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かみぐらしっ!  作者: 葵・悠陽
第2章 『奈落』の支配者
20/58

第20話 かみぐらしっ!

最終回っぽいですが……ふふふ♪


 ぼ~~~~~~~~……。


  いつもの様に胡坐の間にかぁさまを抱え、ほけぇ、っとした顔で『奈落』の空を眺める。


 マーブル模様にうねうねと変化を続ける赤い空は、今日も今日とていい感じに不気味だ。


「平和って、いいよねぇ~」


「そうだね~」


 ピカっ!ピカっ!


 隣でボーリングの玉くらいに大きくなったミュラりんが『同意』とばかりに点滅する。


 例の『埴輪』騒ぎが終わってから早3日。


 僕らは心からこの平穏な時間を堪能していた。





               ■


 凄まじい速度で奈落の底を駆け回り、周辺神民に甚大な被害を及ぼした『埴輪』。


 罠にかけ激闘の末これを制圧したのだけれど、得たものといえば……。


・『埴輪』の身柄

・日常


 のみ、という成果という意味では全く以て骨折り損の結果でしかなく。


 『僕』謹製の捕獲用トラバサミに噛みつかれ、、悶絶を続ける変態の世話などありがたくもなんともない話であった為、事情聴取は他の神々(被害者)に押し付け僕らは骨休めに勤しむことに。


 僕と『埴輪』のバトルは何処からか他の邪神、悪神さんたちの元に中継されていたようで、集まった被害者さん達に口々に讃えられるのは何かこそばゆい気分だった。


 ま、中には祝福という名の『呪い』をかけようとする困った神もいて、気付いたかぁさまがむっちゃ怒っていたけど。


 そんなわけで僕らは誰に遠慮することもなくだらけた日々を送っている、というわけだ。


「そう言えば、『(この身体)』になってからここまでのんびりしたのって久々かもしれない」


「言われてみるとそうだねぇ?

のんびりしているようで魔法の練習しながらだったり、何か作りながらだったりだったかも」


「今回は本気で疲れたからなぁ、しばらく見動きすら取りたくないよ」


「凄い戦いだったもんね~、感動しちゃったよ!

オチは酷かったけど」


「仕方ないじゃん。

圧倒的な体格差、地力の差、どうしろっていうのさ。

叡智の勝利だよ、うん」


「ぷぷっ、そういう事にしておいてあげるよ♪」


「それにしても……」


「ん?」


 今回の騒動は、散々痛い思いもしたし物理的に得るものはろくになかったけれど。


「学ぶことは、多かったなぁ」


「……例えば?」


「改めて『奈落(ここ)』が非常識な場所だ、って思い知った。

悪神さん達が褒めてくれた時にさ、『流石は創世神の御子、素晴らしい概念操作でした』って口々に言っていたじゃない?」


「言ってたね~?」


「あれって、僕らの権能が『創造』による地形や物質、条件の概念操作で、それに特化した力を振るってるってことだよね?

僕さぁ、この力って僕らの固有の特技なのかと思ってたんだよね」


「そうなの?」


「うん、だってかぁさまは創世神でしょ?

()()()『創造』の力を持ってるって思ってたんだ。

でも、他の神様連中の言葉を聞く限り……違うよね?」


「あっちゃあ~~、フラヴィ、気付いてなかったんだ?

別に『創造』はボクの特権じゃないよ?

確かに『創世神』の権能としては分かりやすい力だけど、名前や肩書が『神』の能力を定義しているわけじゃないからね」


「すっかり勘違いしてたよ」


 そう、僕は知らないことだらけなのだ。


 かぁさまのように生まれた時から神でもなければ、人間だった頃も底辺を彷徨う低所得労働者でしかなかった。


 この世界に来て速攻でクソ神に魂を砕かれ、異世界知識すら十二分に思い出せない半端者。


 それでもかぁさまの重すぎるくらいたっぷりの愛情を受け取って、ミュラりんの様な将来性豊かな眷属も得て。


「『神』としても、『人』としても、僕はまだまだ未熟者。

いやはやほんと、先は長いなぁ」


「たかだか数百年生きただけの『魂』なんだから仕方ないよ~。

これからだって♪」


「……は?

今なんつった?」


 己の未熟を恥じていたら、さり気なくとんでもない爆弾が落とされた気がする。


 数百年生きた? 誰が? 僕が?


