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かみぐらしっ!  作者: 葵・悠陽
第2章 『奈落』の支配者
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第18話 拳が語るもの


「Fwoooooooooooooooo!!」


「やっかましいわっ!

黙って~~ぶっ倒れやがれっ!!」


 ガキンっ!


 拳と拳がぶつかり合い、はじける衝撃が『奈落』を揺らす。


 荒々しい口調で気を吐くフラヴィに相対するのは、身の丈2Mほどの『埴輪』であった。


 『埴輪』と言っても日本人のよく知る鎧兜に身を包んだ埴輪像、という訳ではない。


 ぱっと見は変態チックな全身赤銅色のラバースーツの男。


 だがその容姿はどこをどうみても『埴輪』であった。


 のっぺりとしたその顔に開く3つの虚ろな穴はもちろん仮面ではない。


 赤銅色の全身の肌もラバースーツの様である、というだけで『素焼きの陶器』そのものだ。


 比喩でも何でもなく、その存在は正しく『埴輪』であった。


(ちっくしょう、なんなんだよこの埴輪はっ!

これがあの『嵐を呼ぶもの』の正体だぁっ!?

等身大のグネグネ動く埴輪なんて、気持ち悪いだけじゃねぇかっ!!)


 この埴輪、実に質の悪い埴輪であった。


 まず、生半可な魔法は振れただけで破壊する。


 陶器なら衝撃に弱いだろうと思えば崖に叩きつけても特に効果なし。


 『神』の力で精製した武器を叩き込んでも余裕で撥ね飛ばす。


 身体はまるでゴムのように柔軟で、関節がないのか関節を砕きに行っても効果はなかった。


 それでいて身のこなしは視認できないレベルで速く、力の程は建設重機並み。


 更には股の辺りで元気に揺れる興奮気味な男の象徴(ペンデュラム)が非常に目障り!


(こんな奴、()にどうしろってんだああああああっ!!)


 身体能力を自身が耐えられる248倍まで拡張し、そこからさらに時間加速魔法による10倍のクロックアップを行ってなお押し切れない。


 昂ぶる精神はフラヴィの気性を『おっさん時代』まで逆行させ、幼児の姿では考えられないほどの激しい闘気を撒き散らす。


「でええええええええええいっ!!」


「Fwoaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」


 鐘を打ち鳴らすような拳撃の連打、そしてぶつけ合い。


 互いに一歩も譲らぬ激戦は、全く収束する気配を見せようとはしない。


(頑張れ、フラヴィ、負けるな、フラヴィ!)


 崖下で激しくぶつかり合う両雄を息を殺して見下ろすフィオ。


 声をあげて声援を送りたい、孤軍奮闘する息子(フラヴィ)を助けてやりたい。


 そう思いながらも下手な横槍は彼の足を引っ張るだけでしかなく、声を上げれば相手の注意を引いてしまうかもしれないと理解しているだけに、薄ぼんやり輝く結晶球(アイゼンミュラー)と共に唇を噛みながら黙って見つめている事しかできなかった。





                 ■


 『嵐を呼ぶ存在』対策は難航していた。


 そもそも、姿が見えないというのが問題だ。


 足音の様なものが聞こえたと思った時にはすでに嵐が迫っていて、残されていただろう筈の足跡も嵐の後では掻き消され残っていない。


 下手に相手の進路上に立ちふさがればキルギリオスさんのように蹴散らされてノックダウン、という可能性が高い。


 もちろん撥ね飛ばされた程度で僕らが死ぬことはないけれど、痛いものは痛いし再生する時間も力も少なくはないし何よりもったいない。


「相手の正体を暴く、併せて対策を練る、それしかないよねぇ?」


 一応、自分の中で相手の能力に関する仮説は立ててある。


・相手が意識せずに魔法を壊す特性を持っている。


・姿を確認できないほどの速度で移動


 というものだ。


「姿を隠蔽しているとしたらまずそれを暴かなきゃいけないけれど、魔法を使って隠れてるってのは考えにくいんだよな」


「その根拠は?」


「最初の接触時、こっちの空間障壁を約700枚もぶち破ったのに、何の敵対反応も示さなかった。

元々敵対意思がないのか、そもそも相手にしていないのか、障壁に気付いていなかったか」


「はぁ?

最初の二つはともかく、気付いていなかった?

