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かみぐらしっ!  作者: 葵・悠陽
第2章 『奈落』の支配者
16/58

第16話 実は無知だったんです


 大きな力の奔流がうねる様に渦を巻く。


 僅かでもバランスが崩れたならはじけ飛びそうなその力の渦の中心で一つの『生命』が誕生しようとしていた。


 魔力の渦によって『生命の源』から引き寄せられるように無垢なる『魂』がごく小さな砂粒ほどの大きさの結晶体に浸透していく。


 『魂』と『器』の間に大きさの概念はない。


 『器』たる透き通った結晶に流れ込む魔力流に乗って浸透していく『魂』が、完全に『器』に収まった瞬間僅かな煌めきとほのかな熱が生じた。


 どれだけ注意深くその様子を窺っていても感知できないほどの一瞬の出来事。


 『ケイ素結晶生命体』誕生の瞬間だった。




 その『生命』は生まれた瞬間から感覚器を備えていた。


 『生命』の創造主が与えた『熱』を媒介とする能力がそれである。


 『生命』にとって『熱』は意思であり、耳であり、口であり、鼻であり、食料であった。


 『生命』は、自らに膨大な熱が恒常的に与えられているのを知覚した。


 同時に、凄まじいまでの力のこもった震動波と光も。


 震動波には特定のパターンが存在していた。


 『熱』を喰らいつつ、『生命』の本能は己の内に外部から伝わる振動波を記録していく。


 容量が不足していると感じるやいなや即座に自己の分体を生成を開始する。


 『生命』の本能が訴えていたのだ。


 『この振動波の波長は記録すべし』、と。


 


 ある程度の数の分体が誕生した事で、『生命』は『群体(クラスタ)』としての本領を発揮する。


 『群体(クラスタ)』内でいくつかの『小群体(セクタ)』を形成。


 『小群体(セクタ)』毎に、震動波の記録、解析を開始したのだ。


 これによって『生命』は『言語』という概念を獲得。


 自らが『ケイ素結晶生命体』アイゼンミュラーなる存在であり、『創造主』フラヴィとその『かぁさま』フィオという『神』なる存在によって生み出されたのだと『理解』した。


<我々を生んだのは『神』という存在>

<動くこともかなわぬ>

<ただ熱を喰らい生きるだけ>

<我らの存在になんの意味がありや>

<思考せよ>

<思索の果てに答えはある><否>

<回答は既に存在する>

<何処に><何処に>

<何処に>

<我が生じた際その身に刻んだ><はじまりの震動波>

<開示せよ><共有せよ><独占禁止>

<焦るな>

<慌てるな>

<『神』の言葉はここに>



 『記録されていたはじまりの言葉』は全『群体(クラスタ)』へと共有される。


 『粘り強く、大切なものを護りつつも逞しく生き抜く存在であって欲しい』という『神』からの自分たちの存在を肯定する『願い』。


 『創造主』の意思を得て、『個』にして『全』たる『群体』は総意を以て『決断』を下す。


<我ら『ケイ素結晶生命体(アイゼンミュラー)』>

<神意を得て方針を定める>

<大切なものすなわち『創造主』>

<我らが主><父?母?性差による概念>

<『創造主』の役に立つ>

<お役立ち><万能生命><われらさいきょー>

<死なず><滅びず><生き残る><絶対命令>

<不死身><鉄壁><絶対防御>

<無敵>

<素敵>

<ステーキ>

<<<<<<……>>>>>>

<アレ?>

<教育><教育><修正><鉄拳制裁>

<暴力反対!>


 ……『群体』の中に一部変なのも生じているようではあるが、フラヴィたちの知らぬところで『ケイ素結晶生命体(アイゼンミュラー)』達の意思の統一はなされ、今後いかに役に立つ存在になるかという事が彼らの中で論議され続けることになる。


 その思考速度たるやスパコンも真っ青なものへと成長していくのだが……それはまだもう少しだけ先の話である。




               ■


 熱を帯びたビー玉大の透明な結晶体が、ピシリ、ピシリと小さな軋み音を立てている。


「数日でだいぶ大きくなったねぇ、まるできれいなビー玉にしか見えないけど。

もう結構な数の個体数になってるんだよね?」


「100体越えたところでカウントはやめたから。

思ったより成長、というかこの場合は増殖って言うべきかな?

早いよなぁ、このペース」


「このままのペースだとあと数日もすればフラヴィの手のひらには乗らなくなるね」


「そうだねぇ」



 新しい生命『ケイ素結晶生命体』アイゼンミュラーを生み出してから数日。


 僕は新たな難問に突き当たって……というより気付いてしまっていた。


「かぁさま、非常に困った問題に直面した」


「どうしたの急に」


 胡坐の間が最近のお気に入りのかぁさまが不思議そうにこちらを見上げる。


「今、僕たち会話……してるよね?」


「してるねぇ?」


「これ、何語?」


「フラヴィの意識言語に合わせて調整したからニホン語だよ?」


 かぁさまは至極あっさりとそう口にした、日本語だよ、と。


 想像通りの返答に片手で頭を抱える。


「え、何、どうしたの?