「あ、やば」


「……さぁ、何を隠しているのかなこのポンコツ女神。

おに~さんが根掘り葉掘り聞いてあげようじゃないか~」


「それじゃおに~さんじゃなくて鬼~さんだよっ!!

痛い痛いっ! こめかみぐりぐり痛いっ!

幼女虐待はんた~い! 家庭内どめすてぃっくばいおれんすはんた~い!!」


「人聞きの悪い事言うなしっ!

これは単なる愛の鞭っ!

かぁさまと僕、家族の触れ合いタイムだっ!」


「い~~~~や~~~~!!」



 この後こめかみぐりぐりに屈したかぁさまは、僕が人間の『魂』時代に実は数百年に渡りこの『奈落』で一緒に居たのだという驚愕の事実を告げる。


「…………そんなに長いことずっと俺話続けてたわけ?」


「うんうん、実に楽しい時間だったよ♪」


「で、魂が耐えきれずに朽ちたのをこうしてわざわざ自分の子供として復活させた、と。

僕、そこまで長生きしてたなんて話聞いてないんだけど」


「時間感覚なんてここじゃまともに働かないから仕方ないでしょ?

それに、そんなに長く生きてるだなんて、自覚した瞬間に自己崩壊されちゃうかもしれなかったし」


 生前の僕、かぁさまにどれだけ愛されてたんだよ……。


「愛が重いなっ!」


「重くないよ!

普通だよ!?」


「十分重いよっ!

手作り弁当にハートマークだけじゃ飽き足らず名前付きイラストデコ入れちゃう女性と同じ程度には重いよっ!!」


「例が具体的すぎないっ!?

後、愛情込めて頑張った女性が可哀想だよねっ!」


「通勤ラッシュに揉まれた弁当の、ふたを開けた時に原形をとどめていなかった場合のホラーっぷりを考慮に入れてから文句を言おうな?

あと、相手が大事なら周囲から痛いものを見るような目で見られる男性の気持ちも考慮すべきだと愚考するっ!」


「通勤ラッシュが何かは知らないけれど弁当の一つや二つ護れないで愛を語るっ!?」


「都会の通勤ラッシュ舐めんなっ!!

狭い車内に圧死ギリギリまで人が詰め込まれて、下手に動けば痴漢扱いされる狂気の空間だぞ!?

弁当護るより自分の尊厳護る方が先決だわっ!」


「何それどんな『奈落』っ!?」


「あの魔空間に比べればここが天国に感じるよ……」


 脳裏に朧気ながら浮かび上がるはかつてサラリーマン時代に味わった都営地下鉄の通勤ラッシュ。


 入りきれないと外から係員に無理やり押し込まれ、手を下げていると鞄を動かしただけで近くの女性に睨まれる毎日。


 汗と加齢臭と香水の入り混じった凄まじい匂いに何度胸やけを起こして途中下車し、線路に嘔吐物を撒き散らした事か。


「アレは……地獄だった……」


「あ、あれ?

フラヴィ? え、ちょっと?

なんで白目剥いてるの!?

フラヴィ~~~!! カムバ~~~~ック!!」


 かぁさまの声で意識が復旧。


 危ない、記憶に殺されるところだった……。


「そう言えばその話、前に聞いた時も白目剥いて魂が崩壊しかけてたよ」


「魂レベルでトラウマになってるのか……」


 通勤ラッシュ、恐ろしい子っ!


 あんなものに毎日耐えてお仕事頑張る方々は、きっと『奈落』の底でも生きていけると思う。


 ストレス耐性高すぎでしょ、ほんと。


「で、なんでこんな話してたんだっけ?」


「かぁさまが僕に隠し事をしてたのが露見したからだよっ!!」


「藪蛇っ!!」


 まったくもう……騒がしくて気絶している暇もありゃしない。


 毎度の事ながらかぁさまとのくだらないやり取りを楽しんでいると、隣にコロコロと転がってきたミュラりんがピコピコと何やら光って質問してくる。


「ん?

御身は元は人なる種族であらせられたか?

人とはいかなる存在か?