どういう意味なんだい?」


 かぁさまは何言ってんの?という顔で僕を見るが、僕としてはこの『気付いていない』パターンを推したい。


「キルギリオスさんの空間断層にしろ、僕の断絶障壁にしろ、攻性か防性かだけの違いでぶつかれば何らかの反応はする筈でしょ?」


「う~ん、まぁそうだねぇ?」


「でも、何のリアクションも無かった。

かなりの数の障壁を破壊したのに、だよ?

ってことは、相手は何らかの手段で自分に向けられた魔法を破壊もしくは消失する特性を持っていると考えるのが妥当でしょ?

効果を発揮する前に破壊しちゃうから、特に気を払わなかったんだと思えば納得がいくんだよ」


「それじゃあキルギリオスがやられたのって……」


「運悪く進路上に立ちふさがっちゃったんじゃないかな。

で、障害物と相手が認識して吹き飛ばしていったんだとおもう」


「何それ酷い」


 僕も酷いとは思うが、ここは『奈落』だからね。


 こんな場所で大手を振って歩いてる連中が、一筋縄でいく存在なわけがない。


 キルギリオスさんには申し訳ないが、折角ここまで暴いてくれたのだ。


 その犠牲、無駄にはしない(死んでないけどな)。



 もう一つの問題である『姿が確認できない』事については、移動速度が速すぎるのが原因ではないかと仮説を立てた。


 理由としては、キルギリオスさんが吹き飛ばされたという衝撃の度合い、足音が聞こえた時には既に姿はなく竜巻の群れが追ってきているという2点。


 ここの世界の物理法則は、僕のいた世界の物理法則とそう大きな違いがあるわけではない。


 太陽が中心じゃないとかそういう差異はあっても、空気は幾つかの気体の複合物だし、魔力という根源要素が存在しても原子が存在しないわけではない。


 音速超過で物体が移動すれば『音』は置き去りになり、周囲にばら撒かれる衝撃の波(ソニックブーム)も莫大な量になるだろう。


 音速超過の移動によりかき乱された荒れ狂う気流が、竜巻となって追いかけてくるというのは十分にあり得る話ではないか?



「……とまあ、こんな予想を立ててみたわけなんだけど」


「音速超過、って……音より早く動いて、身体は砕けないの?

全然イメージできないんだけど、そんな速度……」


「ざっと時速1200Kmくらいじゃなかったかな」


「そんな速度で移動してる相手を捕まえるの!?

無茶だよ!」


「まともにやったら確かに無茶だよね」


 どんな奴かは知らないが、そんな速度で移動する輩をまともに相手してやる道理はない。


 僕らは知恵ある生き物なんだから。




 と、そこまで大見え切った訳だけど、やることは大したことはない。


 相手が音速で動くと分かっているなら1秒間での移動距離は約340m。


 ならばその距離毎に感知用の障壁を展開しておけば、相手の接近方向とその接敵時間まで計測可能だという事。


 そして相手への直接魔法の行使が効果がない可能性を示唆されてるなら……


「魔法以外の方法で足止めすればいいだけの事だろ?

主に物理的な方法で、さ?」


「……それで幅1㎞近い渓谷を設置するのもどうかって思うよ?

しかもわざわざ表面に薄く幻覚魔法で地面まで被せて……」


「乗ったら幻覚が解けて落下するだけの事じゃん」


「だけ、って……ミュラりんも『素晴らしい』とか褒めちゃだめだよ~?

ボク、君をこんなあくどい子に育てた覚えはないんだけどな~??」


「被害者が出ている以上、手加減無用」


 高さにして300m程の崖の縁で、相手の到来をじっと待つ。


 渓谷は幅15㎞、差し渡し1㎞、深さは300m。


 幾ら音速移動している輩とはいえ気軽に飛び越えられる距離ではない。


 これだけの準備をするのにいくら『神』であるとはいえ結構な労力が必要だったし、僕自身気の進まない決断もしないといけなかった。


 だからこそ、この一回でケリをつけたい、そう思う。


「……そんな顔しないでも大丈夫だよ?

ボクらはここでおとなしくしているから。

それよりも、フラヴィこそ怪我とかしちゃだめだよ?

