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かみぐらしっ!  作者: 葵・悠陽
第1章 『奈落』の底の創世神
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第1話 我の世界に貴様は不要なのだよ

前作より早数か月。

悩みに悩んだ末に生まれた新作です。


ツッコみどころ満載の楽しい話に育てばいいなぁ、と思っておりまする。


感想等あれば是非よろしくお願いします!






 『生きる』ってことはこの世の『理不尽』との果てなき闘争なんだと思う。







                  ◆



 異世界転生モノとか転移モノの定番パターンに『トラックに轢かれて死ぬ』ってヤツがあるだろう?


 大抵の場合、『運転手が不在なのに』とか『記録にない、存在しない車両』だったりとか『突然車止めが外れた』とか摩訶不思議現象の結果としての『事故』扱いなわけだけど、いちラノベ読者として語らせてもらえるならなんでまたそんなご都合主義的かつ不可解な物語の始まり方なの?という不満というか疑問を抱いていた。


 だってあまりにも荒唐無稽じゃないか?


 「なんでトラック?」というのは、テンプレというものだ、仕方がないで納得もできる。


 でも、何故『乗り手の居ない状況』を前提にトラックが暴走するパターンが多いのか?という部分。


 異界の謎存在が干渉して~、とか運命が~云々というのでは説明しがたい。


 そも異世界物では機械文明が発達していない世界が多く描かれ、そんな世界の謎存在が『車』というものの機構を理解して干渉するにはちと無理がないかと、ね。


 『トラック』なのは仕方がないとして……『無人』である理由。


 その事の意味に俺が気付けたのはほぼ偶然だ。




 トラックは車だ。


 当然ながら『人』が動かす乗り物だ。


 『運転手』が存在し、事故を起こせば『運転手』は当然『加害者』として扱われる。


 そして、ここが重要なのだが……




 人死にが起きるような激しい衝突事故を起こせば、当然『()()()()死ぬ』可能性が出るわな?


 加害者である運転手『も』死んでしまったなら……運転手もまた異世界転生・転移に巻き込まれてしまう可能性が出てきてしまうのではあるまいか?


 自分を死なせた相手と一緒にレッツ異世界大冒険!


 ハハハ、何の冗談だオイ。


 ……想像するだにガクブルの展開だわっ!(色んな意味で)




 痛快かつ爽快なストーリーを描きたい作家さん的には、物語のしょっぱなから想像するだに重い余計な不純物や騒ぎの火種をぶち込むわけにはいかないのだろう。


 だからこそ、物語の不純物たる元の世界における『加害者』を『不思議現象』というご都合主義を叶えるツールで速やかに排除しているのだと思われる。


 『トラック』が『無人』であるって設定にはちゃんと意味も意義もあったんだねぇ……いやはやびっくり、素晴らしい。




 ……ん?


 なんでそんな訳の分からない話を聞かされているのか分からない?


 うん、まぁそうだよな、俺も正直言って何でこんな話をしているのか分からんのよ。


 自分が今置かれている状況からの現実逃避……なんだろうなぁ、というのだけは分かってる。


 現実逃避の理由?


 ………。


 ……うーん、ソレを聞きますか……。






 まず端的に今自分が置かれている状況だけを明確化させると、だ。





 今、俺の目の前にはふわふわと妖しく輝く光の玉が6つ浮いている。


 ここ、真っ白な上も下も分からん謎空間。


 目の前、って言ったけど、俺の身体も光の玉っぽい。


 手も足も口も無いんだ、そうとしか思えないって。


 でも、周りは見えるし声は聞こえるし話も出来る。


 だからこそ現実逃避してるのよ、意味わかんないから。


 話しかける?会話に混ざる?無理無理!!




 だってこの、目の前で光ってる魂らしき6つの『光』ってさぁ……。



 ……俺がさっき『トラックで轢いた』人たちなんだもん……。






 ………あ、理解してもらえた?


 もし今身体があったなら、冷や汗だらだら流しながら真っ青な顔でプルプルしつつ何時俺が加害者なのだと相手にバレるか分からないこの状況に怯え震えて今にも倒れそうな感じになってる……と思う。


 そりゃそうでしょ?


 ばれたら絶対つるし上げられるに決まってる。


 故意だろうが過失だろうが、巻き込まれた側は『被害者』なんだ。


 『加害者』の声が届くわけがない。

 

 俺も『被害者』だって言ったって納得してもらえるもんかよ。




 ……は?


 開き直りか、って?


