第13話 創ってみよう
神の力を振るう。
あらゆる想像が現実のものになるわけです。
たまりませんなぁ♪
「ねぇ、かぁさま」
「なんだ~い?」
「毎日毎日『奈落』の底で破壊活動に従事するのはちょっと鬱になると思うんだ」
「ええっ!?
スカッとしない!?
ストレス解消に最高じゃない!?
思うままに力を振るう快感に酔いしれない!?」
「何処の破壊神だよっ!」
「フラヴィが自己防衛を息する様に出来るようになるまで続ける予定なんだけど」
「ご近所さんを挨拶ついでに爆殺しかけちゃうくらいには身についてるよっ!!」
近くで静かに生活しているご近所さんの悪神(お名前はゲジュルベリアさん)に挨拶された際、驚いて条件反射的に『爆裂滅殺浄化の聖言』を叩きこもうとして青くなったのはごく最近の事。
流れるように組まれる術の速度と練り込まれた威力のレベルはかぁさま的に「及第点」だそうだけど……「彼は結構格の高い邪神だからフラヴィの魔法程度じゃまだ怯ませるくらいしかできないだろうねっ!」とのコメントももらったけど……!
隣人を傷つけて平気でいられるほど僕の神経は理不尽ではな~いっ!
ちなみにこのゲジュルベリアさん、特定の信者に莫大な利益を与える代わりに周囲にその数倍の貧困をもたらす、という超貧乏神的権能を持った神様だ。
戦闘能力が皆無なので、破壊魔法をまき散らして周辺の乱暴者の神、魔獣から恐れられている(らしい)僕等の住処の近くに引っ越して来られた。
元居た世界から追放されて異界を彷徨った果てにかぁさまの世界の術師の放った召喚魔法に引っかかり、降臨したら降臨したで悪神扱いされてこの『奈落』に堕ちてきた経歴のちょっと可哀想な神だ。
片言でしか話せない(僕にはカタカナにしか聞こえない)が、話した感じのんびりとした性格の神様で、見た目は青い肌に襤褸をまとったよぼよぼの一つ目鬼。
その権能故に積極的に人づきあいをしてくれないのが残念なんだよね。
声をかけるといつも脂汗を流してそそくさと、いや全力疾走?で立ち去ってしまう。
そんなにこっちに気を使わないでもいいのにねぇ?
■
「じゃあ今回は周囲の不埒ものに天誅を下すのが嫌だっていうフラヴィの為に、神様っぽい力の使い方を教えてみたいと思いま~す♪」
「ちょっと待とうかかぁさま、聞き捨てならない発言が混ざってた気が」
「さぁ!フィオちゃんの『世界創世』講座、はっじまっるよ~★ミ」
「こらっ!流すな~~~っ!!」
そんなわけで今回はあまり殺伐としない力の使い方を学ぶことにした。
「とはいえ、フラヴィは既にゴーレムも作れるし被造物とのコネクト、リンクもできるんでしょ?
流石に科学?ってのを知っているだけあってイメージの組み方が理にかなってるよね。
まさか土の塊が魔力以外の方法で空を飛ぶだなんて思わなかったよ」
「僕からしてみれば魔力なんて反則級のエネルギーの存在の方が驚きだけどね。
イメージするだけで力そのものをほとんど減衰なく運動エネルギーに置き換えられるとか色々間違ってるだろ……」
僕等の居た世界での常識で考えた場合、例えば水力発電で電気を生んだとして、生み出した電気を用いて同量、もしくはそれ以上の電気を生みだせるかと言えば、無理だ。
雑な説明になるが10の電気で発電機を動かしたとして、発電機を動かすのにいくらかの電気を消耗、新たに生み出されるのはよくて6かそこらの電気だ。
この変換時に起きる減衰幅を縮小し、効率をいかに上げるのかがエネルギー問題を解決する上での永遠のテーマであった。
ところが魔力にはその手の減衰が起きない。
10の魔力で発電機を動かせば、限りなく10に近い電気が生み出されるのだ。
これは魔力が万物の根源たる存在であるが故にあらゆるエネルギー、物質に転換可能であるという特性を持つから。
『魔法に不可能はない』、そう言わせるだけの説得力を持つエネルギーなのだ。
石油や石炭のように固形物ではなく。
電気のように放電による損耗も無く。
原子炉の様な放射能汚染も心配いらない夢のエネルギー!
それが魔力!
「散々フラヴィには魔力とは何かの説明をしたから特質はよく分かってるみたいだね♪」
「いまだに信じがたいけどね。
それに、魔力って生命すら生み出すんだろう?
ゴーレムとかみたいな疑似生命体じゃなくて、本物の命を」
「うんうん、その気になれば生み出せるね。
命を持つという事は魂を得るという事だから、それは意思もつ生命体として尊厳を損なわないように向き合わないといけない。
軽はずみに命を奪う事があってはいけないし、同時に気軽に生み出していいものでもない。
それは分かるね?」
「うん」
『生命の源』というモノがある。
全ての生命、魂が生じる場所であり還る場所。
かぁさまが生まれたという『混沌の渦』の様なものだろうと推測しているけれど、実際はどんなものなのか見たことはないので分からない。
『生命』を持つモノにはすべて『魂』が宿る。
逆を返せば『魂』無きモノを『生命』とは定義しない。
それがかぁさまが定めたこの世界の『生命』の定義。
よく『心持つ人形は生きていると言えるか?』という論議が行われるけれどこの世界においては『生きている』という答えが用意されているわけだ。
「川上先生の作品の自動人形なんかもこの世界なら魂持ちだと確定か~」
「何を言ってるかさっぱり分からないよ!?」
僕の中のゴーストが囁いただけだから気にしないでいいよ。
「ま、ここまでの内容でおおむね予想はついていると思うけれど、今回フラヴィには『生命』を創造してもらいたいと思いま~す」
「……それって眷属的な何か?
