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かみぐらしっ!  作者: 葵・悠陽
第2章 『奈落』の支配者
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第15話 誕生!不死身の鉄壁

二人だけだった世界は、少しづつ広がり始めます。

それに伴い、被害も拡大していくでしょう、きっと。


 そこは油絵の具と血反吐を雑に練り合わせてぶちまけた様な不気味さ漂う赤黒い空間……そのような形容しか出来ない場所であった。


 上も下も右も左も延々と果てなく同じ光景が広がり、一切の見通しも利かず自分の居場所すらも確認しようのないその歪みに満ちた空間は、ふと気が付けば先刻までと様相を変え一時として同じ姿を保ってはいない。


 見つめているだけで心身がぐずぐずと腐っていくようなマーブル模様の狂気に溢れる場所、名を『奈落(ゲヘナ)』という。





 そんな怪しげな空間の一角に、まるでそこに地面があるとでも言わんばかりにどっかりと座り込んでいる者がいた。


 それは広げた両の手の平に奇妙な文様の神秘的な光の記号をいくつも漂わせ、胡坐をかいて一人何事かを呟いている長い黒髪で一糸まとわぬ姿の幼児。


 幼児の傍には同じくらいの年頃の女児らしき遺体……それもズタズタに全身を切り裂かれ血と臓物をぶちまけてバラバラにされた極めて凄惨なものだ……が無造作に転がっている。


 幼児の胡坐の間にはすっぽりと生首が収まり、血や泥に汚れながらもなお美しく艶やかな虹色の長髪がまるでサテンかビロードのような輝きで幼児の下半身をブランケットのように覆っていた。


 彼はそんな正気を疑う様な悲惨かつ凄惨な環境下であるにもかかわらず、些事など己が視野に入らぬとばかりに真剣な表情で、胡坐の間に収まる幼女の生首にまるで彼女が生きているかのように何事かを語り掛けている。


 何も知らずに見れば……いや、仮に事情を知っていたにせよ己の正気と常識と目を疑わずにはいられない光景である。


 ましてや、生首がしゃべる、となれば


「う~ん、それにしても『ケイ素生命体』ねぇ?

その辺の石とかがモノを考えたり文化を築いたりするんでしょ?

全然イメージが沸かないなぁ。

フラヴィはそんな訳の分からない生命をどうデザインする気なんだい?」


「それねぇ。

一応だけど、砂粒くらいの大きさのケイ素結晶体をコアに持つ群体にしようかなって。

で、人間が電気信号で身体を動かしたり思考したりするのに対して、彼ら『ケイ素生命体』は熱を思考媒介にしようと思うんだ」


「ね、熱!?

熱いとか冷たいとかの、熱?」


「そうそう、その熱。

熱いとか冷たいって単なる運動エネルギーの増減で発生するものだし、伝播もしやすいから群体の思考媒体としては優秀かなって。

それに、群体が集合して例えば人型なり動物型の形をとって動くときに、熱の膨張と冷却の収縮作用って筋肉の電気収縮と同じとまではいかなくても似た感じで再現できるんじゃないかなー、と」


「魂って電気で考えてるの?

電気って雷とかのあれでしょ?」


「うーん、結構語弊があるかなぁ?

かくかくしかじか…………な感じな訳さ」


「ほえ~????」


 信じがたい事ではあるが胡坐をかいているフラヴィと呼ばれた幼児と生首の少女の間には、普通に会話が成立していた。


 それもそのはず。


 片や幼児、片や生首ではあっても、この二人は『神』であるのだから。


 理を外れた、否、理を定める立場の存在であるこの二柱の『神』(とてもそうは見えない)は、互いに会話をしながら意見をまとめ、今、とある事業の遂行に集中している。


 すなわち、『生命』の創造である。






                  ■ 


(かぁさまの説明では『魂』を受け止める器の生成、すなわち『魂』の器が『生命』として定義し得るだけの機能を持っていて初めて『生命』体としての認識を受けるって事だった。

石の中に魂を入れただけじゃ魂を『封じた』だけと変わらないからな)