 開き直りも何も、俺は彼等を『殺してない』ぞ?


 確かに『轢いてしまった』けど、俺はやってない。


 交差点で信号待ちをしている彼らに俺の乗っていた配送トラックがアクセル全開で突撃してしまったのは事実だけど、断じて『俺は』やってない。


 意味が分からないって言われてもなぁ、俺も意味わからないもんよ。


 別に言い訳でも何でもなく、事実しか言ってないんだけどもさぁ。


 俺が覚えているのは……


 信号が黄色になったことで停車しようとした瞬間、突然俺の胸から『白い腕』がにゅるんと伸び生えて凄まじい力でハンドルに絡みついたこと。


 太ももから突然『足がもう一本生えて』俺の足ごと踏み抜きそうな力でアクセルをベタ踏みしたこと。


 突然突っ込んでくる俺の配送トラックに驚いて動けずにいる高校生達、OL、ご老人の姿。


 彼らを巻き込んで交差点角の潰れた商店に飛び込むトラックの運転席がひしゃげ、俺の身体がべしゃりと肉片と化すのが、まるで他人事のように妙にスローに見えたこと。


 目の前に浮かび上がった怪しい光の文様。


 意味が分からなくて、息苦しくて、意識が飛びそうなくらいに痛くて、こみあげてくる何かが何なのかを理解する前に意識は途切れて。


 …………うげぇっ、思い出したら気持ち悪くなってきた……。


 気が付いた時にはこの『白い空間』に居て、状況を元気に分析している若者たちの会話から何となく今自分が置かれている事態を把握しつつある……そんなところなのさ。


 ……分かってもらえたかい?『俺も被害者だ』って意味。


 え、なんだよその満面の笑みは。


 気にするな、って?


 いやいや、気になるだろうがっ!?


 ん?いや待て、そもそもアンタ、()()!?




 俺は一体、誰と話しを……!?





                  ◆



「平伏せよ、我は『神』なり」




 いつの間にか俺の傍に現れて勝手に話を聞いてきた誰とも知れない『何者か』。


 『そいつ』が皆の前に進み出て己を『神』であると宣言すると、真っ白な空間内に突然いくつもの竜巻の如き『圧』としか呼びようのない何かが現れ、暴れまわる。


 風とも水の流れとも表現しがたい強烈かつ純粋な『圧力』。


 生命の根源に刻まれていたと思しき『未知なるものへの畏怖』の感情が魂だけになっている7つの光を締め上げ、弄び、嬲り続けた。


 降りかかる理不尽な暴力的『力』にそれぞれの光は悲鳴と苦痛の声を上げる。


 それは一瞬にも永劫にも感じられる拷問。


 『神』を名乗ったその存在から与えられた圧力に、英雄ならざる只人の俺達は竦み上がり、慈悲を請うだけの惨めな存在なのだと思い知らされる。


 存在そのものの『格』が違い過ぎる!


 圧倒的な存在感で俺達の前に君臨する『そいつ』が先ほどまでニヤニヤと俺の話を聞いていた『なにか』と同じ存在であるだなんて、到底信じられない。


 格付けは為された。


 煮るも焼くも目の前の『神』を名乗る何かの思うがままであるのだとこの場の全員が理解した。


 喉があったらゴクリとつばを飲み込んでいたであろう重い沈黙が続く。


 7つの光から向けられる畏怖。


 自らを畏れ、竦み上がる矮小な存在に満足した様子の『ソレ』は、尊大な口調で宣言する。





 「さぁ、我と契約して異世界勇者になってよ!

どんなチートスキルも一つだけ与えてあげるよ?」


 「だが断る」


 「「「「「「「!?」」」」」」」


 何とも言えない空気が漂う。


 某真っ白マスコット型宇宙生命体の名言を丸パクリした『神』の言葉。


 凄まじい威圧に潰されかけていた筈だった俺の口から、全く以て空気を読まずに出た言葉(ツッコミ)は某漫画家キャラの『拒絶の名言』だった。


(ぬぉぉぉぉぉっ!や、やらかしたあああああああああ!!)


 先ほどまでとは違った意味での重い沈黙の中、俺は内心で激しく動揺。


 穴があったら入りたい!


 手があったら頭を抱えたいっ!!


 そして周囲の視線が痛いっ!


 


 「「「「「「…………」」」」」」



(……昔から「協調性に欠ける」とかよく言われたのは事実だけど!

ツッコまずにはいられないことを言った相手も悪いと思うんだ!

