無用の雑記ー赤表紙ー怪異集
白昼に夢想するは彼方の己が映しし現実か。
真夜中の人の気配も感じられない一本道を進む。
街灯はおろか星や月の光すら雲に遮られ、漆黒の靄が眼窩さえも覆い隠す。
ガサガサ、ガサガサ、ガサ
唐突に葉と葉の擦れあう音がしたと思えば、顔面に何かが触れ、それは頭全体に巻き付いてきたのである。
「なっ、う、ひひぃ!」
慌てて巻き付いてきたものを腕で払い落とすと、その何かはまた先ほどと同じ異音をたてて進む予定の道の先へと飛んでいった。
いや、そう感じたのである。普段よりも見えない時間が長く続いたためか、音だけでも何となく周囲の幽かな気配を感じとれるようになっているようだった。
前方に得体の知れないものがあると思えばこそ、その場から逃れるためにも、足の歩みが早くなっていった。
、、、コツコツ、コツコツ、
地面が硬く平たい石板へと変わったことで、足音が変わり、目的地である友人柏木 腎丹宅へと近づいていることに安堵を覚えた。
だが、その心の隙を見計らったかのように得体の知れない異音がまたも前方からこちらへ向かって響いてきた。
気が抜けかけていたため、音に驚き肩を上下に痙攣させ、一瞬目蓋を閉じてしまう。ここで不思議に思ったのは、目を開けていた時よりも目蓋を閉じた時の方が幽かに明るい気がしたのである。
そんな事を感じていた刹那の事ー
ほんのりとどこかで嗅いだ事のあるような花の香りに混じって、長い時間経過した生ゴミの焦げた異臭がしてー
何かが走ってくる音ー絶叫が響いて鼓膜を震わせるー
「あ あ あ あああ、あああああーーーーーーーーー」
ーがはなたやかなまはにてはたのゆそーーーわーをーーーー
そこで私は何かに物凄い力で首を絞められる。
ーギリギリ、グギュ、ギ、ギギギー
肉と骨の擦れる音が喉の方から鈍く響いてくる。
ーゴギュ
気絶した。
そのあとの記憶は無い。
この記憶を思い出すのは、1年後の桜舞う春の日。
自分は見慣れた知人宅の門前で、一人の女性と出会う。
「私とどこかでお会いしましたでしょうか」
ーミンミン、ミンミン、ミーンー
ーガラガラ、、、、ガタンー
いずれ起きるかもしれない、未来随想。
未知に怯え、過去を喜ぶ。