 魔力を物質転換させること自体はそこまで難しくない。


 だけど、生成した物質を永続的に維持するためにはそれなりの手順が必要となる。


 僕は『ケイ素生命体』を生成するための器として『奈落』の土を使用するが、ここ『奈落』では『物質』として大地が存在していない。


 天地の定義も大地の有無も、僕が自身で認識し、確定させることで初めて僕の前に存在させられている、というだけだ。


 傍から見れば今の僕の姿は宙に胡坐かいて座っている幼児にしか見えないとはかぁさまの言。


 かつての僕が闇の中でかぁさまの姿以外を見せてもらえなかったのもこの空間認識に結構な精神力を削られるからとの事だった。


 夜の海に飛び込んで天地が分からなくなった経験がある人なら感じるプレッシャーの重さを近似値で理解できるかもしれない。


 (……っと、集中しなければ)


 横道にそれかけた思考を引き戻し、魔力操作に集中する。


 『奈落』に大地は『存在している』が『存在していない』


 この矛盾は僕が認識している『奈落』の『大地』を概念的に抽出することで存在を確定させられる。


 これも『神』の『創造』の権能。


(これ、イメージとしては重度の中二病患者がやらかす『爆ぜろリアルっ!弾けろシナプスっ!』って香ばしいポーズ付きでやる『アレ』そのものだよなぁ)


 両手に集めた魔力を記号化して発動待機状態にし、宙に浮かべてなにもない場所をこねくり回している姿は客観的に見て怪しい人でしかない。


 胡坐の間に収まってじっと僕の操作する魔力を見つめている生首幼女のかぁさまも、今は空気を読んで黙っていてくれるので作業に集中できるのだが……普段から騒がしいかぁさまがここまで静かだと、逆に落ち着かなくなって雑念が混じるのだから不思議なものだ。


「さて、そろそろ用意は整った、かな」


「『器』の設定に不備はなさそう?」


「・個ではなく集団で存在を共有する群体生命

・個としては砂粒ほどのケイ素結晶をコアとする

・熱を媒介として思考、伝達、活動を行う、熱は同時に食料でもある

・増殖、繁殖は熱量を消費し分裂することで行う

この4点をもって生物としての基礎概念にするよ」


「自己複製、エネルギー代謝、連続性、個の確立と社会性……なるほどね~。

『器』としては物足りない感じだけど、フラヴィの事だし考えがあるんでしょ?」


「もちろん」


 せっかく初めて生み出す『生命』なのだ。


 この過酷な『奈落』という世界で繁栄できるくらいには『可能性』を秘めた存在であって欲しい。


 多くを詰め込まずに比較的シンプルに『生命の在り方』を定義したその『器』は、僕の考え通りならばきっと素晴らしい可能性を僕等に見せてくれるだろう。


「じゃあ、『創造』するよ?」


「しっかり見てるからね~♪」



 維持していた沢山の魔法が連続して起動していく。


 連鎖的に起動した魔法は宙に光と文字の羅列を描き出し、それらは複雑な軌跡を描いて空間の各所に刻み込まれていった。


 虹色に瞬く魔力でできた文字が、記号が大天を眩く染め上げていく!


『球形多層式空間魔法陣』


 ラノベなどではおなじみの、超大規模な魔法を発動させるときに用いられるアレである。


 たった一粒の『ケイ素結晶生命』を生み出すために形成された魔法陣、実に直径12キロ。


「さぁ、目覚めるんだ僕の初めての『眷属』種。

魔力解放!

『根源たる魔力は無限にして夢幻たる混沌より

元始に通づる魔を束ねん

魔より出づるは生命なり

法を以て混沌を制し束ねし魔を器と為す

創世神が神威により事は成され

世に須くこれ知らしめるべし

神の御業に拠りて新たな種が芽吹く

のぞまれし生命よ 今こそ産声をあげよ

生無き土塊に魂を冷たき結晶に温もりを

命の輝きはここに刻まれた

祝福を以て静謐なる微睡から覚醒せよ

福音は汝と共に在り』


生命(ヴィーテ・モゥンドゥ)創造(・クレアトスエスト)』!」


 多層式魔法陣が凄まじい光を放ちながら起動する。


 宙に浮かぶ文字や記号が凄まじい速度で宙を駆け巡り、空間が放たれる力の波動に歪んでいく。


 脂汗を流しながら暴れまわる力の奔流を必死でコントロール。


 理論上は余裕で抑え込めるはずの力なのに、こちらの予想をはるかに超え荒れ狂う暴力的な力の渦に焦りを覚えた。


(まずい……このままだと魔力が暴走しかねないっ!

何でだ!? 多層式の魔法陣とはいえここまで制御が難しい訳が……魔力操作の難度が乗算的に上昇しているみたいじゃ……って、まさかっ!!)