何かまずかった?」


「まずいも何も、かぁさまは何故自分の世界の言語を僕に仕込まなかったのさっ!」


「へ?

何を言って……あ」


 怒鳴られてようやく気付いてくれたようだ。


 そう、僕は現状かぁさまの世界の言葉を知らない。


 これっぽっちも知らない。


 『奈落』にいる他の連中は『外』の世界の悪神や魔獣ばかりで、そもそも言葉による意思の疎通すらできないものも多かったから自分たちの使用言語なんて特に意識はしていなかった。


 そういう連中とは念話で会話していたし、念話は言語概念を持つ者同士なら自動で翻訳がかかる設定になっているのが普通だからだ(じゃないとあまり意味のない魔法だしね)。


 だが、これまではそれで問題が無くても今後はそれだと大いにまずい事になりかねない。


 事と次第によってはかぁさまの世界から堕ちてくる存在と『ケイ素結晶生命体(アイゼンミュラー)』が単独で遭遇する事があるかもしれないからだ。


 そうなった時に『僕等』のベース言語が『外の(しらない)言葉』だった場合、問答無用で外敵認定される可能性が高くなるのではあるまいか?


 自分の創造した世界の被造物をこよなく愛するかぁさまだ。


 『言葉が違う』なんて理由で『自分の被造物』と『僕の被造物』と敵対すればとても悲しむ。


 数日は泣いて落ち込んで立ち直ってくれなくなる。


「あ~、うん、可能性はあるね、しかもかなり高い可能性だね。

他ならぬボク自身、言葉の通じない相手は『外敵』と見做しているからね……」


「自己防衛の観点からも会話ができない相手を安易に味方認定できないもんな」


「ボク等だけならともかく今はミュラりんもいるもんね」


「……ミュラりんってなに?

まさかとは思うけどアイゼンミュラーの事?」


「うん、長いんだもん呼びにくい」


「個人名じゃないんだから短縮したり勝手に呼び方変えたらだめじゃん!」


「え~?

でもフラヴィだってエルフをエロフって言ったり~リザードマンをトカゲって言ったり~ドワーフを樽呼ばわりしたりしてたじゃない??

……見た事ないくせに」


「すみませんでしたぁっ!」


 まさにブーメランな発言だった。


「でも流石にミュラりんは酷くない?」


「キラキラしてるから喜んでるんじゃない?」


 かぁさまに言われて手のひらのアイゼンミュラーを見てみれば。


 ピカピカと見た目でわかるレベルで発光を繰り返していた。


「……もしかして僕等の言葉理解してるの?

肯定なら2回光って沈黙。

否定ならそのまま光り続けてて」


 ぴかっ!ぴかっ!


 ……シーン


「「…………」」


 どうやら、知能は高いらしい。


 それも、無茶苦茶。


 教えてもないのに言語を理解してる?


 しかも、話しかけて返答したってことは『思考』能力も備えたってことだよね!?


「かぁさま、やばい。

僕の被造物(ミュラりん)が優秀過ぎる」


「うん、ボクもちょっと驚いた。

石ころとどうやって意思の疎通するんだろうって思ってたけど……発行信号と合図の取り決めでやり取りできたんだ?

こっちの言葉を理解できるってことは、あれ?

もしかしてミュラりんたちの言語ベースって『ニホン語』になっちゃった?」


 ぴかっ!ぴかっ!


 二回瞬く光を見て、かぁさまは白目をむいた。


 気持ちは分かるけど怖いからやめてね?




「うーん、『日本語』を覚えちゃったのはこの際仕方がない」


「ごめん、本当にうっかりしてたよ~。

『君』が魂だった時から普通に使ってたから、そのノリで……」


「クソ神とも『日本語』で会話してたけど、あれも念話だったからだろうからね。

自動翻訳されてたならすぐには気づかないよ」


 これは事故の様なものだと割り切って諦める。


 今さらな話でもあるしね。


「そんな事よりも、だ。

ミュラりん達が言語を扱える以上、発行信号だけじゃYES、NOくらいしか出来ないから不便だろう?」


「そうだねぇ」


「そこで、これだ」


 僕は地面に縦5横10、計50マスの正方形の図を描く。


 そしてそれぞれのマスにあ行からわ行までのひらがなを割り振っていく。


「なんだいそれは?」


「50音表って言って日本語のひらがなを表にまとめたものだよ。

『あ』から『ん』までひらがなは51文字、、常用文字だと47文字あるんだけどね?

