第三話 「苦難と葛藤」
投稿遅れてすみませんでした。
現在勉学なのが大変忙しくて、これからも少し更新が遅れそうです。
私は、そんな独り寂しく深い闇の中に消えていった少女の姿をボンヤリと見つめ続ける。そんな意味のないことを数秒したあと、私は自身の真横にある、道路沿いに設置された街灯によって照らされている我が家の古びた玄関のノブに手を掛けて、ゆっくりと家の中に入っていく。
家の中は、当たり前だが辺り一面暗闇に包まれており、部屋の中には家を出る前にマッチで火を付けた蚊取り線香の独特の匂いが充満している。
ギギッ、と鈍い軋む音がする古びた木造の床の上を一歩一歩確実に足を運んでいく。そして、私は部屋の隅に付けられているはずの電気のボタンに向かって手を伸ばし、数回ボタンを押すがいずれも明かりは一回もつかない。
私はクルッと電球が付いている方に目線を向けると、ついさっきまでこの部屋を明るく照らしていた白熱電球はまるでセミが事切れた時のように、その電球は明るさを失っていた。
私はその視界の隅に捉えた光景を確認すると、大きく一回深い深呼吸をし、野生の本能のせいなのか無意識に光を求めて辺りをキョロキョロと見渡す。
すると、そんな真っ黒な黒色に染まった暗闇に包まれた世界に、一筋の希望が雲の切れ目から射し込むように、窓からボンヤリと月光が溢れているのが自身の瞳に映りこむ。
そして、そんな光景を見つめていると、私はまるで光に群がる森に住む昆虫のように月光に導かれ、中ぐらいの大きさの窓ガラスをガラリと開ける。そうすると、私はアパートの各部屋一個ずつ設置された小さなベランダに片方の足を踏み入れていく。
自身の片方の足が部屋の外に出たその瞬間、全身にひんやりとした寒気が襲ってくるのが感じ取れた。私はそんな夏の夜には似合わないような肌寒さに気持ち悪い奇妙な感覚を覚え、少し頭がくらくらとしてくる。そんないままでに経験したことのないような感覚に襲われたあと、私はなんとか体を温めようと肩を手で擦りながら、数歩足を前に進める。そして、私はベランダに取り付けられた手すりに両手を載せて、目の前に広がる美しい夜景を何も考えずにぼーっと眺めてみる。
自身のアパートの近くに広がる最近出来たらしい住宅街には所々に明かりが灯っており、遠くに佇むボンヤリと見えるビル群は様々な色の光を規則的に灯しており、この風景だけでその都市の豊かさが一目で分かるように一瞬思えた。
「やっぱり世の中は、私という小さな存在がいなくとも、いつも通りの光景を映し出してるのか……」
私は、自身の胸の奥に存在しているちっぽけなプライドを嘲笑うかのように薄い笑みを浮かべ、右手で頬をつきながら真上に広がる星たちを眺める。そうしてみると、自身の悩みがどれ程ちっぽけなものかということを考えられ、なぜか心の重さも少し軽くなるような感覚を得ることができる。
私にとって、この行為は無意識に行ってしまう一瞬の中毒のようなものなのかもしれない。私はそんな下らない行動を懲りずに実行しながら、今日までの"自分"について考えを深めていく。
正直に言って今までの出来事はすべて夢で、ある日目を覚ましたらいつも通りの日常が待ち構えているのではないかと今でも思っている。だが、そんな思いを無視するかのように今もまた、時間は残酷に一秒一秒確実に時を刻み込んでいる。
眠りにつく前はそこに存在している現実に怯え、起きたら起きたで過酷な日々が待っている。そんな生活をこれからずっと過ごしていくのかと思うと、気が散ってしまうような感覚に襲われる。
私はそんな暗い気持ちを抑え込もうと、男だった時に愛用していた銘柄の煙草を取り出し、オイルが切れかかろうとしているライターで火をつけて胸いっぱいにその空気を取り込もうと大きな呼吸を一回する。
しかし、自身の体に伝わってきた感覚は以前のような心地よい感覚ではなく、まるで清純な川に異物を流し込まれたかのようなドブの匂いが身体中に流れていく。
私はたまらず、口元から煙草を手に取り、ベランダの剥げたコンクリートの壁に擦りつける。
「……か弱い乙女かぁ」
右手に持つ崩れかかった煙草をそこら辺にポイと投げ捨て、私は小さなため息を数回つく。
自身が相当軟弱なのは、前々から知っていた。1日に数回は足をタンスの角にぶつけたり、前は軽々と持てていた重い段ボールを持てなくなっていたり、そのことは自身の経験で周知していたはずだった。
ただ、私は有りもしない妄想話を大人げなくどこかで密かに信じていたのかもしれない。自分には他の者たちが持っていない特殊な能力も持っていて、その力で世界を救うのだと。
だが、結果はこの様だ。少しヤンチャな男に触れられただけで恐怖に戦き、挙げ句の果てには自分よりも年下の少女に助けられる始末だ。
――どこが、チートだって言うんだよ……。
私は昔の自身に向かって言うように心の中で悪態をつき、もう一度目の前に輝く月を見つめ続ける。
「これが夢ではない以上、私は自身の運命を受け入れるしかないかぁ……」
私はそんなことを独りでボソリと呟くと、さっきまでの暗い雰囲気を吹き飛ばすように大きなあくびを一回する。そして、私は顔に薄くニッコリと笑みを浮かべながら、もしかしたら居るかもしれない、私をこんな姿に変えた張本人に向かってボソリと呟く。
「もし、神というものが存在するんだったら、私をこんな姿にしたのにもナニかしら理由があるはずだと思う。 だから、私はとりあえず、私がこんな姿になったのは"人生を楽しめ"っていう御告げだと勝手に考えて過ごしてみるよ」
私は、一瞬少し寂しそうな顔を無意識に浮かべると、それらを押し込めるようにニッコリと笑みを浮かべながら、「お腹空いた~!」と大きな声で呟きながら部屋の中にへと入っていく。
――せっかく新しい体になったんだから、全力で楽しまなくちゃ勿体ないよね……。
私は心の中で渦巻く不安を吹き飛ばすように目の前にあった布団に飛び込み、これからは現実を受け止めて、前を向いて進んでいこうと心に刻むのであった。