え、ツッコむ相手を考えろ?

ハイ、ごもっともですね……!)


 弁明も許されない空気にただ重い沈黙だけが続き、非常に生暖かく、いたたまれない視線を浴び続ける俺と『自称・神』。


「……コホン、え~、貴様たちは全員死んだ身だ。

その死せる魂が貴様たちの世界の『ライフストリーム』に還元される前に、我が招いた。

ようこそ我が世界へ!

汝らは我の加護を受け、新たな肉体を以て『神の使徒』すなわち『勇者』となる!

なに、恐れることなど何もない。

汝らが言うところの『チートスキル』……『神の力』の一端を与えるからな。

その力を以て我が威光を世界に示せばそれでよい」


 どうやら『神』は先ほどの出来事を無かったことにしたらしい。


 威風堂々と態度を改め一方的に現状を説明し、要求を俺達に突き付ける。


 『勇者』になって『神の威光』を世に示せ、と。


「魔王退治とか世界の救済とかじゃないのか!?」

「そんなん知るかよ!それよりチートスキルだ!」

「やっべぇ、むちゃアガるわぁ!」


 と高校生男子たちの光の玉は大喜びでどんなスキルを貰おうかと相談し始める。


「ちょっと、あたし……死んだ!?

え、ナニソレ……マジなの?」


 激しい動揺を示す女性の声を発する光の玉はOLの人だと思われる。


「嘘……お父さん……お母さん……」


 ぐすぐすと泣き始めた光の玉は女子高生のものだろうか。


 ……自分のせいじゃないとはいえ心が痛い。





 そんな中、一つの光の玉がふらふらと『神』の前に進み出る。


「あなた様は『神』とおっしゃいましたか?」


 その光の玉は、ご老人のものだった。


「然り、我はこの世界の『神』である」


 尊大な口調で答える『神』に、ご老人の光の玉は静かに訴える。


「儂、いえ、わたくしめは元の世界で十分に行きました。

子にも孫にも恵まれ、正直この世に悔いはありませぬ。

異界にて新たな生をと御身が仰る事、心より嬉しく思いますが……。

どうか、このまま安らかに眠らせてはいただけませんか?」


 それは、懸命に自分の人生を生き抜いた人間の言葉だった。


 為すべきを成し、悔いはないと己の歩んだ道を誇るひとかどの人物の願い。


 そんなご老人の願いに『神』は。



「そうか、老いて生きる気力を失った魂は我が世界には不要」


「?」


 ぐしゃり


 目の前で、ご老人の光の玉が塵と化した。


 宙を舞う儚い光の残滓だけが、ご老人が確かにここに存在していたと訴え……消えた。




 周囲は()()気づいていない。




 皆、自分の事に夢中で今のやり取りを聞いていない、視ていない。


(まさか、今のはわざと気付かせなかった、のか?)


 『神』がこちらを見て、ニヤリと笑った気がした。


 ゾクリ、と嫌な予感が背を伝う……背中、無いけど。


「そういえば我の加護を拒絶した挙句、恥をかかせてくれた汝も……おやおや、ずいぶんと魂が磨り減って弱っておるではないか。

先ほどのゴミのようにひと思いに塵にしても良いが……ふむ、良い事を思い付いた」


 存在の格の違いなのか、俺には『神』がどんな姿で、どんな顔をしているのか分からない。


 だが、何かを思い付いた様子の『神』が、とてつもなく嫌な、あえて言うなら邪悪な笑みを浮かべているのだけは分かった、理解した、理解させられた。


 パンパン、と手を叩き『神』は皆の注目を自分へと集める。


「突然の死、突然の異世界、納得がいかぬ者もいるであろう。

その憤り、我にも十分に理解できる……そこで、だ。

我が使徒となるそなたらに報いるために、我はひとつ、先んじて褒美を与えよう」


 一体何を……?とでも言わんばかりの訝しげな皆の視線を浴びながら、『神』は宣言する。


「そこな魂、そ奴は、汝らの世界で汝らを哀れな挽肉へと変えた張本人である」


「「「「「!!」」」」」 「なっ!『神』っ!貴様……!!」


「貴様たちが暮らしていた世界で死んだ原因……トラックと言ったか?

鋼鉄の荷馬車でもって貴様たちを押しつぶし、愛しい家族との、友人との、永遠の別れを愉悦を以てもたらした悪鬼……ほぅら、貴様らの憎むべき『悪』がここに居るぞ?

