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第4話 「思わぬ進歩と夢見る少女」

――チュン、チュン。



 先ほどまで音のなかった世界に、可愛らしい雀の鳴き声が響き渡る。そして、その音は壁を伝って一軒のボロアパートに住む一人の少女の耳にも等しく伝わる。


 先ほどまで音を受付ていなかった少女の脳は突然の音に大きく驚き、この脳の持ち主である少女の意識を覚醒させようとする。




「う~ん、あとごふんだけでいいからぁ」




 だが、そんな脳の努力を書き消すように少女は布団をぬくぬくと被りながら再び深い眠りに就こうとする。しかし、次の瞬間、布団のすぐ近くで充電してあった黒色の少し機種の古いスマートフォンがブーンと鈍いバイブ音を数秒間鳴らし続ける。


 鳴るとは思っていなかった想定外の音にさすがの少女もびっくりしたのか厚い布団の隙間から細い枝のような手を伸ばしてスマホをガッチリと掴みとる。


 なにかアラームで設定したのかな、と昨日の自分を少し恨みながら携帯の電源を付けると、そこには非通知の三文字。


 誰からであろう、と心の中で疑問を連ねながら電話を取ろうと右手を雑に動かしボタンを数回タップする。だが、まるでこちらの行動を見ているかのようにそれと同時に電話の着信はピタリと止んだ。



――結局なんだったんだろ……。



 そんな胸に虫が這っているような気持ち悪い感覚を覚えながら、私はたくさんのシワがついた掛け布団を放り投げる。そして、自身の両手を大きく挙げて間抜けなあくびを一回する。


 そんなことをしたのちに、まだ眠気が取れていない顔を両手で数回ひっぱたき、おぼつかない両足を無理矢理動かして洗面所へと歩きだす。


 寝室兼リビングであるこのボロっちい部屋から洗面所までの数メートルもない物で散らばった廊下をふらふらと歩いて、洗面所の近くに設置されたタオルを掛けるための金属製の取っ手に手を掛ける。


 少しの間そこに立ち止まり、ぼやついた意識をハッキリさせようと首を数回左右に振ったあとに、私は洗面所の前に立ち少し錆びた水道の蛇口を力強く捻る。


 そうすると、蛇口からポタポタと綺麗な水が出始め、徐々にその勢いが増していく。


 私はそんな水道水を、慣れた仕草で小さな手で作ったお椀でひょいとすくいあげ、顔に向かって投げ飛ばす。


 その瞬間、顔中に冷たい感覚が稲妻の如く伝わり、私のぼやけた意識をハッキリさせてくる。


 そんな心地の良い感覚に心を揺らしながら、冷たい水に濡れた右手を動かして隣に置いてある白いフカフカのタオルを手に取る。そして、そのタオルをそのまま自身の顔の近くまで運んでいき、濡れている水滴を拭うように顔を拭い取る。そして、目線を上げて目の前に設置された小さな鏡を見つめると、最近見慣れ始めてきた可愛らしい顔が映り込む。



「はあ、やっぱり夢じゃないのか……」



 戻らないのは分かっているが、もしかしたら全部夢で、またいつもの日常が帰ってくるかもしれないという期待を自身の姿を見るまでしてしまう。わたしは、そんな自身の姿を見て皮肉めいた笑みを薄っすら浮かべる。

 

 そんな朝に相応しくないような暗い雰囲気が辺りに広がっていると、私はそんな黒い気持ちをなくそうと洗面台の上に置いてあるスマホを手に取り、日課である最近のニュースをチェックし始める。


 あまり物事を考えずにスクロールをしながらぼんやりと見つめていると、不意になんとなくニカニカ動画のマイページを見たくなる欲求に駆られる。


 私はそんな欲求に従い、慣れた手つきで検索エンジンを使って検索を行い、そのサイトの自身のマイページにログインする。


 マイページを開くと、そこには特に特徴のない文章が広がるつまらないページが広がる。自己紹介文はありきたりな言葉が羅列し、トプ画には配信前に乱雑に描かれた素朴な絵が貼られている。


 私はそんなつまらない光景から目を逸らすように親指で画面をスクロールし、自身のチャンネルの詳細が書かれたページへと飛ぶ。


 そのマイページには様々なチャンネルに関する情報が記されてお

り、あまりの情報量に自身の頭がパンクしそうな感覚を覚える。


 このチャンネルがいつできたのか、どのような動画を投稿していたのか、幾つの人がチャンネルを登録しているのかといった情報が表示されるページを私はぼんやりと見つめていると、とある部分に目線が止まる。そして、それをじっくりと見た瞬間に全身に鳥肌が立つのを肌で感じとる。



「なんで、こんなにチャンネル登録者が増えてるの」



 私はページの上の部分にハッキリと記された三百という数字を漠然と見つめながら、驚きのあまりにスマホを落としそうになるのを必死に押さえる。


 そして、その勢いままに先ほど投稿した生放送のアーカイブの再生回数を確認すると、そこには十万というあり得ない数字が表示されていた。


 私が再びそれを見つけると、今まで押さえ込んでいた驚きが爆発したのか、頭の中が真っ白になる。そして、私はそのままの人形のようにその場に倒れこみ、自身の頭が冷やされるまでボーッと無気力に座り込むしかなかったのであった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※



――私はいつも一人だった。


 家族も友達も私から一定の距離を取っており、心を安心して預けることができる人物なんていやしない。


 もちろん、何回も認められようと努力もした。勉強もやったし、学校の合間に演技の稽古だったりもした。でも、周りの人達の態度が軟化することはなく、むしろ気味悪がれるだけであった。


――いったいどうすればいいんだよ……。


 私はそんなことを考えながら、つかの間の休息に夜の街を歩いていた。いつもはたくさんの人が行き来しているはずの広場に誰もいないことに対して少し気味の悪さを感じ取る。


 いつもと違う夜の街を少し気分よく歩いていると、ふと、ぼんやりと明かりが灯るコンビニへと目線を移す。


 すると、そこには少しチャラそうな風貌をした青年と、少しフワフワした感じの少女が立っていた。私はこんな夜中にイチャつきかとジト目で見ていると、だんだん様子がおかしくなっていき、どうやら少女はナンパをされているようであった。


 そこからの行動は早かった。いつもの嫌な癖でその少女をナンパから助けており、いつのまにか彼女を自宅まで送っていた。


 助けた少女は見た目通り純粋な性格をしており、いつも自分と関わる大人たちといるよりも心地が良く、このまま時間が止まればいいのにと感じ始めていた。


 しかし終わりは来るもので、いつ着いたのか私は彼女の自宅の前に立っており、自身の上には古びた白熱電球がぼんやりと光っていた。


 そして、感謝を述べる少女の声を聴きながら、その場をゆっくりと後にする。


 夜はいつの間にか終わりを迎えようとしていて、月はドンドンと西の方へと沈んでいく。先ほどまでうるさい程声を鳴らしていたコオロギも鳴りを潜め、代わりに季節外れのアブラゼミがまるで自身の存在を証明するかのようにワンワンと鳴いている。


 そんな少し騒がしくなった夜道をコツコツと歩きながら、私は少し大きなため息をつく。そして、私は自身の欲望を溢すように独り言を放つ。



「あんな人が友達になったらいいんだけどなぁ……」



 そんな独り言は誰にも聞かれることはなく、ただ闇の中に吸い込まれるだけだった。


 


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