁ、ぼーうやは良い仕事をしてくれたわい。
いい意味でも、わるーい意味でも、のぅ。
……おぬし等なら、その意味は理解できるじゃろう?」
「「「「「「「「………」」」」」」」」
婆さんが言葉の締めくくりと共に懐から出したうっすら輝く怪しい結晶を前に、皆は揃って息を呑む。
目の前にあるのはただ危険なだけの代物ではない。
明確に不和の種を撒き散らす、『災禍』そのものの結晶であった。
フィオ「あの婆さんなんてものを持ち出すんだよ!」
フラヴィ「婆さんが出したって言うより『埴輪』でしょ?
というか、あの『埴輪』死んでまで迷惑な奴だなぁ」
フィオ「それよりどうするのさ、あの結晶!!
あんなものそのままにしておいたらきっと大変なことに……」
フラヴィ「なんて状況なのに作者はここであえて幕間を仕込むようだよ?
次回!かみぐらしっ! 幕間だよ」
フィオ「空気読んで無いにもほどがあるでしょ!?」