『天使』とか『従属神』みたいな」
「流石に初めてでそこまでは無理だと思うよ?
ボクと違ってそもそも自己の成り立ちが違い過ぎるから、『生命創造』のアプローチそのものも擦り合わせないと恐らくとんでもないことになる確信があるもん」
「………」
かぁさまはこういう時だけはやたらと読みが鋭い。
その辺りは僕も懸念していたことだ。
僕等の世界では『生命の誕生』は生成にまつわる理論そのものはある程度確立されているものの全てが解明されているわけではない。
『遺伝子』というブラックボックスの解析は済んでいないし、人類の起源も進化の樹形図も解明にはほど遠い。
それ以前の問題として、『魔力』という力の存在を前提として考えるか否かで『生命』そのものの構造から違う可能性は十分にある。
まずは『元の世界』の生命の在り方に関する常識を一切棚上げし、『かぁさまの世界』の生命の在り方を理解する。
その上で『かぁさまの創造』の技を模倣できるようになって初めて『生命創造』という難業へのスタート地点に立ったと言えるだろう。
「うんうん、『生命創造』に関するリスクをきちんと把握してくれていてボクは誇らしいよ。
……ここは『奈落』、世界の底の底で、不要物の廃棄所だからね。
そんな場所で生まれる『生命』が、ただ実験の為に創られるっていうのはとても悲しい事だと思うから」
……かぁさまの、こういうところが僕はたまらなく好きだ。
口に出すと調子に乗るから絶対言わないけれど、まさに慈悲深き女神って感じで相棒としての立場はもとより息子としても誇らしい。
「ん?
どうしたのそんなにボクをじっと見つめたりして。
もしかして惚れちゃった?
見惚れちゃった? フィオちゃん蕩れっ!な感じ!?」
くっ!こういうところさえなければぁっ……!
「いや、ウザさに震えてただけだよ。
あと西尾維新先生に謝れ、せっかくの名セリフが穢れるだろ」
「酷いっ!」
「酷くないよっ!
……ともかく、この『奈落』の大地で創造してもあまり迷惑にならずにかつ生命の尊厳を貶めずに済む何かを『創造』すればいいんだよね?
ハードル高すぎない?」
「そうかい?
普通に考えてペットキャラでも創造すればいいだけでしょう?」
「『キャラ』とか言うなっ!
せめてペット枠とかペットポジに何かとかオブラートに包む事はしようよ!?」
「ふっ、甘い、甘すぎだよフラヴィ!
考えてもごらん?
ペットなんて生み出したら一体どうなるかをっ!」
さっきまで折角いい事言っていたのに、かぁさまがまた妙な事を言い出した。
下手な生命の創造が出来ないなら、せめて可愛がれる存在でもと考える事の何が悪いのか。
「一応聞くけど、どうなるっていうのさ」
「ボクの立場が脅かされるっ!」
「……………はぁっ?」
「ボクの立場が脅かされるっ!
すごく大事な事だから2度言ったっ!
なんなら3回言ってもいいくらい大事な事だよ?」
「凄くどうでもいいことだよっ!」
「なんでっ!」
妙に棘があると思えばそういう事かと呆れてしまう。
何のことはない、ペットなんて創造してしまえば自分が構ってもらえなくなる、そんな心配をしているのだ。
アホすぎる。
「……かぁさま、普通に考えてだよ?
仮にも親なんだから構ってもらえなくていじけたり泣くとか、有り得ないからね?」
「なん、だって……!?」
腕の中でかぁさまの生首がぶるっと震えた。
そこまでショック受ける事なのかよっ!
「構ってもらえない、愛情が足りないって泣いたりいじけるのは普通『子供』の側、つまり僕の方であって間違っても親じゃないから」
「そんな馬鹿なっ!
ボクは創世神だよ!?
生み出されたお礼に構ってくれてしかるべきじゃないのかいっ!?」
「そんなルール知らないし勝手に作っちゃ駄目でしょうが!
まったくもぅ、本気で大人げないなぁ」
「幼女女神ですからっ!」
「こういう時ばっかり見た目に縋るなっ!」
こんな感じで『生命創造』に関しては基礎理論の教授なんかはあったものの、実践は一向に行えず。
「ペットだけはダメえええええええ!
ボクが捨てられちゃう!
ウザ女神って唾吐かれちゃうっ!」
「自覚があるならちょっとは直す努力してよっ!」
「個性だもん!
直る様なものじゃないもん!
ボクが世界の中心だもん!」
延々とウザい反抗を繰り返された挙句、創造意欲は根こそぎ削がれ。
何を創造するか?の段階から再検討を余儀なくされた……。
フィオ「ペットはんたーい!
ボクの権利を護れー!」
フラヴィ「かぁさまは別にペット枠じゃないだろうに」
フィオ「それでもボクと君との触れ合いの時間が減るだろう!?
ペットにかまける時間があるならボクを構えよっ!」
フラヴィ「うわぁ、将来モンスターペアレンツになる予感しかしない……。
気を取り直してとりあえず次回予告だな。
かぁさまはほんとに勝手すぎるよっ!
ペットポジとかどうでもいいじゃないか。
そこまで嫌がるなら仕方がないっ!僕にだって考えがあるぞっ!
次回 かみぐらしっ! 『第14話 いいから黙って創らせろ』
仕事中でも投稿OK?」
フィオ「絶対無敵ライジ〇オー!?」