いくら男の子だからって、喧嘩とかしてほしくないんだからさ」


「話しておさまる相手ならそうするよ。

だからまぁ、かぁさまたちも気を付けてね」


 ……そう、今回の作戦、捕縛の際には僕の単独行動が前提条件になる。


 かぁさま達は物理的に遺体の傍から動けないから当然ではあるのだけど、心配だ。


 ずっとずっと一緒に居たから、置いていくという行為にかなりの抵抗を感じるのだ。


(むぅ、親バカ親バカと馬鹿にしていたけど、僕も案外人の事言えないかも)


 そんな事を考えながら、じっと相手の到来を待つ。


 ここ数日のパターン通りなら、そろそろの筈だった。






 一番外に設置した障壁が砕ける。


「来たっ!」


「!!」


 ほぼ1秒間隔でどんどん障壁が壊れていく。


 やはり音速以上のスピードで移動しているんだ、そう考える間にも障壁は砕けていく。


「方向は……ちっ!

よりにもよって今日はこっちかっ!」


 何かが迫る、そんな強烈な圧。


 障壁の残りは、3


 2


 1


「見えたっ!」


 視界の端に現れた何かが真っ直ぐこちらに向かってきたと思った時にはふっと消失。


 直後に足元にズズーーーーン!!と激しい衝撃が走る。


「行ってくるっ!」


「気を付けてっ!」


 僕は衝撃の走った崖の底へと向け、飛び込んでいく。


 かぁさまの声援を背に受けて。





              ■


(さて……こっちに落ちたのは間違いない筈だけど……)


 谷底に向け、光翼を広げてゆっくりと降下していく。


 滅多に使わないから存在を忘れがちだけど、僕自力で飛べるんだよね、かぁさま譲りの翼があるから。


 不意打ちを警戒しつつ谷底に飛んでいくと、上空……谷の上を嵐が吹きすさぶ光景が見えた。


(かぁさま達はきちんと障壁張ったよね?

大丈夫、だよな、きっと)


 我ながら過保護だな、とは思う。


 でも、バラバラの遺体のまま動けないかぁさまなのだ。


 大丈夫と分かっていても心配である。


 そんな事を考えているうちに谷底が見えてくる。


「谷底でくたばっていてくれれば楽なんだけど……って!

あ、アレは……」


 なるべく楽がしたいと願うのは人の性ではあるが、どうやら『神』が願うとろくな結果は招かないようである。


 

 それは、崖の底ではなく壁面で蠢いていた。


 あまりの速度に、落下しきらずに対岸の壁に衝突したという事なのだろう。


 壁に巨大なクレーターの如き爆発痕を残し、埋もれ、痙攣していた。


「どんな速度の化け物だよ……って、なんだ、あれは……」


 壁の中で蠢くそれは、赤銅色の物体だった。


 焼けたレンガのような色の、()()()()()がピクピクと蠢いているのだ。


 見た目の質感はどう見てもレンガ。


 だけど、ぱっと見の雰囲気は……


「ラバースーツ?いや、全身タイツ、か?

なんだあの変態は……!!」


 壁に埋もれてビクンビクン震えている人型のそれが、ゆっくりと壁面から剥がれ落ちる。


 背中から落下し、地面に叩きつけられるかと思いきや。


 激突寸前にくるりと身体を一ひねり。


 華麗に着地を決めると両手を天に高々と振り上げ


「FWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」


 天よ、我の前に跪け!!


 とばかりに咆哮を上げた!


 そして、奴はゆっくりと振り返る。


 つるりとした、だが焼きレンガのような質感の肌。


 のっぺりとした顔には真っ暗な空洞が3つ。


 深淵の如き虚ろな眼と、ぬぼーっと開かれた口、である。


 その姿は例えるならば……


「埴輪かよっ!!」



 全身埴輪色ラバースーツの埴輪、としか表現しようのない存在だった。



 それは、僕の姿を認めるとニヤリと口元を歪める。


 そして。






 激闘が始まった。












フィオ「えっと、なんというかまたコメントに困る相手だね?」

フラヴィ「見た目はあれだけど、強いよ?こいつ」

フィオ「ふ、フラヴィなら大丈夫だよ!

……おそらく?」

フラヴィ「そこは絶対勝てるよ!って言うところでしょうに。

え~、次回 第19話 男の意地

僕、見た目はまだ5歳時くらいなんだけどなぁ」

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