「……頑張って」


 計算違い、暴走の可能性。


 想定外の事態に内心激しく動揺していた僕の耳に、胡坐の間に収まるかぁさまの小さく呟く声が聞こえた。


(かぁさまは気づいていたんだっ!

僕の構築陣の穴や考え違いを……。

でもあえて言わなかったのは、『その程度僕ならどうにでもできる』って信じてくれたから、かっ!

なら……)


「応えないわけには、いかないでしょう……がっ!!!」


 小手先で魔力を操作するんじゃない。


 僕は世界で、世界は僕だ!


 荒れ狂うこの魔力だって……


「僕の手足と、変わらないっていう事だあああああああ!」


「合格っ!」


 吠えるように上げられた僕の気合の声はそのまま意志と連動して暴走する魔力を鷲掴みにし、力づくてその制御を行う。


 いったん手中に収めたコントロールを再度手放すようなヘマを冒すはずもなく、魔力はイメージ通りに魔法陣を動かしてくれた。


 溢れていた光と力がゆっくりと収束していき、小さな、ほんのひとかけらの結晶へと変化していく。




「『ケイ素結晶生命体』アイゼンミュラー、誕生だ」


「おめでとうっ!

それがフラヴィの生み出した生命体かぁ~」


 見た目は何の変哲もない小さな小さな小粒の結晶。


 手のひらから落そうものなら、どこに落としたか見つけるのは困難だろう。


 それくらいに小さい。


 かぁさまに見せる為目の前に差し出したら、それだけで手にしている自分にもどこに乗せたか分からないくらいだから相当小さいのが分かってもらえると思う。


「で、こんなに小さい生命体の名前が、『アイゼンミュラー』?

アイゼンってフラヴィの世界の『鉄』って言葉でしょ?

『ケイ素』って『鉄』なの?」


 僕の命名した『アイゼンミュラー』という名前に早速かぁさまからツッコミが入った。


「確かに『アイゼン』は鉄って意味だし、鉄を合金化したりするのにケイ素も使うけど、この『アイゼンミュラー』は鉄というよりシリコンだから……」


「じゃあなんで『シリコンミュラー』じゃないの?

そもそも『ミュラー』って何??」


「僕も薄ぼんやりとしか覚えてないんだけどねぇ……」


 そう言って朧げな記憶から拾い上げた一つの物語。




 壮大な宇宙で銀河帝国と自由を標榜する惑星同盟とが相争うスペースオペラの名作。


 その中に登場する帝国軍の若き提督に『鉄壁』の名で謳われる男がいた。


 その用兵は攻守にバランスがとれており、特に守勢に回った時の粘り強さは特筆すべきものがある。


 作中で最も盛り上がる国の存亡をかけた決戦において、乗艦を3度撃沈されながらも不退転の意志で指揮を執り続け、主君の危機をも救うその戦いぶりは派手さはないもののいぶし銀の輝きを放つ。



「彼の名にあやかって、粘り強く、大切なものを護りつつも逞しく生き抜く存在であって欲しいと付けた名前なんだよ。

それで『アイゼン(鉄壁の)ミュラー』ってつけたんだ」


「そっか……いい名前を貰ったねぇ、『アイゼンミュラー』」


 手のひらの上の小さな新しい生命にかぁさまが微笑みかける。


 


 うっすらと、でも確かに強く『それ』が熱を帯びたことに、僕等は気が付かなかった。







 この時()()()『生命創造』を行わなかったことを、


 新しい『生命』に()()()()()()()()()、祝福していたことを、




 僕もかぁさまも、後になって心から安堵することになる。






フィオ「それにしてもこのちっちゃいのがきちんと生命として成り立っているってのが凄いねぇ」

フラヴィ「実際に生命体として構築してみると、ケイ素生命なんて考えだした人は凄いよなって感心するよ。僕にはとてもじゃないけど壱からそんなものイメージできないわ」

フィオ「ゼロから生み出すのは並大抵の労力じゃないからね。

多層式魔法陣でそれは理解したでしょ?

考えるな!感じるんだよっ!」

フラヴィ「ブルース・リーの名言をそんな使い方しちゃ駄目でしょうが。

じゃ、次回予告いくよ?

順調に個体数を増やしていくアイゼンミュラー

それを温かく見つめる二人の『神』は今更になって一つの問題に突き当たる。

次回、かみぐらしっ! 第16話『実は無知だったんです』

奈落の歴史がまた一ページ」

フィオ「銀河ひでお伝説!」

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