う~ん、難しい質問だねぇ」


「人間って言うのは見た目はボク達みたいな恰好で、翼はない種族だね。

だからといってボクが創ったわけじゃない。

自然の中から、勝手にそんな姿で生まれてきたんだ。

そういう意味ではボク達の劣化コピーといえるかもしれないね」


「混沌から生まれたかぁさまのように、自然が生み出した存在、か。

そういう視点はなかったなぁ」


「むふふ~♪

ボクも君達と一緒に生活するようになっていきついた考えさ。

混沌が生んだボクはボクであると同時に混沌でもある。

そして混沌たるボクが生み出した自然もまた混沌とつながりを持つ。

だったら、そんな自然がボクという存在のように人間という存在を生み出すのも、また必然じゃないかってそう思ったんだ」


「僕の世界では人間は神の子、って考える連中もいたんだけど、そういう発想、視点を持つならあながち間違いでもないのかもしれないねぇ」


 発想としては実に面白い。


 科学的な根拠は別にして、神学者は喜んで飛びつきそうな発想だよな。


「創世神だって全知全能ではありえないからね。

とまぁ、そんな感じで人間って言う種族は『神』にも至れる可能性を秘めた、自然が生んだ存在って事でミュラりんは納得してくれるかな?」


 いかにも創世神らしい回答に、ピコピコと満足げに謝意を述べるミュラりん。


 貰った答えを噛み砕き共有するように淡く輝く光の玉を、慈愛の笑みを浮かべ優しく見守る様は創世の女神らしく実に様になっている。


 毎度の事ながら、こういう姿を見るたびに思うわけだ。


 そしてつい溢してしまう。


「はぁ、普段からそういう威厳と慈愛に満ちた女神様やってればウザくないのに」


「ウザいって言った!

またフラヴィがウザいって言った~~~!!」


「はいはい今日も元気にウザいよね~!」


「二度も言った!

息子にしか言われた事ないのにっ!」


「そりゃ僕以外に言う人なんていないでしょうよっ!

居たら怖いわっ!!」


「うえ~~~~ん!

ミュラりーん! フラヴィが苛めるよ~う!!」


「ミュラりんを巻き込むなっ!

反応に困ってるだろうが!」


 チカチカと鈍く弱々しく点滅するミュラりんは明らかに困ってるから!


「ええ~い!

こうなったらいけずなフラヴィに対抗するために開発したフィオちゃんの新技を披露してくれるわっ!」


「ほっほう、見せてもらおう、創世神の新技の性能というやつをっ!」


 突如としてうねうねと蠢き、生き物のように襲いかかってくるかぁさまの虹色の髪!!


「秘技!虹色の髪スぺシャールっ!!」


「うわっ!何その雑魚っぽいネーミング!

そしてその技、すっごく気持ち悪いからっ!

見た目がホラーすぎるからっ!」


「フラヴィが泣いて謝ったら許してあげても良くってよ!」


 ドン引きする光景に慌てて距離を捕ればそれを好機と調子に乗るかぁさま!


 ならば息子として上位互換技で引導を渡してやらねばなるまいっ!


()(さつ)!!ゴッ~ドふぃんがー!」


「ふぎゃあああああ!

目がっ! 目が~~~~~~~!!!」


 ずびしっ!とかぁさまの目玉に容赦なく突きこまれる指!


 どこかのムのつく大佐のような叫びを上げつつ悶えながらガクリと力尽きる生首幼女。


「悪は許さん」


「目潰しとか酷いっ!

暴力反対っ!」


 調子に乗るかぁさまが悪い。





 いつものように繰り返されるくだらないやり取り。


 何度でも繰り返される、お約束の様な喜悲劇。


 そんな当たり前の日常を、僕はとても愛おしく感じる。


 大好きな人たちと一緒ならば、『奈落』の底だってかまわない。


 どんな理不尽も可能にするだけの力を僕らは振るえる存在なのだから。


 だから、飽きるまで繰り返していこう。


 そんな温かい日常を……。






 これが僕らの、『かみぐらしっ!』








フィオ「……ねぇねぇ、ずいぶん綺麗にまとめたけど、これで最終回なの?」

フラヴィ「まさかぁ、作者曰く『約10万字程度で話をまとめる実験』って言ってたから続くはずだよ? あ、ほら、次回予告の原稿が来たし……んん?」

フィオ「どうしたの?

……って、うーん?

次回 『幕間 深淵の支配者たち』……幕間?」

フラヴィ「なんか嫌な予感しかしないぞ……?」

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