横軸に1~10、縦軸に1~5の数字を割り振って……よし。

この表を元に発行信号を表示してもらえば会話が出来るって寸法だよ」


「随分と面白いことを考えるねぇ?

ってことは3回光って間をおいて2回光ると『し』って表示になるのかい?」


「そういう事」


「お~!

それなら確かに意思の疎通が……って、あれ?

ミュラりん達の様子がおかしくない?」


「え?」


 かぁさまに言われミュラりん達の様子を窺えば、光り方の様子が波打つ様な……あえて言うなら困惑した感じでどう見てもおかしい。


「あれ、もしかして理解できなかった?」


 しーん


 発光が止まる。


「理解はしてるっぽい??」


 かぁさまの言葉にぴかっ!ぴかっ!と肯定の合図が返る。


「んん~?

理解はしたけど困惑している?

言葉は分かるんだから用法が分からないってことはないよね」


 ぴかっ!ぴかっ!


「じゃあ何が……」


 何を困惑しているのか、が理解できなくて二人してう~ん……と頭を悩ませる。


 申し訳なさそうに揺らめく光を見ながら、こっちも申し訳ない気分になる。


「数字の割り振りが理解できない?

でも2回発光で肯定の合図って言葉は理解したんだから数という概念は理解できている筈で……」


 ブツブツと呟く僕の言葉に何かを思い付いたのか、突然ミュラりんが輝き始めた。


 ぴかっ!ぴかっ!ぴかっ!     ぴかっ!ぴかっ!

 ぴかっ!ぴかっ!ぴかっ!     ぴかっ!ぴかっ!

 ぴかっ!ぴかっ!ぴかっ!     ぴかっ!ぴかっ!


「『し』『し』『し』?

一体何を伝えたいんだ?」


「………あ~~~~~っ!

わかったっ!」


「えっ!?」


 突然かぁさまが大声をあげた。


「分かったって何が?」


 驚きながらも、何が分かったのかと尋ねてみれば。


「いや~、こんな単純な事に気付かないだなんて!

案外フラヴィもおっちょこちょいだねぇ♪

むっふっふ~♪

知りたい? 教えて欲しい? ど・う・し・た・い~??」


 などと超ウザい事を言い始めた!


 イラッ……


「おやぁ~~?

あんなところに首が3つもあるモンスター犬が見えるなぁ?

あれってケルベロスって奴かな~?

犬って転がるものが大好きだよねぇ?

おや、ちょうどよく転がりそうな生首が」

「うぉいっ!

ちょっと待とうねフラヴィ!マイサンっ!

そんな酷い事しないよね大好きなかぁさまをボールみたいに扱ったりしないよね!

待て待て待って髪を掴んで何をする気かなっ!

分かった分かったからごめんなさい今すぐ話します白状しますウザい事言いません~!!!」


「暴力は悲劇しか生まない。

だが時として物事を迅速に解決してくれることもある。

悲しいけどそれが現実、だよね……」


 白い顔を更に青白くして荒い息を吐くかぁさま(生首)を定位置に収めつつ、世の無常を嘆けば。


「うぅっ……フラヴィの対応が日に日にセメントになっていくよぅ……」


 などと心外な事を口にする。


 僕はかぁさまを大事にしているぞ?


 ウザい部分を修正しているだけで。


「愛の鞭だよ愛の鞭。

で、結局のところ何が分かったの?」


「視覚」


「は?」


「だから、視覚だよ。

ミュラりん、眼が無いから表が見えないんだ。

それで困ってたんだよ」


 ぴかっ! ぴかっ!


「………」


 まさにその通り!とばかりに強く輝く光に、自分の間抜けっぷりを思い知らされる。



「知ったような顔で50音表作るとか……。

自分の無知無明が情けない……」




 この後ミュラりん達に口頭で50音表の対応数を教えた。

















フラヴィ「いつの間にかアイゼンミュラーの呼称が『ミュラりん』になっている件」

フィオ「可愛いし良いと思うけど?

それにしても、とうとう同居人が増えたねぇ。

ま、ボクの愛らしさの前にいかなミュラりんでも勝ち目はないと思うけどねっ!」

フラヴィ「シリコン球相手に何そのドヤ顔。

まぁいいよ、次回予告するから。

奈落の底でのんびり暮らす俺達に突然襲いかかる大災害!

どこかから飛んできた魔法か?

いや、そんな気配は……訝しむ俺達をあざ笑うかのようにそれは現れた!

次回 かみぐらしっ! 『第17話 嵐を呼ぶ男』

さぁっ!デュエルスタンバイ!」

フィオ「初代『遊〇王』!」

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