しれっとした顔で貴様ら『哀れな被害者』の群れにさり気なく紛れ込み、『加害者』でありながら神の恩恵を掠め取らんとする『悪』がっ!」


 『神』の煽りに驚き、困惑、そんな視線が俺へと突き刺さる。


 それらは徐々に憎しみと悲しみ、そして怒りの籠ったものへと変化していく。


「さぁ、力を願え!

望む力を与えよう!

そして悪しきその人間の魂にそなたらの苦しみを、痛みを、絶望を!刻み込んでやれっ!」


「おいっ!ふざけ……があっ!!!」

「……」


 真っ赤な光のラインが俺の魂に針のように突き刺さる。


 放たれた光の元には、おさげに眼鏡の文学少女とでも言った雰囲気の少女。


 涙を滂沱の如く垂れ流し、目を真っ赤にはらした少女の視線に宿る激しい憎悪に身がすくむ。


「ま、待ってくれ……俺はやってな……ぐあっ!!」

「言い訳なんて聞きたくないわね」


 ズン!と上から巨大な足が降ってきて俺をぐしゃりと潰そうとする。


 OLらしき女性の仕業だった。


 俺の魂を何度も踏みにじろうとぐりぐりと巨大な足はプレス機の如く圧力を強めてくる。


「おいおい、俺達にもやらせろよ!」

「自分らばっかり楽しんでんじゃねーぞ?オバサン」「ああん!?」

「おい、レディに年の話はタブーだぞ?だからお前は童貞なんだ」


「ぎゃあああああああああああ!!」


 にやにやと笑う3人の高校生男子たちの姿は、光輝く鎧に派手なマントを翻すまさにアニメか漫画のコスプレ勇者の如き衣装へと変化していて。


 炎が、雷が、氷が、光が、闇が、斬撃が、刺突が、打撃が、ありとあらゆる痛みと苦痛が休むことなく俺の魂へと襲いかかり、蹂躙する。


 やめてくれと訴えても、俺じゃないと叫んでも、誰も耳を貸してはくれない。


 この場にいる誰もが暴力に酔い、復讐に盲目になり、己の正義に溺れ、そんな彼ら彼女らに俺は顧みられないまま延々と魂を蹂躙され、砕かれ、痛めつけられた。


 ボロボロと砕けていく魂。


「なん……で、ど……し、て……」


「決まっておろう?」


 『神』を名乗るそれは、壊れ行く俺の魂をあざ笑いながら言った。


「貴様が『神』ではないからよ。

理不尽だと思うのならば、汝も『神』になればよい……。

クハハハハッ! まぁ、億年あろうと無理な話だろうがな」


(畜生……ちくしょおおおおおおおおおおおお!!)



 ゴミにもう用はないと言わんばかりの『神』の態度。


 『奴』がパチンと指を鳴らすとバラバラに砕けていく魂がどこか深い場所へと墜ちていく。


 煮えたぎる感情の矛先はあまりにも強大な存在で。


 やり場のない、ぶつける意味を見出せない怒りに、悲しみに震えながら、俺は……












 ……ふざ   け るな……


























     こ の、怒       り    を……











 ど  うした    ら   いい……?








































 誰か……



               だれ    か……














 嫌だ……


              苦 しい  よ……







































        絶 対



          に……あい



             つ   を……












































































    あぁ……俺が……





                     消 え  て……





























































「……おや?

おやおやおやおやぁ??

これは……珍しいこともあるもんだねぇ?

こ~んなにボロボロの魂が、()()まで堕ちて来るなんて」


(……

 誰……だ?)


「あぁ、じっとしていなさい。

内に抱えたその激しい怒りが己を焼き尽くさないように、心を静かに……ね?

ようこそ、『奈落(ゲヘナ)』へ。

……頑張ったんだね……痛かっただろう?

もう何の心配もいらないよ。

今は、ゆっくりとやすみなさい♪」




 まるで子供をあやすかのような優しいその声に、俺の意識はようやく安堵を得た気がした。


 そして……







??「空から女の子が降ってきた!って話は聞いたことがあるけど……

おっさんの魂が降ってきた!っていうのは中々新鮮じゃないかなっ?」


??「あの、同意を求められても困るんですが……。

あ、次回 かみぐらしっ! 『第2話 捨てる神あれば拾う神あり』

……ん?神? …………かみ、だと!?」


??「うわぁっ!お、落ち着いてっ!壊れる、壊れちゃうぅぅぅ!」


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